Game*Sparkレビュー:『art of rally』【年末年始特集】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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Game*Sparkレビュー:『art of rally』【年末年始特集】

ラリーレーシングでありながら独特なタッチの優しい世界観だが操作が難しく、初心者には非常に辛い。しかし慣れてしまえば、これ程までにドライブが楽しいと思えるゲームはない。

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Game*Sparkレビュー特別企画として、2020年にリリースされた作品でレビューできなかったタイトルを厳選してお届けします。ぜひ年始のゲームプレイの参考にしてください。

※注意!この記事にはゲームのネタバレを含みます。

カナダのインディーデベロッパーFunselektor Labsがお届けする『art of rally』は独特のタッチで表現された本格的なラリーレーシングゲーム。2020年9月23日発売後も何度か拡張アップデートを繰り返しており、今後もそういったアップデートを計画しているとのことです。

筆者のラリーレースへの理解は、玄人の皆様と比べると素人。荒々しく走り抜けていく車両の格好良さに痺れはするものの、この車両は何年にシリーズを圧巻した云々といった知識はまだまだ勉強中です。しかしそんな人間に対しても、本作は不思議な魅力で心を捉えて離さず、難しい操作を乗り越えて、いつの間にか18時間。がっつり全キャリアモードをクリアするまでやりこんでいました。

今回はそんな本作をレビューしていきたいと思います。さっそくやってまいりましょう。

優れたゲームデザイン

ラリーレースといえば、スポンサーロゴいっぱいの車両が、エンジンの咆哮と砂煙を上げて悪路を滑走し、コースの至るところにいる観客が賑やかに声援を送ります。クラッシュは日常茶飯事、切って貼ってのダクトテープで応急処置だ!

……表現としてやや大げさなきらいもありますが、ラリーはこういったワイルドな走りが親しまれていると思います。同ジャンルの他タイトルゲーム、例えば筆者がプレイした『DiRT Rally』では、作り込まれた物理演算の上に演出としてこれら添えられており、全体的にシミュレーションの方に比重をおいたテイストで仕上がっていました。

一方で本作は、これらをそのまま再現するのではなく、全体を記号的にアレンジしつつ「ゲームの面白さ」として見事に昇華。これは、特徴的なカメラとシンプルなオブジェクト、難しい操作性といった要素が絶妙なバランスで組み合わさったからだとも感じます。

特徴的なカメラ視点

まずは特徴的なカメラ視点について。通常のレーシングゲームであれば、カメラは車両すぐ後方に設置されて追従します。そのため画面は、緻密な造形がなされた車体またはコックピット、目前を勢いよく流れる道路などの情報で忙しく埋まりがち。

しかし本作の追従カメラは、段階調整は可能であるものの車両から上方に距離をとった「見下ろし」の位置で固定されています。このおかげで周囲の景色は比較的緩やかに流れ、また道の先の様子を掴むことも容易なため、目に映る情報に忙しさをあまり感じさせません。

シンプルなオブジェクトと作り込みの塩梅が絶妙

グラフィックの作り込みも大事な要素のひとつ。本作は他と比較すると極めてシンプルで、大別すると車両>建物・小物>地形>観客の順でオブジェクトの作りが単純になっていきます。配色も、車両の一部スキンを除いて、全体的にマットな質感の淡い色合いで判別がしやすいですね。

ちなみに作り込みはこんな感じ。車体はブレーキパッドの赤熱まで表現されていますが、観客に至っては棒人間か何かのレベル。

これは筆者だけかもしれませんが、レーシングゲームで走行中、視点は基本的に車両まわり(または画面中央)で水平に近い高さに置かれるため、周囲の建物や地形、彼方の景色といった細かい部分の情報はなかなか拾えません。オブジェクトがどれだけ丁寧に作られていても、結局視界に流れる中でちょっとした忙しいノイズにもなりがちでした。

それに引き換え本作は、広範囲の景色をまるごと視界に収めながらも、シンプルな画面作りによって情報量が抑えられています。このおかげでプレイヤーは、ドライバーとして車を飛ばしレースを行いつつ、同時に観客として穏やかに観戦も楽しめます。

車両の作り込み

上記で少し話題に出たので、車両の作り込みについてもう少し書きたいと思います。登場する車両は、現実に存在する実車をモデルにしたものが多数登場。エンジンの型や出力、吸気系などの項目が実際の走りに影響するため、試し乗りして自分好みの1台を見つけると良いでしょう。解説文はフレーバーテキストではありつつも、ラリーレースと車の興味深い歴史が記されているため、ついつい読み込んでしまいます。

