数年前からインディーゲームシーンにおいて、PlayStationやセガサターン、NINTENDO 64など、いわゆる「第5世代ゲーム機」時代の制約や質感、空気感に強く影響を受けた「レトロなローポリゴン」ゲームが大きな盛り上がりを見せています。

そのスタート地点のひとつといえるのが、2016年4月29日にリリースされた『Back in 1995』です。同作が示した「初代PayStationの3Dグラフィック・サウンド・プレイフィールを再現する」というアプローチは衝撃的でした。ストアページの説明で「忘れられている時代のゲームを忠実に現代に再構築した」とあるところに、時代を感じますね。
リリースからしばらく大きな注目がなかったものの、その数年後からインディーゲームシーンではじわじわとローポリ表現を採用するゲームが現れるようになり、現在ではサバイバルホラーからレーシングまで、「PS1-ish」などと呼ばれる非常に幅広いジャンルへと展開しました。
本記事では、そんな節目を記念して、PS1風レトロポリゴンの見逃せない作品の変遷をご紹介。ゲームコミュニティやインディーゲームシーンに多大な影響を与えたエポックメイキングなタイトルを紹介します。
『Back in 1995』
まずは冒頭でも紹介した『Back in 1995』です。開発者は日本人の一條貴彰氏。2015年に公開された発表トレイラーは海外ゲームメディアでも大きな話題となり、当時まだ珍しかった「初代PlayStation風の3D表現」をインディーゲームの文脈で強く印象づけました。
この作品以前にもこうしたビジュアル表現を試みたゲームは存在した可能性はありますが、メディアに向けて明確に打ち出され、Steamや家庭用ゲーム機へと展開していった作品として、本作はきわめて早い存在でした。
本作は『Alone in the Dark』や『SILENT HILL』といった1990年代の3Dホラーアドベンチャーゲームに強くインスパイアされています。固定カメラ視点や十字ボタンを使ったいわゆる「ラジコン操作」にこだわり、遅いモーションなどが当時の手触りを再現しています。技術面においてもUnityエンジンに独自のテクスチャの歪みやポリゴンの欠けを再現する手法を加えており、一條氏はその手法についてブログで紹介しています。
「PS1風ゲームを作るための3つのレベル」その後、本作は2018年にPS4/Xbox One/ニンテンドースイッチに移植されています。Newニンテンドー3DS版である『Back in 1995 64』は残念ながら3DS向けダウンロードストアのクローズとともに発売終了となりましたが、「PS1のゲームがNINTENDO 64に移植された風」ゲームというジャンルに挑戦し、下画面に架空のゲーム機が現れ、インタラクトできる仕掛けが用意されているなど、独自の魅力がありました。

なお、現在Steamおよびコンソール版は格安で購入できるセールを実施中です。この機会に、“原点”に触れてみては。
『Paratopic』
2018年にアメリカとイギリスの開発者3名によるスタジオArbitrary Metricからリリースされた本作は、PS1風ローポリゴングラフィックと実験的なストーリーテリングを融合させた作品です。

当初はitch.ioでリリースされ、後にSteamやコンソール向けにも展開されました。貧困や衰退といったテーマを、不気味な環境とサウンドデザインで表現しており、2019年のIndependent Games Festival(IGF)では「Excellence in Audio」を受賞しています。
本作により、PS1風のビジュアルが単なるノスタルジーの枠を超え、プレイヤーに心理的な不安や恐怖を与える有効な手段であることが知れ渡り、後のインディーホラーゲームに大きな影響を与えました。
『アノダイン2: ダストへの帰還(Anodyne 2: Return to Dust)』

2019年にアメリカのAnalgesic Productionsからリリースされた本作は、PS1風の3D世界とスーパーファミコン風の2D世界を行き来する独特なアクションアドベンチャー。開発はMelos Han Tani氏とMarina Kittaka氏の2名です。
本作が興味深いのは、PS1風ローポリゴン表現をホラーではなく、シュールで幻想的な世界観のために用いている点です。3D空間を探索し、キャラクターの身体や精神の内側に入り込むように2Dダンジョンを攻略していく構成は、レトロな質感を単なる再現ではなく、物語とゲームデザインの中核に取り込んでいます。
本作以前に、2018年にリリースされた『All Our Asias!』もローレゾテイストを持った作品です。Melos Han Tani氏は現在日本在住で、昨年は最新作『Angeline Era』をリリースしています。
『殺しの館(Murder House)』

2020年にアメリカのPuppet Comboからリリースされた本作は、PS1風ホラーの存在感を大きく高めた作品です。2012年に設立されたPuppet ComboはBen Cocuzza氏によるインディーホラー開発スタジオで、1980年代のB級ホラー映画、VHS映像、初代PlayStation期のサバイバルホラーを掛け合わせた作風で知られています。これまで、多数の作品をリリース・パブリッシングしてきました。
本作は、廃屋を舞台に殺人鬼から逃げ延びるサバイバルホラーで、荒い3Dビジュアル、固定カメラ、ラジコン操作、VHS風フィルターなどを取り入れています。Puppet Combo作品の人気は、itch.ioを中心とするインディーホラー開発者コミュニティや、コンピレーションシリーズ「Haunted PS1」の盛り上がりとも呼応しながら、PS1風ホラーがひとつのジャンルとして認識されていく流れを後押ししました。
『Sauna 2000』

