『エースコンバット7』VRモード発売後インタビュー!何故メビウス1は再び最前線へ復帰したのか? 4ページ目 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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『エースコンバット7』VRモード発売後インタビュー!何故メビウス1は再び最前線へ復帰したのか?

『エースコンバット7 スカイズ・アンノウン(ACE COMBAT 7: SKIES UNKNOWN)』のVRモードディレクター夛湖久治氏とリードVRエンジニアの山本治由氏、そしてVRモードプロデューサーの玉置絢氏にインタビューしました。

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■玉置氏が語るVR開発の重要点―開発レビューで出てくる小さな事柄を見逃さない


――VR酔い対策にはそういった施策をしていたのですね。確かにVRモードのフリーフライトで目的なく散漫に飛んでいると、視点が定まらなくてVR疲労というか、VR目眩に陥りやすかったですね

夛湖氏 VRのプレイイメージとしては「あのマップの中を俺は観光する!あの島のあのクレーターを観に行く!」みたいな意識を持たないと、漫然とした飛行は酔いやすくなってしまいます。「海が綺麗だなあ」でもいいんですよ、全体を見るよりは意識を集めやすい1点を見るみたいな遊び方をしないと酔いやすくなりやすいです。

――ありがとうございます、そんな対策があったのですね!活用してみます

夛湖氏 これは玉置さんと山本さんに「視線誘導」って?と聞くまでは、「あれ、経験的にやってきたんだけれど、言葉にしていなかった…」と気付きました(笑)

玉置氏 夛湖さんとは部署が違ったんですが、入社した時から恩師みたいなものだったので、「VRをやっているのですが、夛湖さんがP.O.D.筐体をやっていた時には何に気を付けたのですか?」と聞きに行きました。これは『サマーレッスン』やったりとか、VRゾーンの『アーガイルシフト』の前の話だったのですが、当時Oculus Rift DK1しかない時代で知見が存在しなかったのですよ( Oculus Rift DK1が発送され始めたのは2013年3月から DK2が登場するは2014年3月から)。

その時にP.O.D.筐体の知見がある夛湖さんに1時間ぐらい取って貰って、「最初はこうだったんだけど~」みたいなお話をしてもらいました。その時にベクション効果のお話をしてくれて、とにかく「そこなんだ!」と思いました。

実は『サマーレッスン』を開発していた時代に、『鉄拳』シリーズのチーフプロデューサー原田勝弘と私がよくインタビューで「『エースコンバット』みたいなゲームの酔いの難しさ」という話しをよくしていたと思います。私が話していた内容は夛湖さん経由のもので「ベクションに気を付けようね」と聞いていたので、そういうお話をしていたんです。当時は「『サマーレッスン』で良かったね」と思っていました。


それでいよいよ「『エースコンバット7』VRモードをやる」となったときは、『サマーレッスン』で培ったノウハウと合体させれば出来るかなと思いました。先の「興奮すると酔いにくい」というのも私の解釈では「身構え」の一種なんですよ。

こういう情報がインプットされているから、そういう動きが来るのだろう」と情報がインプットされて、それが自分にとって快感ならあるべき心構えが整って、それと同時に体の構えも整うので酔わない。予測が出来るから不意な事が起きづらいのですよね。色々な立場から皆いろいろな解釈していると思います。山本さんも酔いに対する努力をあったと思うのですが、覚えていることはあります?

山本氏 興奮というのは非常に重要なポイントだったと思いますね。最初のデモシーンで、既にコックピットとかレーダーなどのUIは出ていたのですけれど、UIの表示の仕方が、VR空間に浮いたパネル風でした。解像度も当初は低くて…、文字が読みづらいのも気になってしまって、体験に集中/没入しきれないところがありました。その辺りを地道な作業ですが、一個一個綺麗にしていって…。影がチラつくのが気になるから直そう、という感じでパラメーターを何度も調整したりしました。

