『デストロイ オール ヒューマンズ!』スイッチ版発売記念!「米ソの新兵器」と「まっかっか」に怯える1950年代の空気とは? | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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『デストロイ オール ヒューマンズ!』スイッチ版発売記念!「米ソの新兵器」と「まっかっか」に怯える1950年代の空気とは?

あの宇宙人がニンテンドースイッチにも侵略開始!その作品の根底を流れる時代感に迫ります。

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『デストロイ オール ヒューマンズ!』スイッチ版発売記念!「米ソの新兵器」と「まっかっか」に怯える1950年代の空気とは?
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唐突ですが、皆様UFOはもちろんご存知でしょう。ですが、「UFO」とはそもそもなんでしょうか。空飛ぶ円盤? 宇宙人の乗り物? 確かにその可能性は否めませんが、本来は「未確認飛行物体」の略であり、UFOの正体がこうに違いない、と勝手に決めつけるのは定義とは矛盾してしまいます。スーパーマンもステルス戦闘機も、ドローン、鳥であっても、正体が確定されるまでは全て「未確認飛行物体」になるのです。

歴史を紐解けば、かつて未確認飛行物体は龍などの幻獣と解釈されることが多く、日本には「ひかりもの」という呼称も存在し、「吾妻鏡」「太平記」等に記述が残されています。地球外生命体の概念が登場するまで、現在の「UFO」のイメージは全く存在しませんでした。では、UFOが空飛ぶ円盤であるとか、宇宙人の乗り物であるというイメージはいつ、どこから出現したものなのでしょうか。

「UFO=エイリアンの乗り物」の説が広まったのは、1940年代のアメリカからでした。そうなるまでにいくつかの段階があるので、順を追って説明します。

Silver Screen Collection/Moviepix/ゲッティイメージズ

現在のステロタイプ的な「地球に攻めてくる奇っ怪な見た目の宇宙人」自体は、1898年のH・G・ウェルズ「宇宙戦争」によって定着していました。そして発表から40年後の1938年、かの有名な「宇宙戦争パニック事件」が起こります。

New York Daily News Archive/New York Daily News/ゲッティイメージズ

全米で放送されるラジオドラマ番組「マーキュリー・シアター・オン・ジ・エア」で、「宇宙戦争」をニュース番組風に演出して放送したところ、一部の聴取者が本物のニュースだと思い込み、警察へ問い合わせが殺到してしまったのです。これ自体はかなり小さい規模だったのですが、これに目を付けたのが新聞メディア。当時新興メディアだったラジオを目の敵にしていたので、ここぞとばかりに「ラジオが引き起こした大事件」として報じました。

全米で暴動が起こり多数の被害が出た、という部分はほとんどでっち上げの飛ばし記事であったとするのが現在の主な見方であり、「伝説」のような出来事は実際にはほとんど確認されませんでした。それでも、「宇宙人」が創作の壁を破って現実に飛び出してきたインパクトは大きく、世界大戦の秒読み前で緊張したアメリカに「宇宙人が地球を侵略する」というイメージを強く刷り込んだのです。

戦争が勃発すると、「未確認飛行物体の目撃」は多くの人に認知されるようになります。戦闘機パイロットが戦場という極限状況の中で、ガラスの反射や照明弾などを見間違えた可能性が高いですが、それらは「フー・ファイター(Foo fighter)」と呼ばれ、非常識な動きをする謎の飛行物体の存在はメディアを通して広く共有されていきました。

Bettmann/Bettmann/ゲッティイメージズ

そして終戦後の1947年、現在に通じる「UFO」を定義づけた「ケネス・アーノルド事件」「ロズウェル事件」が起こりました。まさにこの年がUFO元年と言っても過言ではありません。「ケネス・アーノルド事件」とは、6月24日にUFOを目撃したアーノルド氏が、新聞の取材に対し「物体は受け皿(Sauser)が水を跳ねるように飛んでいた」と発言したことが、「物体はFlying Sauser(空飛ぶ受け皿)のような形であった」と誤解釈され、そのまま全国的に報じられました。すると全米各地で「空飛ぶ円盤」の目撃談が一気に吹き出し始めます。「空飛ぶ円盤」という現象の名前が広がり、身の回りのちょっとしたことが話題の現象と同じものに見えてしまう、自分もその現象に参加したい、そんな気持ちをマスメディアが着火したのです。

円盤騒動に全米が沸き立つ中、1947年7月8日、ロズウェルに駐留する米陸軍が「付近の牧場で"空飛ぶ円盤"を回収した」と発表しました。しかし間もなく「気象観測用気球」と訂正、そのときは大して注目されず、騒動など全くありませんでした。

Universal History Archive/Universal Images Group/ゲッティイメージズ

どちらの事件も発生時点では「宇宙人」という話は一切ありません。むしろソ連や米軍が極秘裏に開発した新型兵器ではないか、との声が主流でした。核爆弾が放たれた世界大戦のショックが抜けず、米ソ冷戦が新たに始まる中では、未知の存在は核爆弾のような脅威と同等であり、人々に現実的な恐怖を感じさせるものだったのです。

冷戦下の兵器開発、特に原爆とロケット技術を巡っては、両陣営共にスパイを使って盗み出そうとしていました。1950年には原爆の機密がソ連に漏洩した「ローゼンバーグ事件」が発覚し、その協力者と予備軍を徹底的に排除しようとする動きが加速、いわゆる「赤狩り」に発展しました。日本においてもマッカーサーの令による「レッドパージ」が行われています。

