
『モンスターハンターワイルズ』の最初のフィールドである「隔ての砂原」は荒れ模様になると雷の嵐が吹き荒れる特異な場所。電撃を操るレ・ダウがこの地を支配し、巨大な岩の柱が縦横無尽に走る奇妙な光景は、今までのシリーズの地理とはひと味違います。

ゴツゴツした管のような大岩は、砂地に雷が走った後にできる「フルグライト」という鉱物です。スリンガーの引っかけで起こせるダイナミックな崩壊は、『ワイルズ』の環境利用を象徴する場面でしょう。
「雷の化石」とも呼ばれるフルグライトが生成される条件は、熱せられてガラス質になる砂地であること、そしてそこに6億ボルト以上の強烈な雷が落ちること。砂は絶縁体であるシリカが主成分であること、雨で十分に濡れていること、とても脆いために掘り出すのが難しいことなど、これらの要因からフルグライトは鉱物の中でも比較的希少な部類に入ります。高い電圧が流れる送電線が地面に接触したり、森の木などに落雷して土壌に生成されたりするケースもありますが、前述の理由から手に入りにくく、一般的に流通しているものは砂漠や砂丘の中から採取されたものが大半です。

レ・ダウが砂地上で電撃攻撃を行うと木の根状に広がる赤い跡が出来ます。このときに砂が溶けてフルグライトが生成されているのです。電気を通しにくい物体の中をこのように雷が広がっていく形をリヒテンベルク図形といい、シダの葉のような模様が出来ていきます。雷に打たれた人の皮膚にもこのような跡が出来るため、検索すると火傷の画像も一緒に出てきてしまうのでご注意を。
これまでに地球上で見つかっているフルグライトで最大のものは約15~20メートルほどですが、連続して取り出せたのは約4メートルが最高記録。非常に壊れやすいガラス質で出来ているため、少しでも曲がる力がかかれば簡単に折れてしまうのです。

ゲーム中では見上げるほど巨大なフルグライトが一つの地形になっていますが、地球上では、少なくとも現在の気象状況ではまず有り得ません。あれだけの大きさと頑丈さを持つフルグライトが出来るには、それこそ宇宙クラスのとてつもない電圧と、あの大きさが埋まっているだけの深く広大な砂地が必要です。


ゲーム内のフルグライトは現実と同様の形態を持つものと、「蒼雷晶」「風音石」と呼ばれているガラス質の鉱物の2種類があります。後者は電気エネルギーを帯びていて、レ・ダウはそれを翼に纏うことで雷を強力にしています。蒼雷晶がフルグライトの内側に生成されているようなので、蒼雷晶が電気の通り道に集まって結晶化していると考えられます。
想像するに、隔ての砂原の砂は絶縁体である通常の珪砂と、砂鉄のように電磁的性質を帯びた蒼雷晶の砂が混ざり合っており、そこに避雷針になる吸雷岩の柱で繰り返し同じ場所へ雷が通り、天地を貫くようなフルグライトに成長していったのかもしれません。

ちなみに、落雷が世界一発生する場所は南米ベネズエラのマラカイボ湖一帯。「Highest concentration of lightning」の名目でギネス記録にも登録されています。この場所ではほぼ毎日雷雨が発生し、平均で一秒に一回落ちる場合もあるという凄まじいエリアです。冷たい風が吹き下ろす高山と、温かく湿った空気の海に接しているため、温まった湖から立ち上る上昇気流によって雨雲が急速に発達します。それが強力な雷を発生させるのです。
近年はフルグライトの中で新しい物質が精製されている可能性が見出され、さらにそれが生命発生の鍵になり得るかも知れないという研究も出ています。また、強力な雷の中で反物質の発生と対消滅が起きていることを京都大学が解明しました。ベンジャミン・フランクリンが雷の正体が電気だと証明してから300年、未だに人間には扱いきれない膨大なエネルギーによって雷はまだまだ未知の領域。これこそまさに人が太刀打ちできない大自然の猛威です。
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