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政治闘争に翻弄される音楽『戦場のヴァルキュリア4』弾圧と戦争を越えて響く「The Minstrel Boy」【ゲームで英語漬け#90】

戦意高揚と反戦、相反する二つの意味を持っています。

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政治闘争に翻弄される音楽『戦場のヴァルキュリア4』弾圧と戦争を越えて響く「The Minstrel Boy」【ゲームで英語漬け#90】
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戦場のヴァルキュリア4』では国内タイアップの主題歌「Light Up My Life」とは別に、エンディングテーマとして「The Minstrel Boy」がスタッフロールで流れました。この曲はアイルランド民謡に詩人のトマス・ムーアが詩を付けたもので、軍隊、警察などの殉職者を悼む曲として英軍・米軍を中心に広く演奏されています。

特に映画「ブラック・ホーク・ダウン」に採用されたザ・クラッシュのジョー・ストラマーが歌ったものが有名です。この曲は反戦歌でもあり、戦いのための歌でもあるという、本作の物語を象徴するような二面性を持っています。

練習問題の解答

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問:
We’re going on ride across the dilated pupils of the cosmos.Man! You’re going to see flotsam that will change you forever.

解答例:
これから宇宙中を沸騰させにいくんだぜ。あんたを永遠に変えるフネに乗ってな。

「the dilated pupils」は「拡大した瞳」で、このままではよく分かりません。瞳が拡大する、つまり興奮状態を示しているので、文意としては宇宙を興奮の渦に巻き込むというところでしょう。

戦意高揚か反戦か、2つの意味を持つ歌

アイルランドの音楽は今でこそ人気を博していますが、20世紀に入るまで「反イングランド的」として表だって演奏することが難しいものでした。カトリックを信仰するアイルランドが16世紀にイングランドに占領されて以降、同化政策によってアイルランドの文化とカトリック信仰は厳しく弾圧されていきます。

その中でも標的に挙げられたものが「音楽」で、民族主義によって反乱を煽るものとして、エリザベス1世はアイリッシュハープの演奏を禁止、演奏者を処刑しました。続いて、清教徒革命で政権交代を果たしたクロムウェルが、「権力が使う芸術」である教会音楽や劇場公演を弾圧し、アイルランドもその煽りを受けてハープとオルガンが全て破壊されました。「音楽を聴くこともかなり政治的」とされ、アイルランド民族音楽の歴史はここで一旦途絶えてしまいます。

それから150年後の18世紀末に復興運動が起こりますが、これは1798年~1803年の「アイルランド反乱」に向けた気運を高める一環で、反イングランドや戦士を称える愛国歌「Irish Rebel Songs(アイルランド闘争歌)」が多く生まれました。本作の「The Minstrel Boy」も、トマス・ムーアが反乱で戦死した学友に向けて書いた歌詞としてこのジャンルに含まれます。その背景を踏まえて歌詞を読んでみましょう。

The Minstrel-Boy to the war is gone,
In the ranks of death you'll find him;
His father's sword he has girded on,
And his wild harp slung behind him.

"Land of song!" said the warrior-bard,
"Tho' all the world betrays thee,
One sword, at least, thy rights shall guard,
One faithful harp shall praise thee!"

歌唄いの少年は戦争に征ってしまった
死者の隊列の中にきっといることだろう
父の剣を携えて
粗雑な竪琴を背に負って
「詩歌の地よ!」戦士にして詩人が叫ぶ
「世界中が汝を裏切ろうとも
この剣だけは汝の正義を護り
この忠実なる竪琴が汝を称えよう!」

The Minstrel fell!―but the foeman's chain
Could not bring that proud soul under;
The harp he lov'd ne'er spoke again,
For he tore its chords asunder;

And said, "No chains shall sully thee,
Thou soul of love and bravery!
Thy songs were made for the pure and free,
They shall never sound in slavery.

歌唄いは囚われた―だが敵の鎖をもってしても
誇り高き魂は従えられなかった
彼の愛した竪琴は二度と鳴ることはない
己の手で弦を千切ってしまったから
そして彼は言った
「どんな呪縛も汝を汚せぬ
勇気と慈愛に満ちたその魂を!
汝の詩歌は純真と自由のためにあり
隷属のうちに響くことなし!」

前述の音楽に関する経緯もあり、ハープはアイルランドを象徴するもので、ハープを抱えた詩人とは、アイルランド独立を目指した人々そのものと解釈できます。言葉や文化を取り上げられようとも、民族の誇りは決して奪わせない、そのような内容です。

アイルランドは何度も武力蜂起を起こし、完全ではないものの1922年に南部の独立を果たしました(つまり今年にようやく100周年を迎えたばかり)。その後も北部の領有権を巡ってイングランドと対立は残り、国として決着が付いた後も武装組織による闘争は現在まで続いています。関連して一連の闘争歌もナショナリズムを煽るとして一時期放送禁止になるなど、この曲をイギリスでは政治的な歌として警戒する人もいます。

一方アメリカでは、この「政治的な」歌が性質を変え、反戦歌としての性格を帯びていきます。イングランドからの弾圧を逃れるため、多くのアイルランド人が新大陸アメリカへ渡りました。彼らは軍人や警官など殉職者が出やすい職業に就くことが多く、軍歌などにアイルランドの歌を採用します。

やがて奴隷制度を巡る南北戦争が起きると「Slavery」という言葉が入っていることから、「The Minstrel Boy」はアイルランド独立の意味合いが薄れ、南北戦争の軍歌としてアメリカに広まります。

するといつしか、トマス・ムーアのオリジナルにはない3番の歌詞が付けられるようになりました。全米で民間人も含めて犠牲者が90万人にも上るという悲惨な状況に、早く戦争が終わって欲しいという願いが自然発生的に加えられていったのだと思います。

The Minstrel Boy will return we pray
When we hear the news we all will cheer it,
The minstrel boy will return one day,
Torn perhaps in body, not in spirit.

Then may he play on his harp in peace,
In a world such as heaven intended,
For all the bitterness of man must cease,
And ev'ry battle must be ended.

正式な歌詞ではないので3番はあまり歌われませんが、『戦ヴァル4』のアレンジでは1番の後にハープの演奏が加わります。3番の歌詞を含めて解釈すると、戦争終結後の平和を象徴しているのだと思います。

E小隊が戦い抜いたノーザンクロス作戦は数多の犠牲者と「狂気」を残した苦々しいものでした。例え国のトップが愚かな政治をしていても、現場で撃ち合う兵士のひとりひとりは決して悪ではなく、それぞれ守りたいものを抱える個々の人間です。

むしろ相手をひとくくりにして「悪」や「敵」と声高に叫ぶ人間こそ、煽動者として気を付けなければなりません。イソップ寓話「捕虜になったラッパ手」のように、そこに音楽が介在することも確かなのです。

それでも、異なる立場を超えて平和と祈る気持ちを確かめられるのもまた音楽の力であります。戦わねばならなくても、死者を悼み一刻も早く平和になることを願う。その思いと共に「The Minstrel Boy」は軍人たちに歌い継がれているのです。

練習問題:「The Minstrel Boy」3番の歌詞を訳しなさい。

世情に不穏な空気が立ちこめている今日この頃。今すぐ何か行動できるわけではないですが、この気持ちだけでも胸に留めておきたいと思います。


《Skollfang》

好奇心と探究心 Skollfang

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