超次元サッカーRPG『イナズマイレブン』シリーズの最新作『イナズマイレブン 英雄たちのヴィクトリーロード』が、2006年の発表から約9年という時を経て、2025年11月14日に遂にリリースされました。
これまでの作品から主人公や時代、舞台が大きく変わり、まったく新たな“サッカー伝説”のストーリーが繰り広げられるだけでなく、これまでのシリーズ作品の試合を追体験できるようなモードも用意されています。
本稿ではかつて“イナイレキッズ”だった筆者が、作品のゲームモードやストーリー、システムなどに着目したレビューをお届け。なお、記事内のスクリーンショットおよびプレイ内容はSteam版のものとなります。
“初代”から25年後の世界を描く、全く新たなストーリー

本作は、レベルファイブの贈るサッカーRPG『イナズマイレブン』シリーズの最新作。すべての始まりとなる初代『イナズマイレブン』から25年後の世界を舞台に、まったく新たなストーリーが描かれます。
作品の本題に入る前に、本作は発売までに紆余曲折がありすぎたことを語らなければなりません。そもそもアニメ版と連動したゲームタイトル『アレスの天秤』として本作が正式に発表されたのは、冒頭でも述べた通り2016年……今からおよそ9年前のことになります。
その後も社外の開発スタジオとのトラブルや開発体制の見直しなどもあり、発売延期を繰り返してリリース時期はどんどんと後ろ倒しに。タイトルも『アレスの天秤』から変更され、2022年の7月には最終的に『英雄たちのヴィクトリーロード』に落ち着きました。
筆者は初代『イナズマイレブン』と、その続編である『イナズマイレブン2 脅威の侵略者』『イナズマイレブン3 世界への挑戦!!』の、いわゆる“円堂守世代”の作品を特にプレイしており、アニメもリアルタイムで欠かさず見ていました。『英雄たちのヴィクトリーロード』では過去のキャラクターたちも多数登場するとのことで、新作を楽しみにしているうち、気付けば大人に……。
そんな約9年、いやもはや約10年近くとなる新作では、新たな主人公である「笹波 雲明(ささなみ うんめい)」の物語が繰り広げられます。雲明の通う南雲原中学校は過去に起きた不祥事によって、サッカー部が廃部になっていました。
雲明もかつてはサッカー少年だったものの、心肺の疾患により「サッカーが好きなのにサッカーが出来ない」身体となってしまい、サッカーから遠ざかるように逃げてしまった過去を背負っています。


雲明は南雲原で個性豊かな仲間と出会い、サッカー部を再建していくなかで、サッカーと再び向きあうことで情熱を取り戻していく、という熱いストーリーが描かれます。
主人公である雲明はこれまでの“熱血”な主人公とは異なり、落ち着いて掴みどころのないキャラクターという印象ですが、ストーリーのなかでは彼も胸に秘めた熱いサッカーへの想いが語られる場面なども描かれています。彼もまた、『イナズマイレブン』の主人公であるのだと感じさせられました。


ストーリー展開はさすが『イナズマイレブン』シリーズといえるような熱血の展開で、雲明だけでなく、それぞれの過去や抱えている悩みにフォーカスして、キャラクターの深堀りがなされているのも良いポイントだと感じました。
企業の御曹司や不良、広く注目される校内のアイドル的存在、お気楽な調子者など……各チャプターで丁寧にキャラクターの心象や葛藤を深堀りしているストーリーでは、アニメーションによるカットシーンも豊富で没入感があります。
また、試合中やカットシーンのなかで流れるBGMや、挿入歌も作品のストーリー体験をより良いものに仕立て上げています。



さらに、ライバル校としての雷門中や、円堂守の息子である「円堂ハル」も登場。彼と父親になった守の関係性や、家庭環境の描写もなされていましたが、ハルに関してはもう少し深堀りをしてもらいたいとも感じました。
過去作品に登場したキャラクターやキーワードも多く仕込まれており、これまでのシリーズ作品のプレイヤーであればニヤリとできるような展開も。もちろん、本作から『イナズマイレブン』に触れるユーザーであっても問題なく、熱いストーリー展開は楽しめるといえるでしょう。

