
ローポリホラーという言葉を昨今よく目にするものです。その歴史を紐解けば長い話になりますが、2022年の『SIGNALIS』などサイコホラーは代表的ジャンルと言えるでしょう。視覚表現が現実的になるほど、物語やキャラクター造形に至るまで現実に引っ張られるものですが、抽象的なビジュアルだからこそ、描けるものもあるのでしょう。
Room410開発・パブリッシングによる『Restless Dreams』は、苦悩と絶望を描いたローポリ一人称視点サイコホラーです。本記事では、プレイレポートをお届けします。なお、プレイにあたってはSteamキーの提供を受けています。
孤独な部屋に異変が起こる


ゲームを開始すると、メインメニューに登場していた女性が物書きをする場面から始まります。一口にローポリと言っても様々な表現がありますが、本作はPS2時代への指向を感じられます。また、ローポリ一人称ホラーにおいて、カットシーンを多用して三人称視点で主人公を描くものはそう多くありません。この時点でひとつの懐かしさを思い出しました。それは、あのころ特に目指された、映画的なゲームです。
そして、一人暮らしのはずなのに響くピアノの音から、異変が始まります。


ドアを開ければ、そこは異様に長い廊下。錆めいたテクスチャの壁には無数のドアと、ところどころに写真や鏡、テレビなどが点在します。ひとつひとつ、調べると主人公の独白がうかがえ、少しずつ人物像が感じられます。近年のインディーホラーでは長大な資料を読ませてストーリーを語るものが珍しくありませんが、本作は断片的なテキスト、モノローグで進行するためテンポを失わず、没入感があります。
さて、脇のドアはどれも開きませんが、廊下の端にあるドアを開けると、リビングに出ます。


ここはプレイ中、本作が信頼できる一作と確信を抱いた場面なのですが、いささかスクリーンショットでは画面が暗すぎるため、無粋を承知で文章で説明させてください。
居間を右から左へ横切る人影が見える → 後を追って左を振り向くと、誰も座っていないピアノが見える → 後頭部を殴られ地面に転倒し、殴った人物の足が見える。
まず、本作はPS2時代のホラーを指向しつつも当時としては珍しい一人称視点なのですが、この表現は一人称のカメラだからこそです。次に、ホラーにとって段取りが重要という文法が使われています。ピアノを弾く人物の影→後を追うと誰もいないという驚き→突如殴られて視界が暗転するという恐怖。言葉にすると簡単ですが、プレイヤーを誘導しつつ別角度から衝撃を与えるというホラーの基本が滑らかに成立しており、思わず声が出てしまいました。


意識を取り戻すと現実ではあり得ない広大な空間でドアをいくつもくぐり抜け、自室のソファで目覚めます。本作は自室と悪夢の世界がつながり侵食しされていくため、戦闘こそありませんが『サイレントヒル』めいた心理的恐怖が味わえます。玄関が塞がっていることが判明し、ここからジャンルのお約束でもある探索とパズルが始まりますが、様々な作品の引用やモノローグが雰囲気を盛り上げます。


こうしたパズルは探索を促し、探索は状況を物語り、じわじわと恐怖を味わわせるものです。ここでも、先ほどの突如襲われる体験が効いてきます。探索についていえば本作は全体的に明度は低いものの、暗すぎてオブジェクトがよくわからないという状況はほぼなく、輪郭や形ははっきり見えるという程度に調整されています。全体を一色で塗りつぶしたような表現は、カメラではなく人間の目が暗所で映す風景を感じさせ、独特かつ巧みな表現です。


とりわけ、窓の外に広がる風景が面白いものです。ベランダに置かれた洗濯機は古き良き日本を思い起こさせますし、他にも電線、鉄塔、団地、室外機、灰皿に吸い殻と、あればあるだけ嬉しいサイコホラーオブジェクトが用意されており楽しませてくれます。古くは『ゆめにっき』もそうでしたが、出られない内なる世界と、空虚に広がる外の世界を繋ぐベランダは、境界領域(リミナルスペース)として断絶を一層かき立ててくれます。


さて、次なる風景はピアノが置かれた演奏ホール。ここでも視線誘導のテクニックが使われ、質の高い恐怖を与えてくれますが、ぜひ自身の目で確かめてください。意味深なカットシーンを挟むと、着の身着のままシャワーを浴びつつ再び自室へ戻ります。


こうして自室の探索→心象風景→自室…というゲームループを通じて、本作は主人公の内面を描いていきます。背景にある物語が露わになるにつれ、徐々に心理表現も激しいものとなっていきますが、合わせて自室に異変が起き不穏になっていきます。ここで一色の塗りつぶしによる照明が効果的に働き、はじめは落ち着きを感じられる青の光が、赤へと変化していきます。
さて、本作は全体で1~2時間程度の短編のため、内容の紹介はここまでにしておきます。
思えば、「Restless Dreams」とは『サイレントヒル2 最期の詩』の英語版の副題でもあります。ゲームにおいてサイコホラーの基礎を築いた偉大な傑作であり、同ジャンルでその影響を受けていない作品はないでしょう。本作は、その中において一人称視点を使いこなし、視線誘導やカットシーンなどの映像的演出に独自性があり、風景で心理を表現するという同ジャンルの魅力を充分に分かったものとなっています。最後までホラーを理解した演出の数々が詰まった一作であり、サイコホラー好きならば安心して恐怖できることでしょう。













