自動生成やパーマデス(一度死ぬとすべてを失う)など、さまざまな要素が絡み合い、何度遊んでも楽しむことのできるゲームジャンル「ローグライク/ローグライト」。今回の「げむすぱローグライク/ローグライト部」第31回では、ウクライナに拠点を持つFlat Labが開発し、Gamersky Gamesが販売を手がけるデッキ構築型ローグライト『忍び寄る恐怖:クトゥルフ選集』をご紹介します。
『忍び寄る恐怖:クトゥルフ選集』とは

タイトルで既に理解された方も少なくないかと思いますが、本作はアメリカの作家H.P.ラヴクラフトが20世紀に創作した「クトゥルフ神話」の世界観を用いたゲームです(「クトゥルフ」という単語や作中用語には訳者により日本語表記に多数ブレがありますが、本記事ではゲーム準拠の表記を行う事をご了承ください)。
なお本作の原題は『Menace from the Deep』(深きものの脅威)であり、「クトゥルフ選集」という副題はありません。しかしながらSteamで「クトゥルフ選集」で検索すると複数のパブリッシャーがこの副題を冠したゲームをリリースしており、異なるパブリッシャーでもクトゥルフ神話ベースのゲームの邦題に「クトゥルフ選集」と付けようという日本語ローカライズの方針があるのかもしれません(そもそも「クトゥルフ神話」自体がH.P.ラヴクラフトだけでなく、多数の周囲の作家を巻き込んだシェアード・ワールド作品であるという側面もあります)。

話をゲームに戻しましょう。本作の舞台はインスマウス市(ゲーム原文ママ)。この寂れた町でなかば放置されていた博物館をとある富豪が買収したところから、物語は始まります。

そして富豪の手により博物館の整備が行われるのですが……ある日、天災によりせっかく整備した博物館が再び崩れるという憂き目に遭います。

そして、いつの間にか外の様子がおかしいことに一行は気付きます。街の人々は敵対的になり、異形のモンスターが溢れる地にいつの間にかインスマウス市は変貌していたのでした。このインスマウス市の現況を調査するため、エージェントが雇われました。

その調査エージェントこそが、プレイヤーが操作するキャラクターです。初期状態から使える探偵、一部施設の解禁で使えるようになる教授・邪教徒、そしてDLC購入で使えるミュータントの4つの職業から1つを選択し、異形と狂気の巣と化したインスマウス市の探索に挑みます。

本ゲームの戦闘自体は、『Slay the Spire』に代表されるデッキ構築型ローグライトゲームとルールはほとんど変わりありません。毎ターン3ポイントのコストが配られ、カードに記載されているコストを払ってカードを使い、敵にダメージを与えたり掠め手を使ったりして敵を倒していく……という内容で、この系統のゲームを遊んだことがあればすぐにルールを理解できるでしょう。

しかしながら、本ゲームがユニークなのはステージ構成です。本作も多くのデッキ構築型ローグライトと同様、全3ステージの構成で終点に強力なステージボスが待ち受けるという点は同じですが、そこに至るまでのルートがこの手のゲームによくあるツリー状の構成ではありません。
ではどのような仕組みになっているのかというと、画面下に置かれているイベントデッキの上からカードを1枚選ぶことで次のイベントを選ぶ……という仕組みになっています。イベントカードには敵との戦闘はもちろん、ランダムイベントの発生する「遭遇」「未知イベント」、貴重なレリックやレアカードが得られる「博物館」、HP回復・カードのグレードアップ・カードの削除ができる「モーテル」、カードやレリックや装備品が買える「商人」など、多彩なカードが用意されています。これらを規定枚数消化することで、ステージボス戦へとたどり着くわけです。

ユニークなのが「精神病院」の存在で、本作ではクトゥルフ神話題材のゲームとしてはお馴染みの正気度……ならぬ「理性」が各キャラクターに用意されています。一部のザコ敵・エリート敵・ボス敵はこの「理性」に対して直接攻撃を行ってきます。失った「理性」は基本的に「精神病院」で有料セラピーを受けるか、最大HPを犠牲にして鎮静薬を打つかでしか回復できません。