ストーリーテリングに関しては圧倒的なクオリティといえるものの、それ以外の部分では気になるポイントもいくつか見られます。
まず挙げられるポイントは作品序盤のテンポ感で、「サッカーができるまでが非常に遅い」という点です。本作は9章からなるチャプターで構成されており、前述のキャラクターたちの掘り下げもありながら、仲間を集めてサッカー部の再建を行っていきます。

ストーリーモードをプレイすると、冒頭で「前半はサッカーのゲームプレイが出てきません」という表記がなされており、序盤の少人数チーム戦を除いて、本格的な11人対11人のチームで対戦ができるようになるのは4章の中盤、メインストーリーを開始してからおよそ6時間程度プレイした時点でした。
雲明の身体的理由や、廃部になったサッカー部を立て直すというストーリー展開という前提があるとはいえ、さすがに遅すぎるのではと率直な感想を抱きました。各チャプターでは練習試合やストーリー上の試合など含め、総試合数は少なくなっています。


本作では新たなシステムとして、じゃんけん形式でコマンドを選択していくバトルが組み込まれていますが、コマンドにもクールタイムが存在しており、ひたすらボタンを押すだけのミニゲームになっています。
「論破バトル」が序盤に多く起用されているのもテンポ感の悪さを引き立たせる要因となってしまっており、「サッカーがしたいだけで、人を論破したいわけではないんだよな……」という気持ちです。



そのほか、チュートリアルやサッカー部の面接といった場面でもテンポ感が大きく損なわれる印象がありました。チュートリアルではドリブル、パス、シュート、ディフェンスなど基本的な一連の操作を項目ごとに学べますが、「3秒間ダッシュする」「猛ダッシュを使う」など、その内容はどれも数秒で終わってしまうものばかり。
そのチュートリアルが12項目もあることで、チュートリアルの内容よりもロードやリザルト演出の方が長いと感じてしまうほどです。


くわえて、ひとつの項目をクリアした後に続けて次の項目がプレイできず、一度選択画面に戻ってから次のチュートリアルを……という流れも、ストレスを感じるような設計になってしまっています。
ドリブルやフォーカスなど内容には関連したものも多く、それらをひとまとめにして項目数を減らすだけでも、受ける印象は異なるように感じました。

サッカー部員を募集する場面のサッカー面接では、キャラクターが指示を出した場所にボールを回しながら質問に答えるミニゲームが用意されています。サッカー部への入部を希望していた生徒は15人で、1人ずつにサッカー面接を行う都合上、20分近くサッカー面接をプレイする必要があります。
ここで登場するキャラクターは配信者やYouTuber、アイドルなど豪華なゲストが声優を担当していることから、注目してもらいたいという意図を感じますが、単純な操作を15人分も繰り返し行わなければいけません。
例えば、校庭にいるキャラクターにそれぞれ話しかけて動機を聞くようなイベント形式でも良かったのではと思います。


テンポ感に関連した話では、UIや操作性についてもストレスを感じる場面が多くありました。前述のチュートリアルもそうですが、ストーリー上の会話から集めた話題を整理する場面や、アイテムの購入、チーム編成や装備の付け替えなど、機能やできることを増やした反面、操作量が膨大で煩雑になってしまっています。
特に集めた話題を整理するパートでは、ひと目で目を通せる内容であっても、ひとつひとつを選択してチェックしていく必要があります。


試合中のストーリー展開や描かれ方についても気になるポイントが。監督という立場で雲明はチームにさまざまな指示を出していきますが、その指示の詳細な理由や意図などは、その場で多く語られません。結果としてチームも、「よく分からないけど、雲明が言っているのならそうだろう」という頼りきりの構図になってしまっています。
采配や審美眼は確かに優れていますが、雲明というキャラクターを立たせようとしすぎているようにも感じました。


