
「デジボで遊ぼ!」ではボードゲーム要素やカードゲーム要素、テーブルトークRPG(TRPG)要素のある魅力のデジタルボードゲームを特集。今回は重量級ファンタジーボードゲーム『グルームヘイヴン(Gloomhaven)』デジタル版のプレイレポートをお届けします。
本作はFlaming Fowl Studiosが開発し、Asmodee Digitalによって2019年7月17日にSteamで早期アクセス版が配信されました。本作の元となるボードゲームは2017年にリリースされ、今年1月には日本語版もアークライトから発売されています。海外の大手ボードゲームサイト「BGG」においては、この記事を書いている時点でもまだボードゲームランキング1位をキープしています。
ボードゲームのデザイナーであるIsaac Childres氏は、元は物理学者になる予定で、博士号も取得していたそうです。しかしボードゲームを愛する氏は、「ボードゲームデザイナーとして生計を立てる方が楽しい」と考え、最初の作品である『Forge War』を2015年にリリース。本作は氏の2作目となります。
ボードゲーム「グルームヘイヴン」が注目を集めた理由の一つは、そのゲームのボリュームでしょう(内容的・物理的のどちらの意味でも)。箱は巨大で、内容物と合わせた重さは10キログラム近くあります。値段も高く、海外版は140ドル、日本版は3万円(税抜)します(ちなみに記事を書いている時点では、日本版は売り切れ状態です)。
ゲーム内容ですが、すごく簡単に説明すると「GM(ゲームマスター)不要でテーブルトークRPG(TRPG)ができるボードゲーム」です。最大4人までプレイすることができ、それぞれのプレイヤーは分身となる傭兵を1人選びます。そしてパーティを組んで皆でダンジョンに挑み、キャンペーンシナリオをクリアしていくといった協力型のゲームです。用意されているシナリオの数は100本以上で、一つのシナリオに1~2時間(場合によってはもっと)かかります。全部遊ぼうとすると、プレイ時間は100時間をゆうに超えることになるでしょう。
また、傭兵たちは経験値を稼いでレベルアップすることができます。難度の高いシナリオをクリアするためにも、プレイヤーはレベルを上げ、継続して遊ぶことを要求されます。この辺りはTRPGと変わりませんね。社会人など、なかなか集まることのできない人たちにとっては、結構ハードルの高い仕様です。
「グルーㇺヘイブン」は大型ボードゲームだけあって、準備も後片付けも大変です。デジタル版である本作の良さは、その辺りをCPUが処理してくれるという点でしょう。また現在、協力プレイのオープンベータテストが実施されています(9月15日まで)。集まりづらいという方々も、デジタル版なら一緒にプレイできるとは思います。それでは、ボードゲーム版との違いも解説しつつ、ゲームの内容を見ていきましょう。
ソロプレイにも適した「ギルドマスター」モード
現在の早期アクセス版では、ボードゲーム基準の「キャンペーン」モードはまだ実装されておらず、「ギルドマスター」モードのみがプレイできます。これはチュートリアルを兼ねたデジタル版のオリジナルモードで、ソロプレイに最適化された内容になっています。元は「アドベンチャー」モードという名前でしたが、内容を大幅に変更し、今年6月の大型アップデートで「ギルドマスター」モードとして再始動しました。
ボードゲーム版の方の流れですが、「グルームヘイヴン」という都市を拠点にして、そこからキャンペーンシナリオに挑む形となります。それぞれのプレイヤーは使用キャラ(傭兵)を決め、それに対応するコマとカードデッキ、キャラクターシートを受けとります。カードについては後述しますが、ダンジョン内の戦闘で使います。「プレイヤー=傭兵」なので、一般的なTRPGと似たようなものだと思ってください。
一方、デジタル版の「ギルドマスター」モードでは、プレイヤーは傭兵団を運営するマスターになります。傭兵たちを雇い、その中から誰を冒険に向かわせるかを決めるといった、運営者視点でのプレイです。1人1キャラを担当するボードゲーム版と違って、複数の傭兵を操作しなければなりません。

