
6月24日に最終回を迎えたアニメ『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』。本作はこれまで「ガンダム」シリーズを制作してきたサンライズと、「エヴァンゲリオン」シリーズを手がけたスタジオカラーがタッグを組んだアニメ作品でした。
シリーズ最初の作品である『機動戦士ガンダム』を引用・再解釈し、そのパラレルワールド的な設定から物語を展開していったこの作品は、これまでのシリーズの中でも異色の立ち位置にあったといえます。

特に、地上波放送と動画配信前に劇場公開された『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』では上記の設定が伏せられていたこともあり、冒頭から繰り広げられる「一年戦争」のIF(もしも)を描いたシーンは、大きな話題を呼びました。
ですが、みなさんはご存知でしょうか。いまから20年前、「一年戦争」を題材にふたつの夢が交わった『ガンダム』作品があったことを。

それがこの『機動戦士ガンダム 一年戦争』です。
バンダイ×ナムコ 夢が、交わる。

『機動戦士ガンダム 一年戦争』は2005年4月7日に発売されたPlayStation2用タイトル。本作はバンダイとナムコによる『ガンダム』ゲーム共同開発プロジェクト「PROJECT PEGASUS」の第1弾として制作されました。このプロジェクトが発表されたのは2004年9月のこと。当時の広報資料によれば、この呼びかけを行ったのはナムコ側からで、その2年ほど前、つまり2002年の時点から水面下でプロジェクトが進行していたことが窺い知れます。
もちろん、『ガンダム』の一年戦争を取り扱ったゲームはこれまでにも数多くリリースされてきましたし、PlayStation2だけに絞っても本作以前に『機動戦士ガンダム』『機動戦士ガンダム めぐりあい宇宙』『機動戦士ガンダム 連邦VS.ジオン DX』という、アニメ版『ガンダム』を原作とするタイトルが3作存在しています。

では、ナムコが開発に携わったことで、本作にはこれまでの『ガンダム』ゲームとどのような違いが生まれたのでしょうか。ここからは当時の報道や資料を参照しつつ、実際にプレイしてその違いを見ていきます。
一年戦争の「体感」に精力を傾けた一作

本作のコンセプトは「一年戦争体感アクション」。以前からある『ガンダム』のゲームと本作を比べた場合、この「体感」の部分に比重を置いた点が大きな違いです。
「メモリアルアクション」というシステムはそれを如実に表した例でしょう。これは特定条件下で原作アニメと同じ行動をプレイヤーが取った場合に、名場面を再現する演出が入るというもの。

たとえば、原作第1話で襲い来るザクをガンダムのビームサーベルが刺し貫くシーンが登場しますが、これと同様にプレイヤーがビームサーベルでザクにトドメを刺せばこのシーンが再現されます。このシステムの良いところは、名場面を再現するかしないかがあくまでプレイヤーの手に委ねられていることです。
原作付きのゲームであるならば、そうしたシーンの再現はファンにとって嬉しい要素なのは間違いありません。しかしそれは往々にしてプレイヤーの操作の手を離れた「鑑賞」になってしまうか、逆にゲームをクリアするための条件になりかねないものでした。

この点で「メモリアルアクション」の発動はゲームのクリア条件とは関係なく、ただミッションをクリアするだけなら問題とはなりません。そして、原作を知っているプレイヤーならば自然と名場面を予測した行動を起こすため、ある種「実績解除」のような副次的なモチベーションとなりえます。また、メモリアルアクションも含めて本作のデモシーンは総じて長さが抑えられており、テンポよくプレイできるのも好印象でした。
先ほど例に挙げた3作を含めて、基本的に2000年代以降の『ガンダム』ゲームは3Dロボットアクションであることが多いのですが、本作には戦艦ホワイトベースの銃座で迫りくる敵を撃ち落とすパートや、侵入してきたジオン兵を拳銃で倒すというガンシューティングライクな要素が入っています。

原作アニメにおいて描かれた人間ドラマがカットシーンやムービーで描かれることはよくみられる手法ですが、本作ではこのように従来と異なる視点や手法を用いて一年戦争を体感させようという試みが見て取れます。

