9月上旬に開催された米シアトルの大規模ゲームイベント「PAX West」ですが、今年も恒例イベントとして開発者のキーノートが開かれました。今回の主役は『アンチャーテッド』シリーズの総監督とシナリオ制作を担当したAmy Hennig氏。海外メディア「Penny Arcade」のJerry Holkins氏とカジュアルなトークセッションという形で、シナリオ制作への意識、プレイヤーとのコミュニケーション、移籍したVisceral Gamesで開発真っ最中の新作「スターウォーズ」ゲームなどについて語りました。
■シナリオ制作のコツは「流れのままに書く」
Henning氏はまず最初に、「シナリオを書くときの意識」について語りました。自分が内向的であるゆえ、人の観察と共感が得意であり、そこから自分の経験したことに基づいてシナリオを作るのだとか。そして彼女のスタイルは「考え続けて書く」というよりも、「流れのままにシナリオを書く」ようなもので、「(制作中に)足掻いている自分が、突然物語を書き始める瞬間があるのです。どこからそんな勢いが湧くのかは分からないんですよね。まさに“勝手に出ちゃう”感覚です」とも説明しました。
■「開発者」はプレイヤーの「協力者」
次の話題はHennig氏がゲームを通して作る「世界観」。「Penny Arcade」のHolkins氏は、Hennig氏の旧作『レガシー・オブ・ケイン』シリーズの世界が、「プレイヤーとのコミュニケーション」そのもののように感じたと語ります。その世界観は、まるで「プレイヤーはどこで何をしているのかが分かっている」かのように見えたのだとか。Hennig氏はプレイヤーを「開発者が作り出したレール」を無理やり進ませることを避け、「開発者」というよりも「協力者」として意識していると述べました。いわゆる小説作品のように「筆者から読者への一方的なもの」ではなく、ちょっとした解説付きのポエム的な作品のような意識を持っているようです。
「ゲームデザイナーとして最も大事なものの一つは、プレイヤーへの共感を意識すること」とHennig氏は語り続けます。「シナリオを描きながら、この状況でプレイヤーは何を考えて、何を望んで、何がしたいのかを考えるべきです」と述べながら、「プレイテストのときは、テストプレイヤーの反応や目を引くものに更に注目しているともコメント。声優たちも協力者となって参加し、テスターのゲームプレイがセリフの台本に加わることもあるのだそうです。このスタイルは『アンチャーテッド』の主人公ネイサン・ドレイクにも色濃く反映されていて、彼が「プレイヤーが言いそうな文句」や「頭で考えていること」を語りかけるのはこの取り組みが基になっているとのことです。
しかしながら、『マインクラフト』や『No Man's Sky』のように「プレイヤーが自分の物語を作るゲーム」が人気を集めているのもまた事実。Holkins氏はこれらの例を挙げながら「シナリオライターはいずれ廃れてしまうのでしょうか」と問いました。そんな質問を受けたHennig氏は「シナリオ作者の“死”」について、「断じてそんなことはない」と自信を持って返答。「イベントの連鎖」のみでは物語は成り立たず、“だが”や“しかし”を含むシナリオもまた必要であり、それがなければ「まるで友達の夢の話を聞いているようなもの」であると考えているのだとか。加えて、「“ストーリーや作者の意志はいらない”、そのような考え方は少し危険でさえある」とも主張しました。
■「スターウォーズ」らしいストーリーとは
Amy Hennig氏はNaughty Dogを脱退後、Visceral Gamesで「スターウォーズ」関連タイトルのクリエイティブディレクターに選ばれました。その活動内容は決して明らかなものではないものの、Hennig氏は正真正銘の「スターウォーズ」的ストーリーを作ろうと意気込んでいます。作品に現れる「スターウォーズ」らしさとは、映画に出てくるロボットなどを出演させることにあるわけではなく、「見たこともない場所」や「未知のテクノロジー」を披露することにあると考えているそうです。そのために、彼女はLucasfilm本部の人間と共に制作を行ってるようです。
映画本編や多くの「スターウォーズ」関連ゲームのほとんどは、主人公視点で語られています。敵の本拠地で何が起こっているのか、そのような情景をどうゲームで表わしたらいいのか、それも重要な課題であるとHennig氏は語りました。続けて、「主人公の仲間は、いわゆるサイドキックよりも強大な存在でなくてはいけません。しかしハン・ソロやレイア姫ほどの存在は、どんな形でゲームに登場したほうがいいでしょうか?」と語りながら、「プレイヤーキャラクターは複数じゃないといけないか」「銀河帝国と反乱同盟軍の戦力の差をどう描写すればいいか」ということを考えなければ、「スターウォーズ」としては成り立たないと説明しました。
■Q&Aセッション
終盤のQ&Aでは「一番楽しくなかったプロジェクトはどんなものでしたか?」という質問が飛び出ましたが、Hennig氏は「楽しくなかったものは無い」と答えました。彼女に言わせてみれば、厳しい条件の中でも障害を乗り越えることで、いろいろなものが引き出されるからなのだとか。過去には「マイケル・ジョーダンが主人公のバスケットゲーム」というタイトルも任された経験があり、そのコンセプトは滅茶苦茶なものだったにもかかわらず、彼女にとって良い勉強になったと語っていました。
そして質問の中には、『アンチャーテッド』の演出を思わせる「ゲームメカニック」に関連するものも。「ドラマティックな展開が広がるシーンがプレイアブルだった場合、プレイヤーの操作がついていけずキャラクターが死んでしまったら、台無しになってしまうのではないか」という質問に、Hennig氏は「プレイテストを重ねた上で、難易度を可能な限り下げたほうが良い」と返答。シナリオ全体のムードは「危機一髪」という風に仕立てあげ、ゲームプレイそのものはライトに近付けるという手法を意識しているとのことですが、近頃はそのような演出が多用され過ぎているとも語りました。
最後の質問の焦点は、Naughty Dogの『ジャック×ダクスター』シリーズ。Hennig氏は、シリーズ3作目のみにしか関わっていなかったとのことですが、「主人公が無口であること」について語りました。シリーズ作品で主人公が無口だった理由について、Hennig氏は「彼をプレイヤーの器にするため」だったのではと考え、ダクスターはそのコメンタリー役であると見ています。とは言え、登場キャラクターが「黙りっぱなしの主人公」に向かって話しているというのはどう見ても不自然で、演出が難しいと感じているそうです。しかしながら最近の主人公キャラクターの多くは自発的に会話に参加しつつ「プレイヤーとのコネクション」を生み出しているので、いわゆる「無口キャラ」は珍しくなってきていると語りました。
このQ&Aセッションが終わり、Amy Hennig氏によるキーノートは閉幕。『アンチャーテッド』シリーズを手がけ、「スターウォーズ」をテーマにした次回作に取り組んでいる彼女の活動は今後も注目すべきものになることでしょう。開発者の熱き激論が交わされるであろう次回のキーノートにも期待したいところです。
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