ゲームの難度を選択肢して開始すると、チュートリアルシナリオが始まります(チュートリアルはスキップできます)。画像の3本のツノを持ったモンスターみたいなのが、我らが傭兵の1人であるブルート。戦士系のキャラですね。
本作の傭兵のデザインは、基本的に「ダンジョン内の敵?」と勘違いしてしまうような、悪役系モンスターみたいなのがほとんどです。こういうのが初期キャラとして、あと5人(5体(?))います。筆者的には味があっていいのですが、日本では一般受けしなさそうな気もします。

ボードゲーム版とも共通するゲームの大まかなルールですが、各キャラはカードデッキ(手札)をダンジョン内に持ち込み、それを使って移動したり、敵と戦ったりします。持ち込めるカード枚数はキャラによって違いますが、だいたい10枚前後ですね。チュートリアルでは、分かりやすくするために、カード枚数を少なくしています。
各ターンの始め、各プレイヤーは手札から好きなカードを2枚選びます。それぞれのカードには1~99の数字が書かれており、一番数字の少ないカードを出したキャラ(敵も含む)から行動します。
カードの上段・下段には、それぞれ違った内容が書かれています。片方のカードで上段の内容を実行したら、もう片方のカードは下段の内容を実行しなくてはなりません(片方が下段なら、もう片方は上段)。現在、下段の「4マス移動」を選択したので、もう片方のカードは上段の「攻撃」を実行することになります。

移動した部屋の先に、敵のバンデッドガードがいました。もう片方のカードの上段「攻撃(ダメージ3)」を実行しましょう。実際のボードゲームだと、ここで-2~2、もしくは2倍か空振りの乱数補正が入るのですが、チュートリアルでは分かりやすくするために補正無し。ダメージ3がそのまま敵に入ります。これでこのキャラのターンは終了。使った2枚のカードはすべて捨て札になります。
敵の行動は「移動1」「攻撃(ダメージ3)」。こちらも3のダメージを食らいます。ただこのとき、手札を1枚、もしくは捨て札2枚をゲームから除去することで、ノーダメージにできます。ここはおとなしく食らっておきましょう。

次のターンの始まりです。またカードを手札から2枚選ばなければなりませんが、すでに手札は尽きています。この場合、「小休憩」か「大休憩」をすることで、捨て札をすべて手札に戻すことができます。
「小休憩」はランダムで捨て札1枚を除去する代わりに、残りの捨て札をすべて手札に戻せます。「大休憩」は除去する捨て札1枚を自分で選ぶことができ、さらにHPも2回復します。ただしこのターンは何も行動できなくなります。敵が目の前にいるので、小休憩がいいでしょう。

小休憩で捨て札を手札に戻し、敵を倒したブルート。敵のいた位置にはルート品が出現します。取るにはルート品のあるマスまで移動して、そこでターン終了させる必要があります(通過した場合は取ったことになりません)。もしくはカード効果で、周辺のルート品を拾うこともできます。
ここまでのまとめですが、ダンジョンで各プレイヤーは「手札からカードを2枚選ぶ」→「それらを実行」を繰り返します(実行したカードは捨て札へ)。手札が尽きたら、「小休憩」か「大休憩」で捨て札を手札に戻しましょう。休憩するたびにカードが1枚減るので、いかに無駄な行動をしないかが重要になってきます(カードが尽きたら死亡扱いです)。
様々な能力を使いこなせ!

マップ上には罠が仕掛けられていることもあります。罠はジャンプスキルのある移動カードで跳び越せます。カードスキルで敵を突き飛ばしたり、引き寄せたりすることによって、罠を踏ませてダメージをあたえることも可能。地形を上手く使って戦いましょう。

本作にはシールドの概念もあります。シールドのポイント分だけ、攻撃を肩代わりしてくれます。また、貫通効果のあるカードを使えば、シールド破壊が可能。敵の武器を落として次のターンに攻撃できなくする「Disarm」など、カード能力を上手く使ってダメージをもらわないようにしましょう。

