日本未発売タイトルが結果的に日本でリリースされるのって嬉しいですよね。ナムコや任天堂などの一部タイトルは、日本において人気シリーズであっても時折海外開発で海外のみに発売されることがあります。
5月16日に、「NINTENDO 64 Nintendo Switch Online」向けに突如配信された、ナムコ(現:バンダイナムコエンターテインメント)のレースゲーム『Ridge Racer 64』(以下、RR64)はその筆頭です。これまで日本のN64では海外版を入手出来ても、ケースの物理的な違いでそのままで差し込めず一手間かかるものでした。
今回は年末年始特集の『リッジレーサー』記事に続き、日本においてこれまで幻だった『Ridge Racer 64』はシリーズ作としてどんな特徴を持っているのか、どんな違いがあるのかの掘り下げを含めたプレイレポートをお届けします。
そもそも『Ridge Racer 64』とは?
本作は元々、北米に拠点を置くNintendo Software Technology(以下、NST)がナムコのライセンスを受けて開発したタイトルで、北米で2000年2月14日に発売されています。2000年当時としても『リッジレーサー』は人気シリーズではありますが、結果的に2025年まで日本未発売でした。
当時のニュース記事によると1999年4月に『RR64』が発表。96年ごろから長らく噂されていたタイトルのようで、N64向けに発売されることに対して驚きを持って伝えられていました。

当時のレビューを複数読んでみると、複数人の対戦モードを含めフレームレートが比較的安定していることや、モーションブラーを搭載していること、独自に設定された当たり判定とドリフトシステムが洗練されていること、そしてN64のレースゲームとして高いクオリティを持っていることが評価点として挙げられています。他にもメモリー拡張パックを用いて画面解像度をVGAサイズにまで拡張する機能を盛り込む予定であったとも語られています。
また2000年6月当時の海外報道によれば、『RR64』の日本発売が計画されていたようですが頓挫してしまったとのこと。筆者の推測ではありますが、『Ridge Racer 64』が00年代において日本向けに発売しなかったのは、速度がマイル表示(mph)で各種ローカライズや調整期間を考慮すると、本作より約3週間後に発売されたPS2向けの『リッジレーサーV』より後のタイトルとなってしまうという間の悪さもありえそうです(翌年にはゲームキューブも発売してしまう)。

そんな経緯がありつつも、25年の時を経て「NINTENDO 64 Nintendo Switch Online」の新コンテンツとして日本向けに配信されたのは感慨深さを覚えてします。
なお開発を担当したNSTは、90年代当時の米任天堂社長である荒川實氏の発案によって1998年に誕生した子会社で、初めてリリースしたタイトルは2000年1月にリリースされたGBC向けの『Bionic Commando: Elite Forces』でした。『マリオvs.ドンキーコング』シリーズの開発で知られるほか、近年では『F-ZERO 99』の開発も担当しています。
本家『リッジレーサー』を踏襲した『RR64』
『RR64』は、基本的にコースやCPU車の挙動を含めてPS版初代と『リッジレーサーレボリューション』(以下、リッジレボ)をベースとし、『R4 リッジレーサータイプ4』や『レイジレーサー』要素も導入しています。
前述の通り本作はNSTが開発していますが、本家『リッジレーサー』のテイストを踏襲しつつも、独自の解釈で過去作コースの外観や挙動を再現しています。

オプションからドリフトの挙動やコリジョン設定を複数選べます。ドリフトは、初代PS版の様に速度低下を抑え長々とドリフトを続けられる「クラシック」と、『レイジレーサー』や『R4 リッジレーサータイプ4』のようなドリフト時に速度低下が起こりやすくもグリップが復帰しやすい「レボリューション」。そしてドリフト時の慣性などを抑えたオリジナルの「RR64」の3種類です。
この「RR64」挙動は、ドリフトを行うタイミングが速くても遅くてもコースの壁に接触せずに曲がれることが特徴です。一方で、ドリフト設定は車種やコースによって相性の良し悪しがあり、グリップやハンドリング性能が高い車種はドリフト時に向きが曲がりすぎるため、車を正面まで回転させやすい「クラシック」が、最高速と加速に優れた車種は「RR64」設定と相性が良いなどの違いもあります。

