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Game*Sparkレビュー:『Tell Me Why』

DONTNOD Entertainmentの新作アドベンチャー『Tell Me Why』のレビューをお届けします。

連載・特集 Game*Sparkレビュー
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本記事には『Tell Me Why』のネタバレが含まれます。
クリア後の閲覧を推奨します。


Tell Me Why』は非常に静かなアドベンチャーゲームです。本作は「ゲームとしてプレイフィールが斬新である」という類の作品ではなく、その魅力のほとんどを脚本やキャラクター、ちょっとした会話や演出などの要素が担っています。

そういったゲームであるという性質上、本レビューは主にストーリーについて語らざるを得ず、結果としてかなり重度のネタバレ的な内容が含まれます。ストアページの説明文に「私的ミステリー」とあるように、本作にはミステリー的な要素も多分に含まれていますから、プレイ前にネタバレを目にしてしまうとかなり魅力が減衰してしまうことでしょう。

ですから、ここからのレビューを読まれる方はその点ご留意いただき、できればプレイ後に読むようにしてくださればと思います。ネタバレ無しの大まかな内容は、以前Game*Sparkに掲載されたプレイレポートの内容を参照してもらうと良いでしょう。多少重複する内容もあるかと思いますが、その辺りもご容赦願いたいです。

チャプター2-3トレイラー

題材、舞台設定について



本作は既存のビデオゲームではあまり取り扱われてこなかったような、繊細なテーマを中心に据えています。物語の開始時点ではすでに過去になっている「母親の死」と、チャプター2の終盤に起こる「放火」を除いて事件らしい事件も起こりません。二人の持つテレパシー能力という超現実的な要素すら非常にささやかで、「過去の記憶をこれからどう思い出すか」というぐらいの変化しかもたらしません。

本作においてもっとも重点を置いて描かれるのは、キャラクターの内面的な感情の変化です。感情の変化による受容と拒絶が本作におけるもっとも大きなテーマでしょう。


主人公であるきょうだいの「弟」(どちらが先に生まれたのかも判然としないことが作中で明らかになるため「弟」と言い切れないのですが、便宜的にこう表記します)タイラーは物語の開始時点でもっとも分かりやすく「変化」している人物です。

彼はトランスジェンダーであり、幼少期から大きく外見が変わっています。彼が10年ぶりに故郷のデロス・クロッシングを訪れるところから物語が開始するわけですが、彼の変化に街の人間は少なからず動揺することになります。静かな田舎町に暮らす住民たちは、ある種保守的で、変化を嫌って生きているという側面があるからです。

トランスジェンダーかつ少年犯罪の被疑者であるタイラーは社会的にはマイノリティですが、こと「変化」するという点においては、街の住民や姉であるアリソンよりも積極的になれる「強い」立場でもあるのです。タイラーとアリソンは「母親はなぜ自分を殺そうとしたのか」或いは「母親は本当に自分を殺そうとしたのだろうか」という疑念を晴らそうと、街の人々の話を聞いていきます。しかし彼らはそれを良く思いません。10年も前に犯し、ようやく忘れかけていた自分たちの「後ろめたさ」に再度直面することを恐れているわけです。


「真実が眠って、凍りついている」というイメージが「雪の街」という舞台設定で表現されるのはベタではありますが、本作では非常に効果的だったように思います。なによりデロス・クロッシングという舞台は非常に美しく、どことなく神秘的な雰囲気があって、ミステリーの舞台にはぴったりです。本作では物語の静かなトーンとテーマ性、舞台設定が見事に噛み合っており、「極めてよく纏まっている作品」であるという印象を受けました。プレイ時間も9時間ほどなので、余分だったり散漫なシーンがほとんどなかったのも好印象です。

ストーリーや会話シーンについて



チャプター1の最後、実は母を刺したのはアリソンであり、タイラーは身代わりになって施設に送られたことが明らかになります。よって事件の真相に近づくことは、アリソンにとっても相当な痛みが伴う結果を招きます。もし「実は母親はタイラーを憎んでなどいなかった」という真相だったならばタイラーにとっては救いになるわけですが、アリソンにとっては「無実の母親を刺殺した」ことになってしまうからです。

物語の開始時点では家を売って「新しい生活を始める」という点で思惑が一致しており、テレパシー能力もあってぎこちなくも仲の良い(ように見える)タイラーとアリソン。しかし、徐々に個別の事象に対するスタンスが異なる部分が明らかになっていき、真相を究明するか否かで(ささやかですが)対立する物語は、非常にスリリングで見応えがありました。


DONTNODの過去作である『ライフ イズ ストレンジ』シリーズと同じように、本作の最後にも極めて重大な「選択」を迫られるシーンがあります。しかしその決断は、過去作と違ってあくまで内面的なものです。それまでのミステリー的なミスリードもあって「実は母親はいい人で、母親を殺した第三者がいて、二人が幸せになるみたいなエンドなのかな」とうっすら思っていた筆者は(おそらく意図的にそう思わせるような作りでしょう)、最後にこの「選択」がやってきたところで感嘆してしまいました。非常にリアルな葛藤を描いていると思います。