なお、ナムコのガンシューティングゲームといえば『タイムクライシス』を思い出されますが、筆者が広報資料やスタッフロールを見た限りでは、本作にはそれほど関わりがない模様です。ただし、スタッフロールで「ブレイクダウンプロジェクト」の名が見られることから、Xboxでリリースされた主観視点アクション『ブレイクダウン』開発チームのノウハウが活かされているのかもしれません。
活かされるナムコ脅威のメカニズム

こうしたナムコの制作チームや技術が活かされているであろうことは、当時の報道や資料でも盛んに記載されています。実際、スタッフロールに記された名前を調べてみると、『ソウルキャリバー』や『鉄拳』、『エースコンバット』といったナムコの人気タイトルに関わったスタッフが見受けられます。

このほか、技術面については、『ガンダム』のスペースコロニーの再現に『エースコンバット』の地形描画が活用できるというプレゼンを受けたことを、バンダイの常務取締役だった鵜之澤伸氏が当時の発表会(GAME Watch誌)で語っています。

また本作には、宇宙空間でモビルスーツが戦艦に近づいた際に垂直に着艦するというアクションがありますが、これはバンダイ側がナムコにリクエストをしてようやく実現できたという経緯があったと、本作のプロデューサーであるバンダイの堀内美康氏が同発表会で発言しています。なお、このアクションを構成するプログラムだと思しき特許が、2005年2月にバンダイナムコエンターテインメント(発明者として本作に携わったプログラマ3名が記載)から出願されています(現在は特許消滅)。

筆者が本作をプレイしていて特に感じたのは『エースコンバット』からの影響です。たとえば、ミッション中にリアルタイムでストーリーが進行していくという演出は、無線通信を用いてプレイヤーを状況の只中に放り込む『エースコンバット』を思わせます。
「どちらも戦場を題材にした作品なのだから相性が良いのは当然ではないか?」と思われるかもしれません。しかし『ガンダム』は本来アニメ作品であって、明確なストーリーに沿って決まった時間にシーンが展開されます。もし原作アニメを完全再現しようとすれば、プレイヤーの行動を一時停止させ、カットシーンやムービーのみでストーリーを展開させることになってしまいます。

本作はそうしたアニメとゲームの齟齬を解決するために、ストーリーを再構成したうえでプレイとシーンを同時進行させるという手法を採りました。これはゲームプレイ中のストーリーが基本的に一人称で進行していく『エースコンバット』の語り方とも異なる、いわば折衷案ともいえるものです。
分かりやすい例としてミッション16「復活のシャア」を挙げましょう。このミッションには原作の26話と27話の要素が含まれています。ストーリーの大筋としては、慣れない水中戦に苦戦するガンダムと主人公・アムロ、そして戦艦ホワイトベースを降りたカイ・シデンの葛藤とスパイの少女ミハルとの出会いという二軸が描かれています。

プレイヤーが操作し、コントローラー越しに体感するのはガンダムとアムロですが、一方で「一年戦争の体感」を目指す本作は後者であるカイの描写もおろそかにしません。プレイヤーは水陸両用モビルスーツ・ゴッグに苦戦しながらも、戦場へ戻るか否か決めかねているカイの揺らぐ様を、カットインとボイスで同時に体感します。もしアムロ=プレイヤーという単一の時間軸・視点ならばカイの物語は見えてきませんが、こうしてプレイヤーがガンダムを操作している最中も同じ画面上で別のシーンが進行していきます。

ゲームプレイの手を止めないままに別軸のドラマが進行していくというこの手法は、プレイヤーの気分を削がない為の配慮であり、アニメそのままの描写ではないかもしれません。しかしこうしたゲームならではの解決策こそが、原作が本来持っているよさをプレイヤーに伝える手立てになっているのだと、筆者はプレイしていて感じました。

