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人種差別に鋭く切り込む社会派スリラーの傑作「ゲット・アウト」【コントローラーを置く時間】

Game*Sparkスタッフが、ゲーマーにぜひオススメしたい映画/ドラマ/アニメ作品を1本紹介していきます。今回は「ゲット・アウト」です。

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(c) Universal Pictures
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ハードコアゲーマーのためのゲームメディアGame*Sparkでは、日々、様々なゲーム情報をご紹介しています。しかし、少し目線をずらしてみると、世の中にはゲーム以外にもご紹介したい作品が多数存在します。そこで本連載では、Game*Sparkスタッフが、ゲーマーにぜひオススメしたい映画/ドラマ/アニメ作品を1本紹介していきます。

今回ご紹介するのは、新鋭ジョーダン・ピールの初監督作品「ゲット・アウト(原題:Get Out)」(2017)です。

これは本当にフィクションなのか


(c) Universal Pictures
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アフリカ系アメリカ人のクリス(ダニエル・カルーヤ)は、恋人であるローズ(アリソン・ウィリアムズ)の実家に挨拶へ行くことに。ローズは白人で、クリスは黒人。肌の色が違うことに懸念を抱くクリスでしたが、ローズの両親はクリスのことをひと目見て気に入った様子。ローズ家の人々は温かく歓迎してくれたのです。クリスに対して、最初は優しく接していたローズファミリーでしたが、次第にクリスの身に不可解な体験が襲いかかり……。

レイシズムを主体に置き、さまざまな社会問題を提起している本作は、新鋭ジョーダン・ピールによる社会派スリラーの傑作です。アメリカ文化の負の遺産といえる人種にまつわる多くの問題は、いまや国際的にも見逃すことのできない大きな課題として浮上しています。この映画では、人種問題というグローバルな命題に、鋭く切り込みを入れているのです。

白人のガールフレンドを持つアフリカ系アメリカ人の青年クリスを軸に、人種差別の恐怖をまざまざと描いている本作。一見すると、珍奇なホラー映画のように見えますが、映画はまったく違う意味でのホラーを描出しています。

クリスの訪問を歓迎し、喜んで迎え入れてくれたローズ家の人々ですが、自分と同じ黒人の使用人たちに妙な不安を覚えるクリス。そして、ローズの実家で起きる不可解な現象……。なにか異変に気づいたクリスでしたが、すでに魔の手はすぐそばまで近づいていたのです。ローズ家の人々の裏の顔が次第に表面化していくさまは、我々の深層心理に潜在している隠れた差別意識を表しているように思えます。

では、この映画で描かれる事件は、本当にフィクションなのでしょうか。本作で描かれるのは、白人による、黒人に対する冷遇などですが、映画におけるこうした部分はあながち間違えではないでしょう。劇映画として誇張している部分はあるにせよ、多くの人々に差別という概念が無意識的に潜在していることを、この映画はあぶり出しています。したがって、この映画のすべてがフィクションであるとは絶対に言い切ることはできないでしょう。

ブラックムービーの火付け役


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黒人社会の文化・伝統を描く、アメリカ映画のジャンルのひとつに“ブラックムービー”というものがあります。宇宙開発に貢献した黒人女性スタッフを描く「ドリーム」(2016)だったり、黒人社会での同性愛を捉えた「ムーンライト」(2016)など、黒人コミュニティにおける少数派を捉えた作品は軒並みヒットを叩き出し、いままさに隆盛を極めているのです。

コメディアン出身の新鋭監督、ジョーダン・ピール。彼の初監督作「ゲット・アウト」も、こうしたブラックムービーの歴史に革新を与えた作品です。

今日の映画業界では、人種、障害、LGBTなどといった多岐のマイノリティに対して、極めてセンシティヴな映像づくりが要求されています。中でも人種問題は、アメリカに古くから根差した大きな課題であり、多くの映画でテーマとされてきました。

さらに過去のアカデミー賞では、ノミネートされた俳優たちが白人一色であったために「白すぎるオスカー」などと揶揄されたことも。こうした騒動から、ハリウッドではダイバーシティ(多様性)に基づいた作品が数多く制作されるようになったのです。

しかしビデオゲームの業界に少し目を向けると、まだまだ広く認知されていないのが事実かもしれません。『ウォッチドッグス2』『アサシン クリード オリジンズ』など、黒人主役のビデオゲームは徐々に増えてきているものの、まだまだ映画業界には遅れを取っているのが実情でしょう。

さて、一連のブラックムービーの火付け役ともいうべき「ゲット・アウト」は、センセーショナルな問題を提起し、同時にスリラー映画としての定石を踏むハイブリッドな作品として評価されています。

そしてなによりも特筆すべき点は、社会風刺を盛り込みながらも、決して娯楽性に欠くことのないユーモアに溢れる作風です。監督ジョーダン・ピールがコメディアン出身というだけあって、映画には社会性のあるメッセージと純粋なコメディがうまく溶け込んでいます。

初監督にしてオスカー受賞という快挙を成し遂げた作品「ゲット・アウト」。そして、初監督でありながら、早くも奇才ぶりを発揮した新鋭ジョーダン・ピール。彼の名前は覚えておいて損はないでしょう。



映画「ゲット・アウト」は、Amazonプライムにて視聴可能。低予算スリラーの新たな傑作をぜひご覧あれ。
《Hayato Otsuki》
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