ルネサンスから大航海時代を経て市民革命に至る約500年間の歴史を政治・経済・外交・軍事すべての側面から全世界規模で体験できる破格のストラテジーゲーム。それが『Europa Universalis V』です。前作『Europa Universalis IV』から実に12年ぶりとなるファン待望のシリーズ最新作は2025年11月5日にParadox InteractiveよりPC(Steam)向けに発売予定です。

世界史をテーマにしたストラテジーゲームと聞いて、難しそうだからと敬遠する方がいらっしゃるかもしれません。確かに、歴史的背景や複雑なルールを理解するのは簡単ではありません。しかし、本作には一度ハマれば数千時間かけても遊び尽くせないほどの奥深さがあります。この底知れない魅力こそが世界中のファンに愛され、ここまでシリーズを重ねてきた最大の理由でもあります。
かく言う筆者も本シリーズに魅せられた者の一人です。前作のプレイ時間は優に4,000時間を超え、有志翻訳にも参加し、自作Modまで公開していました。本作のためにわざわざPCを新調し、万全の態勢で待ち構えていたところに降って湧いたのが今回のレビューの仕事です。発売前にゲームをプレイできると聞いて二つ返事で飛びついたのは言うまでもありません。果たして筆者の目に本作はどう映ったのでしょうか?

本稿では『Europa Universalis V』がシリーズ後継作として相応しいか、そして純粋にゲームとして面白いかを評価します。1ページ目ではシステム全般の紹介、2ページ目では歴史小説風のプレイレポート、3ページ目では不満に思う点を取り上げ、最後に総合評価を行います。興味のあるページから読み進めてください。
本稿の執筆にあたってはメーカーより開発版の提供を受けています。製品版とは仕様が異なる場合がありますのでご注意ください。
本作は日本語への正式対応が予定されています。しかし、開発版の翻訳品質は極めて低く、日本語版ではゲームの内容が正確に把握できませんでした。そのため、本稿では英語版に基づいて評価を行います。日本語版とは用語が一部異なりますのでご了承ください。なお、翻訳自体の評価は3ページ目で行います。
システム紹介
1ページ目では、本作のゲームシステムを前作や他のParadox Interactive作品と比較しながら紹介します。説明が抽象的で分かりにくいと感じた方は、2ページ目の歴史小説風プレイレポートと併せてお読みください。
ファーストインプレッション
本作の第一印象は「起動が速い」の一言に尽きます。
Paradox Interactive作品は起動時間が長いのが通例です。筆者の環境では前作を起動するのに数分かかるのが当たり前でした。本作でも数分待たされるつもりでゆったり構えていたところ、なんとわずか十数秒で起動したではありませんか。PCを新調したとはいえ速すぎです。
理由はすぐに分かりました。ゲームそのものの設計が変わっていたのです。必要最小限のロード時間でタイトル画面を表示し、そのままリソースの読み込みを続ける方式に改善されていました。同時に、これまでのランチャーもゲーム本体に統合され、DLCやModはタイトル画面で管理する仕組みに変更されました。小さな工夫ですが、プレイヤーのQoL向上に寄与する素晴らしい改善です。

『Europa Universalis V』の舞台
本作の舞台は西暦1337年から1836年までの全世界です。当時の世界に存在したあらゆる国家を自由に選んでプレイ可能で、もちろん日本でも遊べます。前作と異なり開始年は固定のため、最初からナポレオン戦争や戦国時代で遊ぶことはできません。西暦1337年はヨーロッパで百年戦争の始まった年、日本では南北朝時代の初期に相当します。
本作はいわゆるサンドボックスタイプのゲームです。明確な目的や勝利条件はありません。プレイヤーは自分の好みに応じて世界征服を目指すことも、理想国家を目指すことも、あるいは単に滅亡の回避を目指すこともできます。あくまでプレイ目標が欲しいプレイヤーのためには様々な難易度の実績も用意されています。

Paradox Interactive作品の集大成
本作はストラテジーゲームの中でも特にグランドストラテジーと呼ばれるジャンルに分類されます。グランドストラテジー(大戦略)とは、軍事だけでなく、政治・経済・外交など、あらゆる手段を用いた戦略を指す用語です。
開発元のParadox Interactiveは多くのグランドストラテジー作品を世に送り出してきました。その中でも本作に大きな影響を与えているのは中世を舞台にした『Crusader Kings III』と近代を舞台にした『Victoria 3』です。
中世と近代に挟まれた時代を扱う『Europa Universalis V』には両作品から数多くの要素が輸入されており、同社タイトルの集大成的な作品に仕上がっています。あまりにも膨大な要素が統合されているため、筆者は当初システムの一貫性が維持できるのかと疑問視していました。ところが、実際にプレイしてみると大きな破綻もなく動作していたので、心の底から驚きました。

キャラクターとPOP
本作のキャラクターは、歴史上の人物も架空の人物もすべて3Dモデルで表され、それぞれ能力値・特性・文化・宗教を持っています。能力値は統治・外交・軍事の3種類で、それぞれ100段階で評価されます。特性は人物の性格や特殊能力を表すもので、『Crusader Kings』の影響が色濃く反映されています。歴史上の王朝や祖先も設定されており、一族の家系図を眺めて楽しむことも可能です。
重要なキャラクター以外の一般人は「POP」と呼ばれる単位で管理されます。こちらは『Victoria』から輸入された要素で、同じ居住地・宗教・文化・社会階級を共有する人間をグループ化したものです。例えば、「京都に住んで神道を信仰している西国文化の農民」で一つのPOPとなります。POPはゲームの進行とともに分割されたり統合されたりして次第に変化していきます。

