
ネクソンは、2025年6月24日から26日にかけて「Nexon Developers Conference 2025(NDC)」を韓国にて開催しました。NDCは『メイプルストーリー』『ブルーアーカイブ』『デイヴ・ザ・ダイバー』などを手掛けるネクソングループをはじめとして、第一線の開発者らが集まり知識の共有を図るカンファレンスです。
オープニングスピーチはネクソンCEOのイ・ジョンホン氏、基調講演にはNEXON Games CEOのパク・ヨンヒョン氏が登壇し、それぞれプレゼンを行いました。NDCは開発者同士の交流の場ということもあり、“韓国ゲーム市場の未来”が強く意識された内容。目まぐるしく変化していくゲーム業界で、韓国がどのように先を見据えているかという点は、日本のゲーム業界にも大きく影響するでしょう。
Game*Sparkでは実際に韓国に赴き、現地からその模様を取材してきました。本稿ではオープニングスピーチおよび基調講演の模様をお伝えします。
◆韓国は攻めの姿勢でグローバル市場に“ビッグゲーム”を送り出すべき…NDCで語られた展望
ネクソンCEOのイ・ジョンホン氏は、ジェネレーティブAI、Web3(ブロックチェーン技術を活用した分散型ネットワーク)、UGC(一般ユーザーによって作られたコンテンツ」)など様々な技術の流れを述べ、「ゲーム制作のプロセスが複雑化していること」と「世界経済の不確実性さ」、さらには「少数の大型IPゲームによる市場再編」などから、昨今のゲーム業界が“かつてないほどのスピードで変化している状況”だと解説します。
変化は技術面や周辺事情のみならず、ユーザーにおける「ゲーム単体に留まらない周辺コンテンツを含めたIPそのもの」への期待も生まれたとし、NDCが掲げる“技術交流”の重要性が強調されました。

同時に、イ・ジョンホン氏はどんなに技術が変わり市場環境が変わってもユーザーが求めるのは「楽しいゲーム」だとして、自身の経験として「楽しさを求めてユーザーが戻ってくる場面に何度も出会った」と続けます。
同氏がネクソンを率いる中で守ってきた基準は「楽しい」の本質に近づく心がけであり、その楽しさをより多くのユーザーに出来るだけ長く届けることが、そのままネクソンの戦略になったといいます。
ゲーム業界がさらにグローバルとなり、技術面でもAIやブロックチェーンなどの「新たな技術」にて多くの判断を迫られる加速したゲーム市場にて、NDCが「ゲームの特別な価値について考え、お互いの経験を通じて有意義な洞察を共有する時間になること」を求めていると語られ、オープニングスピーチは締めくくられました。
●「ビッグゲームを作る理由」パク・ヨンヒョン氏

続いて登壇したNEXON Games CEO、パク・ヨンヒョン氏による基調講演のテーマは「生き残るためにはビッグゲームを作らなければならない」。これは韓国ゲーム市場においての今までの変遷を踏まえたうえで、今後目指すべき道筋が提案されるようなプレゼンでした。イ・ジョンホン氏のスピーチでも語られた「グローバル化」において、どのような形でネクソンが対応していくべきかという答えが「ビッグゲームを作ること」です。
この基調講演は「韓国ゲーム市場においての過去・現在・未来」がテーマ。過去、韓国ゲーム市場は「改革と拡張の時代」だったと述べられます。かつて未開拓だった韓国ゲーム市場は、ローカル企業がゲームを作り、彼らの尽力によって作られた業界でした。国外に進出する例はとても少なく、内部で専門性などを発揮して市場開拓に貢献した会社の多くは、今現在韓国ゲーム市場を支え牽引する「ビッグプレイヤー」に育ちます。
そして次に語られた韓国ゲーム業界の「現在」は、「ある種の停滞に直面している」と語られました。今はPCライブサービス型、モバイル、パッケージ版(コンシューマー)ともに成長できておらず、たとえばライブサービス型のゲームにおいては、韓国内のネットカフェでのランキングなどを引き合いに“2020年以降に発売したゲーム”はほとんどなく、10年を超えたタイトルが多く並んでいます。
モバイル市場ではTikTokやYouTubeなどの非ゲームアプリがゲームアプリの収益を上回り、パッケージ版(コンシューマー)ではAAAタイトルの開発コストも増加したとして、開発自体に企業リスクが増したとも言います。
続いてはこのようなデータから“停滞”の現実を鋭く刺しつつも、「未来」について語られました。昨今は様々なゲームの台頭によって、韓国のみならずある種、“飽和状態”なゲーム市場が形成されています。そんな中で各ゲーム会社がとるべき方針は必然的に「他の市場・ジャンルに介入する」という方向性になります。
たとえば『アサシンクリード』がライブサービスの要素を持ったり、『ホグワーツ・レガシー』の成功にも関わらず次回作にライブサービスゲームを予定しているといったこと。さらに中国に目を向けると、今まで作っていた国内向けゲームからグローバルを意識した作品が作られています。

同氏は、これを「他の市場が攻め込む状況」と言い、これに対抗するためには守りに行くのではなく攻めに転じることが重要としました。そしてそのために重要なのは「ビッグゲームを作ること」。ここでいう「ビッグゲーム」は、単純にお金をかけた大作ゲームではなく、グローバルに世界と戦えるゲームのことです。
現在では東欧や中国に、ゲーム開発で一歩後れを取っていると認めながらも、韓国が培ってきたライブサービスのノウハウや、K-POPをはじめとしたKカルチャーなどが参入の強みであり、チャンスだと語ります。同時に、“これらの優位性は時間つき”であって、数年の猶予を過ぎると優位性が喪失するとも警鐘を鳴らします。
グローバル化におけるマーケティング面では、韓国はその地理的要因から“駅前などでの集中的な広告”が効果を発揮します。しかし地域規模が大きいグローバル市場ではそのようなマーケティングが通用しにくく、未完成の状態からトレイラーを発表し、継続的に期待感を集めるブランディングなどが重要だとしました。

大規模の開発体制を整える問題点の一つは開発者同士のコンセンサスがぶれることで、これにおいてもトレイラー制作などで共通認識が望めます。そして上記で抱えている問題点をあげて、「ビッグゲーム」を作るためには様々な取り組みが必須だと説明しました。同時にこの課題の種別は「既知の未知数」だと定義します。つまり、問題が既にわかっており、解決策を見つけるべき問題ということです。
しかし、同氏は最も気を付けるべきは「既知の未知数」ではなく「未知の未知数(Unknown Unknown)」だと言い、基調講演を締めくくります。これは「問題があることにすら気づいていない状態」のこと。しかしこの「Unknown Unknown」においても、チャンスは残っているといいます。
それは後発としての強みで、他のゲームがどのような困難に陥ったのかを学ぶことによって、自分たちがまだ気づいていない問題に先んじてアプローチし、対処することが可能だということです。そして今回のNDCによって、この状況に立ち向かっていくべきだと解説されました。
NDCは韓国ゲーム市場において重要なイベントであり、日本と韓国ではゲーマーの傾向も異なってくるものの、グローバル化や技術革新に直面している点は同じ。韓国の現在はどうなっているのかと知ることも重要ですが、現在日本が置かれた状況を知ることも可能です。
SNSの発達などにより、今ではクリエイターと読者の距離も近くなってきています。ゲーマーもこの変わっていく時代を、少し気にかけてみてはどうでしょうか。
なお、Game*Sparkでは、NDCの模様を引き続きお届けしていきます。






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