日本の大手ゲーム会社から「FPS」が出ることは多くなく、しばしば「日本はFPS後進国だ」という意見も見られます。しかし、インディーゲームシーンに目を向けると、そうとは言えないほどFPSが多数発売しているのをご存知ですか?
本記事では、日本のインディーゲーム開発者が手掛けるFPSを特集。いますぐ遊べるリリース済み作品から、期待の開発中作品まで、多数ご紹介します。
知っておきたいワード「Boomer Shooter」

本題に入る前に、インディーFPSを語るにおいて欠かせないワード「Boomer Shooter(ブーマーシューター)」というものがあります。これは90年代に登場した『Wolfenstein 3D』『DOOM』『Duke Nukem 3D』『Shadow Warrior』『Quake』といったFPSのスタイルを継承し、現代に再現したゲームジャンルのひとつです。

要素としては以下の物が挙げられますが、それぞれの有無や濃淡は作品によって異なります。ざっくり、「90年代っぽいFPS」と覚えておけば大丈夫です。
レトロなグラフィックスタイル:フィールドは3D、キャラクターは2Dという2.5Dスタイル、もしくはローポリゴン・低解像度テクスチャのグラフィック。
シンプルな射撃システム:00年代以降の作品と比べると射撃周りのシステムが簡易的。ADSがない、リロードがない、など。
豊富な武器種:ピストル、アサルトライフル、ロケットランチャーなど、豊富な武器種を一度に所持でき、好き勝手に切り替えて遊ぶことができる。使い分けが攻略のコツになっているものも。
マップは探索重視:マップは複雑な構造になっており、探索に重きを置いたデザインになっている。カードキーを探すという遊びも多数。
強めのゴア表現:大量の出血はもちろん、バラバラに砕け散って肉片になるなど、強烈なゴア表現がある。
ストーリーは最低限:ストーリーはステージの最初に表示される文字で説明など、最低限。カットシーンなどはほとんどない。


インディーFPSにおいてはこのジャンルの定義をベースとした作品が多く、日本でも人気があります。その影響は90年代の魅力を受け継ぎつつ現代的で爽快なプレイフィールを実現した2016年版『DOOM』から火が付き、作品としては2018年末に登場した『DUSK』や『Project Warlock』がジャンル確立の大きなきっかけとなりました。
無敵のコンボが気持ちいい!『カルトに厳しいギャル -CULT VS GAL-』(リリース済み)


Bhaskara氏の個人サークル、crush-vAdinが開発する本作は、目の下や耳、下などにピアスを開け、黒マスクを着用したインナーカラー入り黒髪ギャル「大獄院・スマッシャー・サキ」が主人公の作品です。ボーカル曲やボイス付きのセリフなど、演出面での豪華さが特徴です。


ゲームプレイとしては上下の概念がなく左右だけで狙うシステムですが、特徴は近接攻撃にあり。カタナはザコ敵を一発で殺せる上、わずかな無敵時間も付与されます。発動後は1秒ほどのクールダウンが発生するため連続での使用はできず、いかに状況に合わせてとっさにカタナを振れるかが攻略のコツとなっていきます。「シャキーン!」という効果音と共に中指を立てるのも爽快です。
本作はSteam版のほか、わくわくゲームズよりニンテンドースイッチ版も発売しました。ゴア表現のトーンダウンなどはあるものの、ミニゲーム追加やEDイラストのリニューアルなどが目玉となっています。国産インディーFPSとしてはおそらく初めてコンソールに進出した作品です。
美少女ゴア&銃器へのこだわりで尖りまくった『The Citadel』&『Beyond Citadel』(リリース済み)

国産インディーFPSでも特に有名なのが、『The Citadel』および『Beyond Citadel』でしょう。本作の見どころは美少女キャラクターの強烈なゴア表現と、銃器操作へのこだわりです。
本作に登場する敵や主人公のほとんどは美少女的なキャラクターですが、他のFPSにおけるモンスターや兵士と同じように倒すことが可能。四肢や頭部の欠損・破裂や身体が内蔵の露出など、かなりハードでグロテスクであり、ダメージ部位によっても表現が変わるというこだわりぶりは見応えがあります。
銃器操作においても、ショットガンを撃ったら1発ごとに排莢しなければならなかったり、リボルバーは1発ずつ弾を込める必要があったりと、多くのFPSで省略もしくは自動で行われる操作をリアルに再現。これにより、より「銃を撃っている感覚」が感じられ、ゲームとしての快感にもつながっています。
日本のほうが一歩早かった!?優雅な殺戮FPS『淀屋橋お嬢様倶楽部』(リリース済み)

先述した『DUSK』は2018年末でしたが、『ネコネイビー』『ニンジャスレイヤー : AREA 4643』などで知られるデスモフモフが開発した『淀屋橋お嬢様倶楽部』は、なんと2017年6月とかなり早い段階に登場しました。