2017年1月の台湾TpGSで公開されたブランドディレクター河野一聡氏による初期のVRモード紹介映像

夛湖氏 山本さんからレビューや感想を聞いていて、いつも印象的だったのは「醒める」と言っていたことでした。「ここがこういう風な表示なのは、僕凄く醒めるのですけれど…。現実に引き戻された感じがしますね」と言われまして、これはVRとしては大変問題だと理解していました。

山本氏 ふと我に返ってしまうんですよね。なんか「すごいぞー!」ってなっている時に、パッと出てきたもので「えっ、これ何だ?」ってなったときに、一瞬現実の世界に戻ってしまうんですよ。あと、エンジニア的にも「この実装なんだろう?」みたいなのが気になったりしてしまうと、やはり我に返ってしまいます。最初にポン!と出てきた時に受け入れられるものであったり、「これは凄いな!」と思えるような、そういった要素のみを重視しました。

夛湖氏 特にMFD(マルチファンクションディスプレイ)のリアリティは、山本さんがクオリティを凄い上げましたよね。


山本氏 最初浮いていたUIが、ちゃんとコクピットのMFDの中に入り、そしてコックピットのフレームの影がMFDに落ちた瞬間とか、「シックリハマったな!」と感じが凄くしましたね。

玉置氏 ちょっと話しが変わりますが、いいでしょうか。今のところ世の中的には「ゲーム」と「VRのゲーム」は別の存在になっています。ゲーム業界におけるVRは、今はまだゲームの上にある「VR」というフィーチャーだと思うんですけれど、そういう立ち位置からVRをアピールして作るのが基本的なVRゲームづくりのお仕事になっている訳なんですよね。だから現状のところは、「ゲームとしては重要の要素かもしれないけど、VRにあんまり関係ないからこれは今回抜こう」みたいなことを考えないと現実的には成立しないじゃないですか。

例えば、今回のもので言えば「凄く重厚なムービーパートが沢山あるストーリー」は本編のキャンペーンであるわけだから「VRは体験に絞ろう、何故ならVRにしか出来ないから」という発想がありますよね。つまり綺麗な形に削って整えるってことなんですけれど。
じゃあ、それを裏返すと「えっ?別にその表示が雑だったり、チラチラしていたりはVRの体験には関係ないからそれでいいんじゃない?」とか、「そこを頑張らなくてVRらしい他のところで頑張れば良いんじゃない?」ということも言えるわけですよね? 今の論理だけだったら。

だけど山本さんが違う発想を持っていたのは、VR自体に対しての価値観として「細かな違和感や小さな酔い・軽微なショックといった意識にも登らない小さな体験が、大きくVRとしての評価全体に悪影響を及ぼす」という注目の仕方をしていたことです。それに対して山本さんは厳しく言うし、かつ厳しく言っても直らなかったら自分で直しちゃうし。それに救われているというのは凄く大きいというところですね。


夛湖氏 「(VR映像の)ここらへんががチラチラしていてなんか醒めるんですけれど」と言って「……うん。なるほど!」みたいな(笑)

玉置氏 「確かに……」みたいな(笑)そのため、ただの企画屋的な発想だったら「でもそれよりももっと大きな目線で衝撃のVR体験があるっていう事のためにモードを作っている訳だし、キャンペーンの見た目が綺麗だからVRはそれほど細かく突き詰めなくてもいいんじゃない?」ということも出来るんですよ。でも、そういった妥協も出来るけれど、しなかった。それが正しかった。そこをやっちゃいけないところがあるんですよね、VRには。それが今回わかったことでしたね。『サマーレッスン』もそうでしたが、『エースコンバット7』はよりそうでした。

山本氏 最初の体験や体感が重要でしたね。やっぱり何回もやってしまうと、VRに慣れてしまって、「もう、こういう絵でいいかな」っていう風になっていってしまうので、初見のときに「アレ?」って思ったり、何故か違和感があったり、あるいは「もっと良い方法があるんじゃないかな」という所は、もっと突き詰めて最初の方にやった方がいいかなと思いました。

夛湖氏 それで言うと、山本さんの方でレビュー型の開発をやりましたもんね。結局最初に見た瞬間の違和感を拾わないといけないとのことで。見慣れちゃうとその後どうでも良くなってしまうから、とにかく全員集めてレビュー。「気になったところを言ってー!」と

