『スナフキン:ムーミン谷のメロディ』が原作ファンから見ても文句なしの出来だったので少し語らせてほしい【特集】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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『スナフキン:ムーミン谷のメロディ』が原作ファンから見ても文句なしの出来だったので少し語らせてほしい【特集】

もちろん原作を知らなくても楽しいゲームだけれど……どうせなら、原作小説にも興味を持って欲しい! 大人向け子供小説ともいえるような「ムーミン・シリーズ」の、本作に登場するエッセンスについて少しお話しさせてください。

連載・特集 特集
『スナフキン:ムーミン谷のメロディ』が原作ファンから見ても文句なしの出来だったので少し語らせてほしい【特集】
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スナフキン:ムーミン谷のメロディ』というゲームをご存じでしょうか。トーベ・ヤンソンによる「ムーミン・シリーズ」に登場するキャラクター・スナフキンを主人公とした、アドベンチャーゲームです。

これがまあ見事に原作小説のネタを盛り込んでいた良質短編アドベンチャーゲームだったので、ぜひとも少し語らせていただきたいと、今回の記事に至りました。よろしくお願いいたします。なお、本記事で使用するムーミン・シリーズの作品名は、講談社文庫に基づきます。

スナフキンというキャラクターは、自由と孤独、そして音楽を愛する旅人であり、原作ではムーミントロール(以下ムーミン)が冬眠する間は旅に出ています(一度だけ、一緒に冬眠したこともあります)。そしてムーミンが冬眠から目覚める頃を見計らってムーミン谷に戻ってきます。

本作も、旅に出ていたスナフキンがムーミン谷に帰ってくるところから始まります。

①突然出会う、不思議なちいさな生き物

本作は「ムーミン谷の夏まつり」をベースとしつつ、原作のいろんな場面の要素をふんだんに取り入れられて作られたゲームです。というのも、原作小説……スナフキンが出てくるお話、結構少ないのです……。それも関係しているのか、本作では「どうせなら、原作のスナフキン要素をふんだんに盛り込んじゃおう!」と言わんばかりに詰め込まれています。

本作でスナフキンがまず出会うのはムーミン……ではなく、「ちいさな生き物」。彼は後々スナフキンから「ティーティ=ウー」という名前が与えられます。

原作小説では、短編集「ムーミン谷の仲間たち」に収録されている「春のしらべ」に登場するエピソードです。この短編ではムーミン谷に帰る途中のスナフキンが主人公で、その道中でティーティ=ウーと出会います。ティーティ=ウーはスナフキンに憧れているのですが、神聖視しすぎているが故か、一人になりたいスナフキンの心境に気が付かず、遠慮なくついてきます。少し煩わしくも、しかしどこか憎めない……そんな存在です。

そんな彼との別れは、彼が「ティーティ=ウー」という名前を得ることによって訪れます。スナフキンに名付けてもらうことで、それにより彼自身にアイデンティティが生まれ、誰かに憧れることよりも自分がしたいことが見つかったのです。スナフキンの中にある孤独への喜びと、でもどこか漂っている刹那的な寂しさを感じさせながら、この短編は幕を閉じます。

実は、原作では名付ける前のティーティ=ウーに冷たくしてしまったことをスナフキンが後悔するシーンがあるのですが、本作ではそのくだり自体がありません。そもそも、あまり冷たく接している印象もありません(「ちょっと1人になりたいな……」くらいのぼやきをした印象はあるのですが、それも一瞬です)。
ゲームにおける名付けのシーンも、2人(1人と1匹?)で鳥の親子を助けた際に「ティーティ!」と鳴いた鳥からスナフキンが着想を得て、君に合う名前かもしれないね、と笑顔で「ティーティ=ウー」という名前を考えます。

ゲームの冒頭で、良い感じに交流して、さっぱりと良い感じに別れる。そしてエンドロールでもティーティ=ウーがほっこりするような良い感じに姿を見せます。
筆者は原作のあの少し切ない雰囲気も好きなのですが、本作はゲーム冒頭でのエピソードということもあり、別れに湿っぽさがありません。

そして、実は「春のしらべ」は、短編集「ムーミン谷の仲間たち」で、最初に収録されている短編なのです。そのエピソードを冒頭に持ってくるのは、まさに「原作を知らなくても楽しめるけれど、知っているとニヤリとする」場面だと感じました。

②嫌われ者の「モラン」が森を救うという、原作ではありえない展開

ムーミンシリーズでは明確なヴィランが少ないのだが、モランは数少ないその1人です。……いや、1人だった、というべきでしょうか。
モランというのは、冷た過ぎる心を持つが故に周囲を凍り付かせてしまう、嫌われ者のお化けのおばあさん。ですが、原作シリーズ後半ではムーミンとの交流によりその心が温まり、彼女の孤独が氷解し、周囲を凍り付かせるようなことはなくなります。モランのことを怖いと感じる一方でかわいそうだとも思っているムーミンが実際に行動に移して彼女を救う……ムーミンの少し不器用な優しさを感じさせる、素敵なエピソードです。

本作でも、スナフキンは当初ミィの言葉もあって「行方が分からないムーミンは、モランにさらわれた」と思っていたのですが、それは勘違い。本当はムーミンが自分の意思でモランに会いに行っていたのです。

そしてスナフキンの機転により、モランが火災に見舞われた森を救う救世主となり、彼女は嫌われ者でなくなります。動物たちから感謝の言葉を受けたモランに陽が差し、彼女を包む冷気はなくなります。

これだけでもじんわりと感動する場面ですが、ここで少し語らせてほしい……!