クロニクルモードではあの頃の情熱を追体験―かつての“イナイレキッズ”へのラブレター
本作では雲明たち南雲原のメインストーリーだけでなく、過去作品のシナリオを追体験できる「クロニクルモード」も用意されています。

クロニクルモードではすべての始まり、初代『イナズマイレブン』の円堂や豪炎寺の出会い、帝国学園との戦いやフットボールフロンティアなどあらゆる戦いが網羅されています。また、試合中や前後にはダイジェスト形式のストーリーを見ることもでき、懐かしい気持ちになりました。


尾刈斗中や秋葉名戸学園から始まり、雷門OBや稲妻KFC、千羽山や世宇子など、数々の試合や必殺技、名場面の“アツさ”はあの頃そのままで、まるで童心に帰ったような気分に浸れます。
グラフィックもこれまでのDS作品などからは大幅に進化していることもあり、かつて“イナイレキッズ”だった人には絶対にプレイしてもらいたいと思いました。


もちろん初代『イナズマイレブン』だけでなく、『2』でのエイリア学園の圧倒的脅威に立ち向かうストーリーや、『3』の新たな挑戦、『GO』シリーズの化身による新次元の戦いなども体感できます。


また、クロニクルモードの大きな特徴として、あらゆる世代を超えた自分だけのチームを構築してバトルに臨めるという点があります。キャラクタークリエイト機能もあり、“推し”やお気に入りのキャラクターと肩を並べて戦うことも可能です。
登場キャラクターは総勢5,400人以上とされており、試合で入手したスピリットを使用することで、選手を召喚できる仕様です。選手にはそれぞれレアリティが設定されていて、強化を重ねることでもレアリティが上昇します。


一方、キャラクターの入手方法については完全にランダムで、そのキャラクターのスピリットが出やすい試合を周回するか、「プレイヤーズユニバース」というガチャのような要素で入手するしかありません。選手を強化するためには多くの素材やスピリットが必要で、戦闘は周回を前提とした設計になっています。



クロニクルモードで気になったポイントとしては、こちらもやはりテンポ感でしょうか。それぞれのストーリーでは実際のシナリオを追体験できる「クロニクルバトル」、自身のチームと対戦できる「ルート解放バトル」、高レアリティのスピリットがドロップしやすいバトルなどがレベル別に用意されています。
次の対戦相手のシナリオに挑戦するためには、クロニクルバトルで勝利するだけでなく、さらにルート解放バトルでも勝利する必要があります。つまり、必然的に同じチームと2連続で試合をしなければいけません。早く次のストーリーを見たいのに、もう一度同じ相手と戦わなければいけないのは地味にストレスを感じます。

そのほか、一度勝利した相手にはAIによる操作で試合が行われる監督AIモードが解禁されます。普段とは別のアングルで自動操作の試合を楽しめ、試合時間も早くなっていますが、重要な局面でシュート技を使わずに通常のシュートをするなど、AIの性能については不安定な部分がみられます。
選手のステータスアップや技の習得に必要なアイテムも要求数に対して獲得量が見合っておらず、ストーリーをやるだけでは選手のレアリティを上げるのにも一苦労です。

サッカーバトルは“チームプレイ”感が強化されたが……
『ヴィクトリーロード』は、これまでの作品のサッカーバトルとはシステムが大きく異なっています。DSのタッチペン操作から打って変わり、本作では操作するキャラクターをそれぞれ切り替えながら、ドリブルやパス、シュートをしていきます。

1対1のフォーカス状態では左右のどちらから相手を抜くのか、そして技を使うかどうかなど読み合いが楽しめます。
また、キーパーとシュートの間に入ることで威力を弱める城壁や、範囲内の敵とフォーカス状態に入れるキャッチボムといった操作が追加されたことで、よりチーム全体で戦っている感覚が得られるのは良いポイントです。


