自動生成やパーマデス(一度死ぬとすべてを失う)など、さまざまな要素が絡み合い、何度遊んでも楽しむことのできるゲームジャンル「ローグライク/ローグライト」。今回の「げむすぱローグライク/ローグライト部」第28回では、Impact Gameworksが開発し、Doyoyo Gamesが販売を手がける伝統的ローグライク『Tangledeep』をご紹介します。
『Tangledeep』とは

『Tangledeep』とは、本作で探索することになる大森林・タングルディープを指します。プレイヤーはこの森のふもとの村で生まれ育った少女として、前人未到のタングルディープの最深部を目指して旅を始めます。

本作にはローグライク初心者から上級者に向けた4つのモードがあります。各モードの概要は以下の通りです。
英雄モード
HPが0になるとすべてのアイテム・経験を失い、最初の拠点からやり直しになります。
但し、倉庫に預けたアイテムやお金、村の成長の恩恵やペットの育成は引き継ぎます。
本作のメインモードといえるでしょう。冒険モード
HPが0になっても拠点に戻されるだけで、所持資金・スキル習得ポイント・次のレベルまでの経験値の半減だけで済みます。
ローグライク初心者や、一般的なRPGとして遊びたい人向けのモードです。硬派モード
HPが0になるとすべてのアイテム・経験を失うのは英雄モードと同一ですが、村の倉庫の内容や発展度・ペットなどもすべて進行度がリセットされ1からやり直しになります。
いわゆる「アイアンマン」「ハードコア」なモードです。浪人モード
基本は英雄モードと同一ですが、主人公の職業が固定で、毎回ランダムスキルを習得、さらにダンジョンでもランダムイベントが起こりやすいという、運に左右されるゲームモードです。
どちらかといえば1度ゲームをクリアした熟練者向けです。

浪人モード以外では、主人公の「職業」を決定します。選んだ職業によって習得できるスキルが変わり、戦い方や装備傾向もガラリと変わってきます。

ゲームの進行によって次々と新しい職業がアンロックされていきますので、繰り返しプレイするたびに違う職業を選んで自分のプレイスタイルの合った職業を選ぶのもよいでしょう。

冒険は村のふもとの「リヴァーストーン村」からスタートします。ここには装備を売り買いしたり、回復アイテムを買えたりする商人や、倉庫、そしてダンジョン内クエストの受注などが行えます。
なお、海外製の伝統的ローグライクに馴染みのない方は驚くかもしれませんが、本作ではいつでも使用できる「ポータルの魔法」でこの拠点に戻ってくることができます(但し、ポータルの魔法を唱えてからポータルが開くまでは約12ターンを要するので追い詰められてピンチのときに即拠点へ……という使い方は難しい)。このあたりは、『ディアブロ』などのハックアンドスラッシュゲームを遊ばれている人の方がピンときそうですが……そのあたりの解説は、あとに回すとしましょう。

「タングルディープ」は森や岩場、洞窟や遺跡からなる広大なダンジョンです。その中を移動し、邪魔な敵を倒して、次の階層に向かう……というのは伝統的ローグライクを踏襲しています。
本作では武器を4種類持つことができます。各職業に得意武器がそれぞれあり、また職業に関わらず遠距離武器は有用(弓矢やボウガンなどがありますが、本作に矢の本数などの制限はなく射程内ならいくらでも撃てる)なので、厳選した4つを装備しましょう。
また、本作ではダンジョン内に強力な「チャンピオンモンスター」が登場することがあり、後半のチャンピオンは特に「特定属性の無効」能力を持っていることがあります。そのため、攻撃属性の異なる複数の武器を持ち歩くのも手です。チャンピオンは並外れた攻撃力を持つので、こちらもスキルを駆使して速攻で倒す、または位置をコントロールするなどで最小限の被害で倒したいところ。

スキルは敵を倒すと得られるJPを使用して「覚える」ことで使用可能になります。各職業ごとに多くのスキルが用意されており、スキルを覚えていくとその職業専用のパッシブスキルも身に付きます。また、拠点で「転職」することもでき、レベル・覚えたスキルを引き継いで他の職業で育成を続けることもできます。こうして複数職の職業の強いスキルを寄せ集めてもよし、1つの職業を極めていくも良しです(無理に転職せずともクリアは可能なバランスに仕上がっています)。