ただ(前作である『ライフ イズ ストレンジ 2』をプレイしているときにも思ったのですが)最後の選択にはなんとなく「正解」があるように感じられるので、「正解の選択肢が無い」ように感じられた初代『ライフ イズ ストレンジ』と比べて、こちらが好みでないように感じるプレイヤーは少なからずいるのではないでしょうか。


チャプター2の最後からチャプター3を通して描かれる「二人の父親は誰か」というサスペンスは、プレイを終わってから考えるとちょっと不要だったのかもな、とも思えます。二人の父親が誰であったところで物語の結末は大して変わりようがないからです。

とはいえ、チャプター3はそのサスペンスがないと(母親がタイラーを憎んでいたわけではないということはそれまでの展開でなんとなくわかっていますから)、大部分で物語の推進力を失ってしまうので仕方がないでしょう。筆者はプレイしながら頭の中で誰が父親なのか推理していましたが、見事に裏切られました(筆者はアレクサンダーが父親なのでは?と思っていました。実際そうしたミスリードのためのキャラクターだと思います)。


本作で最も印象に残っているのはミステリー的な筋立てよりも、むしろ小さな感情の動きが極めてリアルに感じられる会話シーンです。墓場での未亡人ケンドラとの対話や、マイケルとの釣りのシーンが強く心に残っています。

本作は、大まかには「今は亡き母親の内面を知る」というミステリーを推進力に話が進んで行きます。が、(最初にも書いたように)本質的には「謎の答えがなにか」というよりも、その答えを受け入れるかどうかという「受容と拒絶」にまつわる物語です。なので他者を受容するのか拒絶するのかという結論が明確に出る会話シーンは「脇道」ではなく、非常に重要なものなのです。

会話によって全てのキャラクターに様々な事情や多面性があることが明らかになっていき、一面的な悪人がほぼ登場しないところも良かったです。本作は複雑な題材を取り扱ったゲームですが、題材を安易に単純化せず、複雑なまま物語に落とし込んでいる点が非常に優れていると思います。

少々の不満点



本作には絵本にまつわるちょっとした謎解き要素が登場します。絵本は母親であるメリーアンの人生を戯画化したもので、終盤に読むと意味がわかりますが、序盤のうちは文章量があまりに多く混乱させられるために、謎解きが億劫になる瞬間も数多くありました。テキストを読めば絵本のどの部分に謎解きの答えが載っているのかは大抵示されていますし、「謎を解かない」という選択肢が用意されている場合も多いので気にしなければフェアだとは思いますが、それでも尚この「絵本」を使った謎解きは好みの別れる点かと思います。メリーアンの残した仕掛けはかなり大袈裟なもので、ゲーム全体のトーンからするとちょっと非現実的にも感じられました。


吹き替えもあって素晴らしかった『ライフ イズ ストレンジ』シリーズと違って、本作は字幕オンリーでのローカライズで、しかも少々ぎこちなく感じられたという点も不満点です。筆者の主観では本作のローカライズ品質は決して高くなく、意味が取りづらい場面もありましたが顕著に低すぎるということもない、平均的なレベルかと思います。

余談ですが、プレビュー記事についているコメントを読んで、本作の字幕品質に不満を持っているプレイヤーが思っている以上に多いのだな、と感じました。本作は難しい内容を取り扱ったゲームなので、高品質なローカライズの需要が他のゲームに比べて高い、ということなのでしょう。

出てくる用語も専門的なものが多く、ときには調べながらプレイすることも必要あります。たとえば筆者は「転向療法」というものの存在とそれに纏わる問題点について、調べて初めて知りました。皆さんも時間があったら調べてみてください。テッサとの軋轢が理解しやすくなるかと思います。

総評



少々の不満点はありますが、本作はDONTNODの過去作と比べても格段に焦点が絞れており、短いぶん無駄の少ない、申し分のない傑作だと思います。「家を片付ける」ことが「過去を精算する」ことと結びついているという全体の物語構造も非常にスマートで、クリアした際にはとてもよく出来た短編作品を遊んだという充実感がありました。

一方で、分岐が多く存在してちょっとしたコレクション要素もありますが、リプレイ性はそう高くはないと思います。誰にでも薦められる作品かと思いますが、謎解きが煩雑な部分が少々一般性を欠いており、プレイヤーによっては障害になるかもしれません。しかし、心にズッシリくる重い体験になりましたし、筆者にとっては忘れがたい、大変重要な一本になりました。



総合評価:★★★

良い点

・すばらしい舞台設定やキャラクター
・先の気になるミステリー的な筋立て
・複雑な話を複雑なまま行う誠実な作り

悪い点

・少々煩雑な謎解き要素
・ゲーム的な斬新さはない
・複雑な物語が理解しづらくなるローカライズ品質

《文章書く彦》
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