
今や日本を含め全世界で人気の音楽ジャンルである「HIPHOP」。HIPHOPを構成する4大要素として、「DJ」「MC」「グラフィティ」「ダンス」があり、その中で最も重要なエレメントが「MC=ラッパー」です。
読者の皆さんは、ラッパーという存在にどんなイメージがあるでしょうか。近年では、見た目も言動も常識的で普通の社会人っぽいクリーンなラッパーも増えてきましたが、やはり「イカつい」とか「悪そう」とか、ギャングスタ・ラップのイメージが未だに根強く残っていますよね。まぁそういう不良文化的な側面も確かにありますが。

今回は、そんな凶暴なイメージの「実在ラッパー」たちが多数登場する『Def Jam: FIGHT FOR NY(デフジャム:ファイトフォーニューヨーク)』をご紹介します。マイクを握りラップゲームを勝ち上がっていくのが本来の姿ですが、なんと本作は「拳」で殴り合い、ストリートファイトで金を稼いで成り上がっていく対戦格闘アクションゲームです。
本作のゲームプレイの面白さをお伝えすると同時に、2000年代におけるHIPHOPの在り方はどんなものだったのか、さらに日本版『デフジャム』を作ったら誰が参戦するのか?という妄想も一緒にご紹介します。
◆“なんでもアリ”の格闘アクションとカスタム要素が面白い!

本作は、最大4人での対戦も可能な格闘アクションゲームで、PlayStation 2向けに2004年リリース(国内版は2005年)。アメリカの名門ヒップホップレーベル「デフジャムレコード(Def Jam Recordings)」と、「エレクトロニック・アーツ(EA)」とのコラボレーションの第二作目であり、開発は『バーチャル・プロレス』シリーズで有名な日本のメーカー「AKI Corporation(現・株式会社シンソフィア)」が担当しています。

最大の特徴は、なんと言っても実存するラッパーたちを操作して戦えるということ。スヌープ・ドッグ、メソッド・マンなど、ビッグネームが多数参戦しており、なんと総勢69名。しかもゲーム内で流れるイケイケの楽曲は、すべてDef Jam所属のアーティストのヒット曲ばかりという非常に贅沢な仕様です。


こうしたアーティストや芸能人とのコラボは、いわゆる「タレントゲーム」として出来が怪しげなモノが多く、“クソゲー”の代名詞でしたが、本作は例外です。コマンド技など複雑な操作はなく、簡単な操作で豪快な攻撃を出せる攻撃システムや、打撃防御や掴み防御を状況にあわせて上手く使っていくガードシステムのおかげで、簡単ながら戦略性の高い駆け引きが楽しめる対戦ゲームとなっています。

また「キックボクサー」「ストリート・ファイター」「マーシャル・アーツ」「レスリング」「サブミッション」など、5つのファイティングスタイルから選択します。加えて、最大2つまで他流スタイルも習得可能で、たとえばマーシャル・アーツは多彩な攻撃ができる反面パワー不足なので、レスリングでそれを補うなど、スタイルを自由に組み合わせられるため、戦い方がそれぞれ異なることも面白い点です。


さらにバット、割れビン、鉄パイプを使った凶器攻撃や周りの観客まで利用した「ルール無用の何でもアリなバトル」は痛みが伝わってくるような生々しさがあり、まさにHIPHOPの持つ「リアルさ」が感じられます。また、パンチやキックなどを決めて「ブレイジング・ゲージ」がMAXになれば、超サイヤ人化して敵にトドメを刺せる「ブレイジングモード」が発動します。この超必殺技に近いド派手なアクションをキメられるのも魅力の一つです。


そして、豊富なキャラクターカスタマイズ機能も非常に魅力的。ジャケットやアウター、パンツ、スニーカーは言うまでもなく、チェーンやリング、バンダナ、グローブなどのアクセ類やイカしたタトゥーまで、さまざまなモノが用意されており、「ブリンブリン」なイケてるキャラをクリエイトできます。ただし揃えるのにかなりマニー(Money)が必要ですが……。とにかく、本作はプレイヤー自身が一人のラッパーとして(手段を違えど)成り上がっていく過程を追体験できるゲームなのです。

ただし、ゲーム中のロード時間がやたら長くてテンポが悪かったり、各技のダメージバランスが偏りすぎていたり、欠点もたくさんあります。とはいえ、全体的に完成度の高い良作格闘ゲームであり、『デフジャム』シリーズの中でも特にオススメの作品です。