本作の独自性が強い要素としては「モンスター牧場」です。これは瀕死のモンスターに「魔物トンカチ」を使って気絶させ、拠点の牧場に持ち帰ることでプレイヤーのペットとして飼うことができるシステムです。ペットは冒険の旅に引き連れて歩くことができ、戦闘で優先的にターゲットを取りつつ、非戦闘時は自動的にHPが回復するのでプレイヤーの盾役として非常に有用です。但し「モンスター保険」に入っていないとやられたときに逃げ出してしまう可能性が高いので、ペットを連れ歩くときは必ず「モンスター保険」に加入しておきましょう。

もう1つ独自性が強い要素として「モノの夢」があります。本作ではさまざまな特殊効果が付いた武器・防具が登場しますが、それらに「夢見のオーブ」を使用し、アイテムの中に入り込むことができます。

「モノの夢」はインスタンスダンジョンとなっており、元のアイテムの強さに応じた敵が出現します。このダンジョン内には範囲内の敵・味方共に大きな影響を与えるクリスタルや、ダメージ床で大半が覆われた危険なフロアが出現することも……

「モノの夢」の中のボス敵「夢見の王」を倒すことで、アイテムに秘められた新たな性能が開花し、アイテム性能が強化されます。1つのアイテムにつき3段階まで強化が可能です。「アイテムごとのインスタンスダンジョン」「クリアするとアイテムの能力が引き出せる」という点は『魔界戦記ディスガイア』シリーズの「アイテム界」が近いかもしれません。

こうしてアイテムの収集・強化および自キャラクターの強化を繰り返し、タングルディープの奥へ奥へと踏み込んでいきましょう。
「ハックアンドスラッシュ」と「伝統的ローグライク」の密接な関係