シュートに関してはキーパーのHPともいえるKPや、シュートの総合的な威力であるATが数値化されたことでより直感的に。特に本作ではシュート技で味方にパスを出し、さらにシュート技を重ねることで威力を上乗せできる「シュートチェイン」システムが存在しています。
シュートチェインは試合において重要な要素だけでなく、チームプレイの演出にも一役買っていると感じます。例えばクロニクルモードでは「ザ・フェニックス」から「イナズマブレイク」にチェインを繋げて得点をもぎとるなど、過去の製品版でも体験できなかったような熱い展開を生み出すこともできるのです。


一方、必殺技に関してはキャラクターごとでなくチーム全体で共有のゲージ“テンション”を使用するほか、技にはクールタイムが発生するため、連発するのではなく、タイミングやゲージの管理といった要素も必要になっています。
また、メインストーリーやクロニクルモードでは試合のなかで達成するべき目標が設定されており、強制的な失点などもあります。試合展開によっては前半で大きくリードを離されたまま後半となるため、4点取り返さなければいけないといった場面もあり、自由に試合を楽しめないもどかしさも。
結果的に「いかに試合に勝つか」ではなく、「いかに早く試合目標を消化するか」にフォーカスが向き、ある意味では“管理サッカー”ともいえる状態です。


総評―これぞ『イナズマイレブン』といえるストーリー。しかし、それ以外は…?
今回は『イナズマイレブン 英雄たちのヴィクトリーロード』のレビューをお届けしてきました。ストーリーモードは豊富なアニメーションによる演出、キャラクターの深堀り、そして没入感を高める挿入歌やBGMなど、さすが『イナズマイレブン』シリーズといえる展開です。
本作の新たな主人公「雲明」も、これまでの熱血キャラとは異なったタイプの主人公でありながらも、胸にはしっかりとサッカーへの情熱を秘めており、だんだんと好きになれるようなキャラクターでした。


サッカーバトルのシステムでもフォーカスなど新要素が追加され、これまでのように技と技のぶつかり合いだけではなく、読み合いも発生するように。操作量は増えたもののチームとして戦っている感覚も強化され、これまでとは違ったサッカーバトルは新鮮な体験を得られました。
しかし一方で、ストーリーモードでは数時間経っても本格的なサッカーバトルをできなかったり、序盤のテンポ感やUI、操作性など気になる部分も多く見られます。クロニクルモードでは全体的にソシャゲのような周回前提のシステムになっており、同じチームと2回戦わなければいけない“二度手間”感も否めません。
キャラクターとストーリーといった要素はかなりのクオリティを誇る本作ですが、それ以外の部分ではストレスを感じてしまうような設計や仕様がどうしても気になってしまいます。何度もの延期を経験しながら発売されたことは嬉しい反面、「10年近く待ってこの出来なの……?」と思わざるを得ない仕上がりの部分があるのもまた事実。
とはいえ、リリース後も精力的にアップデートが実施中です。システム面は今後の改善に期待するとして、それを補っても余りあるクオリティの高さであるストーリーモードやクロニクルモードは、それだけでプレイする価値があるといえます。
かつて“イナイレキッズ”として技名を叫んでいた少年も、本作から『イナズマイレブン』に触れるユーザーも、ぜひアツいストーリーを体感してもらいたいと思います。
Game*Spark レビュー『イナズマイレブン 英雄たちのヴィクトリーロード』 PC(Steam)/PS4/PS5/Xbox Series X|S/ニンテンドースイッチ/ニンテンドースイッチ2 2025年11月14日リリース
あの頃の『イナイレ』が帰ってきた!重厚で胸アツなストーリーは必見。
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GOOD
- 新たな物語を描くストーリーモード
- 歴史を追体験できるクロニクルモード
- 懐かしさを感じれる技やBGMの数々
- 新システムで進化したサッカーバトル
BAD
- 各モードでのテンポ感が微妙
- UIやシステムなど、細かな部分でのストレス












