
2025年7月11日、中国・上海において、待望のシリーズ最新作『ダイイングライト:ザ・ビースト』(以下『ザ・ビースト』)の大規模なハンズオンプレビューが開催されました。各メディアの先行プレイと並行して、『ザ・ビースト』のフランチャイズディレクターを務めるTymon Smektała氏へロングインタビューを敢行しました。当日のインタビューでは時間が足りず、不足分はメールでお答えいただきました!
前作の反省を活かしたリリース―安定した環境で進んだ開発

――本日はよろしくお願いいたします。いきなりですが、『ダイイングライト2 ステイヒューマン(以下、『2』)』ではバグや最適化問題が発売時に話題になりました。『ザ・ビースト』では、コミュニティのフィードバックを反映して、技術的な安定性やパフォーマンスをどのように強化していますか?
Tymon Smektała氏(以下、Tymon)私たちは開発者であり、コミュニティの声に耳を傾け、コミュニティからのフィードバックを非常に重視していることを非常にオープンに伝えています。
しばしば、私たちのデザイン哲学はコミュニティ主導だと言っています。つまりコミュニティの声に耳を傾け、それに従うように努めているということです。しかし実際には、ゲームの技術面に関しては、コミュニティからのフィードバックよりも「『2』のリリース時に直面したような問題を抱えないゲームを届けたい」という私たち自身の意欲と熱意の方が重要だったのです。
そして『ザ・ビースト』が『2』のリリースとは異なると確信している重要な理由が1つあります。それはゲームエンジンのより安定したバージョンを使用しているからです。『2』は『C Engine』と呼ばれる独自の社内エンジンで開発されましたが、ゲームの開発と並行してそのエンジンの開発も進めていました。つまり、まるで本を書こうとしながら同時に紙に書き加えたり、ワープロで本を書こうとしながらワープロをコーディングしたりするような状況でした。エンジンとゲームが同時に開発されていたのです。
『ザ・ビースト』の場合は状況が異なります。エンジンはすでに完成しており、磨きをかける時間や品質を向上させる時間がありました。そして技術が安定した後に、開発を再開したのです。ですから『ザ・ビースト』の発売は『2』と比べて技術的な品質の面で大きく異なり、優れたものになると確信しています。
目指したのは多様なマップデザインから生み出される、多様なゲームプレイ

――開発チームとして、注力した部分や見てほしい所を教えてください。
Tymonマップ上の場所に容易にアクセスできるよう、注力しました。これは『ダイイングライト』シリーズにおいて、常に非常に重要な点でした。最初の『ダイイングライト(以下、『1』)』には、「どこへでも行けて、どこにでも登れる」というスローガンがありました。プレイヤーが、文字通り、いつでも好きな時に、目にするあらゆる建物に登れるようにしたかったのです。プレイヤーに世界を自由に探索し、旅する自由を感じてもらいたかったのです。
プレイヤーに最も楽しんでもらいたいことは、マップの「多様性」でしょうか。私たちは多様性とディテール、2つの側面に多くの時間を費やしました。ゲームの舞台となるこの「カストール・ウッズ」という一つの舞台の価値観において、様々な場所、様々な眺望であるだけでなく、そこに様々なプレイ方法を提供できるようにしました。

そのおかげでパルクールに最適な「町」を作り上げることができました。森を夜に歩き回れば、木陰に隠れているゾンビに怯える恐怖を味わうのに最適な場所になりますよね。沼地では、何が起こるかわからない、非常に不気味な雰囲気を醸し出しています。つまり、たった一つのマップであっても、様々な場所があり、それぞれが時間によっても異なるゲームプレイ体験を生み出すように設計しました。

――『2』では銃火器の少なさが一部のプレイヤーから批判されましたが、『ザ・ビースト』では銃が豊富に登場するようです。どのように銃火器をゲームプレイに統合し、パルクールや近接戦闘とのバランスを取っていますか?銃のアンロックについて、どのような哲学がありますか?

Tymon『ザ・ビースト』における銃火器の導入は、プレイヤーの声に真摯に耳を傾けていることの証です。おっしゃる通り、多くのプレイヤーが銃火器が登場することを期待していることは把握しています。そのため、『ザ・ビースト』では、プレイヤーにとってかなり早い段階でゲームに銃器をプレイさせることを決定し、その上で銃器が正確かつ高品質に表現されるよう、多大な開発リソースを投入しました。
つまり、射撃時のフィーリングが正確で、リロード時にはリロード中であることを示す洗練された高品質のアニメーションが表示されるように、多くの時間を費やしました。射撃時には、非常にリアルで迫力のある音が鳴ります。野原での射撃と屋内での射撃では、音が異なります。そして、敵を撃った時の熱への反応も、同様に非常にリアルで高品質なものにしたいと考えました。
それだけ、銃火器を重要なものだと捉えていたのですが、その背後にあるデザイン哲学は「最初から銃器が圧倒的に強力であってはならない」というものです。もちろん現実世界と同様に、銃器はマチェーテやハンマー、その他多くの武器よりも強力ですが、同時に、現実世界でも銃器には多くの欠点があります。銃器は音を立てるため、人に見つかりやすく、弾薬を必要とするので、射撃には弾薬の確保が必要です。だからこそ、ゲーム内のあらゆる武器のバランス調整には、多くの時間とプレイテストを重ねています。

つまり、銃器も近接武器は同等のレベルにあるんです。それぞれに長所と短所があります。
ですから、プレイヤーが目の前の戦闘状況に直面した際に、様々な選択肢、様々な選択肢が選べるようにしたいと考えました。いずれかの武器が優勢な戦略となるような状況は作りたくありませんでした。全てのゲームプレイにおいて、何らかの形でバランスが取れているようにしたかったのです。
カイルの帰還とプレイアビリティ――『ビースト』らしさとプレイヤーの目線

