2025年7月20日まで、京都・みやこめっせにてインディーゲームイベント・「BitSummit the 13th」が開催されました。Game*Sparkでは、来日していた『Mouthwashing』の開発メンバーにお会いすることができました。

本記事では、Wrong Organの共同創設者であり、ストーリーライターなどを務めるヨハンナ・カスリネン(Johanna Kasurinen)氏と、ゲームプレイデザイナーのジェフリー・トメック(Jeffrey Tomec)氏へのインタビューの様子をお届けします。
なお、本インタビューにはゲームプレイや物語に関するネタバレが含まれます。未プレイの方はご注意ください。
「責任」をテーマにした理由は
――日本で非常に人気がありますが、どのような反響が届いていますか。
ヨハンナ:SNS上の日本語の投稿やファンアート、配信者さんのプレイ動画などを見るのは楽しいですね。翻訳機能を使って、よくいろいろな人のものを見ています。
――最悪に最悪が重なる、救いのないのストーリーはどのように執筆したのでしょうか。
ヨハンナ:我々の第1作目『How Fish Is Made』を作ったあと、実は『Mouthwashing』とは異なる別のプロジェクトがあったんです。ただ、それが諸事情でキャンセルになってしまい、Wrong Organの内部もどんどん最悪な結果になっていくという……(笑)。そんな話を再現したいなと思い、いろんな要素、いろんな視点があっても、結局すべてが最悪に傾くという表現がうまくできました。
――「責任を果たせ」と出てくるように、“責任”は本作のひとつの大きなテーマです。こうしたところも実体験から着想を得たのですか。
ヨハンナ:いえ、開発チーム自身には責任は特になくて、第1作目のときは皆学生だったんです。卒業が間近になるにつれて、インターンシップに行ってしまったり、スタジオから抜けてしまったり、自分たちのコントロールできない部分で仕方なく起きたキャンセルだったので、そこは繋がってはいません。
――では、なぜ責任というテーマを描こうとしたのでしょうか。
ヨハンナ:私たちは「起きた事実を見つめ合う」というテーマをすごく大事にしています。人というのはいつも「責任を取ってるよ」という態度でいるんですが、実は小さな行動をして逃げているだけなんです。もっとしっかり責任を取れる形があるんじゃないか、と思うのですが、多くの場合小さなアクションをするだけで、「俺は/私はちゃんとやってるよ。おれはいい奴なんだ。」という態度でいるだけ。
主人公のジミーも似たような感じで、「俺は責任を取ってる」と言いながらいろいろな行動をやっているんですけど、しっかり考えてみるとそうではない。“本当の責任感”を見つめ合うというテーマにしたかったんです。
――5人の登場人物はさまざまな役割がありますが、どういった方針で作っていったんでしょうか。
ヨハンナ:インディーゲームは規模が小さくプレイ時間も短いので、キャラをしっかり掘り下げようとすると時間が足りないんですね。この5人に関してはまず見た目だけで独特で全員バラバラ、その上でちょっとアホなインターン生や怒りっぽいエンジニアというような、見てすぐに「こういうキャラなんだな」とわかるようなステレオタイプで第一印象を持ってもらうようにしました。

その上で、短いストーリーの中でガラッと印象が変わるようなところを作ろうと目指しました。ちなみに、実はこの5人は全員、ホラー作品のキャラに元ネタがあります。例えば、アーニャはシェリー・デュヴァルが演じた「シャイニング」のウェンディー・トランスを元にしています。