なお「理性」を完全に失うと、発狂してしまいHPがどんなに残っていようがゲームオーバーとなります。いわゆる「SAN値直葬」というやつですね。理性が減ってくるとどんな画面においても画面上に何らかの幻影が見えることがある……という演出もあるので、理性は常に高く保っておくに越したことはありません。

なおもう1つ本作の珍しい概念として、「燃料」の存在があります。本作ではインスマウス市を車で探索しているという設定であり、ステージでイベントカードを使用するたびに燃料残量が減っていきます。燃料は「ガソリンスタンド」で補給できるのですが……燃料が尽きると移動できなくなり、そのまま行方不明扱いでゲームオーバーです。戦ってHPが尽きて死んだりSAN値を失って発狂したりするよりある意味情けないゲームオーバーなので、常にガソリンスタンドに行ける準備を整えておくことは重要です。

無数の調査エージェントたちの犠牲の上に、より深まっていくインスマウス市の謎。はたしてこの街には何が眠っているのでしょうか?そして人々たちの運命は、いったいどうなってしまうのでしょうか?
積み重ねはローグライトのしもべ也。選ばれし旧神が敵ですよ

さてここまで紹介してきた本作、名状しがたき恐怖で知られるクトゥルフ神話をベースにしているだけあって、全体的に敵は不気味で恐怖感が強く、ゲーム開始直後はかなり難易度も高いです。

しかしながら、本作は「ローグライト」です。ローグライトの魅力の1つとして、「プレイを繰り返して少しずつ強化要素を積み重ねて遊びやすくなっていく」という点があります。本作ではキャラクターがやられてしまっても、それまでに得た「恐怖」がいわゆる経験値となり、これを集めることにより徐々に強力なレリックやカードがアンロックされていきます。

また、ゲームが進むと「施設の強化」ができるようになります。これはゲームプレイ中に「倉庫」イベントなどで取得した素材を使って施設を強化することで、プレイヤーにさまざまな永続的メリットをもたらすというもので、この施設強化を繰り返すことによってもゲームの攻略難易度は少しずつ下がっていきます。

本作は他のデッキ構築型ローグライトと違って、初期デッキの種類が各職業につき6種類とかなり豊富です。アンロックも比較的早いうちにできるので、多くの戦術を試せるのも本作の魅力です。

また、本作の特色として「カードのグレードアップが熟練度制」という点も挙げられます。一般的なデッキ構築型ローグライトでは休息ポイントでカードを1段階のみ強化できる……というものが多いですが、本作はカードを使用することでカードに熟練度が加算され、熟練度が一定に達すると戦闘後にカードをグレードアップすることができます。またカードに複数のグレードアップ段階や進化分岐が用意されているものもあり、この選択には大いに悩むことになるでしょう。
なお、カードが熟練度でグレードアップするという事はデッキのカード枚数が少ない方がカードの回転率が高くなり、結果としてカードの熟練度蓄積速度も高まる……と、デッキ圧縮が他のデッキ構築型ローグライトに比べてより重要になっています。本作は商人イベントやモーテルイベントで任意のカードを削除しやすい設計になっているのも、このデッキ圧縮の重要性を見据えた仕様だと筆者は思っています。

各レリックにはセット属性があり、同じセット属性の3つのレリックを揃えると強力なレジェンドレリックが手に入る(ついでに実績も解除される)のもやり込みポイントです。

プレイを繰り返すたびに物語の登場人物の真実に迫る手がかりが見つかるという要素もあります。なぜ彼らはインスマウス市に集ったのか……それを解き明かすのもプレイヤーの目的の1つです。


はたして、「深きものども」に人間が挑むことは可能なのでしょうか。そして無数のエージェントたちの探索の積み重ねの跡には、いったい何が残るのでしょうか。この物語の結末は、是非ともあなたの目で確かめてみてください。
『忍び寄る恐怖:クトゥルフ選集』は、PC(Steam)にて2,200円で配信中です。












