2021年7月23日から2021年8月8日の期間、いよいよ「東京2020オリンピック」が始まります。新型コロナウイルスなどの影響により、まだまだ状況は厳しい状態ですが、健康面に配慮した上で各選手の活躍に期待したいところです。
さて、2020年東京オリンピックと言われれば「AKIRA」を思い出す人も多いのではないでしょうか。「AKIRA」は大友克洋氏により1982年からヤングマガジン誌上で連載されていた名作漫画で、近未来都市を舞台に、主人公「金田」と「鉄雄」、そして彼らを取り巻く人々や謎の少年「アキラ」たちの織りなす物語が描かれます。
漫画の連載中には、大友克洋氏自らが監督を務めるアニメ映画の製作が決定。製作期間3年、総製作費10億円という時間と労力を費やし1988年に上映、今も世界中で愛されている作品です。そして、映画公開の同年にはタイトーからファミリーコンピューター向けアドベンチャーゲーム『AKIRA』が発売されました。
本稿では、そんなファミコン版『AKIRA』のゲーム内容を紹介していきます。語りぐさとなっている難度の高さと、監修に大友克洋氏、協力にアキラ製作委員会を招いて作られたファンアイテムとしての本作の魅力を深掘りしてみましょう。
ゲーム版の前に久しぶりに映画版「AKIRA」鑑賞。面白い。
まずゲームに取り掛かる前に、映画版「AKIRA」を久しぶりに見ることにしました。現在はNetflixやHuluなどの配信サイトで気軽に名作を見ることができるので非常にありがたい時代ですね。何年ぶりに見たかは覚えていませんが、やはりこの映画の世界観やちょっとした演出、名場面などとてもかっこいい。満足しました。
いい作品を見て満足だけしているわけにもいかないので、早速ゲームプレイに移りましょう。ゲームは映画版の内容を追従していますが、ファミコン時代の容量では流石に限界があるので多くの場面がカットされています。そのため説明不足の部分が多く、最低でも映画版を見ていないとほとんど理解できない内容になっています。
ゲームは「鉄雄」の運転するバイクが「タカシ」によって爆発したシーンから開始。映画の冒頭が大きく削られているため、暴走族クラウンのリーダー「ジョーカー」は登場しません。映画版だと出番少ないキャラなので問題はありませんが……。ちなみにミヤコ様はゲームのパスワード画面などでちょっとだけ登場しますよ。
その後、アーミーたちに捕縛され警察の取り調べを受けるシーンからゲームは操作可能になります。すでに説明していますが本作のジャンルはアドベンチャーゲームです。場面ごとに「はなす」「みる」などを選択するいわゆるコマンド式ですが、手あたり次第に答えを探す総当たりでは本作はなかなかクリアすることはできません。
生死の境は紙一重!攻略の鍵は映画を見ること?
ゲーム開始すぐ、取調べ中の体育館で手榴弾を持って自爆しようとする男が登場。金田はその男に対して「いのる」「さけぶ」「あわてる」などの項目から選択し、無事に乗り切らなくてはなりません。映画では(その時点で)不発になる手榴弾ですが、ゲームでは簡単に爆発するので要注意。爆発したら当然死んでしまいますね。
本作は、多くの場面が死と隣合わせ。銃を持った人間に対してちょっと失礼な態度をとっただけで銃殺される、逮捕されるなんてことは当たり前です。ゲームオーバーになることでチェックポイントから再開になり、同じ場面まで再び話を進めて挑む必要があります。当然のように文章スキップ機能などはありません。
なお、今回ゲームプレイ前に映画を見ていたことが幸いし、いくつかの場面では正しい選択肢を選ぶことができました。とは言っても映画だと「金田が飛びかかってピンチを救う」シーンを再現しようと、いきなり「とびつく」を選んだらゲームオーバーになるシーンも珍しくありません。映画を見ていれば最低限「失敗選択肢を選ぶ確率が下がる」くらいの感覚ですね。
また、ゲーム中には銃でアーミーの連中を撃退するアクション面が存在。基本的に「銃を撃つ」「かわす」「ふりむく」の3つの操作で奥からやってくる敵を倒せばストーリーが進行する形式のほか、重要な場面でターゲットを狙い撃つ場面もあります。アクション面は「かわす」がほぼ無敵なので落ち着いて攻略しましょう。もちろんダメージを受けたら即死でゲームオーバーです。
一発アウトだらけの選択肢に何度も挑み、正しい選択肢を見つけることで映画版「AKIRA」のストーリーを基にした物語はどんどん進んでいきます。場面の時系列が少しおかしいところはありますが、だいたいは映画版そのまま進んでいるのは流石に大友克洋氏監修と言ったところでしょうか。
その難度の高さからいわゆる「クソゲー」扱いされることも多い本作。しかし、ただそう断じるには勿体ない部分もたくさんあるのです。
まさかのマルチエンディング!鉄雄撃退RTA要素も?
