
1998年11月27日にセガが満を持して投入した次世代ゲーム機「ドリームキャスト」の初期タイトル群の中に、ひときわ異彩を放つ一本のSFアクションアドベンチャーがありました。それが、クライマックス・グラフィックスが開発を手掛け、1999年3月25日に発売された『ブルースティンガー(BLUE STINGER)』です。
本作は、休暇中の海洋島で突如発生した謎の異変に巻き込まれた主人公エリオットが、変異したモンスターが徘徊する孤島からの脱出と、島の謎に迫るSFアクションアドベンチャーゲームです。

当時、3Dホラーアクションというジャンルにおいては、PSにて社会現象を巻き起こしていた『バイオハザード』シリーズが絶対的な王者として君臨していました。固定されたカメラアングル、意図的に制限された操作性、常に付きまとう弾薬不足の恐怖。『バイオハザード』が提示したこれらの様式美は、当時のホラーゲームにおける「正解」として定着し、数多くのフォロワーを生み出していました。

しかし、『ブルースティンガー』が選んだ道は、その絶対王者の足跡をただなぞるようなものではありませんでした。
本作はドリームキャストという新世代ハードの圧倒的なマシンパワーを背景に、全く異なるアプローチで「ホラー」と「エンターテインメント」の融合を模索していました。
それは制作にハリウッドで活躍する一流スタッフが参加しており、当時としては洗練された映像美と、本場仕込みのカメラワークやハリウッド的な壮大なストーリーが体験できたことからも伺えます。

一方で、ちょっとおバカなノリや大味な(粗の目立つ)ゲームシステムなど、良くも悪くも「B級映画」的なニュアンスが全体に漂っていますが、それも含めて茶目っ気たっぷりの作品でした。
というわけで今回は、今なおカルト的な人気を誇り、ドリームキャストの隠れた名作として語り継がれる『ブルースティンガー』の独特な魅力と面白さについて今一度振り返ってみたいと思います。
◆ハリウッドの魂を宿したストーリーと世界観

本作の舞台となるのは、西暦2000年に突如として太平洋上に出現した「ダイナソア島」です。この島は、かつて6500万年前に恐竜を絶滅させた巨大隕石が衝突したまさにその場所であり、それが地殻変動によって現代に浮上したという、いかにも90年代のパニック映画(「ジュラシック・パーク」や「ゴジラ」など)を彷彿とさせる、SF的なロマンを詰め込んだ設定になっています。

物語はその浮上から18年後の2018年、島に設立された巨大なバイオテクノロジー企業の研究所を謎の「光のドーム」が包み込み、通信が完全に途絶するところから始まります。休暇中に近くの海域を訪れていた、特殊海難救助隊の若き隊員である主人公「エリオット・G・バラード」は、この未曾有の事件に巻き込まれる形で、異形の怪物が徘徊する隔離された島へと足を踏み入れることになるのです。
特筆すべきは、キャラクターデザインに『バジリスク~甲賀忍法帖~」などで著名な漫画家のせがわまさき先生を起用していること。確かに今見ると、洋ゲー風にしては漫画っぽくて日本人にも受け入れられそうなキャラデザですよね。

そして、物語に欠かせないもうひとりの重要な人物が、この「ドッグス・バウアー」という中年男性。蓄えられたヒゲとオレンジ色のバンダナがトレードマークです。
若く正義感に溢れ、いかにも絵に描いたようなヒーロー気質のエリオットに対し、ドッグは軍務経験があり、銃器の扱いにも長けている肉体派で、常に皮肉を言うステレオタイプな「アメリカの中年オヤジ」です。

この、年齢も価値観も異なる主人公2人が生き残るために手を組み、山あり谷ありの大冒険を繰り広げていく過程は、まさにハリウッド・ムービーを見ているような感覚でした。


とりわけ、エリオット自身が怪物化してしまうピンチに陥った時のドッグスのセリフや、一緒にお風呂に入るシーンなど2人が共に生き延びための「バディ」として徐々に打ち解けていく様子に、ただのSFパニックものではない物語の躍動感を感じられましたね。


他にも、ダイナソア島で警備員をしている本作のヒロイン的存在「ジャニーン」や、エリオットたちを導いたり、物語の重要な鍵を握る謎の妖精「ネフィリム」など、個性豊かなキャラクターが勢揃いで作品を盛り上げてくれていました。
とはいえ、主流である『バイオ』や『サイレントヒル』等と比較すると、キャラの造形、性格、親しみやすさなど総合的な魅力に欠けていて、どうしても「大味なB級感」は拭えておらず、大衆にウケづらかったのかなと思います。
◆「B級感」あふれる、型にはまらない大胆なゲームシステム

本作が持つ最大の魅力は、『バイオ』が築き上げたサバイバルホラーのシステムに沿いつつも、真っ向から否定するかのような独特で斬新なゲームシステムを多く実装していたことでしょう。いったいどういうシステムなのか、幾つかご紹介します。

サバイバルホラーというジャンルにおいて、最も重要な要素の一つが「リソース(資源)の管理」です。弾薬や回復アイテムの数が限られているからこそ、「この敵は強いから戦わずに逃げよう」「ハーブが足りないから慎重に進もう」という緊迫感が生まれ、それが恐怖に直結します。