あらすじは、関西最大のセレブリティ倶楽部「淀屋橋お嬢様倶楽部」に訪れた主人公が、女子力を弾けさせてお茶の時間を目指すというもの。宮廷音楽っぽいBGMをバックに、ナタやライフル、ロケランを持ったお嬢様の群れを蹴散らしていくという内容です。屋上に吊り下がったシャンデリアを撃って落下させたり、赤い樽を撃って爆発させたりといった仕掛けもあります。

プレイ時間は15分ほど、リロードや弾数の概念はなし、武器も1種類とかなりシンプルではありますが、「お嬢様」という味付けや肉片飛び散り血液がぶちまけられるゴア表現、スコアアタックなどで個性的な作品に仕上がっています。ふりーむ!にて無料公開中です。
一発一発を確実に当てることが重要。『梯建暗夜(はしごだてあーにゃ)は死なねばならぬ』(リリース中)


とりのプテラノドン氏が開発する本作で撃つのは銃ではありません。主人公である娘の胸には奥深く槍が突き刺さっており、これを射出してダメージを与えることができます。射撃後もふたたび戻ってきますが、クールダウンが長いため一発一発を確実に当てていくのが重要となります。


“死”が消え、禁忌の概念となった世界を舞台に「天使もどき」と呼ばれる存在を狩り、肉を集めるという設定やストーリーも印象的。戦闘中は天使もどきによる語りが入り、最後まで聞くことも、問答無用で殺してしまうことも可能です。boothにて無料DLできます。
ぽっちゃりブタ系女子の慎重&拾い食いFPS『特殊ブー隊』(リリース中)

体格の良いむちむち女子を描き続けるイラストレーター・うとか氏が開発したブタっぽい女子が主人公の本作は、『Wolfenstein 3D』ライクな作品です。本作では複数の敵と同時に戦闘するのは望ましくなく、壁を盾代わりにしながら1人ずつ確実に仕留めていくのが重要となります。


慎重な立ち回りが求められる一方で、なめらかでキビキビした操作感や射撃時のサウンド、敵撃破時のゴア表現など爽快感が重視されているのは魅力的なポイントのひとつ。おにぎりやうどんを拾い食いして回復するというフレーバーも可愛らしいです。ステージを作成し、PNG形式で保存することもできます。Webブラウザにて無料公開されています。
赤白ビジュアル&ずっとポロポロ泣いてる子が可愛い。『ダイバデストラクタ』(リリース済み)

イラストレーター、胡籙ユギ氏が開発した本作は、『DOOM』や『Wolfenstein 3D』よりも前の『Catacomb 3-D』(1991)のようなゲームプレイと公称する作品です。舞台は西暦4078年の東京・お台場で、かつて世界征服をした悪の秘密結社・トウバ暗黒機関が推し進める東京湾再開発計画を邪魔する脱走魚介系改造人間を倒していくというものです。

ゲームプレイは迷路状になったマップを探索して、近接武器と遠距離武器を使い分け、敵を倒していくというもの。敵はロブスターやマグロで、倒したら刺し身になるのが面白いですね。

作戦に失敗したら爆発する首輪を付けられ常に画面右下でポロポロと涙をこぼしている主人公・甘エビ怪人エビストロガス(芸名)の可愛らしさや、赤白で統一されたデザインなど、ビジュアル的な見どころもあります。itch.ioにて無料配信しています。
カードの管理はリソース管理!『Card Eater』(開発中、アルファ版公開中)

池田明平氏が開発する本作は、デッキ構築型ローグライトとFPSを組み合わせた作品です。敵を倒すとカードプールから手札を入手でき、それを食べることでピストルやショットガン、爆弾などに変化します。


敵を倒すと新たにカードを引けますが、カードには弾数が設定されているため、的確に当てていかなければならないのがミソ。ショットガンは近距離で撃ったり、爆弾は複数体まとめて潰したりと使い所を考える楽しさもあります。ステージをクリアすると、追加で手札に入れるカードを入手できます。現在アルファ版がitch.ioにて公開中で、正式版はSteamにてリリース予定です。
魔法少女×銃のギャップが良い。『魔法少女バリスティック響』(開発中、体験版公開中)


魔法少女が主人公のローグライトFPSです。エリアをクリアするごとに基礎能力の強化や武器を入手することができるという鉄板な作りですが、不気味な敵キャラクターと、水色髪にピンクリボンの可愛らしい魔法少女が銃を抱えたギャップも魅力的です。

