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ヒーローシューターは問題を抱えている。『オーバーウォッチ2』PvPベータから見えてきたもの【特集】

盛大な肩透かしの背景と、「成熟したゲームタイトル」が持つ苦悩を紐解きます。

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ヒーローシューターは問題を抱えている。『オーバーウォッチ2』PvPベータから見えてきたもの【特集】
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『オーバーウォッチ』発売から長い年月を経た今、『オーバーウォッチ2』へ大きな期待が寄せられていることは言うまでもありません。

比較的パブリックな場所で『オーバーウォッチ2』とプレイヤーが直接交わる最初の機会となった「PvPベータ」。残念ながらそのファーストインプレッションは良いものではなかったようです。

日本人初のオーバーウォッチ・リーグ選手であるTa1yoさんがTwitterで実施したアンケートでは「何が変わったのか分からない」が73.4%を占め、実況解説でお馴染みのゲームキャスター岸大河さんも、期待に及ばなかった旨をツイートしました。

※お二人とも、PvPベータ開始から時間が経ち、改めて本作を見つめ直した感想をツイートされています。

PvPベータ開始直後、「オーバーウォッチ1.x」というワードがSNSを中心に話題となり、その「変化の乏しさ」にスポットが当たってしまいました。期待の新作の蓋を開けてみれば、プレイヤーを出迎えるのは顔なじみのキャラクターたち。そこへ新マップが追加されただけの「大型アップデートの入ったオーバーウォッチ」としての見方が強かったようです。

満を持して行われたPvPベータと、肩透かしを食ったプレイヤーたち。この現象を見ていると、『オーバーウォッチ2』の展開の杜撰さだけでなく、「ヒーロー制を導入したタイトル」や「変化を求められるタイトル」の運営の難しさが見えてきました。

はじめに断っておくと、筆者は『オーバーウォッチ』をベータで挫折したプレイヤーです。ゆえに、本稿では『オーバーウォッチ2』PvPベータの完成度や、その面白さについて深く語るつもりはありません。

PS3時代の『Battlefield』や『Call of Duty』を起点とし、『レインボーシックス シージ』や『VALORANT』といったFPS経験のある筆者は、『オーバーウォッチ2』のPvPベータの報を受け「もう一度『オーバーウォッチ』に飛び込むチャンスが来た!」と無邪気に意気込んでいました。

凝り固まった新作タイトル

そんな筆者のPvPベータの率直な感想は「凝り固まっている」の一言。把握しきれないほど多くのキャラクターとちょっぴり複雑なマップ、(当然ですが)ゲーム理解度の高いプレイヤーたちに揉まれ、一生わからん殺しを繰り返され、筆者のような初心者が入り込む余地は紙一枚分すらありませんでした(それでも根気強くやり続けると楽しいけど)。

現状だけ見ると、オンライン対戦ゲームの新作がローンチした直後の「ワチャワチャ感」のようなものは期待できなさそうです。皆が同じスタートラインで起こりがちな、マップがわからず全員明後日の方角へ向かったり、弾が当たらず謎に長引く撃ち合いが発生したりと、手探り感ゆえの刺激的な楽しさは起こり得ないでしょう。

ただ、これはあくまで「PvPベータ」。あくまでキャラクターの調整やサーバーのテストなどが主であり、Blizzard Entertainmentは熟練のプレイヤーにプレイを重ねてもらい、より多くのフィードバックを得たいのだと推測できます。

過去、同社の別タイトルで実施されたインタビューでは以下のように語っており、コミュニティの声に耳を傾けることは常に強調されてきました。

Blizzard Entertainment: 我々が掲げるフィロソフィーに「Every Voice Matters」というものがあります。これは“様々なユーザーの声を聞いてゲームの開発や改善をしていく”という考え方です。「コミュニティを中心にゲームが育つ」というのは、我々のコンセプトですし、その点はしっかり考慮したいと思います。