まず、モランとスナフキンは、核のところを見ると結構似ているキャラクターではないか、と筆者は思っています。共通するのは孤独だということ、そして主人公のムーミンとの交流を持っているということ。違うのは、モランは孤独を嫌い、スナフキンは孤独を愛している、ということです。

作者のトーベが住んでいたのはフィンランドなのですが、フィンランドでは同性愛が犯罪だった時代も精神疾患と見なされていた時代もあります。トーベはそんな時代に生きている中で、男性のパートナーも女性のパートナーもいたことがある……つまり、セクシャルマイノリティでした。
モランは「同性のパートナーのことを言えず、他者から認められず、孤独なまま年老いていくトーベ自身(あるいは同じような境遇の人々)」という見方もできるのではないでしょうか。

そう考えると、警官たちと対峙する場面も暗示的かも

モランは、原作小説において早くに登場します(初登場「たのしいムーミン一家」)。そして長いこと嫌われ者でしたが、原作小説シリーズの終盤でムーミンによって孤独が氷解されました。
本作ではそんな彼女の「孤独」がそのまま力となり、みんなを助け、そして彼女自身を救う。それはきっと、現代だからこそ描かれる場面でもあったと思います。ただ問題を解決するのではなく、孤独「だからこそ」解決できるのです。セクシャルマイノリティでも孤独でも(そして、孤独でなくなりたいと思っても思わなくても)、良いのです。そして、今のフィンランドでは、それは犯罪でも精神疾患でもないのです。今のゲームだからこそ、スナフキンの機転こそあれどもモランは孤独のまま、孤独を力に、彼女自身を救ったのです。

自分自身セクシャルマイノリティということもあり、ストーリーとしてだけではなく、二重の意味で心に沁みた場面でした。

③ニョロニョロだらけの不思議な島へ。密航してくる姉。

物語ではムーミンを救うためにニョロニョロの住む島に向かうことになります。そして、お宝目的のミィがスナフキンのリュックに紛れ込む形で密航してくるのです。

この組み合わせに興奮した人も多いことでしょう。なぜなら二人は親戚なのです。それだけでなく、異父姉弟じゃないかと推測することもできます。しかし原作小説でお互いがそのことを知ることはありません(ミィの方はもしかしたらミムラねえさんから聞かされているかも?)。
ちなみにミィは原作で後々ムーミン家の養子にもなっています。かと言って実のお姉さんであるミムラねえさんとの交流も途絶えていないよう。結構コミュニケーションがお上手なのかもしれません。

さて。島に蠢くニョロニョロは不思議な生物で、原作においても敵でも味方でもない、といったような存在です。ムーミンといったらニョロニョロ!という人も多いのではないでしょうか。身体に電気を帯びていますが、本作では触れても特にそういった描写はありません。

ムーミンを助けに来たスナフキンに対して、ミィはお宝が目的でムーミンは二の次……のように見えるものの、随所随所でムーミンを気にかけています。ゲーム終盤に「勝った方がムーミンの親友ね!」とスナフキンに勝負を持ちかける、微笑ましい場面もあるくらいです。

姉弟揃ってムーミンが大好き、なのに姉弟だと自分たちは知らない……。本作はスナフキンとムーミンの友情が主題にありつつも、スナフキンとミィの複雑な関係を見ながらによによしたい層にもおすすめな作品になっています。

④原作ではなかった出会い

ところで、前述したニョロニョロの島に向かう際、スナフキンはトゥーティッキにいかだ作りを手伝ってもらうのですが、原作ではこの2人は邂逅しません。
また、本作でトゥーティッキがいる場所から更に進んだところにいる、トゥーティッキとかかわりのあるキャラクター・ニンニも、原作ではスナフキンと面識がありません。
しかし、スナフキンもトゥーティッキもニンニも、人気のキャラクターです。「出会ったらどんな会話をするのだろう?」と考えたことがある人も多いはず。本作ではそんな妄想が形になっています。

トゥーティッキは、『ムーミントロール:冬のぬくもり』の原作でもある、「ムーミン谷の冬」で初登場します(筆者はまだプレイしておらず。この原稿が終わったらプレイしようかしら)。
冬眠からなぜか目が覚めたムーミン……しかし、パパもママも、恋人と言っていいスノークのおじょうさんも寝ていれば、親友のスナフキンも旅に出ていて不在です。
こうしてムーミンは冬の世界を冒険して冬を越すことになります。その冒険の中でメンター役となるのが、ムーミンパパの水浴び小屋に冬の間だけ(無断で)住んでいるトゥーティッキなのです。

冬という試練を乗り越えたムーミンは、冬眠から目覚めたスノークのおじょうさんと意見の相違が起きます。実際にこれが原因だったのかどうかは定かではありませんが、以降の原作小説においてスノークのおじょうさんは登場しません。見方によっては「ムーミンがトゥーティッキによって大人の階段を上ったために破局した」……とも見えるかもしれません。余談ですが、ゲーム終盤の招待状を渡す相手にスノークのおじょうさんがいないのも、もしかしたらこのあたりが関係しているのかも?

