2026年3月5日にPocketpair Publishingが発売した『Never Grave: The Witch and The Curse』。一見普通のアクションゲームですが、その内容はメトロイドヴァニア×ローグライト×マルチプレイ×拠点建築×憑依アクション……と、とにかく要素が盛り沢山に組み合わされた作品なのです。
このごった煮なアクションゲームは、果たしてどのように生み出されたのでしょうか。本作の開発を主導したポケットペアの酒井康臣氏にお話をうかがいました。

――自己紹介をお願いいたします。好きなゲームも教えて下さい。
酒井:ポケットペアでプログラマーをしています、酒井康臣です。本作は私が企画立案から行っているタイトルで、プロデューサー兼ディレクター兼レベルデザイナー兼サウンドデザイナー兼テキストライターを務めており……平たく言うとアートとBGM以外は一通り手掛けています。
好きなゲームは『MOMODORA: 月下のレクイエム』です。学生の頃に熱中して、いつかメトロイドヴァニアを作りたい……!と志していました。
――発表してからしばらくかかりましたが、ようやく発売を迎えましたね。いまの心境をお聞かせください。
酒井:ようやく皆様にお届けできて嬉しいです。どんな評価をいただけるのか、ドキドキしています。発売後のパッチ対応などが落ち着いたら、開発中になかなかプレイできていなかったゲームを沢山したいと思っています。
――ぜひ楽しんでください(笑)。発表当初は早期アクセスでのリリースだったかと思いますが、改めて最初から正式リリースすることに決めた理由を教えていただけますか。
酒井:大きな理由としては、メトロイドヴァニアというジャンルは小出しにする作り方がやりづらいんです。例えば、二段ジャンプを入手するタイミングを最初に出しちゃうと、後のアップデートで「やっぱり二段ジャンプは後半に渡すべきだった」となったときに、アーリーアクセスだったとしても、一度二段ジャンプを渡してしまったあとにそれを無かったことにするのは、ユーザー心情を鑑みるとかなり難しくなります。なので、最初から完成品としてお客さんに届けるという判断になりました。

――これまでのデモ版など、ユーザーに触ってもらう機会はいくつかあったかと思いますが、そこで得たフィードバックはどう活きていますか。
酒井:アクションの手触りやキャラクターアニメーションはよく指摘されました。皆様の意見をヒアリングしつつ、本作に合う形でうまく落とし込めたのではないかと思います。
あと、やはり『ホロウナイト』に似ているとは言われてしまいまして……。『ホロウナイト』が好きで憧れていたこともあり、理想としてきた部分もあるかもしれませんが、できるだけ印象が離れるよう努力した結果、今の表現に落ち着きました。
――今回、ポケットペアさんの作品としては初めての多機種同時リリースとなります。そこで苦労したところはありますか。
酒井:各プラットフォーム同時進行となるのが大変でしたね。特定の機種でバグがでたときに、その機種に起因するバグなのか、実は全体でも起きるバグなのかという問題がありました。また、各ストアページの公開も足並みを揃える必要があったりして、1プラットフォームのみよりも苦労は多かったです。
――開発元とされているFrontside 180 Studioさんとは、どういった組織なのでしょうか。
酒井:ポケットペア社内にある独立スタジオで、コアメンバーは私を含めて4人です。ほぼ全員リモート作業でリアルで全員揃ったことが1回しかないというやや異例なスタジオです。対して、ローカライズ、移植、パブリッシング、マーケティング、QAなどは他部署の力を借りています。
――スタジオ名の由来は何ですか。
酒井:そんなに深い意味はないんですけど……スノーボードやスケートボードのトリック名です。他にも趣味で好きなものを沢山並べたりしましたが、何となく雰囲気のカッコよさで決めました。