ここまでこの記事を読んできた方の中には、こう思われた方もいるかもしれません。
「このゲーム、ローグライクではなくて『ディアブロ』系のハックアンドスラッシュをターン制にしただけじゃないの?」
確かに接頭辞がランダムで付くマジックアイテムや、さまざまな特性を持つチャンピオンモンスター、いつでもタウンポータルで拠点と行き来できる点など、『ディアブロ』系のハックアンドスラッシュゲームと本作に共通する点は数多くあります。
しかしながら、本作が海外発の伝統的ローグライクの進化・収斂で生まれた作品であることは間違いないし、それと『ディアブロ』系のハックアンドスラッシュが搭載されることは全く矛盾していないのです。
それを知るために、コンピューターRPGにおける「ハックアンドスラッシュ」の定義を改めて解説しておきましょう。様々な定義が乱立している……とされるこの言葉ですが、RPGにおける歴史からすれば大まかな定義ははっきりとしていて、「敵を薙ぎ倒して報酬を得ること」です。
この言葉が生まれたのは1980年代のアメリカで、1973年の『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(以下、『D&D』)、1977~1979年の『アドバンスド・ダンジョンズ&ドラゴンズ』(以下、『AD&D』)のヒットによりアメリカではさまざまなルールのテーブルトークRPGが生まれました。
SFを題材にした『トラベラー』や、現在の日本でも高い人気を誇る『クトゥルフ神話TRPG』が生まれたのもこういったテーブルトークRPGのブームがあってこそです。こうした『D&D』後追いのTRPGのファンの中からは、「『D&D』『AD&D』は敵との高度な交渉などがルールでサポートされていない、叩き斬ること(ハックアンドスラッシュ)しかできない単純なゲームだ!」という過激な揶揄が飛び出しました。
ところが、この「ハックアンドスラッシュ」という響きと、「敵を倒して報酬を得る単純なゲーム」に魅入られた『D&D』ファンたちは、この「ハックアンドスラッシュ」を『D&D』『AD&D』の魅力として宣伝していくことを始めたのです。
話をローグライクに戻すと、初代『Rogue』は『AD&D』の一部の戦闘システムを基に、一期一会のダンジョン探索を楽しむゲームとして生まれました(本連載第1回参照)。
その後、世界各国のオタクたちの間で『Rogue』を拡張する試みが同時多発的に生まれました。これが「ローグライク」のはじまりです。それらの作品の中には『Rogue』では一部の再現に留められていた『AD&D』要素の再現をもっと突き詰めていこう……といった作品も少なくありません。職業やさまざまなマジックアイテムの要素を導入した『NetHack』、接頭辞付きユニークアイテムの自動生成などを実装した『Angband』などはその代表例といえるでしょう。こうして、伝統的ローグライクの中に『D&D』『AD&D』由来の「ハックアンドスラッシュ」要素を持つ作品が多数生まれたのです。
本連載第2回でも紹介した、2008年に発表されたローグライクを定義する「ベルリン解釈」の定義の1つにも、「ハックアンドスラッシュコンバット」が含まれています。
こうして解説すると、海外製の「伝統的ローグライク」と「ハックアンドスラッシュ」は密接に関わっていることがお判りいただけたのではないでしょうか。
但し、すべての「伝統的ローグライク」がD&D的な「ハックアンドスラッシュ」進化を目指したものとは限りません。例えば連載第1回でも紹介した『Rogue Clone』は意図的かどうかは不明ですが、『Rogue』における『AD&D』の計算式などの要素が排除されています。
本連載第5回で紹介した『風来のシレン』、および『トルネコの大冒険』にしても、初代『Rogue』の「ハックアンドスラッシュ」よりは「一期一会のダンジョン探索を楽しむゲーム性」が重視されており、これらのゲームのエンドコンテンツは「道具を持ち込めない、プレイヤーの知識と運が頼りの、一期一会の"もっと不思議"」が主流となっていることがほとんどです。これらの影響で、和製ローグライクは「プレイヤーの知識を活かす1度限りの冒険」に重きが置かれているものが多いのが現状です。
勘違いしないでほしいのは、「ハックアンドスラッシュ要素にも重きを置いた、海外発伝統的ローグライク」と「死んだら終わり、一期一会の冒険を重視した国産伝統的ローグライク」に優劣があるという事ではない点です。これらは「ゲームの方向性の違い」であり、そのどちらにも優劣はありません。
ただ「伝統的ローグライク」と一口に言っても、その方向性は一つで括れるようなものではない……そういった認識を、本連載を通して皆様に共有して頂ければ幸いです。
入り口は優しいが中盤から経験と適切なスキル使用が命を分ける『Tangledeep』。海外製伝統的ローグライクの入門には最適

さて、『Tangledeep』の話に戻りましょう。本作は「ハックアンドスラッシュ」系要素の強い伝統的ローグライクですが、序盤(特に6Fあたり)までは通常攻撃のみでやっていけるような、ゆるいバランスに抑えられています。

しかしながらそこを越えると敵の強さにだんだん容赦が無くなり、通常攻撃のみでは敵と張り合えない部分が増えてきます。この辺りで1つのジョブのスキルをすべて習得できるはずなので、スキルの活用で先に進む方法を見出していきましょう。

とは言え、12階以降は敵も容赦が無くなります。やられたシーンでは多くのヒントが表示されるので、これらのヒントを次回の冒険に役立てましょう。英雄モードなら、ペットをしっかりと鍛えていくと頼れる仲間になります。

最初のうちは割と力押しで進めるが、特定の階層からはそれまでに得た経験を活かしていかないと進むことが難しくなる……という点は、ある意味初代『Rogue』に類似しています。そういった意味では、本作も確かに『Rogue』の末裔の1つだ、と言えるかもしれません。

入り口は広いですが、手ごたえのあるローグライクとしても、またハックアンドスラッシュ系ゲームとしても楽しめる本作。職業の組み合わせによるビルドもかなり幅が広いですし、また周回で更なる難易度に挑む「NewGame+」も用意されています。海外製伝統的ローグライク入門として、本作はお勧めです。
『Tangledeep』は、PC(Steam)/PS4/ニンテンドースイッチにて配信中です。