Haunted PS1からは、複数の注目作品が現れています。『Sauna 2000』は、東京を拠点に活動するフィンランド人デベロッパーのAmos Sorri氏が率いる「靄 Moya Horror」によって開発されている、コメディタッチのサウナシミュレーター+ホラーゲームです。
プレイヤーは2000年の夏、フィンランドの小さな湖畔の町ムフヴィヤルヴィを舞台に、日没までにサウナを温めて、冷えたビールを楽しむという目的のために奔走します。本作は、コンピレーション『Haunted PS1 Demo Disc 2020』にデモ版が収録されたことで大きな注目を集め、その後のKickstarterキャンペーンでも目標額を上回る支援を獲得しました。
『Sauna 2000』は、単なるホラーにとどまらず、フィンランドのサウナ文化や夏の風景をサイケデリックかつユーモラスに描き出しています。PS1風のレトロなビジュアルが持つ「奇妙な魅力」を存分に活かしたタイトルとして、コミュニティから高い期待を集め続けています。
『Crow Country』

2024年にイギリスのSFB Gamesからリリースされた本作は、PS1時代のサバイバルホラーを現代的に洗練させたタイトルです。1990年の廃遊園地を舞台に、クラシックなサバイバルホラーを思わせる固定カメラ風の構図やジオラマ的な空間表現、丸みを帯びたローポリゴンキャラクターを組み合わせたビジュアルが特徴です。
発売から半年で10万本以上の売上を記録し、商業的にも成功を収めました。クラシックホラーの雰囲気を保ちつつ、現代のプレイヤーにも遊びやすい操作性を取り入れたことで、レトロポリゴンでありながら単なる再現にとどまらない作品となっています。
『Mouthwashing』

2024年にスウェーデンのWrong Organが開発し、CRITICAL REFLEXからパブリッシュされた本作は、宇宙貨物船の乗組員たちが極限状態へ追い込まれていく様を描いたサイコロジカルホラーです。2024年9月にSteamで発売され、約5か月後の2025年2月には50万本以上の売上を達成しました。
低解像度のテクスチャとローポリゴンによる粗いビジュアルは、宇宙船内の閉塞感や、乗組員たちの不安、絶望感をより生々しく引き立てています。PS1風ホラーがカルト的な人気にとどまらず、商業的にも大きな成功を収め得ることを示したタイトルと言えるでしょう。
また、本作は日本を含め、ファンアートや考察を通じたファンダムの厚さも特徴のひとつです。パブリッシャーのCRITICAL REFLEXは『Buckshot Roulette』でも知られ、『THRESHOLD』や『Arctic Eggs』など、PS1風/ローファイ3Dの文脈に連なる作品も複数送り出しています。今後も目が離せない、“ローファイ3Dに強い”パブリッシャーと言えます。
『Vital Shell』

2026年にアメリカのソロ開発者・MarvinWizard氏からリリースされた本作は、PS1時代のメカアクションと現代のサバイバーライク(『Vampire Survivors』系)を融合させたトップダウン型のアリーナシューターです。
プレイヤーはファンタジーをモチーフにしたメカを操り、夢のような荒廃した環境で押し寄せる敵の波を生き延びます。また、ビジュアルやゲームプレイのインスピレーションについてはドリームキャストの『ガンスパイク』や初期の『アーマード・コア』をあげています。
本作は、PS1風のレトロなビジュアルとアンビエントなジャングルサウンドトラックが醸し出す独特の雰囲気で、レトロポリゴン表現が、ホラーだけでなくハイスピードなメカアクションやローグライトジャンルにおいてもPS1風スタイルが進出しました。
次のレトロポリゴンゲームを作るのはあなたかもしれない
今後も多数のローポリ・低解像度系ゲームの発売が予定されています。『.45 パラベラム ブラッドハウンド』や『散歩 WALK』、『NIGHTMARE OPERATOR』など、今後もレトロポリゴンスタイルを取り入れたインディーゲームが発売を予定しています。日本のクリエイターからは『Cyan Heart』や『路地裏漂流記』『LAUNDRY』といった作品がSteamでリストされています。

また、レトロポリゴン表現の広がりはPS1風だけにとどまりません。メッシュによる疑似半透明処理が特徴的な『Parking Garage Rally Circuit』のように、セガサターン風の表現を目指した作品も登場しています。今後はPS1だけでなく、セガサターンやニンテンドーDSなど、特定のハードの質感を意識した作品も増えていくかもしれません。

『シューフォーズ』の開発で知られるインディーゲーム開発者のますだたろう氏も、自身のXで、ニンテンドーDSのスタイルを思わせるローポリゴンかつ低解像度テクスチャの作品を次々と投稿しています。青春時代をDSと共に過ごした世代が開発者となり、PS1風とはまた異なる、DSを思わせる色味やテクスチャ感を持った作品が、今後ひとつの流れとして現れてくる可能性もあります。
これだけPS1風のゲーム開発が広がった今、ローポリゴンスタイルのゲームをどのように作ればいいか?といった解説動画や、UnityゲームエンジンでPS1実機で動作するゲームを開発するツールキット なども登場しています。格闘ゲームやJRPGなど、レトロポリゴンスタイルで十分に開拓されていないジャンルはまだまだあります。次に注目されるレトロポリゴンゲームを作るのは、この記事を読んでいるあなたかもしれません。
記事協力:Throw the warped code out 一條貴彰