本作は制作に映画のスタッフが関わっていることもあり、そのちょっとした部分の再現やこだわりが溢れているのも特徴。「さんをつけろよデコ助野郎」などの名セリフの再現だけでなく、映画に出てこない選択肢でもなんとなく「金田っぽい」セリフが多いのが好印象です。
そして、本作には複数のエンディングが存在。物語の終盤、金田と鉄雄が対峙する場面でいくつかの特殊行動を起こすことで「映画とは違う」エンディングが流れるのです。なかには原作漫画の「大東京帝国」に繋がるようなエンディングも用意されており、本作が実にファンアイテムとして作られているのかを思わせる内容もあります。
特殊エンディングを紹介!
■鉄雄射殺ルート
金田が最初にレーザー銃で鉄雄と戦う際、胸に命中させることで発生。あのレーザー銃やっぱり威力すごいな……。金田は世界を救いました。完。
■アキラ覚醒ルート
最初の対決時、ビンに入っている「アキラ」をレーザーで撃つことで発生。完全なるバッドエンドです。
■大東京帝国ルート
最終決戦時、暴走する鉄雄から「にげる」を選ぶことで発生。鉄雄と復活したアキラの出会い、そして物語は続いていくエンドです。
■鉄雄撃退RTAルート
最初の対決のときに、金田がレーザーで「鉄雄の右腕」をピンポイントで撃つことで発生。いきなり鉄雄が暴走してストーリーが映画のクライマックスに向かって進んでいきます。
なぜかタカシたち超能力者がすでにいる、戦っていたはずのケイが甲斐と一緒に高速道路にいるなどおかしな部分はありますが、この程度なら問題ないでしょう。
ちなみに、本作のエンディングには映画ラストにある大佐が道路を歩くシーンはありません。これはRTAルートが存在するため、大佐がワープさせられることがなかった場合を踏まえた結果と考えましょう。ちなみにドクターは本当にいつの間にか姿を消してます。
それでも、本作は実際ちゃんとエンディングや名場面の再現に関して、制作スタッフの努力は感じます。もし、仮に、光学ディスク媒体の時代でこのスタッフの情熱があったらもっと凄いゲームになっていたんじゃないかな……と少し考えてしまいます。
カオリが一瞬しか登場しなかったり、大佐たちのシーンがざっくりとカットされているのは本作が「金田の視点」を中心に描かれているからなのかなと思います。これは制作側がしっかりと意識している描写だと考えたい部分ですね。
ここまで紹介してきたファミコン版『AKIRA』。映画公開年に発売され製作スタッフが協力している本作は、ゲームとしてあまりに粗削りながらも映画「AKIRA」の雰囲気を十分に再現しているといえるでしょう。
金田はとにかく簡単に死にます。コンティニュー機能はあってもやり直しはやはり面倒で、当時クリアまでたどり着かなかった人も多かったのではないでしょうか。ゲーム性としては全く褒められない難易度です。しかし、原作漫画に繋がるようなルートなど、さまざまな可能性のあるマルチエンディングなのは個人的に評価したい部分です。
もちろんこれを踏まえてゲームをプレイするべき!とは言いません。「AKIRA」世界を堪能したいのであれば、原作漫画と映画版をそれぞれ見ましょう。その上で、ちょっと気になった人はぜひ遊んでみてくださいね。