実は、スナフキンもトゥーティッキも、それぞれトーベのパートナーがモデルとなっているのです。二人の類似点、相違点なんかを考えながらプレイするのも面白いかもしれません。
ムーミンはトーベ自身を反映した分身とも言われています。そんなムーミンにとって、春の恋人がスナフキンで、冬の恋人がトゥーティッキなのかもしれません。だから原作では同時に出てこないのかも。

⑤牢屋に入れられてしまったムーミン! ……でも、原作通りなんです

本作では、ムーミンは公園番に捕まって、牢屋に入れられます。主人公なのに、妖精なのに、こんなにかわいいのに……と思うかもしれませんが、何とこれは原作「ムーミン谷の夏まつり」にもある展開なのですね。違うのは、原作では脱獄にあたってスナフキンの手助けはありません。

ゲームではスナフキンがムーミンを牢屋から助け出した後に、力を合わせてダムを破壊する最終局面に突入します。なかなか物騒な文字列ですが、何一つ嘘は書いていません。それでもって、「原作でこのエピソード、あったかもしれない……」と思うほどに違和感のない展開や言い回しで、本作の原作愛が伝わってきます。

そもそも「立札を嫌い引っこ抜く」という一見やばいスナフキンの過激な行動が原作通りなのです。スナフキンは「○○するべからず」といったような禁止の看板が大嫌いで、そういったものを目にすると驚くほど熱くなってしまいます。これも「ムーミン谷の夏まつり」で語られるエピソードです。

先ほどから原作と言っていますが、「ムーミン谷の夏まつり」と『スナフキン:ムーミン谷のメロディ』は、まるきり同じ物語というわけではありません。しかしかなりリスペクトしています。
「ムーミン谷の夏まつり」では、ムーミン谷に火山の噴火と洪水という、ダブル災害が襲い掛かるところから物語が始まります。対して本作『スナフキン:ムーミン谷のメロディ』では、公園番が作ったダムによりムーミン谷が干上がったところから始まり、ムーミンとスナフキンによって水を取り戻すことで終わる物語。対比構造になっているのですね。それでいて、劇場のシーンでクライマックスを迎えるという共通点もあります。

CMや吹替を担当した高橋一生さんの影響もあるからでしょうか。「飄々として落ち着いている旅人で、でも実は友達思い」みたいなイメージを持たれやすいスナフキンですが、実際は「自分の哲学に基づいて生きている割とやべー奴で、ムーミンのことは大好き」な感じなのです。モデルとなった人物(アトス・ヴィルタネン)だって、哲学者で、編集者で、平和や民主主義や反ファシズムを訴え続けた政治家です。

そのギャップに初めは戸惑うかもしれません。しかし、間違いなく言えることは、スナフキンは魅力的なキャラクターであり、本作ではそれが描かれています。ムーミン・シリーズも、可愛いだけではなくなかなかシビアな世界観でもあり、そしてそれに気が付いたころにはムーミンの世界に虜になっているのです。本作をプレイして原作小説が気になった人は、ぜひ読んで欲しいです。

本作において今回ご紹介しなかった原作要素はまだまだあるので、「あれもそうだったんだ」「これもそうだったんだ!」と、スナフキンたちとかくれんぼでもしているような心地で見つけてみてください。

欲を言えば、スナフキンの父親であるヨクサルも登場してほしかった気持ちはあります。スナフキンよりやべー奴なんだあいつ(スナフキンよりやべー奴!?)。同製作陣による「ムーミンパパの思い出」ゲーム化に期待!

ライター:羊めり,編集:みお

ライター/ゲームと読書と紅茶と強い女が好き 羊めり

ゲームをする羊、羊が苗字でめりが名前です。雑多にコンシューマーゲームやインディーズゲームを遊んでいますが、特にナラティブ重視なゲームが大好きです。人外娘もめちゃくちゃ好きです。探偵小説もはちゃめちゃ好きです。辛い食べ物は得意ではないです。

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編集/Game*Spark共同編集長 みお

ゲーム文化と70年代の日本語の音楽大好き。人生ベストは『街 ~運命の交差点~』。2025年ベストは『Earthion』。 2021年3月からフリーライターを始め、2025年4月にGame*Spark編集部入り。2026年1月に共同編集長になりました。

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