◆スヌープ、メソッド・マン、プロディジー…豪華ラッパーたちが全員集合

では、ここで本作『Def Jam: Fight for NY』に登場する主なラッパー5名の経歴と、筆者が独断で選んだそれぞれの名曲をご紹介いたします。
まず1人目は、アメリカNY出身のラッパー兼俳優でもある「Method Man(メソッド・マン)」です。彼は言わずと知れた90年代を代表する伝説的HIPHOPクルー「Wu-Tang Clan(ウータン・クラン)」のメインMCであり、ソロ活動でも1995年にグラミー賞を獲得するなど類稀な才能を有するラッパーです。

作中においては、主人公の属するクルーの一員「Blaze」としてストーリーモードに登場します。もちろんファイターとしてプレイアブルなキャラで、アンロックの必要はなく最初から使用可能です。各種パラメーターを見ると、タフさはあるがスピードが遅い設定になっており、サブミッションやレスリングなど組技系のファイティングスタイルが最適でしょう。
そして肝心の曲ですが、筆者的には1994年にリリースされた1stソロアルバムからの一曲、「Bring The Pain」です。王道的なブーンバップで構成された煙たいビートですが、単音のピアノがアクセントになっているのと、中盤のフックでレゲエ感のある歌唱を挿入しているのが特徴的。めちゃくちゃかっこいい一曲です。

2人目は、米ニューヨーク・ブルックリン出身のラッパー「Busta Rymes(バスタ・ライムス)」です。スキンヘッドに筋骨隆々のイカつい身体と全身のタトゥーが特徴的。どこか憎めないお茶目さも持ち合わせています。
バスタは、作中では敵のギャングリーダー「Magic」として戦うことになりますが、もちろんファイターとしても使用可能。キック力とスピードは劣るものの、パンチ力と体力がずば抜けているキャラです。
選曲したのは、本作品のBGMとしても視聴可能な2001年のアルバム「Genesis」からの一曲「Make It Hurt」です。ドラムンベースのハイテンポなビートに、まくし立てるようなバスタのラップが染み込んだキャッチャーな曲ですが、個人的には1996年の「Do My Thing」も好きでした。

さて3人目は、米ニューヨーク出身の「GHOSTFACE KILLAH(ゴーストフェイス・キラー)」です。メソッド・マンと同じくウータン・クランのメンバーであり、韻が固く力強いラップを得意とする正統派ラッパーです。作中では、チャイナタウンに登場する敵クルーのボスとして立ちはだかります。
筆者がとくに好きなのは、ウータンの総帥RZAをフィーチャリングした「Nutmeg」で、2000年のアルバム「Supreme Clientele」からの一曲。60年代の黒人ソウル歌手エディ・ホルマンの「It's Over」をサンプリングした王道のブーンバップですが、メロウさと切れ味鋭い両者のラップの温度差が素晴らしいクラシックです。

4人目のファイターは、黄金期90年代を代表するHIPHOPデュオ「MOBB DEEP(モブ・ディープ)」のひとり、「Prodigy(プロディジー)」というラッパーです。米ニューヨーク・クイーンズの出身であるProdigyは、独特なバンダナ姿、指先まで入れたタトゥー、ティンバーランドのブーツなど、楽曲はもちろんのことファッショナブルで最高にカッコ良く、当時は憧れたものです。残念ながら、2017年に42歳という若さで逝去したのですが、HIPHOPカルチャーに残した足跡と影響は計り知れません。
ちなみに、相方の「Havoc」もプレイアブルキャラとしてしっかりと登場しています。
今回選んだのは、2000年のソロアルバム「H.N.I.C.」からの一曲、「Wanna Be Thugs」です。MOBB DEEPの3rdアルバムまで持っていたコアな雰囲気を再現するかのような、ミニマルかつ美しいストリングスをサンプルしたビート上で展開するシリアスでダークな世界観が極めてカッコいい。必聴です。