ブルートの次にギルドに加わるスカウンダレル。人間の女性で、盗賊系のキャラです。投げナイフで一度に複数の敵を攻撃したり、敵を引き寄せて罠に嵌めたり、煙玉で姿を消したりできます。また周囲2マス以内のルート品を一気に回収したり、仲間と包囲攻撃をしたりなど、初心者にも使いやすいキャラです。カードも行動の速いものが多めです。

ブルートとスカウンダレルのコンビでダンジョンに挑みます。それぞれの特徴を活かして、無駄のない行動をしましょう。前述したように、カードは休憩のたびにどんどん減っていきますので、いかに効率よく動くかが重要になってきます。
ちなみにボードゲーム版では、プレイヤーはそれぞれ手札を見せないようにして2枚選んでから、一斉に出します。そのため、意図しない行動を仲間が取ったりすることも。それが醍醐味でもありますね。ボードゲーム版でもソロプレイは可能ですが、その場合、使用キャラは2人までです。また連携できることから、シナリオの難度も少し高く設定されています。
旅の仲間たち

3人目の仲間となるスペルウィーバー。魔法使い系のキャラで、複数の敵を一網打尽にできる強力なアタッカーです。またエレメントを消費してカード効果を上げることができます。パーティの重要な火力となるでしょう。

4人目の仲間、小柄で宇宙人のような容姿のティンカラー。サポート系のキャラで、毒や爆弾、罠などを使い、特に味方の回復を得意とします。攻撃力こそ低いものの、回復・サポート役としては強力なので、パーティに加えておきたいところ。ティンカラーで罠を設置し、仲間の能力で敵を移動させて罠に嵌めるといった連携プレイも期待できます。

5人目の仲間、岩のような硬い体のクラグハート。前衛でダメージを引き受ける壁役ですね。周囲の敵をまとめて攻撃したり、攻撃を受けたときに報復攻撃をすることができます(報復攻撃は罠と同じく、シールドを無視します)。ただ、攻撃によっては、周りにいる味方にまでダメージを与えてしまうため、注意が必要。ちょっと使いにくさがありますね。

そして6人目はネズミ男のマインドシーフ。ネズミを召喚して戦わせたり、敵を操って同士討ちをさせたりと、トリッキーなキャラになっています。HPが少ないため、扱うにはそれなりにテクニックも必要となります。
ここまでで紹介した6人は、ボードゲームで最初に選べる傭兵たちです。デジタル版では1人1人のミッションを用意して、特徴をつかめるよう工夫されています。ただ、「1ターン以内に敵を全部倒せ」など、詰将棋的な解法を求められるため、慣れていないと難しいステージも。しかし揃いも揃って悪役顔だらけですね。
ギルド運営を始めよう!


6人の初期キャラが出揃い、敵との戦い方も分かったところで、本格的にギルド運営が始まります。プレイヤーは最大4人までのパーティを作り、クエストに挑むことが可能。ここで注意したいのは、「クエストの難度は、パーティの人数によって変化する」ということです。慣れないうちは、2人パーティの方が良いかもしれません。

画面下の「Merchant」アイコンをクリックすると、胡散臭い顔をした商人の登場するショップ画面に移行します。ダンジョン内で手に入れたお金を使って、装備品やアイテムを購入可能。本作での装備品は、「攻撃時、シールドを無視する」など、カード効果の補助として使われます(ダンジョン内で1回しか使えない)。
また装備したアイテムはそのキャラの所有物になるため、他のキャラに譲るときはお金を払わなくてはなりません。仲良しグループではなく、あくまで寄せ集めの傭兵団なのです。
ボードゲーム版では、キャラにはそれぞれ人生の目的があり、それを達成すると引退します。そしてプレイヤーは、初期6人以外の新たなキャラを使うことができます。新しいキャラは封のされた箱に入っていて、ネタバレは禁止。一度しか遊ぶことのできない、いわゆる「レガシーシステム」と呼ばれるものですね。贅沢なボードゲームです。

「Trainer」アイコンでは、実績を解除することで、お金や新たなクエストなどを報酬として得ることができます。冒険前にどんな実績があるのか見ておいて、意識して取りにいくといいでしょう。報酬は自動入手ではなく、ここで受け取りボタンを押さなくてはなりません。