玉置氏 ゲームの開発を効率的に進めようと思ったら、言い方が良くないですけれど「独裁型開発」というのがあります。ディレクターやプロデューサーが言った意見が全てで、それ以外の意見があるかも知れないけれど拾わずに、そういった立場の人間の意見をお客様のロールモデルだと考えて開発するという考えがあります。

しかし、VRで独裁型開発は特にやってしまうとダメな方法で、なぜなら出来上がったVR体験に慣れてしまうからです。デザイナーで普段アイコンを作っている人や、普段木を生やしていかに軽くなるかを研究している人がふとVRを遊んでみたときに言った意見こそが重要です。何故なら、そこまで頻繁にVRをプレイしていないから初見の意見に近くて、「VR人間」みたいになっていない、普通のお客様の意見を反映しているからです。チーム全体でのレビューを大事にするということですね。レビュー体制を作るまで毎回大変でしたけど、そんな発想でやれたチームはあんまりいないのでそこが良かったですね。

夛湖氏 でもVRはコンパクトなチームだったから、そういうのには向いていましたね

山本氏 『サマーレッスン』の時はレビューにかけた時間が長過ぎでしたしね。あれの反省を活かして、今回は効率的なレビューを心がけました(笑)

夛湖氏 結構今回のVRモードでは、チーム内レビューも肩の力を抜いて、チームメンバーの意見からも良い意見を掴めたと感じられることが多かったです。

玉置氏 それこそVRミッション1で空母のエレベーターから左折するところとか、陸上機の滑走路でのタキシングで右折する際のカーブの仕方とかを、やたらめったら文句を言っては直してみたいなのをしていた気がします。カーブがちょっと違うだけで酔う・酔わないが変わるからです。予告なく急にカクッっと曲がるのはダメなので、如何に「来る!来る!」と分かって曲がるのかをとても追求していた気がします。


山本氏 あと不意に振動するやつ。確かに地面の構造上、ここを乗り越えると揺れそうというのはわかるのですけれど…。実際にPS VRをかぶってコックピットに乗った状態で揺らされると…酔いやすいですね。

――VR開発には多種多様な「慣れていない普通の人」のレビューが重要なのですね。先ほどOculus Rift DK1のお話が出ていたと思いますが、過去の『エースコンバット』で使っていたエンジンのお名前はなんというものなのでしょうか?またUnreal Engine 4を使う前に、それら従来のエンジンでVRモードを実装してみようと試してみたことはありましたか?

玉置氏 「エース」エンジンですね。普通に『エースコンバット』のエンジンという名前しかありません。本当にずっと「秘伝のタレ」的に作られてきた、恐らく各世代ごとに大きく作リ直しているとは思うのですけれど、コアの挙動システムは『エースコンバット2』から変わらないようになっています。今回は、その内部まで踏み込んでUnreal Engine 4にしています。それも大きな作業でした。

当時のVRは、夛湖さんがおっしゃっていたように今のVRのようなトラッキング機能の無い機器で行うという感じでしたね。現世代のVRでやったものは、POD筐体の『マッハストーム』をDK1に移植するというのを、『エースコンバット』チームとは全く無関係に山本さんがやっていました。一時期なんでもかんでも許されているものだけ「POD筐体で稼働したものはVRに移植してみるか!」と、「『マッハストーム』とかVRで見たいよね」とか言いながらやってみた形ですね。

――となると、UE4になって本格的にVR開発がスタートしたという感じなんですか?

玉置氏 そうですね。

――確かにUE4には標準でVR機能が搭載されていますしね

玉置氏 そうですし、『サマーレッスン』と同じ環境だったから、突っ込みやすかったというのもありますしね。

――意外と『サマーレッスン』からアセットやノウハウは引き継ぐことが出来たものもあったのですか?