また車両のアンロックは、キャリアのステージクリアで、カラーはそのリスタート残り回数を条件に解放されていきます。ステージクリアとは、優勝ではなく完走という意味。詳しくは後述しますが、序盤は操作が大変故に優勝が極めて難しく、この条件は大変ありがたいものでした。車両が解放されず、難しいままで先に進むとなるとプレイのモチベーションも下がりますしね。

お馴染みの車から、三輪自動車、バン、果てはトラックと一部ネタに走っているように思えて全部ラリーの歴史に関係があるのが面白い。

かんたん楽しいフォトモード

話は少しずれますが、「フォトモード」も本作の素晴らしい魅力になっています。これはレース中、どのタイミングでも撮影可能なモードで、カメラは移動はもちろんのこと被写界深度など細かい調整を行うことができます。オブジェクトは作り込みの塩梅だけでなく、配置の疎密についても良いバランスで、カメラ設定を簡単に整えて撮影するだけでも、ぐっと来る写真が得られるので是非オススメです。

さらに話がズレてしまいますが、本作の景色は現実を完璧に再現しているわけではなく、ファンタジー色が強いですね。しかしそれでも激しい違和感が!ということはなく「どこかの旅先で見た覚えのある景色」というカテゴライズで郷愁の念を呼び起こします。以前こちらのインタビュー記事で製作者様がお話されていましたが、旅をしながら作られたゲームということだけあって、そういった旅情のエッセンスが溶け込んでいるのかもしれません。

こちらは日本コース。たしかにツッコミどころはいくつかありますが……!

難しいながらもコツを掴むと一気に楽しくなる操作性

ゲーム全体で見ると要素のバランスは取れているのですが、操作性についてのみ言及するなら、はっきり言って非常に難しく、慣れるまでに時間を要します。そのため最も面白い部分である“ドライビング”それ自体が最大の敷居にもなっています……。ちなみに前作の『Absolute Drift』と同じエンジンを使用しているため、前作プレイヤーにとっては、もしかしたら馴染み易いかもしれません(筆者は前作経験者ですが、当時も手こずっていたのでさにあらず)。

操作方法はキーボードとコントローラーの2種類ありますが、アクセルとブレーキの操作を考えると、LRトリガーのついたコントローラーを選ぶのが安全(ハンコンでもプレイ可能とのこと)。筆者は途中でXboxコントローラが破損したため、PS4コントローラを繋いでクリアしました。

さて操作が楽しくなってくるタイミングは人によるため、場合によってはそこに至る前にギブアップしてゲームから離れていくプレイヤーもいることでしょう。そのためここからは、キャリアゲームモードを紹介しつつ、「難しい操作性を楽しめた人間」としての見地で書いていきます。

キャリアモードの楽しさ難しさ

突然『art of rally』の世界に放り出され、徳が高そうな御仁からこの世の理(ゲームルール)について説明を受け、あとはご自由に走り出してください、ちなみに車の動かし方はご存知ですよね?さあ走り出しましょう、グッドドライブという若干の無茶振りから始まるゲーム冒頭。

ゲームモードはキャリア、タイムアタック、カスタムラリー、オンラインイベント、自由走行モードの5種類。マップはフィンランド、サルディニア、日本、ノルウェー、ドイツの5つの国で、コースは逆走含めてそれぞれのマップに12個ずつ、合計60個というボリューム。それぞれのコースはマップに広がる道から一部区間を切り取る形で作られています。

各モードで同じマップを使用するため、基本的にはキャリアモードのステージクリアで車両をアンロックしていくのが主な進行。タイムアタックはオンラインランキングがあるため、キャリアモードクリア後のやり込み要素の色が強いですね。またカスタムリーは自分好みのレースをセッティングして遊ぶことができます。

自由走行モードはゲームに登場するマップを文字通り自由に走ることが可能で、マップの全解放には条件が設定されてはいるものの、操作の練習にはもってこい。開始直後に放り出された、徳の高い御仁と対面する場所もここですしね。