「Temple」アイコンでは、お金を払って祝福を受けることができます。1回切りのものですが、冒険を有利に運べます。難度の高いクエストに挑むときには利用した方がいいでしょう。現在、クリティカル率アップの祝福が受けられます。

クエスト出発前には、カードデッキの調整もしておきましょう。各キャラにはダンジョンに持ち込めるカードの最大枚数があるので、自分にとって使いやすいカードを選ぶといいでしょう。レベルが上がると強力なカードがもらえますので、デッキの見直しを忘れずに。

ブルート(戦士)、スカウンダレル(盗賊)、ティンカラー(僧侶)、スペルウィーバー(魔法使い)という、RPG的にオーソドックスなパーティでクエストに挑んでみます。今のところ選べるクエストは2つだけ。「The Hollow Man」に挑んでみましょう。

ちなみにボードゲームの方では、クエスト前に街と野外でイベントが発生します(イベントカードを引きます)。本作でも画像のように、クエストへ移動する道中でイベントが発生し、どうするかの選択を迫られます。その結果によって、ボーナスを得られることがあります。

4人でダンジョンに突入。やはり一人で4人動かすのは大変ですね。キャラごとのカード数が10枚だとすると、4人で40枚。しかも1枚のカードには2つの効果が書かれていますので、実質約80個の効果を把握しないといけません。ただ、このゲームの基本は「移動」と「攻撃」なので、この2つを優先的に使っていきましょう。

敵の数はそこそこ多かったですが、誰も死なずに勝利!誰が敵を何体倒したのか、ダメージをどれだけ食らったか、ルート品をどれだけ回収できたかなど、細かいデータが表示されます。こういう統計情報は、デジタル版ならではですね。

新しいクエストがアンロックされ、マップの可視範囲が広がりました。先程のダンジョン内での反省点を踏まえ、さらなる難度のクエストに挑みましょう。ボードゲーム同様、全滅してもキャラロストはありませんし、経験値も持ち帰れます。気軽に何度も挑戦するのがいいかと。ギルドメンバーの戦いは、まだ始まったばかりです。
デジタル版ならではのゲームプレイ
PCゲームの場合、基本的に一人で遊ぶことが多くなると思います。そのため、本作はソロプレイでも楽しめるよう開発されています。敵の強さ調整やダメージ処理もCPUが自動で全部やってくれるので、手間がないのがいいですね。
しかし1人1キャラのボードゲーム版からすると、1人で4体動かすのは結構大変なものがあります。とにかくカード枚数が多く、戦闘中に管理しなければならない項目が多い。慣れの問題かもしれませんが、やはり協力プレイがいいかなとも思いました。

それと協力プレイのオープンベータも試してみましたが、ホストをした人がコードをフレンドに送ってプレイする形式で、野良マッチングはできないようです(そもそも野良でやるゲームでもないので)。みんながそれぞれ自分のキャラを育てていくTRPG形式のゲームなので、定期的に一緒に遊んでくれるメンバーを探すのが先決でしょう。
本作は現在のところ英語のみですが、カードに書かれた英語も短文の簡単なものなので、基本ルールさえ理解していれば問題ないとは思います。すでにボードゲーム版を遊んだことのある方なら、すぐにプレイできるかと。実物を買うよりはだいぶ安いですし、興味のある方はぜひプレイしてみてください。
製品情報
『Gloomhaven』
開発・販売:Flaming Fowl Studios、Asmodee Digital
対象OS:Windows
通常価格:2,570円
サポート言語:英語
Steamストアページ:https://store.steampowered.com/app/780290/Gloomhaven/
■筆者紹介:渡辺仙州 主に中国ものを書いている作家。人生の理念は「知られていない面白いもの」を発掘・提供すること。歴史・シミュレーションゲーム・ボードゲーム好きで、「マイナーゲーム.com」「マイナーゲームTV」を運営中。著書に「三国志」「封神演義」「西遊記」「封魔鬼譚」(偕成社)、「文学少年と運命の書」「天邪鬼な皇子と唐の黒猫」(ポプラ社)、「三国志博奕伝」(文春文庫)など。著者Twitter、「マイナーゲーム.com」Twitter。