―― 久しぶりに『2』のストーリーを通しでプレイしてみました。感じたのは、適度なテンポでスキルをアンロックすることができ、一つ一つが有用であるという点です。今回、主人公クレインの能力は『1』や『2』のものに比べてかなり派手に感じます。スキル面での『ザ・ビースト』らしさを、プレイヤーはどのように体験していくことができるでしょうか?
Tymon重要な点が2つあります。1つ目は、「私たちのカイル」が戻ってきて、プレイヤーは既に前作では多くのスキルを習得しているということです。ですから、前作からゼロからアビリティを習得してもらいたくありませんでした。キャラクターを休ませて、『ダイイングライト』で習得したのと同じスキルを最初から習得させるのは避けたかったのです。だから、『ザ・ビースト』を開始すると、既に前作で利用可能なスキルをいくつか習得しています。しかし一方で、プレイヤーにとって常に大きなモチベーションとなる新しいスキルツリーも提供したいと考えていました。プレイヤーはキャラクターを成長させ、最強の姿を見たいのです。
そのため、専用のスキルツリーを用意する必要があることは分かっていました。そしてもちろん、タイトル名『ザ・ビースト』とその背景にあるストーリーから、この新しいスキルセットは、最高のモード――つまりカイル・クレインの新しい能力を中心に据えるべきだと分かっていました。
――『1』のグラップリングフックはファンに愛されましたが『2』では制限を感じる仕様で、コミュニティからは不評の声もあったと思います。『ザ・ビースト』ではグラップリングの仕様をどのように調整していますか?ファンが愛した自由度を取り戻していますか?(※当日のハンズオンデモではグラップリングフックは登場していません)
Tymon『1』、『2』共に「グラップリングフック」という名前を使っていますが、それぞれ異なるメカニクスを採用しています。例える『1』ではスパイダーマン風、『2』ではターザンの動きに近いもの動きになっていました。
『ザ・ビースト』についてはあまり詳しくは言いたくありません。プレイヤーにネタバレしたくないからです。しかし、『ザ・ビースト』では、スパイダーマンとターザンのメカニクスの両方を体験できるでしょう。
――話は変わりますが、『ザ・ビースト』では、カットシーン部分とゲームプレイのバランスをどのような方針で考えていますか?

Tymon私たちは、プレイヤーにカットシーンに時間をかけすぎないことを目指しています。なぜなら、ゲームはインタラクティブ性に基づいて構築された非常に珍しいメディアだと考えているからです。ゲームで最もエキサイティングな瞬間は、プレイヤーがボタンを押して画面上の反応を見ることができる時ですね。
カットシーンは素晴らしいものですし、多用したゲームの例はたくさんあります。しかし、プレイヤーがゲームを最も楽しむのは、ただ映画を見るのではなく、実際にゲームをプレイしている時だと考えています。

もちろん我々もカットシーンを使用しますし、最高レベルの品質で制作しています。照明が適切で、キャラクターがはっきりと見え、プレイヤーが見て楽しめるように多くの時間を費やしています。『ザ・ビースト』には約3時間のカットシーンがありますが、同時に長くなりすぎないようにしています。カットシーンでメッセージや感情、キャラクターの気持ちを伝えるために必要な時間だけ、画面に表示されるよう、非常に慎重に編集しています。
そして、できるだけ冗長なシーンを見させるのではなく、なるべく早くプレイヤーにゲームをプレイしてもらうような構成にしています。ゲームをプレイするだけで世界が反応するという『ダイイングライト』の最大の強みだと考えているからです。
プレイヤー数の拡大と関係構築――『2』豪華版購入者への無償提供について

―― 今回、PS4やXbox Oneといった、発売からかなり時間があったプラットフォームにも対応されることに驚かされました。『2』の発売時は過渡期でしたが、現在は明確にハードの世代が交代していると私は思います。これにはどのようなポリシーがあるのでしょうか?
Tymon今お伝えしている発売日は、PC/PS5/Xbox Series X|Sのもので、PS4版/Xbox One版は後日発売予定です。シリーズのプレイヤーベースを拡大し、できるだけ多くのプレイヤーに届けたいと考えています。私たちは、本作が提供するゲームプレイ体験は非常に特別であり、すべてのプラットフォームで楽しむ価値があると信じています。
――『ザ・ビースト』はDLCを越えたボリュームがあるとされているにも関わらず、『2』のUltimate Editionの購入者には、『ザ・ビースト』だけでなくそのDLCバンドルも無償で提供されることに驚かされました。本作の長い開発期間を考えると大盤振る舞いのサービスだと思いますが、どうしてこのような対応となったのでしょうか。
Tymon私たちはプレイヤーの皆さんとの長期的な関係構築を重視しており、そのためには敬意と配慮をもって対応することが不可欠だと考えています。『2』『アルティメット・エディション』のオーナーには2本の DLC を提供することをお約束していましたが、2本目の DLC をキャンセルする決定を下したため、代わりに次のプロジェクト――『ダイイングライト』シリーズ第3作となる『ザ・ビースト』を贈呈するのが筋だと判断しました。
――ありがとうございました。
長時間に及ぶインタビューにも、最後まで情熱的にお答えいただけました。インタビューの熱量に負けない『ザ・ビースト』のゲームプレイに期待大です!
『ダイイングライト:ザ・ビースト』はPlayStation 5/Windows PC(Steam/Epic Gamesストア)/Xbox Series X|Sにて、2025年8月22日に発売予定です。











