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『アサシン クリード ヴァルハラ』「名詞の性別」が消えた! 英語史の大事件を起こしたヴァイキングの侵略【ゲームで英語漬け#92】

アングロサクソン人もかつてはルーン文字を使っていました。

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『アサシン クリード ヴァルハラ』「名詞の性別」が消えた! 英語史の大事件を起こしたヴァイキングの侵略【ゲームで英語漬け#92】
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大学で第二外国語を習うとき、ドイツ語やフランス語など欧州系の言葉で1番引っかかるであろう要素が「名詞の性別」「人称変化」です。これによって動詞や形容詞の形が変化する上に、不規則変化もあって一つずつ覚えるしかない厄介なもの。どうしてそんなものがあるのかと面倒に思う人が多いでしょうが、実は逆なのです。「他の言語にはあるのに、なぜ英語にそれがないのか」という見方が、このことを知るためには重要になります。

練習問題の解答

『アサシン クリード ヴァルハラ』MCバトルは伝統芸能だった?言葉遊びが試される口論詩の日米比較【ゲームで英語漬け#91】

問:
Your flyting’s astounding, you’re worthy of praise!
You swing a fine axe, and you turn a good phrase!

解答例:
見事なその詩に誰もが感心
振るう斧が如く言葉は斬新!



異文化の流入で変化していった英語の歴史

ヨーロッパ諸国の言語で名詞の性がないのはごく一部で、男性名詞、女性名詞、中性名詞、無性名詞と、組み合わせは異なるものの大半で名詞性の区別を行っています。冠詞や形容詞の使い方を逐一変える必要があり、慣れるまでは結構大変です。ドイツ語では男性、女性、中性があり、英語の「The」に当たる冠詞を「Der」「Die」「Das」と使い分けています。

「私」「君」「あなた」などの人称で動詞の形が変わる「人称変化」も同様で、「Ich(わたし)」「Du(あなた)」「Er(彼)/Sie(彼女)/Es(それ)」「Wir(わたしたち)」「Ihr(君たち)」「sie(彼ら・彼女たち)/Sie(あなたたち)」で、「来る」の動詞「Kommen」の場合は「Komme」「Kommst」「Kommt」「Kommen」「Kommt」「Kommen」と変化します。

英語の基礎はローマ帝国崩壊後に所謂「民族大移動」によって侵入した、ゲルマン系のアングロ・サクソン人(アングロ人・サクソン人・ジュート人と分ける場合もある)が使っていた言葉で、同じゲルマン系のドイツ語やオランダ語などとは親戚関係になります。そのため、ヴァイキング侵入前の「古英語(Old English)」には他と同じくこれらの要素は存在していました。

しかし、ご存じの通り現在の英語では名詞の性別はほぼ無く、人称変化も「三人称単数」の「-s」だけが残るのみです。これらの変化の大半はヴァイキング侵入以降に簡略化されていきます。ノース人の侵略、定住が言語に大きく影響を与えたのは間違いありません。

では、どうしてこのような変化が発生したのでしょうか。有力な説の一つに「片言なら言葉が通じたかもしれない」というものがあります。アングロ・サクソン人と同様に、ノース人もまたゲルマン系の民族で、元々は北欧やドイツ周辺をルーツとしています。そのため、分派したと言っても古い言葉は共通しているものがあり、実はアングロサクソン人もキリスト教化前はルーン文字を使用していました。「古英語」と「古ノルド語」が接触するうちに、通じやすい簡略化したものを使用するのが習慣化したと考えられます。

そしてもうひとつ、ヴァイキングの影響と言われるのが「SVO」の文型です。英語史研究の堀田隆一氏によると、ドイツ語に見られるような「主語」「動詞」「目的語」の語順を入れ替える文章は古英語の時代には問題ありませんでした。英詩の書き方はこれの名残ですね。それが、名詞の性別や人称変化の消滅によって主語と目的語の判別が付かなくなります。そのために、「SVO」の語順によって確定させる習慣が生まれた、というものです。

語彙の借用だけでなく文法そのものまで変えてしまうのは、それだけヴァイキングの勢力が影響力を持っていた証左でしょう。アルフレッド大王とデーン王グスルムの間に結ばれた「ウェドモーアの和議」によってデーン人の居住地「デーンロウ」を設けたことももちろんですが(ディスカバリーツアーで体験できます)、11世紀のクヌート王によるイングランド征服もあり、英語がノルド語を吸収したと言うよりは、侵略によって双方が混ざり合っていったというイメージが近いかもしれません。

アルフレッド大王は識字率の向上にも尽力しており、「アングロ・サクソン年代記」などの文字による記録を推し進めました。英語に於ける文語の発展に寄与し、シェイクスピアと同様に彼もまた英語史に重要な足跡を残した1人です。

当時のブリテン島で北欧人の影響力があったのかを知るには、ブラタモリの例にならい現在にも残る地名を見るのが良いでしょう。こちらがディスカバリーツアー内にあるデーンロウの地図です。デーン人が居住していた場所にはノルド語由来の地名、地主の名前に「-by(村)」「-thorpe(農場)」が付く形が残っています。続いて、こちらの論文の12ページをご覧ください。北欧由来の地名が残る場所をドットで示してありますが、上の地図と比較すると密集地がほぼ重なりますね。それだけ多くの北欧人がブリテン島に入植していたことを示しています。

定住後も略奪を続ける者もいれば、改宗してアングロ・サクソン人と交流を持った人々もいました。良くも悪くも異文化のぶつかり合いによって、英語は活用が比較的少なく習得しやすい言語に変わっていきました。ヴァイキングの侵略が現在の英語まで直結する影響を与えたことを知ると、エイヴォルの冒険も違って見えるかもしれませんね。

練習問題:古ノルド語からの借用語を挙げなさい。

日本語のカタカナ語のように、別言語から入ってきて定着した言葉を「借用語」といいます。英語は民族侵入が繰り返されたために借用語がとても多く、1066年のノルマンコンクエストではフランス語が大量に入ります。

追記

タイミング的にアレですが、本記事は歴史イベントの結果論以上の意味は無い旨をご了承ください。


《Skollfang》

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