
先日、『アーマード・コア』シリーズへの独自の視点からの言及をきっかけに、多くの日本人から「ロボゲー・ロボアニメ詳しすぎな外国人」として知られるようになったオリー・バーダー氏。実は、氏はゲームやアニメを中心として日本サブカルを海外に長年伝えてきた記者であり、様々なタイトルにかかわってきたゲームクリエイターでした。
弊誌の取材に対して、そんな氏がこぼした最近の悩みと言えば「ロボゲーを作らせてくれるスタジオが見つからない!」ということなのだそう。そこで、本稿では、氏の文章を通じて、氏のもつ「ロボゲー・ロボアニメ」への視点や美学の一端をお伝えしていきたいと思います。
新作アニメシリーズ「機動警察パトレイバー EZY」の公開が控え、新作ゲーム『PATLABOR the Case Files』の発表もあったことから、「機動警察パトレイバー」シリーズ全体について、特に海外での受け止められ方に焦点を当てて振り返る価値があるタイミングでしょう。そこで、本稿では同作について簡単に振り返りつつ、海外で同作がどう受け止められてきたかについてを語ってみようと思います。
最初は劇場版からだった
多くの海外ファンにとって、「パトレイバー」への最初の本格的な接点は、最初の2本の劇場版作品でした。これらは英語吹き替えの完成度も高く、後藤隊長役を務めたピーター・マリンカーのような実力派の声優陣が起用されていました。
第1作は堅実な刑事ドラマ風の物語であり、「パトレイバー」におけるメカが前面に出るのではなく、むしろ背景的な存在として描かれている点が印象的でした。
冒頭の短いシーンや終盤ではメカ戦闘が中心となるものの、物語の大部分は、新たに導入されたハイパー・オペレーティング・システム(HOS)を巡る謎と、それが東京中のレイバーに及ぼす影響を解き明かしていく展開に費やされています。
また、本作では登場人物たちが上層部から過小評価されがちな、いわば“アンダードッグ”的な立場にあることも描かれています。これは重要な要素であり、後ほど改めて触れたい点でもあります。
第2作は作風が大きく異なり、より緻密な政治ドラマとなっていますが、やはり物語の中心には謎が据えられており、綿密な調査を通じて真実が明らかにされていきます。
両作品の音楽を担当した川井憲次によるスコアも非常に優れており、とりわけ第2作の音楽は海外でも高く評価されています。
さらに特筆すべき点として、特に第2作における軍事描写の完成度が挙げられます。中でもワイバーンに関するシークエンスは、非常に優れたものとして広く評価されています。
しかしながら、出渕裕による卓越したメカデザインによって、現実味と説得力を備えた機体が描かれていたにもかかわらず、「パトレイバー」は軍事色の強いメカアニメとして海外ファンの共感を得るような形では、広く受け入れられるには至りませんでした。
第3作はかなり後になって公開されましたが、オリジナルの登場人物やメカの出番は非常に限られており、しかも終盤にわずかに登場する程度にとどまっています。総じて、この作品は海外ではあまり高い評価を得ることはありませんでした。
「スロウ・ホースズ」との類似性
Apple TVで配信されている近年のドラマシリーズ「スロウ・ホースズ」は、「パトレイバー」と多くの共通点を有している作品として挙げられます。
本作は、イギリスの作家ミック・ヘロンによる「スラウ・ハウス」シリーズを原作としており、主人公のジャクソン・ラムは、半ば引退状態にあるMI5のエージェントで、不祥事を起こした“落ちこぼれ”エージェントたちを扱う分室を率いています。
こうしたいわば「壊れたおもちゃ」たちが協力し合い、正規の“プロフェッショナル”たちを出し抜いていく構図は、本シリーズの大きな魅力の一つです。また、ジャクソン・ラムの老獪かつ狡猾な手腕も見どころであり、彼は部下たちよりもはるかに迅速に全体像を見抜くことができます。