――社内独立スタジオだからこその強みなどはありますか。
酒井:会議などは基本的になく、企画を実装に移すまでがスピーディですね。会社からも特にツッコミもなく、自由にやらせてもらいました。多分、ほかのチームはこんな進め方をしてないと思います。
――他チームとの連携での利点もありましたか。
酒井:英語・中国語ネイティブの方と直接やり取りできるので、翻訳のクオリティアップを短期間で行なえたのは利点でした。移植作業に関しては、各種ビルドの依頼を素早く行えたり、移植に伴うパフォーマンスの相談を密に行えて非常に助かりました。また、マーケティングもある程度自由が利いて、開発側でPVを作ったり広報素材を作ったりと品質を一定に保つことができました。QAに関しても、緊急性の高い不具合の報告を直接いただいたり、スケジュールの調整を柔軟にしていただいて感謝の限りです。
――2023年に発表して、約3年経過しましたが、この3年間どういったことを意識していましたか。
酒井:なぜ3年経った今リリースなのか……という質問だと思われるのですが、シンプルに作っていたとしか言えなくて……(笑)。初公開PVにいろんなステージが出ていましたけど、あれは本当にPVにでてくる部分しかできあがっていなかったんです。最初の体験版も、遺跡ステージの第1層と第2層だけしか作っていなくて、そこから3年かけてようやく今の形にできたんです。
――なんと、あの段階ではまだかなり初期段階だったのですね。
酒井:はい。3年間の内に余計な寄り道などしていたということもなく、本当に作り続けて3年かかっている状態です。もともと私一人で開始して徐々にメンバーを集めましたが、チームとしては計4名なのでこれぐらいの期間はかかってしまうかなと。初期PVで関心を持っていただいたユーザーのみなさまには長い時間お待たせしてしまい、申し訳ありません。
――そうだったのですね。では、ゲームの中身にも迫ります。メトロイドヴァニア×ローグライト×憑依アクション×拠点建築×マルチプレイ、とかなり要素盛りだくさんですが、そもそも組み合わせようと思ったのはなぜですか。
酒井:もともとごった煮を作ろうとしたのではなく、開発コストや面白さを詰めていった結果自然とこうなったんです。開発スタート当初は『MOMODORA:月下のレクイエム』や『メトロイド』が好きだった私が、趣味で1人でストレートなメトロイドヴァニアを作っていました。その頃はポケットペアの仕事とは無関係でしたが、どうせなら「会社で作らせて!」とお願いしたんです。
結果的にこうして作ることができたのですが、ストレートなメトロイドヴァニアは背景をたくさん作らなければならないのでコストが高くなる。そこで、ローグライトとして周回できる形式に落とし込みました。

建築に関しては『クラフトピア』の開発にも携わっていたので、クラフト要素の面白さの勘所みたいなものはすでに掴んでいました。そのときから、クラフトとローグライトは相性が良いと思っていて、この方向性を突き詰めればひとつ良いものができるなと思ったんです。
マルチプレイはもともと入れる予定はなかったのですが、会社から「マルチプレイがあったほうが体験として面白くなるぞ」と助言されて。私自身かつて『モンスターハンター:ワールド』でプレイヤー操作のプログラムを実装したり、初期の『クラフトピア』でリードプログラマーをしていた経験があったので、私だけでもマルチプレイを実装すること自体はできるだだろうと思っていた半面、その大変さを知っていたので「本当にやるのか?」とかなり悩みました。結果として、「メトロイドヴァニア×ローグライト×マルチプレイ×拠点建築×憑依アクション」という前代未聞のゲームを作ってみたいという思いや、ユーザー体験としての面白さを優先してマルチプレイを実装することにしました。
――なるほど(笑)。憑依アクションはどうですか?
酒井:現在公開されているPVよりももっと古い、非公開の社内用のPVを作ったときに、魔女の見た目だけで4人マルチプレイをしていてもパンチが弱い印象があって、どうしよう……と悩んだ結果、帽子を使って敵に憑依するというアイデアに辿り着きました。主人公1キャラ作るだけでも大変なのに、憑依できる敵の数だけ操作キャラを作る必要があり、かなり大変でした。
この要素は『ロックマンX』のライドアーマーという要素から着想を得ていて、一度入手すれば壊れるまで使えたり、その形態でしか使えない技があったりといった体験に仕上がっています。

――いろいろと組み合わさっている反面、それぞれのジャンルの"らしい部分”はしっかり押さえているのも印象的でした。
酒井:メトロイドヴァニアらしさとは何か、ということを考えたとき、やはり二段ジャンプや空中ダッシュなどの重要な強化によって行ける場所が増えるというのがこのジャンルの本質のひとつかなと思っています。
一方ローグライトは、周回ごとに自分の強さが毎回違って、3択からひとつを選んで強化していくというようなところにあります。上振れたときは気持ち良いし、下振れたときもどう乗り切るか工夫するというのが面白いですよね。
マルチ部分はフェアさや競技性よりもゆるくてお祭り的な体験を目指しています。建築は最初は小さなものしか作れないけど、攻略が進むとどんどん家が豪華になってくるという面白さを求めています。