政治
POPは貴族・聖職者・市民・庶民からなる4つの階級に分かれ、それぞれ権力と特権、満足度を持っています。満足度が下がると反乱を企てるため、統治者は様々な手立てを講じて各階級のご機嫌を取らなければなりません。
階級の満足度を上げる方法の一つは特権を与えることです。貴族に与える農奴制特権、聖職者に与える行政官登用特権、市民に与える交易独占特権など、特権には数多くのバリエーションがあり、それぞれ特別な効果が設定されています。特権を与えると満足度だけでなくその階級の権力も増大し、相対的に統治者の権力は減少してしまいます。一度与えた特権を剥奪するのは簡単なことではないので、特権の与えすぎには注意しましょう。

本作は単純に戦争で領土を増やすだけで国が富み栄えるゲームではありません。それぞれの土地には異なる文化と宗教を持った人々が住んでおり、自国と文化や宗教が異なる土地では反乱が起きやすくなります。戦争で新たに獲得した領土は時間をかけて統合しなければなりません。
本作にはその他にも、各階級の代表で構成される議会、統治者を補佐する内閣、国家の基本制度を規定する法律、国家の長期的な傾向を表現する社会的価値観といった要素が存在します。

経済
強靭な軍隊を維持するには強靭な経済が欠かせません。軍事だけでなく、何をするにもお金がかかるのは現実世界でもゲームの世界でも同じです。経済力がなければ、どんな戦略を立てても机上の空論で終わってしまいます。
国家の主な収入源は国民からの税金です。しかし、むやみに税率を上げれば階級の満足度が下がり、反乱を招くことになります。税収を増やすには税率を上げるだけでなく、国庫の資金を農場や鉱山、ギルドなどの建造物に投資し、国の生産力そのものを底上げしなければなりません。

また、本作では街道の整備や領地の支配度といった概念が導入されました。広い国土を持つ国でも、ゲーム序盤に統治者の支配が及んでいるのは首都の周辺に過ぎません。街道を整備して首都から離れた地方の支配度を高めれば収入増が期待できます。
本作では市場や交易の要素も『Victoria』並みに拡張されました。生産性の低い建造物に補助金を出したり、国民が必要とする交易品を外国の市場から輸入したりといった細かい指示も可能です。しかし、必ずしもプレイヤーがすべての指示を出す必要はありません。慣れないうちは操作をAIに任せて完全に自動化しても構わないのです。

外交
『Europa Universalis』シリーズは外交が重要な意味を持つ作品です。それだけに本作でも非常に多くの外交オプションが用意されており、前作に存在した外交コマンドの大部分が最初から実装されています。
同盟は単純な1対1の同盟だけでなく、多国間同盟も可能になりました。また、王朝の概念が『Crusader Kings』並みに拡張されたことに伴い、王室間の婚姻が重要性を増しています。例えば、筆者のプレイでは婚姻同盟が発展して、同じ人物が4カ国の君主を兼ねたこともありました(同君連合)。
前作では別々のシステムで表現されていた神聖ローマ帝国、カトリック教会、日本の幕府などは国際組織と呼ばれる共通システムにまとめられました。国際組織はそれぞれ個別の法律を持ち、組織独自のルールは法律で表現されることになります。

軍事
本作で戦争を起こすには、原則として「開戦事由」と呼ばれる大義名分が必要です。前作では相手国に諜報網を構築して開戦事由を捏造するのが通例でしたが、本作では自国の議会を通じて開戦事由を獲得するのが一般的になりました。開戦事由なしで戦争を始めることも出来ますが、国の安定を損なうので慣れないうちは避けた方が無難でしょう。
軍隊には正規兵と傭兵のほかに、戦争中に限って召集できる召集兵が存在します。これは『Crusader Kings』と同様の要素です。ゲーム序盤は召集兵が軍隊の中心となりますが、時代が下るにつれて常備軍中心の軍隊に変化していきます。
ユニットの操作や土地の占領に関するルールは前作とあまり変わりません。戦争目標を達成して戦勝点を稼ぎ、和平交渉で敵国に要求を突きつける流れも前作同様です。探検や植民は抽象化され、専用の画面で管理されるようになりました。

技術
本作に登場する技術には「進歩」と「制度」の2種類があります。本作はルネサンス時代、宗教改革時代など合計6つの時代に分かれており、ゲーム内の日付が特定の年代に達すると次の時代に進み、その時代に固有の進歩と制度が解放されます。
進歩に含まれるのは、大学や官僚制度といった一般的な技術です。進歩には技術ツリーが用意されており、国民の識字率に応じて研究速度が決まります。国家によっては「レコンキスタ」のように固有の進歩が用意されていることもあります。
一方、制度はルネサンスや活版印刷といった、その時代を代表する技術です。世界のどこかで発祥し、その場所から全世界に向けてゆっくりと伝搬していきます。

イベント
本作には非常に多くのイベントが用意されています。イベントには歴史上の事件を再現するものと、完全に架空のものがありますが、架空のランダムイベントであっても国家の状態によって発生する確率や内容が変化するため、まったくの運任せというわけではありません。
イベントでは効果の異なる複数の選択肢が提示され、プレイヤーはその時々の戦略に合った決断を下すことになります。本作では史実に沿った選択肢にはアイコンが表示されるようになったため、史実通りのプレイをしたい場合は一目で目的の選択肢を見分けられます。
複数の国家が関係する長期的な歴史イベントは「局面(シチュエーション)」と呼ばれる新システムで表現されるようになりました。百年戦争や宗教改革、日本の戦国時代などがこれにあたり、特別なマップやルール、終了条件が適用されます。

次のページでは、これまでに説明したシステムが実際のプレイでどのように機能するのかを歴史小説風のプレイレポートでご紹介します。











