『Starfield』探求、覇権、貧困、恐怖―大英帝国隆盛を極めたヴィクトリア朝の光と影【ゲームで英語漬け#123】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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『Starfield』探求、覇権、貧困、恐怖―大英帝国隆盛を極めたヴィクトリア朝の光と影【ゲームで英語漬け#123】

時代が変わっても変わらないものがある。

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『Starfield』探求、覇権、貧困、恐怖―大英帝国隆盛を極めたヴィクトリア朝の光と影【ゲームで英語漬け#123】
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『Starfield』のアイテムには『The Elder Scrolls』シリーズと同様に書籍があり、架空のものに加えて「白鯨」や「フランケンシュタイン」など実在の作品、特に1800年代のイギリス作品を多く収録しています。日本でもなじみ深いラインナップが揃っていますが、これらの作品には当時の社会情勢が反映されていて、意図としては19世紀の時代背景を念頭に本作を読んで欲しいというところでしょう。

19世紀のイギリスは「大英帝国」と称する世界中の植民地を抱えており、大航海時代から続く版図拡大の最盛期を迎えた「ヴィクトリア朝」の時代でした。ちょうど『アサシンクリードシンジケート』の時代です。産業革命と植民地貿易によって富と技術が集まり、初回の万国博覧会を開くなど文化芸術においても大きく花開くまさに黄金期でした。しかしその一方で国内の貧困が一層厳しくなり、征服と列強との戦争に限界が見え始めます。そんな光と影の対比もヴィクトリア朝の特徴です。

世界が広がる冒険

世界の植民地を維持するに当たって最も重要なのが「航路」でした。「白鯨(アメリカ作品)」で描写されるように産業革命で需要が増した鯨油を取るために捕鯨が推奨され、ライバル国の影響を排除できる新しいルートと補給拠点を模索する必要があります。そのために利用したのが探検家や学者であり、他の国よりも先んじて発見することを目指して、冒険には常に国家の威信が付随してきました。「種の起源」のダーウィンも海軍所属のビーグル号に乗って世界各地の調査を行っています。

特に力を注いだのが極地探検で、海軍を動員して北極遠征にも乗り出しますが、喪失もかなり大きく、1845年のフランクリン遠征では129名の遠征隊が行方不明になりました。メアリ・シェリーの「フランケンシュタイン」は北極遠征の船がメインの舞台で、探検隊長が救出したフランケンシュタイン博士から話を聞いたという体裁で書かれています。フランケンシュタインは自ら生み出した「怪物」によって北極海まで追い詰められ、それまでの経緯を隊長に語ります。最後には探検隊の前に「怪物」が現れ、復讐を果たした「怪物」は自分を滅ぼすために北極点へ姿を消しました。未開の地がまだまだ多かった時代、世界の果てというものに特別な憧憬があったのです。

得体の知れない「外」

当時はアメリカから入ってきた立ち枯れ病によるジャガイモ飢饉、結核の流行で死者も多く出ています。まだ微生物の概念が浸透しておらず、迷信的に呪いのようなものと捉える人も少なくありませんでした。海外領土と繋がったことで疫病の感染も世界規模になり、さらに人口が増えていたロンドンではいっそう流行しやすい状況に。ブラム・ストーカーの「ドラキュラ」では、ドラキュラ自らがロンドンに乗り込み、吸血鬼の仲間を静かに増やそうと画策します。その様子は手紙や手記の形式で描写され、難破船デメテル号の記録は『バイオハザード』シリーズのファイルの元祖と言っても過言ではありません。外の未知を求める冒険の裏返しで、外から悪いものがやってくる恐怖も同時に存在していました。

貧困と犯罪

『Starfield』の中で読める本の中ではチャールズ・ディケンズの小説が最も多く、最初の研究所に置いてある「オリバー・ツイスト」の書籍を読むと、ロンドンを訪れるミッションが発生する仕掛けもあります。それほど本作に於いて重要な位置づけになっているディケンズですが、他のジャンルの本とは違って、大半がロンドンに住む貧しい人々の話です。「オリバー・ツイスト」は孤児の少年オリバーが虐待や犯罪など過酷な状況を生きていく姿が描かれ、当時の一般市民の生活がどれほど苦しかったかをよく表しています。

急変する社会では失業者が溢れ、国の福祉政策も全く機能していませんでした。特に悪名高い「救貧院」は現代で言うシェルターのような役割ですが、1834年の新救貧法では「救済は最下級の労働者以下の待遇」と定められ、救貧院に収容されたくなければ労働しろ、という趣旨の設計になっていました。虐待同然の状況が横行し、「オリバー・ツイスト」の序盤でも描写があります。ディケンズは大英帝国繁栄の足下で国民が苦しめられていることを小説で批判したのです。

当然治安状況も最悪の一言で、かの有名な連続殺人「切り裂きジャック」もスラム街の娼婦を狙った猟奇事件でした。これと同時期に登場するのが名探偵シャーロック・ホームズで、ハイソな人々の事件に関わる一方、ホームズは情報源としてストリートチルドレンを使っていました。

『Starfield』の世界でディケンズが読まれているのは、時代や技術がどれだけ変わろうとも、苦しい状況の中で生きていく姿は通底していると共感しているのでしょう。主人公も最初は採掘労働者で「影」の側にいました。初対面のウォルターの態度もそんな上流と下流の関係を表すものでしょう。コンステレーションの華々しい冒険の裏にある影の部分を、次のプレイでは見て回ってみてはいかがでしょうか。 


《Skollfang》

好奇心と探究心 Skollfang

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