マップは完全に自動生成で、ビル街のような場所が生成されます。ハンドガン・ライトマシンガン・サブマシンガンなど武器種も豊富となっています。現在開発が進められており、体験版がitch.ioにて公開中です。
中年→美少女兵士のTSもの!タイトル不明(開発中)
イラストレーターの我慢氏が開発中のFPSは、銃器のアニメーションや構造、アニメーションへのこだわりが光る作品です。最新の開発進捗では、敵をスキャンしたら壁越しに透過できるようになるという機能も紹介しています。
主人公はもともとイカした中年でしたが、 不可逆脳移植で女性の身体になったという設定がある模様。下を向くと自身の胸が見えるという演出に『The Citadel』からの影響を感じさせますが、プレイヤー視点は視界共有で画面を見ていて、つい胸を見てしまう……というTSものという設定を活かしたフレーバーも構想しているようです。
巨大メカ娘の市街地戦!『最終回収SQUAD』(開発中)


サンフィッシュくまの氏が開発し、わくわくゲームズが発売を予定している本作は、限られた数のみ残された全高12mの自律人型駆動体「CogrinaUnits」を操作する作品。限られた装備と残機で市街地を蹂躙する巨大なエイリアン兵器を破壊し、残された防衛兵装を回収していくというあらすじです。


赤・黒・白とパッキリ分かれたビジュアルも見どころで、画面写真や動画はいずれも画として映える仕上がりで、市街地戦ならではの特撮的なダイナミックさも感じられます。主人公は人型でありながらメカ的なカッコよさも表現しています。2025年内にSteam/ニンテンドースイッチでの発売を予定しています。
弾幕避けにバレットタイムを活用!『LAYERED ORDEAL』(発売中)
ここからの3本は「ブーマーシューター」ではありませんが、いずれも日本で開発された個性の強い作品です。ゲームサイト&YouTubeチャンネルのゲーミングチャイルドを運営するメンバーのひとり、UnKnown氏が開発した本作は、自分が静止している間は時間がスローになるというバレットタイムFPSです。


『SUPERHOT』的な1対多の戦闘ではなく、ボスが出してくる激しい弾幕を避けながら高速移動する光るコアを撃ち抜くという遊びにフォーカスしており、動きを止めるタイミングやコアを視界に捉えるのが非常に重要です。プレイするほど溜まっていくお金を使えば移動速度や連射速度、体力などを強化可能で、ローグライトではないためリセットされないのも嬉しいポイントです。


アートが優れており、ブルータリズム的なコンクリート空間から地下駐車場や下水道といった閉鎖的な空間まで、見応えのあるビジュアルは非常にクール。Steamにて配信しています。
ハードな銃撃戦を手軽に楽しむ『HOLE』(発売中)

どこかからひたひたと聞こえる足音…突如炸裂する銃声…死角をクリアリングしていく慎重なプレイ…NEGA FISH氏が開発した本作は、リアルなハードコア系FPSの面白さを汲みつつもシンプルかつカジュアルにまとめあげた作品です。


マップに出撃し、アイテムやお金を稼いで拠点に帰るというPvPvE脱出シューターのようなゲームサイクルで、使える武器やマップを拡充していく楽しさを持ちつつも、完全シングルプレイで楽しむことができます。ジャム(弾づまり)が銃撃戦のスパイスになっていますが、複雑すぎないほどよいリアルさが魅力的です。Steamにて配信中です。
きらきらした部活青春FPS!?『シューターズ レディ!』(発売中)

FPSといえば兵士が主人公のことが多いですが、本作は女子学生の部活もの。なかがわかなて氏のサークル「おこめたべたべず」が開発する本作は、射撃訓練所のような場所でいかに早くマップを進み、的を撃ち抜けるかという競技に特化しています。


ストーリーモードでは、部活青春ものらしい胸熱でときにウルッとくる物語が楽しめるほか、アーケードモードでは成長要素を盛り込みやり込み要素を強化。血生臭いシューターとは一味異なる、青春と汗の香りが漂う爽やかな作品です。Steamで配信中です。
作ってみたくなった?制作キットも国産あり「PythonRetroFPSkit」
個性豊かな作品たちを見て、創作意欲が刺激された読者の方々もいるかもしれません。開発きっとにも国産が存在し、『梯建暗夜(はしごだてあーにゃ)は死なねばならぬ』の開発者・とりのプテラノドン氏がitch.ioにて「PythonRetroFPSkit」を配布しています。
このツールでは、「ブーマーシューター」的なレトロFPSが制作可能。チュートリアルも公開されているので、誰でも作ってみることができます。スーツ姿のお姉さんが主人公のサンプルゲーム『底なしアスファルトの救世』も収録されています。
以上のように、日本で作られているインディーFPSは非常に強い個性を持っているものが多く見られます。傾向としては女性・美少女キャラクターを採用している作品が多いのが特徴的といえますが、いずれにも言えるのは既存の作品よりなにかが抜きん出た要素が見られることです。毎年面白い作品が登場しているインディーFPSですが、個性豊かな日本生まれの作品たちからも目が離せません。
記事制作協力:株式会社ヘッドハイ 一條貴彰氏(@ttwcodeout)
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