しかし本作は、島を徘徊する不気味な変異生物を倒すと、「お金(コイン)」がその場にドロップする仕組みです。つまり、プレイヤーにとって恐怖の対象、避けるべき障害であったはずの怪物が、本作においては「進んで倒すべき大切な資金源」になっており、雑魚敵を狙えば比較的容易にお金を大量にゲットできてしまいます。

では、その稼いだお金をどこで使うのかというと、ステージの至る所に「自動販売機」や「武器ショップ」が稼働しているので、そこで「ハッシー」と呼ばれる回復薬を買ったり、武器ショップではハンドガンやショットガン、ガトリングガンなどの弾薬を、苦労して探すのではなく簡単に補充することが可能なのです。
こうしたシステムは、ホラーやアクショが苦手なプレイヤーを救済し「誰でもエンディングまで辿り着ける」ユーザーフレンドリーな仕様である一方で、先の見えない不安や緊張感、戦闘の駆け引きなど、サバイバルホラーの醍醐味を台無しにする残念な点でもありました。

『バイオ』にはない本作独自のシステムは、まだまだあります。
例えば、プレイ中はリアルタイムで操作キャラを入れ替えることができます。エリオットはハンドガン、ショットガンに加えてナパームランチャーやバズーカなど多彩な武器を扱えます。移動速度もエリオットの方が早い。

一方、ドッグスはレールガンやガトリングなど、重火器を中心にパワープレイが得意です。こんな感じで、雑魚敵はエリオット、ボスクラスはドッグスで対処する、といった場面に応じて使い分ける戦略性があります。
また、操作性は『バイオ』よりも直感的で操作しやすいし、攻撃はワンボタンで素早く繰り出せるうえに自動照準、2キャラ分のHPがあるため、道中で詰まることなくサクサク最後までプレイできるのは、難易度が高めの作品が多い中で良い点でした。


そして本作は他のホラーゲームと違い、近接格闘スタイルで敵をガンガン殴ることができます。たとえば、ドッグスで「スモウTシャツ」を装備すれば張り手攻撃を叩き込めたり、「カラテTシャツ」を着れば正拳突きや前脚蹴りなどカラテ技を使用できたり、そのスタイルはさまざま。

他にも、金属バットで容赦なくモンスターをしばきあげたり、ライトセーバーで火花を散らしたり……このごちゃごちゃした感じがまさに本作ならではの世界観です。
ここらへんのシステムは、洋画風の悪ノリというかユーモアというか、ホラーゲームとしてのシリアスさや緊張感などを台無しにしている演出ですが、「プレイヤーを楽しませよう」という開発側のサービス精神は悪くないと思いました。

本作最大の特徴は、ハリウッドのプロによる監修です。プロデューサーの西垣信裕氏が西海岸のアクション映画(スピルバーグやジョン・カーペンター、ジョー・ダンテなどの作品)に強い影響を受けていたことから、スタッフに本場のプロを起用しました。
フルポリゴンの3D空間を活かし、曲がり角からクリーチャーが突然フレームインしてくる構図や、狭い通路での圧迫感の演出など、映画のワンシーンに入り込んだかのようなカット割りが随所に仕込まれていました。

映画的な美しさを追求した反面、日本版ではプレイヤーが自分で自由に視点を動かせないシステムだったため、カメラの切り替わりタイミングによっては視界が全く進行方向と真逆になったり、操作との相性が悪かったりと、ゲームとしては大きなデメリットが生じていました。
皮肉にも、作品の売りとして打ち出したハリウッド映画仕込みの「こだわり」が、致命的な「操作のしづらさ」に直結してしまっていたのです。


とはいえ、特にラスボス戦はカメラの絶妙な距離感やダイナミックな視点など、その本格的な演出が良い感じにハマってい他ため、ラストファイトに相応しい派手な戦闘を堪能できる場面もあったのが救いです。
◆今なお多くのホラーゲームファンに愛される理由

『ブルースティンガー』は、最終的なセールスや、のちのゲーム史における一般的な評価において、完全に『バイオハザード』の牙城を崩すようなメインストリームにはなれませんでした。ひとつのウリであったハリウッド仕込みの視認性の最悪なカメラワーク、やや大雑把に見えるゲームバランスなど、当時の視点から見ても、洗練されきっていない「B級感」があったことは否定できません。
しかし本作が、発売から四半世紀以上が経過した今なお多くのファンに愛され続けている理由は、本作が「恐怖」を最高の「B級映画的エンターテインメント」へと昇華させ、主流のホラーゲームにはない魅力が多くあったからです。
当時のサバイバルホラーがプレイヤーを萎縮させる恐怖を追求するなか、当時のホラーゲームの定石を超えた唯一無二のゲームサイクルは、プレイヤーに「不気味だけど最高に居心地が良くて楽しい」というプレイ体験をもたらしました。


洗練されたAAAタイトルが溢れる現代だからこそ、「誰も見たことのないもの」を実らせようとした本作の荒削りな熱量は、今なおいっそう輝いて見えます。「ハリウッドの魂」が込められたドリームキャストの隠れた名作は、これからもファンを魅了し続けるでしょう。