一方で先述したガンシューティングパートは物理的にも認識的にもアムロの主観視点として描かれています。ミッション中にクルーが倒されていく様や、最後のランバ・ラルとセイラの会話をアムロの視点を通して見ていくことで、原作には無かった臨場感が生まれている部分はゲームならでは。ただ、レールライド式に進んでいくためにプレイヤーにそれほど選択の余地がないことや、敵兵の攻撃パターンの乏しさはゲームとしては単調で、ここは少々残念に感じられてしまう点です。
原作の形状を尊重しつつ、落ち着いたトーンと細部に手を加えたグラフィック

本作は、PlayStation2のハードウェアサイクルのなかでも中~後期にあたる2005年にリリースされたこともあり、グラフィックのクオリティが高いレベルにまとまっています。

メカニック面全体の特徴としてはモビルスーツに本作独自のモールド(筋彫り)が追加され、各モビルスーツはくすんだような淡い色合いに調整されています。3Dビューワーでは人間キャラクターはおろか「マ・クベの壺」といったいささか不思議なアイテムまでわざわざモデリングされています。なおこの壺は本編でのマ・クベ撃破時に一瞬止め絵で登場するのみです。


映像面の美しさはモビルスーツだけに留まらず、演出にも活かされています。ミッション「光る宇宙」ではアムロとララァ・スンの邂逅における「きらめき」をプレイ中の画面で表現。最初は捉えられなかったオールレンジ攻撃が、時間経過とともに見切れるような演出が施されています。

ちなみに本作のリリースに合わせたガンプラ(「ガンダム」のプラモデル)として「MG 1/100 RX-78-2ガンダム Ver.ONE YEAR WAR 0079」が発売されています。ゲームオリジナルのデザインとモールドを再現したこの商品は、その可動性の高さも相まって多くのモデラ―から好評を博しました。
馴染みのなかった操作体系、それでも人は変わってゆく

本作の操作体系は2005年当時の「ガンダム」シリーズのゲームとしてはやや異色なものでした。基本的な操作は以下の通り。
左スティック…移動
右スティック…カメラ操作
L2ボタン…ジャンプ
L1ボタン…ダッシュ
R1ボタン…ビームライフル
R2ボタン…ビームサーベル
R3ボタン…バルカン
×ボタン…視点リセット
当時のアクションゲームの多くは前面の〇×△□ボタンを主軸にしていましたが、本作はそれらはほとんど用いずLRボタンがメイン。また、現在の「ガンダム」シリーズのゲームでも比較的よく使われる敵機へのロックオン機能がなく(エイムアシストはあり)、さながらFPSやTPSに近い感覚を覚えます。

こうした操作体系はむしろ現在ではそれほど珍しくなく、20年経った今その特殊性を想像するのは難しいほどです。それでもネット上に残る当時の意見を見ると、LRボタンをメインに据えた操作へのとまどいが少なからず見て取れます。また右スティックと左スティックを用いた操作については、説明書でも「最初はとまどうかもしれません。」と記載されています。

しかし入力するボタンの位置やスティックの使用方法を除けば、本作の操作は極めてシンプルです。この点に関しては現代のほうが分かりやすい部分でしょう。実際、本作以前の「ガンダム」シリーズのアクションゲームと比較してみると使用ボタン数の少なさが目立ちます。前年にリリースされ、複雑な操作が要求された『機動戦士ガンダム 戦士たちの軌跡』(2004,ニンテンドーゲームキューブ)と比べてみるとかなりすっきりしています。

シンプルな操作性や他社との合同プロジェクトという点において、カプコン開発の『機動戦士ガンダム 連邦vs.ジオン』や以後の「機動戦士ガンダムvs.」シリーズは、本作とは好対照なゲームといえるでしょう。『機動戦士ガンダムvs.』シリーズはアーケードライクでシンプルな操作体系を持ったわかりやすさや、対戦ゲームとしての奥深さ、多数の機体が使用できることで人気を博しました。加えて、家庭用移植ではストーリーモードを充実させ、アニメとは異なるIFのストーリーまで楽しめました。

