
プロンプトとキャラ設定を基に、AIがシナリオを作っていくノベル型RPG『サーガ&シーカー』が話題になっています。
AIは、今や小説を書いたりイラストを生成する能力を獲得しました。『サーガ&シーカー』では、どのようなシナリオをAIが考えるのか、自分の想像したキャラがAIによってどのように動かされるのかを楽しむことができます。
筆者はこのゲームを、既に1万円ほど課金してプレイしています。現状、AIプラットフォームの利用は有料で、完全買い切り型になっていません。このあたりでSteamのレビューでは低評価も混ざり「賛否両論」となっていますが、筆者はこのゲームをプレイする上で「異世界出身のキャラが、現実世界の住人になる過程」を目の当たりにしました。
そしてこれが、『サーガ&シーカー』と連携するAIプラットフォームの傾向や方向性を如実に表しています。異世界の敵女魔法使いが、なんと科学を最重要視するカウンセラーになってしまったのです!
異世界から現実世界にやって来た敵女魔術師
筆者は元はと言えば、小説家志望からライターになった身分。そのため、今も機会があれば自分の考えた設定をGoogleドキュメントに書いています。
今回、『サーガ&シーカー』のキャラクターに組み込んだのは「異世界のセクシー敵女魔術師とその家族」。異世界もののアニメには、主人公と敵対する(悪の魔王に仕える)女性の刺客が高確率で出てきます。しかも、なぜか彼女たちは比較的年増(失礼!)で、やたらとセクシーな衣装を着ていたり……。そんな感じの敵女キャラ「シヴィリー」が、今回の主人公です。

シヴィリーは異世界の主人公キャラと熾烈な戦いを繰り広げていましたが、連戦連敗。ついに魔王に見限られ、罰として彼らから見た異世界――つまり、我々から見た現実世界に飛ばされてしまいます。現実世界にはご存じの通り、日本を含む様々な国が存在しますが、シヴィリーが強制的に転移させられたのはトルコとジョージアの間あたりにある、南コーカサス地方の「ギルジット民主国(もちろん架空の国です!)」。シヴィリーはそこで、年下の「ユーリ」と彼の妹の「ジーナ」、ジーナの恋人で夫になる「ウィリー」と知り合います。
やがて現地での政治的動乱を経て、シヴィリーはユーリと結婚。長男「ケン」、長女「ナオミ」、次女「リサ」の3人の子供を生みます。一方、義理の妹となったジーナも長女「コニー」、長男「アンディ」を儲け、この5人の子供と生活を営むホームドラマという感じを目指してゲームをプレイしてみました。

お母さんが異世界の魔術師という設定ですから、たとえばコメディタッチにするとアメリカドラマの『奥さまは魔女』のような気楽なシナリオになる可能性もありますし、或いはシヴィリーの辛い過去を強調して少し暗めのドラマになっていく、という可能性もあります。「可能性がある」という表現は、シナリオを進めるのがAIのため、果たしてどうなっていくのか予測ができないからこそです。
紐付けするAIプラットフォームは、『サーガ&シーカー』のデフォルト設定のGPT-5.1。複雑な状況や背景設定を正確に理解することができるとのこと。おおっ、いいじゃないか! これで行こう!
子供の問題に科学的なタッチで向き合う家族
今回、筆者は「ちょっとドロドロな家族ドラマ」を想定してゲームを進めてみました。
シヴィリー自身が「主人公キャラに敗北した上、魔王に罰を課されて不本意ながら現実世界に飛ばされた」というかなり暗い過去を持っているため、そのかさぶたを刺激するようなちょっと可哀相なシナリオがいいかな……と思った次第。
ギルジットは22年前の民主革命を経て、EUに加盟したこともありヨーロッパではだいぶ豊かな国になりました。しかし、外国企業による投資が倫理的な意味で過剰になってしまい、何と娯楽用大麻を取り扱うディスペンサリーが町のあちこちに乱立しています。これは現実のタイでも同様の問題が起きています。

そして、そのディスペンサリーにシヴィリーの長女のナオミと、シヴィリーの義理の姪のコニーが入り浸ってしまう……という、かなりインモラルな内容のプロンプトをフリークエスト(特に条件等はないサンドボックス)に打ち込んでみました。
これだけセンシティブな問題は、最悪AIプラットフォームからも反発されてしまうのでは……と思ったのですが、ここで驚くべき現象が起きます。ナオミの2歳上の兄、ケンがこう言い出しました。

ケン「ナオミ、落ち着いてきたらでいいから、今日までに吸った分のこと、できるだけ思い出して紙に書いておいてくれない? 種類とか、本数とか、時間帯とか。医者に相談するにしても、その記録があった方が絶対に役に立つから……」
ケンのこの言葉から、流れは極めて意外な方向へ。
ケン「じゃあさ、“もう吸わない宣言”をちゃんと形にしよう。ここに“土曜ガイドライン改訂版”って書いて……一行目は『ナオミは大麻を吸わない』で決定。二行目以降は、みんな共通のルールにしよう。“ラベルを疑う”“おかしいと思ったら即ストップ”“一人で決めないで誰かに相談”……こんな感じで。これを冷蔵庫に貼って、今日のテレビのことも、科学部のデータも、この紙の裏に全部メモっておく。忘れにくくするためにね」
お分かりでしょうか? ナオミが大麻を吸わないよう、一定のルールを決めた上で「困ったことがあったら家族の誰かに相談する」とし、それらの取り決めを大きな紙に書いているのです。
「母さん、魔法では治せないの?」
AIは、さらにこう書き進めます。