最後5人目は、もう説明不要だと思います。スヌープおじさんこと、「Snoop Dogg(スヌープ・ドッグ)」はアメリカ西海岸を代表するラッパーです。HIPHOPに興味ない方でも名前くらいは聞いたことがあるかと思います。作中では、「Crow」というキャラクターで大ボスとして登場します。パラメーターを見ればわかりますが、全体的に数値が非常に高く設定してあり、“ぶっ壊れキャラ”としてファンの間では有名です。
はい、今回選んだのは超有名な「Gin and Juice」です。筆者的にスヌープ・ドッグというラッパーは、もちろんギャングスタ・ラップ草創期に大きな影響を与えた人物であるのは認めますが、葉っぱばかり吸っていて、「HIPHOPカルチャー」にあまり貢献していないイメージがあるので、正直昔から好きになれないラッパーです。
◆2000年代のHIPHOPを取り巻く状況
さて、ここからは本作が発売された頃の「2000年代のHIPHOP」について簡単にご紹介します。
まず流れとして「HIPHOP」という文化は1970年代のニューヨーク・ブロンクスで産声を上げ、ストリートカルチャーとしての精神を持ちながら、音楽、ファッション、アート、そして社会運動と深く結びつきながら進化してきました。80年代には商業的成功を収め特にアメリカ社会に広く浸透、90年代においては、いわゆる「ギャングスタ・ラップ」が台頭し、東西抗争など激動の時代を迎えます。
そして2000年代に入ると、Ludacris(リュダ・クリス)やKanye West(カニエ・ウェスト)などがポップスやR&B要素を取り入れ、全米的なポピュラー音楽となります。90年代の反抗的なサブカルチャーというイメージから脱却し、メインストリーム文化として確立され、音楽の多様化とグローバル化が加速していくのです。
こうしたHIPHOPのメインストリーム化は、世界的な人気を獲得する一方、過度なビジネス化を促し「金」「薬物」「暴力」がすべて、と言わんばかりの物質主義的な価値観に支配されていきました。つまり、HIPHOPというアートフォームが本来持っていた芸術性や精神性が徐々に失われつつあった時代であるとも言えるでしょう。もちろん、CommonやLittle Brother、Talib Kweli、筆者が大ファンであるMF DOOMのユニットMadvillainなどコンシャスかつスキルフルなラッパーもたくさんいましたが、その傾向は強まっていくばかりでした。
2010年代においては、特にTrapやDrillという新たな潮流によって生まれた、Lil Uzi Vert、Lil Yachtyなどのいわゆる「マンブルラップ」は物質主義的な時代を象徴する落とし子のような現象で、古参HIPHOPファンから多くの否定的な意見が見られました。
そんな2000年代以降から続く状況の中、HIPHOP界の救世主的存在として現れたのが、コンプトン出身のラッパー「ケンドリック・ラマー」です。詳しい経歴は割愛しますが、ドレイクとの壮絶なビーフやスーパーボウルでの圧巻のパフォーマンスなど、その活躍ぶりと圧倒的評価から「現代最高峰のラッパー」と称されています。
2024年にリリースしたアルバム「GNX」中の一曲「Reincarnated」は、文字通りケンドリック自身が数多のアーティストに「生まれ変わり」ながら、HIPHOP業界が歩んできた歴史について痛烈にラップし、物質主義を批判しつつもこれからのHIPHOPに希望を見出した必聴の大作。トラックは、彼が敬愛するトゥパックの「Hit 'Em Up」なのも素晴らしい。
そんなケンドリックに触発されたのか、Pusha TとNo Maliceのユニット「Clipse」や、レジェンドGHOSTFACE KILLAHなど、2000年代に活躍した多くのラッパーたちが再始動し始めていることにも注目です。
◆もしも日本版「Def Jam:FIGHT FOR TOKYO」を作るなら?