加えて、コリジョン設定も壁や敵車と接触すると強くバウンドする「レボリューション」と、接触してもバウンドしすぎない「RR64」の2種類があります。特に「RR64」設定は、ほぼ同じ速度の敵車と接触してもバウンドしないためストレスが小さく収まりますが、壁との接触は距離が離れないため連続で当たりやすく速度が下がりがちです。

実際にプレイしてみると、本家のテイストを踏襲しつつN64向け『リッジレーサー』を上手く表現しており、初見での違和感はほぼありません。ドリフトも、アクセルを離しハンドルを切りブレーキorアクセルを再び踏む事で発動出来ますし、ハンドルの挙動もPS版初代と同様に、左右へ入力してから数フレームかけて旋回率が最大になります。
特にグラフィックについては、フレームレートが30fpsほどで動作するものの、環境マッピングやモーションブラーの存在とテクスチャとポリゴン補正により、同世代のゲームとしては整えられている印象です。


それでも、直近の『R4 リッジレーサータイプ4』と『RR64』はコースのデザインを含めて、リアリティの取り扱い方や解釈が違うため単純な比較はできませんが、『R4』の特徴をよく汲み取っておりシリーズ作として遜色ない仕上がりになっているのは確かです。
しかしながら、グランプリが進みコースや敵車が手強くなってくると、接触時などにCPU車が驚くような加速をするなどの補正が目に見えて余る…、という問題点は残念ながら『RR64』でも同じでした。

また新車入手方法は、1クラスを全て攻略した時に各車への挑戦権が与えられ、CAR ATTACKという項目からそれぞれの1vs1レースに勝てば手に入れられます。登場車種は、それぞれ性能に秀でたものもあり、グランプリを攻略するには必須です。
一方で音楽は『リッジレーサー』を意識したものとなっていますが本家のテイストと異なる部分も多い印象です。初見プレイで本家と違う感覚を受けるのは、この音楽からではないかと思う部分です。

本家と描き方が異なる『RR64』のコース達
コースは、初代『リッジレーサー』における初級と中級(シーサイドルート765)・上級(リッジシティ・ハイウェイ)と、『リッジレーサーレボリューション』の初級(サンセットドライブ)と中級(クリスタル・コート・ハイウェイ)、そして上級(EXレボリューションロード)が登場。オリジナルコースに、荒野が舞台のRenegade NoviceとRenegade Intermediate、Renegade Expert、そして都市や舞台のRidge Racer Extremeの4種類があります。
実際にプレイしてみると、コースレイアウト自体は本家とほぼ同じですが、テクスチャや看板を含め所々違う部分が目立ちます。特に背景の建物はその筆頭で、形状そのものも違うものが多くオリジナルのAC版やPS版と見比べてみるとアートワークを含めて『R4』的な表現になっています。








『リッジレボ』ベースのコースは南国のリゾート地から緑が広がる湖畔近くの山岳地帯へと変化。コースへ落ちる木々の影などを見るとリアリティの扱い方は『R4』寄りです。










看板自体は、『レイジレーサー』や『R4 リッジレーサータイプ4』から引用しており、本家にあった他タイトルの紹介看板などはありません。


加えて、本作オリジナルコースを紹介しましょう。このRenegadeコースは、リッジタウンと呼ばれる街の周辺を舞台としたもので、コースの途中にダムが存在しサボテンが生い茂る荒野となっています。



S字カーブや高低差のあるコーナリングなど地形のバラエティに富んでおりほとんどがオリジナルである一方で、一部『R4』の「WONDERHILL」の最終コーナー前のS字カーブを参考したと思えるコーナリングがあったことから、しっかりと直近の最新作を研究しているのがわかります。「WONDERHILL」系コースの特徴であったダムや1回転してコース上の道を交差する場所があったりと、再解釈とアレンジで制作したような印象も受けます。