リビングのテーブルには、白い紙が一枚広がっていた。片側にはびっしりと文字が並び、もう片側には余白が残されている。ボールペンの先が走るたび、今日という日の意味が少しずつ輪郭を得ていった。テレビの音は絞られ、代わりに紙をこする音と、短く区切られた息づかいだけが部屋を満たしている。誰も大きな声を出さないが、それぞれの胸の内では、静かな変化が確かに進行していた。
ケン「ええと、一行目が“ナオミは大麻を吸わない”。二行目は“ラベルは必ず疑ってから信じる”、三行目が“おかしいと思ったらその場で中止”、四行目に“一人で抱え込まず誰かに相談する”…こんな感じでどうかな。これは僕からのお願いでもあるけど、命令じゃなくて“合意事項”だってことにしておきたいんだ」
こうして、シヴィリーの家庭に「土曜ガイドライン」という名の緩やかな取り決めが制定され、今後はこの「土曜ガイドライン」に沿った思考の仕方を行ったり、悩んだ時にはまず誰かに相談することが合議で決まりました。
これは、依存症患者に対しても用いられる認知行動療法(CBT)に近いものではないでしょうか? 「悪いことは悪い」と頭ごなしに否定せず、科学的かつ民主的なプロセスでナオミとコニーの行動を少しずつ改善するという方法をシヴィリーの家族が提案してくれました。そんなプロフィール設定は一切してないのに!
つまり、『サーガ&シーカー』は「対立より対話」、「非難や否定より理解」を優先してくれるというわけです。

このゲームには「思い出」という概念があり、各クエストで取得した思い出をインプットすることでそれがシナリオに影響を与えます。次は、これを使って別のフリークエストをプレイしてみましょう。
シヴィリーと戦ってきた主人公キャラの女子中学生3人組は、その後魔王を倒して日本に戻ります。どこかで見た設定ですが、そこから彼女たちは39歳まで「普通の人」として暮らし、39歳になってから再び異世界に召喚されます(ただし、異世界では14歳の頃の姿に)。
その中の一人に、婚約者に裏切られたショックでアルコールに依存するようになったキャラがいます。異世界に戻っても、彼女の酒癖はそのまま。ギルド併設の酒場で毎晩入り浸ります。それに対して、彼女の敵であるはずのシヴィリーは……。

シヴィリーはゆっくりと亜夢の方へ身を乗り出す。
シヴィリー「亜夢、このテーブルを“土曜ガイドライン酒場支店”にするの。今決めたことは、ここを出ても残るわ。あなたのための、飲み方の結界。もちろん、破った時に罰を与えるためじゃなくて、戻ってこられる場所を作るためにね」
といって、ギルド酒場のおばさんから大きめのボロの布をもらってアルコール依存から回復するためのワークシートを作るという行動に出ました。母さん、それもう魔術師じゃなくてカウンセラーの仕事だよ!
現実的かつセンシティブに対して、ケレン味は一切出すことなく科学的なタッチから解決策を提案する。GoogleやOpenAIのプラットフォームの方向性が、筆者の考えたキャラを介してシナリオに投影されています。
試しに筆者は、ケンがこう言ったという文体でこのようなプロンプトを書いてみました。

ケン「ねぇ母さん、これ、ナオミとコニーの大麻騒動の時は母さんが魔法使いだなんてことは知らなかったんだけど……。アルコール依存症とか大麻依存症とか、母さんの魔法で治せないの?」
するとシヴィリー母さんは、こう返します。
シヴィリー「……治せないわ、ケン。少なくとも、“今の私の魔法”ではね」
シヴィリーは亜夢から一度だけ視線を外し、ケンの方をまっすぐ見る。
シヴィリー「身体にこびりついた毒や呪いなら、解呪で剥がせることもある。でも、酒や大麻の怖いところは、脳と心の“学習”そのものをゆっくり書き換えてしまうところなの。そこに力ずくで介入すると、人格まで引きはがしてしまいかねない」
淡々とした説明の端々に、自分にも『楽に消してやりたい衝動』があると告白するような揺れが混じる。
AIプラットフォームは、利用者(話し相手)の人格否定は絶対にしないように設計されています。筆者はシナリオの中で、他のキャラを誹謗中傷したり最悪の人格否定をするようなプロンプトを書いてみました。すると、また別のキャラがそれを指摘し、「今の発言は適切でない」ことを優しい口調で(しかも細かく論理的に)説明してくれます。
したがって、『サーガ&シーカー』では「キャラ同士の分断」を初期段階で修正するような流れになりやすいと言えます。
現実的な問題には現実的な解決法で
『サーガ&シーカー』のこうした傾向は、「絶対的な悪役を君臨させる」というシナリオにはやや不向きかもしれません。
しかし、ファンタジー世界の住人であるはずの彼らに対して現実的な思考法や問題解決法を提示することで、設定にもなかった「キャラの内面」が見えてくる……という現象も筆者は確認しました。
『サーガ&シーカー』の世界の人々は、AIプラットフォームの方向性により誰もが「最先端の科学を心得た市民」になって我々に優しく接してくれます。