――アクションの手触りも教えてください。
酒井:過去のメトロイドヴァニアの手触りはいくつか研究しつつ、『Never Grave』のステージ設計や攻撃アクションに合う操作感に落とし込みました。走る速度やブレーキ、ジャンプの高さや加速度変化、1ブロック段差を上るスムーズさ、走って壁にぶつかった時のリアクションなど、ありとあらゆる所に細かい調整がされています。
また、体験版を出したあとも、ユーザーのみなさまからのご意見を参考にしつつ、練り込んでいきました。キャラ操作はプログラムだけでなく、アニメーションと一致していないと気持ちよくないので、アート担当と二人三脚で詰めていきました。最終的には『Never Grave』独自のアクションの手触りを作ることができたと考えています。
――これまであまり例がない組み合わせということは、それだけうまく作るのが難しいということでもあると思います。噛み合わせで苦労した部分や、逆に意外とうまくいった部分はありますか。
酒井:形にすること自体がそもそも大変すぎて……ランダム生成のダンジョンを作るのも、アニメーションと動きを作るのも、敵の数を揃えるのも苦労だらけでした。
組み合わせに限って言えば、メトロイドヴァニア×ローグライトだったら『Dead Cells』、ローグライト×建築だったら『Cult of the Lamb』といった名作がありますよね。『Never Grave』は、憑依アクションを使った探索、横スクロールアクションとして建築のしやすさ、自然と周回プレイしたくなるような装備のドロップと合成など取り入れて、本作独自のテイストに仕上げています。

――お話を聞いていると、最初からオルタナティブなメトロイドヴァニアを作ろうとしていたわけではないのですね。
酒井:そうですね。当初はシンプルなものでしたが、結果としていろんなジャンルの複合になっていって……。オルタナティブではあるのですが、メトロイドヴァニア・ローグライト・建築などの要素のどれかひとつでも好きなら、ぜひ遊んでいただきたいです。
――シングルプレイとマルチプレイの体験はそれぞれどのようにチューニングしましたか。
酒井:シングルプレイはひとりでじっくり、ローグライト的な繰り返しや村での強化を重ねつつ、歯ごたえのある体験が楽しめます。特にボスはアクションの難しさと各ボス特有の攻略法やギミックを重視して作っています。
マルチプレイは初心者4人のワイワイプレイも許容しますし、やり込んだ人が初心者をキャリーするような遊び方も可能です。ユーザー同士で自由に遊んでいただければと思います。
――マルチプレイでのテンポ感や難易度の違いはどうでしょう。
酒井:開発中はチーム内で週1でマルチプレイのチェックを行い、調整を重ねました。現在はプレイヤー人数が1~4人に増えるにつれて敵も強くなるようにチューニングしています。

――背景アートは上品で幻想的な雰囲気が魅力です。背景はどんなコンセプトで、どんなこだわりをもってデザインしましたか。
酒井:やはり、手描き背景のメトロイドヴァニアでは『ホロウナイト』が王者と言えます。おこがましいですが、そこに届きたいな……と。『ホロウナイト』の良さをベンチマークにしつつも、より『Never Grave』の主人公のキュートさにマッチするようアート担当にお願いしつつ、あとはダンジョン背景のイメージとなる風景写真などの資料をお渡し、アート担当のセンスに委ねた形になります。
――そうなんですね。
酒井:レベルデザインなどの遊びに関する前提条件は私の方で裁量を持ち、デザイン面はアート担当の裁量に任せることで良いものが仕上がってきました。結果として、私だけでは考えつかないデザインのアイデアと絵のクオリティでゲームの品質をぐっと引き上げていただいて、ありがたいかぎりでした。アート担当の方によると「好きにやらせてもらってたので、好きなものをとにかく量産して、ひたすらに飽きが来ないように並べました。」とのことで、必死にやっていただいた結果、自然と今の絵作りに行き着いたようです。
――キャラクター周りはどのように決まっていきましたか。主人公の魔女なんかは、クールなイメージかと思いきや、意外と表情豊かですよね。
酒井:これも、各キャラクターのサイズ感や攻撃方法など遊びの前提条件を私から提示させていただき、あとはキャラデザ担当やアニメ担当の裁量に任せた物がだいたいそのまま反映されています。私の方からこうしてくれと決めずとも、良いものを作ってくれました。
メトロイドヴァニアって、禍々しいデザインが多いですよね。なのでキュートでグロ可愛い敵ならその中でも埋もれず新たなニーズに応えれるかと思いました。

――最後に、ユーザーに向けてメッセージをお願いします。
酒井:メトロイドヴァニア、ローグライト、建築、マルチプレイ、憑依、などどれかひとつでも好きならぜひ手に取っていただきたいです。難易度は高めに設定していますが、成長要素や救済措置もあるので、いろんな方に遊んでいただきたいです。
――ありがとうございました!
『Never Grave』は、PC(Steam)/PS4/PS5/Xbox Series X|S/ニンテンドースイッチ向けに発売中です。











