
「プレイしたくないな」。それが私が本作のテーマを知ったときに率直に思ったことだった。もともと「団地」を題材にしたアドベンチャーゲームで、ゲームボーイアドバンス用ソフト『さくらももこのウキウキカーニバル』に影響を受けているという設定を知ったときは興味を持っていたのだが、主人公であるホシノのおばあちゃんが認知症であり、その認知症が物語に深く関わると知ったときに「重たいテーマだからプレイしたくないな」と思ってしまった。

しかし、結果として本作をプレイしてエンディングを迎えたとき、遊んでよかったと心の底から感じた。認知症は根本的な治療が難しい場合が多く、本人だけでなく、支える家族もさまざまな困難に直面する。しかし、本作に登場するキャラクターたちは誰もがいい人たちばかりで、人はひとりで生きていくことはできず、みんなで支え合って生きていくことを思い出させてくれる。認知症の描写に関してはしっかり描かれており、向き合い方も「フィクションならではの都合のいい逃げ」は用意されていない。主人公の祖母だけでなく、本作には認知症を患った人物が複数登場する。そのため、シリアスな描写も多い。


しかし、それ以上に本作は団地を中心とした人々のポジティブな性善説が圧倒的なパワーで描かれており、プレイしていて前向きになる。もしも、認知症の家族がいて悩みを抱えている人がいたら、本作が少しでも心の支えになればと思う。また、そうした経験がない人にとっても、認知症とはどういうものなのか、認知症の人を支えるとはどういうことなのかを考えるきっかけになる作品だ。


以下で詳しいプレイレポートをお届けしよう。
認知症に真摯に向き合う作品
主人公は12歳の小学生であるホシノで、高齢化が進むトアル団地に父親と認知症の祖母・キミコと3人で暮らしている。物語はホシノが幼いころの思い出のシーンからはじまるが、そのときの快活な姿から一転して、現在では元気が無くなっている姿になっておりとてもショッキングだった。


序盤はゲームのシステムを解説する展開があり、キーワードを調べる流れで「認知症」を検索することになる。ここで認知症について理解を深めることができる。本作は「プレイしていて楽しいゲーム」であることが主題であるが、社会問題に対してもしっかり向き合っている。押し付けがましい形ではなく、自然に目に入り、だんだんと自分でも問題に興味を持つように誘導してもらえる。

ストーリーはキミコがかつては毎年開催されていた団地の夏祭りの実行委員長として活躍していたと知ったホシノが彼女に元気になってもらうためにお祭りを復活させるため、カッパの相棒と参加者集めに奔走するものとなっている。具体的な内容は伏せるが、「夏祭りが成功してキミコもかつてのように元気になってよかった」という分かりやすいハッピーエンドにはならない。認知症の現実を叩きつけられるし、どのように向き合っていくかきちんと考えられる作りになっていて誠実だ。

それでいて本作がポジティブで前向きになれるのは主人公であるホシノのひたむきさと団地に住む人々の誠実さではないだろうか。団地に住む人々は全員が聖人というわけでもなく、それぞれが悩みを抱えていたり、偏屈な考えを持っていたりもする。しかし、そんな彼ら、彼女らと交流していっしょに悩みを解決していくことで心強い仲間となってくれる。本作では現代では忘れかけていた「ご近所付き合い」の素晴らしさが押し付けがましくない形で描かれており、温かい気持ちになる。


プレイしていて好きになる住人たち
団地住民キャラクターは51人ととても多く、年齢層も12歳から87歳と幅広い。メインストーリーを進めるだけでもかなりの数の住人と仲良くなり、祭りへとやってきてくれることになるが、それ以外の自由に出会うことができるキャラクターも多い。本作に登場するキャラクターはどれも個性豊かなので、会うのが楽しみになる。



水飲み場を大事にしていて、いつも水道をキレイにしている和泉渚や井戸端会議が好きな戸井田深話、ぬいぐるみが大好きな小熊綿流など、いろいろなキャラクターがいる。



筆者がとくに好きなのはヘルパーの逆井一衛。主人公の一家も彼女にお世話になっているが、介護に対してとても頼りになり、悩んでいることに対しても新しい視座を与えてくれる。家族が大変なとき、もしくは自分自身が不便になったとき、ヘルパーに頼れることへの大切さや心強さを教えてくれるようでよかった。彼女自身がミステリーマニアで探偵のモノマネをするところも好きだ。

また、本作には、元気なころのキミコがホシノに教えてくれた「五感で感じること」をパズル要素のあるミニゲームとして体験するパートも。クリアすることで物語が進んだり住人が夏祭りに来てくれるようになるが、クリアするだけなら簡単なので詰まることはないはず。一方でミニゲームは何度も挑戦することができ、高スコアを目指してやり込むことも可能となっている。

団地の探索では、住人たちとの対面でのコミュニケーションだけでなく、パソコンを使った情報収集も。ホシノが新たなキーワードを思い付けば、検索で出てくるサイトも増えて、より多くの情報が手に入る。このインターネットは2000年代のテレホーダイ時代に個人サイトが流行していたときのイメージとなっており、懐かしい気分になれる。

個人サイトを持っているキャラクターも多数いて、知られざる趣味だったり、意外な住人同士の付き合いが分かったりとおもしろい。インターネットで得た情報が住人とのやりとりに役立つことも多く、かつてのインターネットのような交流をメインとした温かみを感じることができた。

本作は古き良き時代のノスタルジーを思い起こさせる作品でありつつ、これからの超高齢化の時代をどのように生きていくかの指針にもなっている。人はひとりで生きていくことはできないが、周囲には助けてくれる人たちがいる。そうやってお互いに助け合っていくことで営みが成り立っていくことを教えてくれる大事な作品だ。

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