ところでキャリアモードは初心者の技量向上に一役買っていると個人的に感じます。このモードではラリー黄金時代を年代ごとにグループ(車のクラス)別に走り抜けていきます。さらに各レースは朝から晩といった時間帯から、悪天候まで設定されていることもあるため、様々な表情を見せるコースたちを楽しめることでしょう。それに加えて「ライバルAIの難易度」や「車両の操作性に影響を与えるダメージレベル」といった項目も調整可能でレースの幅が広がります。ちなみに、レース1回毎に保存してメインメニューに戻れるため、空き時間で気軽に1レースを楽しむことができたり。

キャリア序盤が車両的にも技量的にも、一番苦労するところだと思います。例えば、グループ2で選択可能の車両たちはどうしてもパワーとスピードが足りず、立ち上がりの遅さも相まって、少々もたついた走りをしがち。かといってアクセル全開でスピードに乗ってしまうと今度は操作が間に合わずコースを飛び出してしまうことも。こうしたもどかしさが、悪路をかっ飛ばして爽快感のあるドリフト!……というこちらの(勝手な)想像を木っ端微塵に打ち壊してくれます。同じカジュアル寄りのレーシングゲーム『リッジレーサー』シリーズとは勝手が全く異なりました。ゲームを離れるプレイヤーが出てくるのはまさにこのタイミングだろうと思います。

しかしながら、このキャリアモードにおける四苦八苦のおかげで筆者は、次のグループ3で走る頃には、難しさに対してどうアプローチをすればよいのかという方向に思考が繋がり、「操作設定を調節すれば運転しやすくなる」と気が付きます。

ここから試行錯誤が始まり、最終的にはスタビリティアシストを切ったマニュアルシフト操作で悪路を滑走。キャリアの最初は、下から数えたほうが早い順位だったのが、最後のグループaになる頃は、ほぼ1位を取り続けるくらいになりました。

キャリアモードを通じて試行錯誤する過程、技量が向上していく感覚が勝利という結果につながっていく……これらは本当に楽しかったですね。個人的に一番良かったのは、キャリア制覇後、徳が高そうな御仁からねぎらいの言葉をかけられた時ですね。優しさが胸に染み渡りました。

惜しい点

一方でここからは、本作の惜しい点について触れていきましょう。

ちょっと極端な例

本作の魅力である見下ろしカメラは、車体が建物や背の高い木々によって視界を遮られてしまう場合、車体を中心にした円形の切り抜きで表示します。ところがこれでも、周囲の道の様子が掴みづらいため、可能であれば視界を遮るオブジェクトの透過表示などを設定で変更できれば良かったかもしれません。

また一部障害物として配置されているブロック類について、鼻先を擦るとそのまま引っかかって、衝突することがしばしばでした。技量を磨いてそもそもぶつからないように気をつけろ、という話はもっともではありますが、それでも可能であれば、ダメージ設定と同様に衝突の判定を緩く出来る措置があると嬉しいところですね。

最後に、コースアウト判定の振れ幅がごくたまに一定ではない時があり、ほんの少しインカットしただけで画面が暗くなり元いた路上に車体が戻されるのは少々ストレス。

まとめ

本作は独特のグラフィックと癖の強い操作性で、単純にレースだけを楽しむのではなく、周囲の景色や時代の追体験といったラリーレースの世界を楽しむ作りになっています。そのため、プレイヤーの合う合わないがハッキリ分かれてしまい、同ジャンルの他タイトルのような高いシミュレーション性を期待してプレイした方には辛いものがあるはず。

操作性の難しさについては、技量がよりスムーズに向上させるため、コース上にガイドライン表示や「どこでアクセルを踏むのか」など理想的なコントローラ入力操作をリアルタイム表示させるといった救済措置的な設定ができれば望ましかったところです。

それでも、繰り返しになりますが、各要素自体は高水準でバランス良くまとまっているため、一度壁を乗り越えてしまえば、本作ほど「見るのが楽しい」「走るのが面白い」と感じるゲームは他にありません。

総評:★★★

良い点
・バランスよく作り込まれたグラフィック
・技量成長を感じさせてくれるキャリアモード
・慣れると非常に楽しい操作性
悪い点
・慣れるまでが非常に苦しい操作性
・一部コースで難があるカメラ透過表示


《麦秋》

お空の人。 麦秋

仕事であちこち渡り歩いては飛んでます。自分が提供するものが誰かのお役に立てれば幸い。編集部および他ライターさん達のこくまろなキャラに並べるよう頑張ります。

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