■写真撮影
筆者とHogei選手が上海に到着したのは7月14日です。試合開始は17日なのに、なぜ3日前に呼ばれる必要があったのか。これが今大会のユニークなポイントです。上海での最初のイベントは7月15日の「写真撮影」。宿泊ホテルから車で20分のスタジオにプロのスタイリストとカメラマンが揃い、選手1人ひとりに1時間半以上かけてメイクと撮影を行なうのです。選手8名分の撮影を1日で終えようとすると12時間かかってしまうため、4名ずつ15日と16日の2日に分けて行なう必要がありました。
撮影スタジオでのメイクはかなり本格的
ImbaTVが用意したプロのカメラマンが撮影を行う
■試合に臨む8名の女性選手たち
国際女子大会の出場選手全員に、メイクアップ中の時間を利用して話を聞きました。その一部を紹介します。
■Harusol選手
韓国のHarusol選手はアメリカ在住10年というだけに英語もとても流暢です。生産工学専攻を学んだアメリカの大学を1ヶ月前に卒業しました。『Hearthstone』では今年2月にアジアサーバー1位を達成しています。オンライン対戦で男性のように「Hi!」と勢いよく挨拶していたところ、オフライン大会でたまたまその対戦相手と会ったとき、「男じゃなかったのか!」と目を白黒されたとか。
■Montage選手
3名の中国選手の1人、Montage選手。活発な性格で頭の回転が速く、話し方にも勢いと力強さがあります。最高ランクは中国サーバー第7位。「アンドルーニー」という中国の『Hearthstone』人気配信者と交際しています。
アンドルーニーさん(左)とMontage選手(右)
中国で最も有名な女性選手の1人で、個人配信でも常に1万人以上の視聴者を獲得しています。選手としてはもちろん、試合解説やイベントのイメージキャラクターなど多方面で活躍しており、「『Hearthstone』普及につながるのであれば今回のような大会にも積極的に出場したい」と話してくれました。
■Lydia選手
一方、中国のLydia選手は控えめでおっとりした印象ですが、そんな外見とは裏腹に『Hearthstone』ではWarlock、Hunter、Warriorといった凶暴きわまりないクラスを得意とします。もちろん、実力も折り紙付きで最高ランクは中国サーバー2位。今年5月にはプロ・アマ256名が参加した中国内の大会でベスト8に残る活躍を見せました。
現在は会社に勤めて人事の仕事をこなし、配信や大会出場など『Hearthstone』の活動も続けています。しかし「仕事が厳しく、スキンケアや睡眠の時間が取れないので離職を考えています。もう少し余裕のある仕事がしたいですね。大学で英語を専攻したのに使う機会がないのも残念…」とちょっぴり不満も漏らしていました。「SLAM DUNK」など日本の漫画の大ファンなので、いつか日本に遊びに行きたいとか。
■TracyRNG選手
北京在住のTracyRNG選手は中国のアマチュアチーム「RNG」女性部門のキャプテンでもあります。これまでは鉄鋼関係の会社に勤めていたのですが、離職して今後は北京のe-Sports運営組織「ECL」で働く予定です。中国のe-Sports事情に詳しく「中国では上海がe-Sportsの中心地なの。北京でも大会はあるけど、市に制約が多いからやりにくいのよ」と教えてくれました。
TracyRNG選手(左)とLydia選手(右)
■Lucia選手
カナダのLucia選手は南京出身で男勝りの性格。実際に接してみても、やること成すこと全てが大胆でした。漢字を読むのは苦手なものの、両親が中国人なので中国語も話すことができます。
スタジオでWarCraftシリーズに登場する魔剣「Frostmourne」を構えるLucia選手
将来については「実況解説やイベント運営等、『Hearthstone』に関わる仕事がしたいですね。ImbaTVの人たちと知り合えたから、今後は中国語を生かす方向でも活動していければと思います」と語ってくれました。
■Chandyland選手
2名のアメリカ選手の1人、Chandyland選手はカーネギー・メロン大学卒業生。貫禄があります。実は大会2週間前に日本を旅行しており「長旅を終えてホッとした矢先に中国に行くことなるなんて」と笑いながら話してくれました。
プレイヤー活動については「ゲームで強いと男性と思われるみたいで、『Hearthstone』のオンライン対戦でも『Hey man!』などと言われるんですよね。だから『女性はゲームで弱い』という世間の見方を変えるためにも、いろんな大会に出場したいと思います」と答えてくれました。
■Aubrie選手
Chandyland選手(左)とAubrie選手(右)
Chandyland選手とシアトルで落ち合い、双子の妹のClareさんと共に上海にやってきたのがAubrie選手。今大会では最年少です。最高ランクはアメリカサーバー150位。大会後はその足で韓国と日本を旅行するそうです。
Aubrie選手(左)と双子の妹のClareさん(右)
■Hogei選手
日本人として今大会に出場したのがHogei選手です。「プレイすることよりもデッキを作るのが得意」と言いますが、以前はオフライン大会で国内トッププレイヤーを破って優勝したこともあります。大会にはほかにも何名かの応募がありましたが、中国側が実績を考慮した結果Hogei選手に決まりました。Hogei選手に大会前の意気込みを聞いたところ「勝敗に関係なく、面白いデッキをお見せしたいですね」と語ってくれました。
■「今大会の開催費用は約800万円」
百万氏
国際女子大会の企画を立て、リーダーとしてあらゆる手配を行っているのがImbaTVの百万氏です。自身も『Hearthstone』のトッププレイヤーで、中国と韓国の対抗戦等に出場したことがあります。個人的な今大会の最高同時視聴者数の目標は50万人とのこと。百万というのはプレイヤーネームだと思いますが、いかにも中国らしい縁起の良い名前ですね。
ユニフォームも普通の国際大会でよく見かけるような大会ロゴ入りものではなく白いドレスでした。「女子大会ということで他にはない特別な感覚を出したかったのです」と百万氏。
なおHarusol選手をはじめ「化粧が濃すぎる」とショックを受けていた選手もいますが「会場に観客が入らないので、放送に最適化するために厚化粧が望ましい」そうで、やはり生の姿と画面を通した映像では扱いが違うということでしょう。
大会の開催費用はおよそ40万人民元(約800万円)だそうです。大会の実行にあたって、「いけると思ったアイデアはどんどん試すようにしています。ImbaTVにとって『Hearthstone』の国際大会主催は今回が初めてだったので、やはり想定外の問題が次々と持ち上がって大変でした。しかし確実に将来の経験となるはずです」と自信たっぷりに話してくれました。
待ち時間に『Hearthstone』をプレイするHarusol選手(左)とLydia選手(右)
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