玉置氏 アセットは無いですが知見はとにかくありますね。本当に細かな知見の積み重ねで。そもそも『サマーレッスン』の知見は夛湖さんなどの業務用の映像で人に体験させるということをやってきた人々の思想だったり、ノウハウに基づいて出来ていたので、その『サマーレッスン』のノウハウが『エースコンバット』に活きています。


それこそVRモードには我々3人だけでなくサウンドの担当者やインターフェイスのデザイナーなど『サマーレッスン』の関係者が多くいました。例えばハンガーの選択画面。VRモードのハンガーのインターフェイスは2重になっています。これはただのホログラム映像ではなく、ホログラムにもう一つ奥行きの違う像を重ねていて、より立体感を増させています。この表現は元々『サマーレッスン』でインターフェイスの研究を半年ぐらいやってきたUIデザイナーさんの知見が発現しているんですよ。

色々な質感のメニュー画面を「机の上でどの科目を選ぶか?」みたいな画面をどうすべきかというところで多く作りました。それらは「VR上におけるメニュー画面のボタンの形」というのを誰もわかってなかった時代に研究してた人たちがそのままやっています。そのデザイナーさんに来てもらってとても安心しました。

今回は「運が良かった」……と表現するにはアサインに努力いただいた皆さんに失礼ではあるので言い方が難しいですが、我々からすると凄く幸せな環境をセッティングしていただくのに、色々な人にご助力いただいたし、我々自身も尽力したので、良かったなと思っています。夛湖さんが見たときに自分の知見を照らし合わせて「これならいけそう!」と思ったということと同じようなことを私も思ったのは、メンバーの豊富さに対してですね。ノウハウを持っている人材がそろったという意味で、「いけそう!」と思いました。

――お話を聞いているとアーケードチームとVRチームなどそれらが一体となって『エースコンバット7』VRモードの開発に挑んだ形なんですね

夛湖氏 この出会いは、ほとんど偶然に近いですね(笑)

玉置氏 本当に偶然。

夛湖氏 例えば、中・大型アーケードで、そしてVR経験者と言われて、うち(バンダイナムコスタジオ)で残っているクリエイターはいないんじゃないかな?

玉置氏 いないですね。小山さん(AM事業部エグゼクティブプロデューサー小山順一朗氏)だったりはあるかも知れないけれど、中・大型機で開発の人って言ったらあんまり聞かない……。

夛湖氏 残っていた何人かの方々はAM(アーケードゲーム)の方に行きました。結局バンダイナムコスタジオの中で残っているのは、私と『エースコンバット7』開発プロデューサーの大村純さんぐらいかと思われます。、ただ大村さんは上長でもっぱら管理が主業務です。制作畑はもう私ぐらいしか残っていなかったと思いますが、今回ちょうどいいタイミングで「(VRモードを)まとめてくれませんか?」とお声掛けいただきました。そこで初めて作りかけの素材(PSX当時のVRモード)や、開発メンバーのみんなとも会わせていただいた結果、作れたので、過去からの知見、開発実績、開発メンバーとの御縁、といった全てが上手く繋がったのかなと思います。

玉置氏 そういう事があってお客様にお褒めいただけるものが出来ると、関わってくださった方に感謝したくなりますね。普通にベタな話ですが、バンナムでは「○○な価値観を大事にしましょう」というモットーみたいなものがあるのですが、「最後は感謝です」とあります。皆よく言うじゃないですか、「スタッフに感謝します」や「お客様に感謝します」というのはインタビューとかでよくありますが、その人たちが揃わなかったら出来なかったという実感があるので、今回は本当にそう思います。

次ページ: 再び発生したメビウス1と自由エルジアとの戦いの結末は描かれるのか?
《G.Suzuki》

ミリタリーゲームファンです G.Suzuki

ミリタリー系ゲームが好きなフリーランスのライター。『エースコンバット』を中心にFPS/シムなどミリタリーを主軸に据えた作品が好みだが、『R-TYPE』シリーズや『トリガーハート エグゼリカ』などのSTGも好き。近年ではこれまで遊べてなかった話題作(クラシックタイトルを含む)に取り組んでいる。ゲーム以外では模型作り(ガンプラやスケモ等を問わない)を趣味の一つとしている。

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