また、レーススタート直後に反転して壁にぶつかるとミラーコースを遊ぶ事が可能。隠しのスペシャルカーも複数存在し様々な条件から入手できます。



これらの要素を過去作からの引用という視点でまとめると、初代『リッジレーサー』と『リッジレーサー レボリューション』のコースだけでなく、『レイジレーサー』登場の車メーカーや『R4』のレーシングチームの車が存在していることから、図らずも結果的に90年代にプレイステーションで展開された『リッジレーサー』の集大成的な作品になってしまっています。
本家において集大成的作品は、2004年発売の『リッジレーサーズ』まで待たないといけませんが、それより先の2000年に発売されていたのは驚きです。非常に珍しい事例ですが、本家より先に集約してしまったことが『RR64』の特異性を表しているでしょう。


『RR64』で見えてくる『リッジレーサーズ』と『リッジレーサー3D』の立ち位置
『RR64』はシリーズ作のなかでどういったポジションに位置しているのでしょうか。ニンテンドーDSへの移植作となる『Ridge Racer DS』を除くシリーズの中で照らし合わせてみると、本作より後にPSPでリリースされた『リッジレーサーズ』が近い存在であると思えます。
なぜなら、『リッジレーサーズ』でドリフトはコースのラインに沿って曲がると共に速度低下が起こりづらく、壁や他車と接触してもバウンドは抑えられていること、そして過去作コースを新たな解釈で作り直した集大成的な部分も多いからです。
『RR64』の直接的な影響があったのかは不明ですが、共通していると思える部分も多いため、より現代的なものを目指す上では避けて通れぬ調整や施策なのかもしれません。またレースによっては、1vs1のレースを勝利することによって特定車輌を入手できることがあることもその一つです。


他にも、2011年にニンテンドー3DSのローンチタイトルとして発売された『リッジレーサー3D』は、ジーンとバンダイナムコゲームズ(現: エンターテインメント)が開発しているため、音楽や設定を含めて初めて本家のテイストを任天堂プラットフォーム向けに登場させることができた本格的な『リッジレーサー』……、という立ち位置が見えてきます。
『リッジレーサー3D』のゲームそのものは『リッジレーサー7』をよりシンプルにしたようなものでした(ニトロ性能を変えられるぐらい)。3DSの立体視描写を含め音楽や新コースなどゲームそのものの感触は良いものの、グランプリ後半においてCPU車の補正が余りにも強く働くため、残念ながらバランスに欠けた部分も多い作品になってしまっています。
一方で、『RR64』を意識したような荒野のコース「レッドストーン サンダーロード」も登場しており、バンナム開発ではなくとも過去作もしっかりと確認しているという意思表示なのではないかと感じる部分もあります。



高い完成度を誇るが所々惜しい部分もある『RR64』
『Ridge Racer 64』は、当時のナムコよりライセンスを受けて開発されたタイトルですが、アートスタイルやゲームプレイを含めて本家が持つ特徴をよく研究しているため、思った以上に『リッジレーサー』の集大成感が溢れたタイトルでした。
過去作要素の引用やアレンジも引っ張りすぎず誇示しすぎていないため、高難易度であることを除けばシリーズファンが見ても納得できるものとして仕上げているのは流石と言えます。
惜しむらくはCPU車の動きがPS版初代『リッジレーサー』とほぼ同じように直線的にカクカクと動くことや、全体的に高難度に寄せすぎて道が狭くコースを攻略する面白さが小さいことなどです。

様々な事情がありながらも、25年の時を経てようやく日本でも遊べるようになった『Ridge Racer 64』。比較的高めな難易度ですが、「Nintendo Switch Online + 追加パック」でプレイできるため興味がある人は触れてみてはいかがでしょうか。
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