FBIと1947年に創立したばかりのCIAはアメリカ国民の思想信条を秘密裏に調査し、少しでも敵方のイデオロギーになびく兆しが見えれば、国務省がそれを元に「共産主義者」のレッテルを貼って糾弾、次々にアメリカ社会から追放していきました。

Bettmann/Bettmann/ゲッティイメージズ

政府要職はもちろん、ハリウッドでもチャップリンが対象者になりました。自由と民主主義を謳って戦争に勝利したはずのアメリカが、自ら言論の封じ込め、密告、思想統制に突き進んでいったのです。

原爆のような敵国の新兵器、そして国内における思想弾圧。本作の舞台となった1950代は、人々が内外両方の脅威に怯える非常にヒステリックな時代でした。そこに、ケネス・アーノルド事件の「空飛ぶ円盤」を、地球の技術力を超えた宇宙人の乗り物だとする説が登場します。

当時は宇宙開発の成果が実りつつあり、SFで描かれるような、人間が宇宙へ飛び出す可能性がようやく見えてきた時期でもありました。となれば、人間より先に宇宙へ飛び出した異星人が地球に来る可能性も皆無ではない。現在の科学で説明できないのは、地球よりもさらに進んだ科学が用いられているからだ――強引な理屈ですが、もしかしたらあり得るかもしれない、人々にはそう映りました。

未知の現象をソ連の新兵器として怯えるよりも、荒唐無稽であっても現実的ではないものに置き換えたい、そんな心理が働いたのか、そこから「UFO」=「空飛ぶ円盤」=「宇宙人の乗り物」という強烈なイメージが生み出されたのかもしれません。冷戦に神経をすり減らすアメリカ人の心を埋めるかのように、今に通じる「UFO」が浸透していったのです。

デストロイ オール ヒューマンズ!』とは、そんな狂気に満ちた時代を宇宙人の視点から俯瞰し、愚かなアメリカを徹底的に蹂躙するというブラックコメディのアクションゲームです。ゲームとしての水準は高く、欧米で人気を博したこの作品のローカライズをセガが担当することになりました。しかし、本作の描写は基本的に当時のアメリカやUFOにまつわる文化を熟知していることを前提として作られていたものです。そのようなタイトルをどうすれば本来の間口よりさらに広く日本市場に受け入れてもらえるかに苦心したセガは、それらの表現を徹底的に日本のサブカルの、超絶マニアックなパロディに塗り替えることで、セガ渾身の「バカゲー」に改造してしまいました。

当時の制作を担当した小堤氏の、メディアでの過去のインタビューによると、この改変の主眼は過激な表現の修正よりもブラックコメディのノリをより伝えやすくするためだったそうです。当初THQより許可されていたのは字幕の書き換えのみでしたが、それだけでは勢いが削がれてしまうと判断。より尖ったものを目指す中で吹き替えの追加、ゲーム内映画の変更などが加えられていきました。

なお、小堤氏は2005年にセガより発売されたインタラクティブムービー「再来!謎の円盤UFO」に携わっており、この作品では海外ドラマの映像をリミックスして新しいストーリーを構築する手法が採られていました。その経験が改変吹き替えに活かされたそうです。

広川太一郎氏をはじめとするベテラン声優陣を揃え、素っ頓狂なネタ台詞をこれでもかと詰め込んだ内容もさることながら、公式サイトが公開初日から閉鎖、情報を発信するのは「ブートレグ(海賊版)サイト」(もちろん、サーバーは公式のもの=セガのアドレス内にありました)からという、妙に怪しげな雰囲気のプロモーションを展開していました。

吹き替えを担当した声優の中には既に亡くなられた方もおり、当時と同様に再現されることはおそらく永遠にありません。元のゲームに含まれたメッセージや時代性を大幅に改変してしまったことには賛否両論あるところかもしれませんが、それはそれとして日本限定のセガ版もゲーム史に爪痕を残した空前絶後の怪作として、ひっそりと伝説が語り継がれることでしょう。

そして今回のリメイク版『デストロイ オール ヒューマンズ!』はTHQ Nordicがグローバルリリース。全世界共通の内容で、改変無し、本来このゲームが目指したところを存分に味わえる正真正銘の「オリジナル版」です。CEROレーティングのZ区分も取得し、海外版と同様に、狂気に満ちた時代で下等生物共を思う存分叩き潰すことができます。

より詳しい同作の内容はPC版のプレイレポをみていただくとして、先行していたPC及び他コンソール機に加え、いよいよ8月26日にニンテンドースイッチでもリリースされます。携帯モードで持ち運べば、いつでもどこでも気軽に「焼き払え!」「人がゴミのようだ!」などと心の中で叫べますね。何かとストレスが多いこの社会、ポケットの中に悪逆非道の宇宙戦争を忍ばせてみませんか?

『デストロイ オール ヒューマンズ!』ニンテンドースイッチ版は、2021年8月26日に4,780円(税込み)で発売予定です。

参照
「宇宙戦争」、パニックはなかった? -ナショナルジオグラフィック
幻解!超常ファイル ダークサイド・ミステリーE+「シリーズ アメリカUFO神話(1) “空飛ぶ円盤”の原点に迫る」 -NHK

《Skollfang》

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