――本作のプレイヤーに5人の中で誰が悪かったかを訊くと、おそらくジミーと答える人が多いと思います。ただ、どのキャラにもそれぞれ背景があり、事情が察せられる部分はありました。こうしたキャラの作り方、関係性、ヘイト管理などはどのように行いましたか。
ヨハンナ:いろいろな選択肢があるときに、すべて最悪な結果を招いたらどうなるんだろう?というコンセプトを突き詰めたのが本作です。初見でプレイすると、みんな早い段階で「ジミーが船をぶつけたんだな」と感じると思いますが、それだけだと面白くありませんから、他の人たちが何をやっていたかをしっかり掘り下げるようにしました。種明かしを1つだけにするんじゃなくて、小さな種もパラパラと撒いておくようなイメージです。
――本作に影響を与えた作品を教えて下さい。
ヨハンナ:私は映画から影響を受けていることが多く、「回路」や「ノロイ」といった日本映画からも多大な刺激を受けています。アメリカのホラーはジャンプスケア・びっくり系が多いのですが、日本の映画は空気に漂う絶望感のようなものを備えているのが好きで、この「逃れられない絶望」をゲームでも与えたいなと思ったんです。
ジェフリー:私は『SIGNALIS』という『サイレントヒル』スタイルのサバイバルホラーが好きで、アートを統一して、最初から最後まで絶望感の中さまようという体験を提供したいと思いました。

――作中の重要アイテムとして、マウスウォッシュが出てきます。恐ろしさとは無縁なはずのマウスウォッシュを重要なアイテムとして位置づけた理由は何ですか。
ヨハンナ:“マウスウォッシング”というのはもともと開発中のコードネームで、特に考えて付けたものではないんです。ただ、開発初期から、タルパ号が運ぶものは「アルコール」ということは決めていたんです。
ただ、少し考えてみると、マウスウォッシュほど安いものはないですよね。この安いマウスウォッシュのために、彼らは長い年月をかけて運ばされていて、こんなもののために死ぬのか……という、「笑うしかない絶望感」を実現したく、重要なアイテムにしました。
私は“ユーモア”と“ホラー”は紙一重だと思っていて、ユーモラスなところ、絶望的なところをうまく調合して書き上げたら、『Mouthwashing』の物語ができあがった、というわけです。

――ゲームプレイについてもお伺いします。ゲーム終盤、カーリーの体内で内臓水道管パズルをする最悪なシーンは最高でした。あれはどういった発想で作り上げたのでしょうか。
ジェフリー:私もゲーム部分では一番お気に入りです(笑)。それぞれのキャラはストーリーで描かれるのがメインですが、それぞれの特徴を表すゲームプレイもセットにしたかったので、カーリーの場合、見た目からグロテスクなゲームプレイを作ろうと思いつきました。

食べさせているのは脚だし、失敗したらやり直さなきゃいけないし……パズルをクリアするだけでなく、実際に操作している人に嫌悪感を与えたかったんです。
――『Mouthwashing』の大ヒットとコンソール版、『How Fish Is Made』の多言語対応などさまざまなニュースがありましたが、Wrong Organは今後、どのように活動していきますか。
ジェフリー:『Mouthwashing』の成功後、スタジオをどうしていくかは皆でいろいろと考えなければなりませんでした。結論、我々は不気味でユーモアが混じった「なにこれ!?」という楽しみを与え続けたいということになりました。
いま開発中の次回作は「えっ、これがWrong Organ??」とびっくりするかもしれない、ナラティブよりもゲームプレイ要素が強いタイトルになっています。皆さんぜひ楽しみにしてください。
――最後に、日本のファンに向けてメッセージをお願いします。
ヨハンナ:私は幼少期から『サイレントヒル2』をはじめとして日本のゲームや映画に刺激を受けて育ってきました。そのため、日本のファンからいっぱい遊んでもらえているのはすごく誇りに思っていますし、ファンアートの投稿も常に見ています。これからもよろしくお願いします!
ジェフリー:サバイバルホラーというジャンルは日本が作ったようなもので、私自身も『サイレントヒル』をはじめとした数え切れないほどの日本のホラーゲームを遊んできました。自分たちの作品がこのように日本で評価されるのは嬉しいです。本当にありがとうございます。
――ありがとうございました。
『Mouthwashing』は、PC(Steam)向けに配信中です。PS5/ニンテンドースイッチ向けの移植も2025年内に予定されています。
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