本作は海外を中心に現在でも根強い人気があり、多くのHIPHOPファンが続編を熱望しています。そのため、新作の噂がまことしやかにネットに流れては消えていくのですが、2018年には本家Def Jamの公式Xで「次の舞台はどこがいい?」と新作を匂わせるポストを投稿。しかし結局、2025年現在まで実現に至らず、という経緯があります。
筆者としては、やはり日本が舞台の「デフジャム:ファイトフォー東京」をガチでやってみたいものですが……まあ夢のまた夢でしょうね。
ということで、「もしも日本版デフジャムを作るなら」をテーマに、個人的にファイターとして参戦して欲しい日本のラッパーをご紹介して本稿を締めたいと思います。なお選出基準は、年齢や経歴などは特に制限は設けてはいませんが、ラッパーとして活動していること、リアルで喧嘩が強そうなこと、キャラクターに華があること、などを考慮し独断と偏見で選考しています。
①YZERR(BAD HOP)
神奈川県川崎市出身のラッパー/プロデューサー。2024年に惜しくも解散してしまった「BAD HOP」の中心的メンバーで、同じくラッパーのT-Pablowは双子の兄弟でもあります。
そのリアルサグでワイルドすぎる経歴や数々の逸話、ファッション性やカリスマ性、そして「BAD HOP」を成功へと導いたその手腕と功績…などなど、間違いなくスター的存在です。何より、めちゃくちゃ喧嘩が強そうなところがファイターとしての資質がありそうなので選出しました。ファイティングスタイルは、もちろん「ストリート」でしょう。
②BADSAIKUSH(舐達磨)
埼玉県熊谷市を拠点とするコレクティブ「APHRODITE GANG」のリーダーであり、G PLANTS、DELTA9KIDの3人からなるHIPHOPグループ「舐達磨」の中心的ラッパー。
逮捕と出所を繰り返していたというハードコアな経歴、ヤクザ顔負けの全身に刻まれた和彫りなど、とにかく圧倒的な存在感と「華」のあるキャラクター性から選出。BAD HOPとのビーフも記憶に新しいですが、その旺盛な反骨精神はファイターとして非常に魅力的です。実際に喧嘩が強いのかは不明ですが、最適なファイティングスタイルは「キックボクサー」でしょうか。
③漢 a.k.a GAMI(MSC/9SARI GROUP)
東京都新宿区を根城に活動するHIPHOPクルー「MSC」のリーダーであり、レーベル「9SARI GROUP」の主宰でもあるラッパー/実業家。
言わずと知れた「フリースタイルダンジョン」初代モンスターで、ラッパーとしてのキャリア、技術、雰囲気等含め唯一無二の存在です。ご存知の通り、そのイカつい風貌や腕っぷしの強そうな体格は、ファイターとしての資質が十二分にあることが伺えますよね。登場すれば、1、2を争う人気キャラになりそうです。ファイティングスタイルは、やはり「レスリング」が最適だと思います。
④K-BOMB(THINK TANK/BLACK SMOKER)
1997年、BABA、JUBE、NOX、DJ YAZIと、HIPHOPクルー「THINK TANK」を結成し、2000年にはTHINK TANKのレーベル「BLACK SMOKER」を設立したラッパー/トラックメーカー。“KILLER BONG”、“THE LEFTY”など、活動内容によって複数の名義を使い分けることでも有名です。
古くからシーンで活躍しており、コアなHIPHOPファンならばご存知かと思いますが、筆者は高校生の時から大ファンでした。一貫して素顔を明かさない神秘性、アングラな雰囲気、そして180cmを超える体格の良さから、ファイターにいると面白そうです。ファイティングスタイルは、「マーシャルアーツ」の使い手であるイメージがあります。
⑤iLL-BOSSTINO(THA BLUE HERB)
北海道札幌市を拠点に活動を続ける、トラックメイカーO.N.O、DJ DYEの3人からなる一個小隊「THA BLUE HERB(ザ ブルーハーブ)」のメインMC。アブストラクトで複雑なビート、哲学的とさえ言える深いリリック、反東京=反権威を掲げた攻撃的なアティチュード……“ブルーハーブ以前/以後”と形容されるほど革新的なHIPHOPグループであり、個人的に筆者が最も影響を受けたラッパーです。ライブDVD「演武」は今でも宝物。
さて、そんなBOSSをファイターとして考えるとどうなるのか。まず、身長180cm台のガタイの良さは攻撃力が高そうですし、ポジティブで熱い人柄、そしてリリックの1バースに3日熟考する粘り強さは防御力もきっと高いはず。最適なファイティングスタイルは、「サブミッション」でしょうか。ぜひとも参戦して欲しいラッパーの一人です。
⑥SEEDA(SCARS)
東京都練馬区出身のラッパー。元々ソロで活動していましたが、2003年にはハスリングラップの先駆者でもあるHIPHOPクルー「SCARS(スカーズ)」に加入。後に自伝的映画にもなった2006年の傑作アルバム「花と雨」は特に著名で、筆者は大学時代によく聴いていました。
そんな経歴を持つSEEDAですが、鼻っ柱の強そうな顔を見るとリアルファイトもかなりイケそうな雰囲気です。小柄なのがファイターとして弱点になりそうものの、「ストリート・ファイター」スタイルで縦横無尽に戦ってくれそうです。
こうして様々なHIPHOPにまつわるトピックを見てきましたが、いかがだったでしょうか。アーティストや芸能人を起用したキャラ物ゲームはどうしてもクオリティがイマイチな場合も多々ありますが、本作は格闘ゲームとしてしっかりと作り込まれているため本当に面白い作品です。「日本版デフジャム」の妄想を膨らませつつ、新作を気長に待ちたいと思います。「コイツに参戦して欲しい!」というラッパーがいたらぜひコメント欄で教えてくださいね。