このスタンスは明確に表れていて、PvPベータ期間中も多くの調整や修正がなされ、ゲームバランスに対する誠実な姿勢が見られました。PvPへ対するベータとして見れば(つまり、「『オーバーウォッチ』とのクロスプレイが可能なPvPモード」の調整第一弾として見れば)、その目的は達成できています。

「ナンバリング」の重さ

ここで浮かぶのが「なんで「2」にするの?」という疑問でしょう。長い年月を経たヒーローシューターが、ナンバリングを冠して新作を発売するというアプローチは、あまり見られない例です。やはり「2」と聞くと、前作から大きく刷新されたものをイメージしてしまい、新しいスマホを開封するような期待感とワクワクを煽られます。

しかし、蓋を開けてみればさほど変わっていないインターフェイスと、顔なじみのキャラクターがそこにいて、「クラスのメンツ変わらなくね?何人か高校デビューしてるけど」といった具合で、プレイヤーの想像を超えない微妙なぬるま湯を見ることになったのです。一部参加者は、それに対する納得感を得られていない状態でPvPベータをプレイすることになり、肩透かしを食ったのでしょう。

余談ですが、筆者は『レインボーシックス シージ』の熱狂的なファンであり、数年前までは「ユービーアイソフトは『シージ2』を出すべき」という意見を持っていました。『シージ』は『オーバーウォッチ』より半年前の2015年12月にリリースされ、今年で7年目に突入。エンジンは古く、アンチチートやインターフェイスにまで古臭さが漂うため、新規プレイヤー獲得や全体的なUX品質の向上を目指すべきと、筆者は考えていたのです。

しかし、それを実践した『オーバーウォッチ2』PvPベータに対する揶揄を目の前にし、この意見は間違っていたのかと考え直すようになりました。

そんな『レインボーシックス シージ』は、バトルパスの導入や、『バイオハザード』や『リック・アンド・モーティ』といったフランチャイズとのコラボアイテム販売を通じて、マネタイズを強化しました。そのうえでインターフェイスをモダンなものに刷新し、射撃練習場や新規プレイヤーへ向けた動画付きでわかりやすいガイドなども実装を発表。あくまで『レインボーシックス シージ』をアップデートしていく覚悟と決意を見せています。

更にユービーアイソフトは『レインボーシックス エクストラクション』や『レインボーシックス シージ モバイル』などの関連作品を展開。『シージ』で生み出したユニバースを上手く活用していると言えるでしょう。余談でした。

優秀なSEO対策は初心者を欺く

『オーバーウォッチ』に限らず、発売から年月の経ったゲームタイトルは、初心者に対する敷居が高いことは間違いありません。そんな中でも、既存プレイヤーは新たな要素や変化を求めます。彼らのために新しいものを導入し、結果的に多くのキャラクターやマップが増え、「メタ」が変化していきます。

Game*Sparkでも、『オーバーウォッチ』リリース当時は攻略特集などを掲載していました。しかし、度重なるアップデートと変化を経た今では、これらの情報は1ミリも役に立たないでしょう(古文書としての価値はある)。変化の激しいゲームタイトルは、優秀なSEO対策によって上位に表示される「初心者向け」記事や動画によって初心者を欺くことになるのです。

例えば『Apex Legends』がリリースされた当時に言われていた「初心者はとりあえずピスキとスピファ持っとけ」という情報は(現在は一周回ってそのとおりになっているけど)ここ最近のシーズンでは正しいと言えないでしょう。『VALORANT』も同様、過去に初心者向けとされていたフェニックスも、今は鼻つまみものです(俺はフェニックスを信じてるけどね)。

ピスキもスピファもフェニックスも、言ってしまえば「メタ」でないのです。常にゲームが変化していくこの現代では、既存プレイヤーを満足させ続けることと、初心者への間口を広げておくことの両立はとても難しいのです(そう考えると、毎年新作をリリースしていた『BF』や『CoD』が正しいように思えたりもしますが、この話は別の機会に......)。

