2026年1月30日にテンダゲームスから、初の自社開発タイトルとなる『黒洞々』が発売されました。本作は、生きているだけで尊厳がみるみる削られていく殺伐とした街を舞台に、何者にもなれない主人公の「オレ」が選択を繰り返していく、マルチエンディングのアドベンチャーゲームです。
この度、Game*Sparkでは、本作のプロデューサーである浅岡氏と、ディレクターである吉田氏にインタビューを実施しました。開発経緯や影響を受けた作品、本作とそしてテンダゲームスの今後の展開など、さまざまなお話を伺うことができました!
また、本作のプレイレポートも掲載していますので、あわせてお読みください。
■「ゲーム企画の9割は実現しない」……そんな中で、今後の事業展望を見据えた、第一歩を踏み出すまで。
――まずは自己紹介をお願いします。
浅岡: プロデューサーの浅岡です。2025年6月にテンダゲームスに代表取締役社長として入社しました。本作のVFXを手掛けたスカイアーツの会長も兼任しています。
ゲーム業界で働くのは初めてで、本作は当社初の完全自社開発タイトルであると同時に私自身としても初のプロデュース作品でもあります。
吉田: ディレクターの吉田です。株式会社アートディンクと株式会社チュンソフト(現:株式会社スパイク・チュンソフト)でゲーム開発に携わった後に、熱中日和というゲーム会社を立ち上げて、複数のゲームのディレクターを行いました。株式会社スクウェア・エニックスの『トライアングルストラテジー』では、シナリオ・スクリプトマネージャーを務めさせていただきました。現在はテンダゲームスで取締役を務めています。
――本作はテンダゲームスにとって初の完全自社開発タイトルですが、どのような経緯で誕生したのでしょうか?また、開発期間はどれくらいでしたでしょうか?
吉田: 2025年7月、代表取締役社長であり本作プロデューサーでもある浅岡のもとで「自社でゲームの企画開発・パブリッシング事業を行っていく!」という経営方針を決めました。そのきっかけとして全社員を対象に企画案を募集し、複数本を選んで開発を進めていくプロジェクトを立ち上げました。本作はその一本目のタイトルとなります。
「善悪の彼岸を問いかける」というコンセプトが刺さり、得意なジャンルでもあるシナリオドリブンなゲームでもあったので、本作の開発に着手しました。
開発期間は3か月弱です。仕様作成、シナリオ、キャラデザイン、プログラムと並行で進行したこともあり、お互いのセクションに影響されながら密度が濃い世界観を作っていけたと思います
浅岡: 「ゲーム企画の9割は実現しない」という話を耳にしたことがあります。実際にゲーム会社で働いてみると、その数字の現実がよく分かります。今後の事業展望を見据え、今回はとにかく早期に完成させて発売するということを意識して進めてきました。
当社の現段階での特長が活かせること、開発工程を解像度高く見通せること、そして何より我々の趣味嗜好を発揮できること、の3点を踏まえて本作の企画を立ち上げました。
■「羅生門」だけじゃない。文豪・芥川龍之介の名作たちの影響
――本作は物語性が非常に強い印象を受けますが、ゲームとしての操作感・システム面で特に大切にした点はどこでしょうか?また、物語表現とゲーム性のバランスで悩んだことがあれば教えてください。
浅岡: 正解のない苦渋の選択が連続していくことがゲームプレイのコアですが、その選択を行うに至る過程の設計を重要視していました。吉田が「彼岸の心得」システムを考案したことで実現出来たと思います。

3Dマップ探索と尊厳ゲージによる時限要素の必然性は悩みました。これらのギミックにより独自性は見出だせるものの、インタラクティブノベルの本質と整合させることの困難さを感じていました。マップサイズの調整、キャラ/アイテム配置、ゲージの減少速度調整などを試行錯誤しました。
吉田: 「尊厳ゲージ」による「主人公の心がどんどんと死に近づいていく」表現を大切にしています。ヒリヒリとした決断を「選ばざるを得ない」状況を体感できるようなシステムを目指しました。

ゲームバランスで悩んだのは、13個あるエンディングへの到達のしやすさです。できるだけ多くのエンディングを体験してほしいので、周回プレイでのスキップ機能を充実させています。

