月面基地を舞台にした『PRAGMATA』は、新素材「ルナフィラメント」によって、日用品からロボット、建造施設に至るまで魔法のように何でも作り出せる3Dプリンティング技術が描写されています。タイムズスクエアを再現したステージは、ある意味では建設プリンターと闘っているようなもの。宇宙開発の新時代幕開けを飾るに相応しいSF作品と言えるでしょう。

3Dプリンターで大型の建築物を作るというアイデアは近年のSF作品で一般的に取り入れられており、ゲームにおいても『DEATH STRANDING』『サブノーティカ』で拠点作りに役立っています。素材さえ集めればあっという間にできあがり、まさに未来のSFテクノロジーですね。
現実では2020年代にようやく実用化がスタートしたところで、国内では2022年に初めてベンチャー企業による受注が始まりました。国内最初の3Dプリンター住宅は建築確認申請の適用外となる10平米という小屋サイズでしたが、24時間で施工完了かつ約300万円というスピードとコストダウンで注目を集めました。
2025年の大阪万博では大手からベンチャーまで複数の企業がプリンター建築に挑戦し、実際に触れてきた方も多いのではないでしょうか。ここではコンクリート以外の建材も用いられ、経年で自然に帰すことができる生分解性素材でできた「森になる建築」、土壁に近い素材の「トイレ4」、透明樹脂の「トイレ7(島の蜃気楼)」など、未来の建築のプロトタイプが万博には集っていました。
現在、国内の3Dプリンター住宅は建築法による様々な規制をクリアしなければならず、前例のない工法を使っていることで特例の大臣認定が必須となっています。2023年には大手建築会社が建築基準法をクリアした設計を完成させていますが、新規参入や普及にはまだ時間がかかるようです。そこで2024年から法整備が行われており、今年度から3Dプリンター住宅の規制緩和が本格的に実施される見込みです。
※参考:国交省が建設3Dプリンター向けの材料で規制緩和へ、26年度は転換点 | 日経クロステック(xTECH)
法以外の面では、通常とは異なる建築方法のために扱える技術者の人数が限られていること、経年の影響については実際に長年住んでみないと分からない部分もあることなど、新しすぎる故に不足する要素が多々あります。極短期間の工期で被災地の仮設住宅にも役立つと見込まれているので、今後の発展に期待がかかります。
アメリカのテキサス州では3Dプリント住宅の団地が売り出されており、建築資材全体の高騰が続いている現況では、住宅建設の有力な選択肢になり得るでしょう。今後法整備や施工業者が増えていくと、近いうちに建設業界で大きな変化が起きるのは間違いありません。
また、NASAは2015年から2019年にかけて実施した公募「NASA’s 3D-Printed Habitat Challenge」で、実際に建造した建物に対して衝撃を与える耐久テストをするなど、今後の宇宙開発に3Dプリントを重視していく姿勢を見せています。

さらにルイジアナ州立大学と協働して、月を覆う砂「レゴリス」から建材コンクリートを作る研究をしています。宇宙基地を建築するに当たって最も大きな課題は建材と重機をどう現地に持っていくかです。膨大な体積が必要な建材を現地で作ってしまえるなら、建材の代わりに加工ツールと一部の混合物だけ用意すれば事足ります。星間輸送をなるべく軽量化するために、3Dプリンティングは最有力の技術に位置づけられているのです。
当初の予定では2025年(!)にアルテミス3号で行われるはずだった有人月着陸は、2028年のアルテミス4号に先送りされましたが、恐らくその時にはレゴリスを使用した建材の試験も行われるでしょう。

実にSFチックな家が比較的低価格で建てられる。それだけでも魅力的ではあるのですが、未知数の部分もまだ多いため前のめりで買える人は少ないと思います。ですが、不動産会社の営業から勧められる日はそう遠くないはず。一つだけ確かに言えることは……宇宙で手抜き工事だけは絶対に止めましょう。