新規プレイヤーを支えるのはゲームだけではない

既存プレイヤーを満足させつつ、新規プレイヤーを伸ばす問題は、永遠のテーマであり、最適感や定石はないと言えます。

初心者へ向けた丁寧なチュートリアルは当然とし、ゲーム本体からのバックアップ(援護)はもちろん大事です。そして、それらはゲームルールやアビリティといった表層的なものだけでなく、ゲームメカニクスを深く理解することを手助けする必要があるのです。

一歩踏み込んだコンテンツを実践編としてわかりやすくゲーム内で見られるといった施策や、ソーシャルメディアを用いて、小ネタやセットアップ、コンボの紹介など、ゲームプレイの楽しさの本質へ積極的に誘導していくことが求められています。

そして、なにより大切なことは「コミュニティの暖かさ」。ゲームは真剣になるほど楽しくなることは知っているし、貴重な時間(人生)を割いてプレイしていると、どうしても味方にあたってしまいたくなる気持ちも、正直わかります。

だけどそれを、表に出さないことが一番大事なのです。

PvPベータ期間中、何度「DPS Gap」と言われたことか(余談だが、試合後ならともかくスコアボードにDPSを表示するのは絶対にやめるべきだ)。建設的なアドバイスや指示ならともかく、なんの得にもならないただの暴言や指摘に意味はありません。叱咤罵倒の言葉を受けた相手やその他のチームメイトに、良い作用が働くことはないでしょう。

自分が新しいバイト先や職場に行って「おまえ仕事できないな」とか言われたらどうでしょう。退職代行サービスまっしぐらですよ。幸いPCゲームは右クリックでアンインストールを押すだけで済みますが、その手軽さゆえ、初心者はゲームをすぐ辞めることができてしまいます。

暴言を吐かれて引退したプレイヤーは、1年後にはあなたを守る強力なタンクになっていたかもしれません。プレイヤーの減少による虚しさは、『オーバーウォッチ』プレイヤーならよく知っているはず。

PvPベータは何が肩透かしを加速させたのか

「2」らしいコンテンツが不透明なままでは、PvPベータという場は、ゲームとプレイヤーのファーストコンタクトとして物足りません。冷静に考えると、PvEとPvPが完全に切り分けられた『オーバーウォッチ2』では、前作とのクロスプレイや、スキンなどの引き継ぎを鑑みても、大きな変化は付けにくいことは明白です。

『オーバーウォッチ2』では、やはりPvEモードなどの完全新規コンテンツが、大きな魅力のひとつとして挙げられます。

PvEを全面に押し出してからPvPベータを実施していれば、印象はもっと違ったものになったでしょう。でないにしても、新たなモードやマップに絞るなど、段階的に現環境に近づけていくなど、工夫が必要でした(Blizzard Entertainmentの内部に関する問題を考慮する必要はあれど)。

そしてなにより、本作の販売形態が不明であることが挙げられます。多くのプレイヤーは前作同様にパッケージングされ、フルプライスのタイトルとして購入する必要があると考えているでしょう。そんな中で、「新しい」コンテンツの不透明さと、現状での少なさが、不評に拍車をかけてしまっているのです。

幸いなことに(?)、本作は2023年へリリースがずれ込むことがアナウンスされています。そしてまだ、PvPベータの第一回が終わったに過ぎません。肩透かしを食ったとて、「まだ慌てるような時間じゃない」のです。

ピカピカのパッケージを手にとってワクワクできる新作タイトル『オーバーウォッチ2』として、多くのプレイヤーが笑顔でリリース日を迎えられるように祈るばかりです。


《Okano》

「最高の妥協点で会おう」 Okano

東京在住ゲームメディアライター。プレイレポート・レビュー・コラム・イベント取材・インタビューなどを中心に、コンソールゲーム・PCゲーム・eスポーツについて書きます。好きなモノは『MGS2』と『BF3』と「Official髭男dism」。嫌いなものは湿気とマッチングアプリ。

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