――本作の印象的なタイトルは、芥川龍之介の「羅生門」から取られていると思っています。作中でも芥川作品をはじめとして、さまざまな文学作品に対する言及がありますが、本作の開発にあたって特に影響を受けた作品はありますか?
浅岡: 「羅生門」ですね。同作の持つ強烈な現実性に惹かれています。
また、暗鬱で歪な世界観表現という意味では、浅野いにお先生の「おやすみプンプン」からも影響を受けています。
吉田: 浅岡と同じく、やはり「羅生門」です。
本作の出発点は、「羅生門をサウンドノベル化したら面白いのではないか?」という企画書でした。そこから発展させて「悪を正当化する葛藤」を現代社会的なノワールファンタジーに落とし込んでいます。ゲーム内にも様々な場所で「門」のモチーフを取り入れています。
「藪の中」「蜘蛛の糸」「河童」からも、シナリオやグラフィック面で影響を受けていますね。
――色の使い方も目を引きます。色彩を絞ることによって印象に残ると言いましょうか……そのアイデアはどのように思いついたのでしょうか?
浅岡: 本作のコンセプトを表現に落とし込む際に、自然とグレースケールの世界をイメージしていました。その上で「シン・シティ」や「シンドラーのリスト」等の映画から影響を受けて、単色の強調色表現を考えました。
現代の羅生門を表現する上で、歌舞伎町一番街アーチをオマージュした「門」を作品の象徴にすることは最初に決めていたので、あまり迷わず赤色を選んだ記憶があります。
また、絞り込まれた統一感のある色彩表現が自身の好みであったということと、プロデューサー観点では数多ある作品の中で数瞬で印象に残るビジュアルを作らねばということも考えていました。
吉田: 本作のノワール的な世界観を描くにあたって、浅岡と話す中でモノクロ映画の雰囲気を目指すことにしました。そこに「歌舞伎町的な門」「血のように流れ出ていく尊厳」「彼岸花と蓮の花」を表現するために「赤も描こう」と決めて、現在の「モノクロ+赤」という色彩になっています。
――魅力的なキャラクターたちはどのようにして生まれましたか?また、お気に入りのキャラクターがいましたらぜひお聞かせください。
吉田: ゲームのコンセプトを元に、水商売の女性やヤクザや闇医者などの「ヤバそうなキャラ」から設定を作っていきました。そこにプロデューサー浅岡からの「ライトサイドのキャラも出してほしい」というリクエストがあり、先生や老人を足していきました。20人くらいいたキャラを統合して、現在の12人+主人公という形に整理しました。とてもよいバランスになったのではないかと思っています。
お気に入りのキャラはユノですね。
浅岡: おなじくユノです!

――キャラクターたちの中でも主人公は特に特徴的な見た目ですが、それにはどのような経緯があったのでしょうか?
浅岡: 主人公が街に辿り着くまでの半生や内面性を見た目に反映させたいと考えた結果です。
本作の主人公は「自身の意志で何も決断ができず、何者にもなれていない男」です。自己が希薄で肯定も否定もしないまま生きてきた成れの果てとして、自身を正確に認識できていない様を表現しています。体に空いた穴は心の空洞を示唆しており、大きいヘッドホンは耳を塞ぐことでの現実からの隔離・逃避を表しています。
吉田: 浅岡から「キャラの内面が見た目にあらわれるようにしたい」とのリクエストがあり、デザイナーと特徴を組み立てていきました。ラフを100種類くらい描いてもらっています。
――もし可能であれば、開発者ご自身が特に思い入れのあるシーンや演出を一つ挙げていただけますか?その理由もぜひお聞きしたいです。
浅岡: トゥルーエンドの演出です。この物語の終わり方は企画立ち上げ時から決めていたため、特に思い入れがあります。
吉田: とあるキャラと一緒に行動するシーンがあるのですが、そこの演出がとても気に入っています。ドット絵のキャラを、プログラマーがとてもよい動きに実装してくれました。
――本作の開発中に一番印象深かったエピソードを一つ教えてください。
浅岡: 全てが大切な思い出ですが、発売前夜に吉田が「バグが……」と言いながら、一緒に参加していた会食中に突然PCを取り出して作業をし始めたことが色々な意味で感慨深いです……。
吉田: プロットを決めてからシナリオを書いているのですが、とあるエンディングを読んだときに、「え!?うそだろ!?」とメチャメチャ悲しくなってしまいました…。シナリオ担当が、プロットをより悲しいお話にブラッシュアップして執筆してくれていたんです(笑)。
悲しみを乗り越えて、より悲しくなるように演出をつけました。ぜひプレイして感じてほしいです。
――プレイヤーには本作をどのような気持ちで遊んでほしいと考えていますか?「考えてほしいこと」「感じ取ってほしい余韻」などがあればお聞かせください。
浅岡: 本作は多くのエンディングを用意しているゲームですが、全体としてはコンパクトな作りです。矛盾するような表現になりますが、気軽に重たい選択の連続を楽しんでいただきたいです。
「あーーーしんどかった!」という余韻を感じていただけると、とても嬉しいです。
吉田: 「こんな選択肢、どっちも選びたくない!!」と感じてほしいですね。極限状態の中で「生きるためには仕方がない」と自分自身を納得させていく背徳感と自己肯定感を、同時に体感してもらえると嬉しいです。

つらい選択・決断が多いゲームですが、かわいいピクセルアートやギャグ的シナリオ展開で心を休めつつプレイしてもらえればと。さまざまなエンディングに到達するたびに、登場人物たちが立体的に見えてくると思います。
そしてこの街から脱出できたとき、すこしだけこの街の見え方が変わってくれていれば……。
――『黒洞々』の今後の展開、また今後のテンダゲームスの展開についてお聞かせください。
吉田: 黒洞々の今後の展開としては、多言語ローカライズとコンシューマー版の開発を進めています。より多くの方にプレイしていただきたいですね。
浅岡: 当社は今後も自社企画タイトルの開発/パブリッシングを進めていきます。本作はアドベンチャージャンルでしたが、アクションとRPGの展開にも力を入れていく予定です。
ぜひご期待ください。ありがとうございました。
――ありがとうございました!
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