海外のファンの間でも、「パトレイバー」との類似性や、登場人物や物語構造の共通点がしばしば指摘されています。
もちろん本作にメカは登場しませんが、「スラウ・ハウス」シリーズが2010年に始まった一方で、「パトレイバー」の劇場版は1990年代末にイギリスでVHSとしてリリースされていました。そのため、ミック・ヘロンがこれらを視聴し、影響を受けていた可能性については定かではありませんが、そうであったかもしれないと想像するのも一興でしょう。
なお、「スロウ・ホースズ」は日本では「窓際のスパイ」という名称でPrime Videoにて視聴可能であり、強くお勧めできる作品です。
OVA・テレビシリーズ・実写作品・漫画について
「パトレイバー」のOVAは、アメリカでは限定的にリリースされたものの、イギリスでは近年に至るまで展開がなく、小規模ながらも熱心なファン層に支えられていました。
テレビシリーズはOVAよりも注目を集めたものの、こちらも主にアメリカでの展開が中心であり、その後になってようやく広範なリリースが行われました。
劇場版とは異なり、OVAおよびテレビシリーズはより明確なユーモア要素が強く、この点についてはファンの間で評価が分かれる結果となりました。特に、よりシリアスな劇場版を好んでいた層からは賛否が見られました。
もっとも、OVAやテレビシリーズを非常に高く評価するファンも確かに存在しており、一概に否定的に受け止められていたわけではありません。ただ、海外の一般的なファン層においては、劇場版の持つ重厚で硬派な作風を好む傾向が強く、その結果としてファン層がやや分断される形となりました。
実写版シリーズは、現時点ではアメリカおよびイギリスでの公開がなく、ほとんど認知されていない状況です。一方で、日本各地に登場した実物大イングラムは、SNSを通じて海外でも大きな注目を集めており、「このメカは何の作品に登場するのか」といった反応が多く見受けられます。
漫画版についても、海外では第1巻と第2巻のみが刊行されるなど、非常に限定的な展開にとどまっており、残念ながら国際的な認知度は高いとは言えません。しかしながら、「パトレイバー」の漫画は非常に完成度が高く、英語版が出た1998年の当時よりも、むしろ現在の方がより高く評価される可能性を秘めていると感じられます。
ゲームについて
これまでに発売されてきた「パトレイバー」のゲームは、いずれも海外で正式にリリースされたことはなかったと記憶しています。私自身も、発売当時にPlayStation版を輸入して遊んだことがありますが、正直なところ、プレイ体験としてはやや期待外れに感じられました。

その理由として、「パトレイバー」はゲームという形式にあまり適していない作品である点が挙げられます。本作におけるメカは激しい戦闘を主目的とするものではなく、主に暴走した敵レイバーの無力化を目的としています。
このような要素を魅力的なアクションゲームとして成立させるのは難しく、そのため、これまでにリリースされた「パトレイバー」のゲームは、アドベンチャーゲームや、インタラクティブノベル、あるいは日本的なシミュレーションゲーム形式を採用する傾向にありました。
こうしたジャンルは日本国内では比較的高い支持と評価を得やすい一方で、海外においては一般的に受け入れられにくく、よりアクション性の高い、特にシューティング要素を多く含むゲームが期待される傾向があります。
こうした点を踏まえると、今後登場予定の「パトレイバー EZY」および、SteamとPlayStation 5向けに発表された新作ゲーム『PATLABOR the Case Files』が、どのような方向性を打ち出してくるのかは非常に興味深いところです。
「パトレイバー EZY」と『PATLABOR the Case Files』について
「パトレイバー EZY」は長らくプリプロダクション段階にありましたが、ついに制作が実現するのは喜ばしい限りです。主要なオリジナルスタッフの多くが再集結している点も注目に値しますし、新たな登場人物に加え、イングラムも刷新されています。(公式サイトなどでは海老川兼武氏がメカニカルデザインの筆頭位置にクレジットされていますが、イングラム・プラスのデザインには関わっていないとのことです)

一方、新たに発表されたゲームについては、シリーズ全体の要素を取り入れた内容となる見込みで、開発はチャイムが担当するとされています。
公開されているトレーラーを確認した限りでは、正直なところ、作品の出来についてはあまり楽観的には見ていません。もちろん面白い作品になってほしいとは思いますが、やはり「パトレイバー」を魅力的なアクションゲームへと落とし込むのは挑戦的なことであると感じています。
とはいえ、「パトレイバー EZY」および本作ゲームは、約30年前にシリーズが直面していた状況と比べ、はるかに大きく、かつ受容的な海外ファン層に向けて発信されることになります。
全体を俯瞰した際の本シリーズは軍事色の強いメカ作品ではありませんが、親しみやすいメカデザインと魅力的なキャラクターによって、新しい世代の海外アニメファンにも受け入れられる可能性があるのではないかと、慎重ながら期待しています。
結局のところ、「スロウ・ホースズ」が“はみ出し者”の捜査官たちの物語で多くの視聴者を惹きつけることに成功しているのであれば、「パトレイバー」にも同様の可能性があって然るべきでしょう。
オリー氏とともに「ロボゲー」を作ることに興味のあるスタジオや団体は、この記事の末尾にある氏のプロフィールから個別に問い合わせていただけますと幸いです。
※UPDATE(2026/3/24 17:50):本文中イングラム・プラスのデザインについて修正・追記を行いました。関係者にはお詫び申し上げます。