同様に、『一年戦争』でもシンプルな操作が採用されていますが、本作は家庭用機ユーザーに向けて原作の一年戦争を体感させることに注力しています。そのため、複数機体の使用、IFストーリーの展開といったボリュームを広げる要素は絞られています。細かく見れば原作をゲームに落とし込むための丁寧な作りこみがなされているものの、「機動戦士ガンダムvs.」シリーズと比較した場合、地味に映ってしまうのかもしれません。
かつてカプコンで専務取締役を務めた岡本吉起氏のYouTubeチャンネルによれば『連邦vs.ジオン』は当初バンダイからのリリース予定に無いゲームだったと語られています。しかし「ガンダム」シリーズのゲームでも類を見ないヒットを記録し、現在まで続く長寿シリーズとなりました。

一方、『一年戦争』に始まる「PROJECT PEGASUS」は、当初から第2弾以降の展開も視野に入れた、ナムコとバンダイ肝入りのプロジェクトだったことが窺えます。『連邦vs.ジオン』のアーケード稼働は2001年3月なので、広報資料の内容通りなら、おそらくそれより後(2002年頃)にナムコからの働きかけがあったのだと思われます。先述の通り大幅に異なるコンセプトを持つ両作ですが、ある種本作はバンダイにとって第2の『連邦vs.ジオン』だったという見方もできるでしょう。
もしもこのゲームがなかったら――バンダイナムコのオリジンとしての『一年戦争』

ナムコ設立から50年、そして『機動戦士ガンダム』放送終了から25年の節目となる2005年にリリースされた『一年戦争』。その母体となった「PROJECT PEGASUS」のタイトルは現在のところ『一年戦争』1作のみに留まります。2005年5月2日、バンダイとナムコは経営統合を正式発表。同年9月に持ち株会社「バンダイナムコホールディングス」が設立され、その後、現在に至るのは読者のみなさんもご周知の通りです。
実はこの経営統合に至る過程で、本作は少なからぬ役割を果たしています。本作の開発が進められていた2004年12月頃、「ゲームだけでなく本格的な業務提携ができないか」とナムコ代表取締役会長の中村雅哉氏に対して、バンダイ代表取締役社長の高須武男氏が持ちかけていたことを高須氏本人が経営統合会見(ITmediaNEWS誌)で明かしています。

こうして、ナムコからの提案でスタートしたゲームソフトの共同開発が、今度はバンダイから経営統合を持ちかけられる格好になりました。バンダイナムコホールディングス元会長で当時の社長だった故・石川祝男氏が後年語ったところによれば、ナムコも他社との合併や統合を模索し、複数の会社と交渉していたようです。(NIKKEIリスキリング誌)

それから20年。「ガンダム」シリーズのゲームは「バンダイナムコ」となってからも数多くリリースされてきました。本作は決して振り返られることの多いタイトルではありませんが、それでもバンダイとナムコが初めて共同開発した、バンダイナムコの「ガンダム」ゲーム、ひいてはバンダイナムコのゲームのオリジンだったといえます。

『機動戦士ガンダム』の放送終了から45年を数える今年。もはや遠くなってしまったこのオリジンに対し、『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』は一年戦争の「もしも」を描きだすというトリッキーな手法を用いて、現代と『ガンダム』の交差を婉曲的に試みようとしました。
一方で『機動戦士ガンダム 一年戦争』はそれとは逆に、コンセプトからしてIFを避けた、原作に対して保守的な作りの作品だったといえます。ゲームにおける『ガンダム』の再現が一周し、ゲームオリジナルの「ガンダム」たちがバンダイから数多登場する中で、ナムコが提案し、持てる技術を注ぎ込んだ本作がむしろ直球ど真ん中の『ガンダム』ゲームだったのは興味深いことだと思います。

いまとなってはバンダイとナムコが別の会社として存在していたことを想像するのも難しいことでしょう。もしもナムコが『一年戦争』の話を持ちかけていなければ、現在のゲーム業界も、「ガンダム」シリーズもまったく違う道筋を辿っていたのかもしれません。

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※UPDATE(2025/06/25 14:50)記事中の操作説明誤表記を修正しました。コメント欄でのご指摘ありがとうございました。
.※UPDATE(2025/06/25 21:36)記事中の誤字を修正しました。コメント欄でのご指摘ありがとうございました。













