
4GamerとGame*Sparkは2025年8月21日、ゲーム業界への新卒就職を目指している就活生を対象としたイベント「キャリアクエスト」の第3回を、東京都立産業貿易センター 浜松町館で開催する。
このイベントは、ゲーム業界への高い熱意を持つ学生と、新卒採用に意欲を持つゲーム関連企業のマッチングを図ろうというものだ。その開催に合わせて、実際に現場で働いている若手社員に、自身の就職活動について話を聞いてみた。
今回お届けするのは、『WILD HEARTS』や『無双アビス』などのタイトルに携わってきたコーエーテクモゲームスの若手プランナー前田華子さんのインタビューだ。開発の現場に飛び込んでからの経験や苦労、仕事のやりがいなどを聞いているので、ゲーム業界を目指す学生の皆さんは、ぜひ参考にしてほしい。
なお、本稿は4GamerとGame*Sparkの共同による合同企画となっている。前編にあたる「就活編」は4Gamerに掲載されるので、合わせてご一読いただきたい。
ゲーム業界就活イベント「キャリアクエスト」公式サイト入社してから分かった開発現場の風景

4Gamer:改めまして、自己紹介をお願いします。
前田華子さん(以下、前田さん):2022年に新卒で入社した前田と申します。入社4年目、職種はプランナーで、ω-Forceブランド1部に所属しています。以来『WILD HEARTS』『海賊無双4』のDLC、『無双アビス』などを手がけまして、現在は未発表タイトルの開発に携わっています。
4Gamer:プランナーとのことですが、具体的にはどういった仕事なのでしょうか。
前田さん:今の仕事はバトルLDで、つまりはバトル寄りのパートのレベルデザインを担当しています。バトル全体の中で、プレイヤーの皆さんにどういった体験を提供するか、その軸となるコンセプトを決め、それに沿って敵の強さや数、その配置などを調整していくんです。
加えてバトルをよりドラマチックに見せるための演出、例えばこういうギミックがあれば盛り上がるんじゃないか、といった提案を行うこともあります。
4Gamer:仕事風景がイメージしにくいのですが、それはつまり、一日中Excelとにらめっこするような感じなんでしょうか。
前田さん:そうですね(笑)。Excelだけでなく、専用のツールやエディターもですが、PCの画面に向かって作業している時間は長いです。ただ、これじゃダメだと思うことがあったら、席を立って雑談がてら先輩や同僚に相談しに行くこともあります。ほかのパートを担当している人に相談すると、忖度のないフィードバックが帰ってくるので、それが参考になることもあるんですよ。
4Gamer:ほかのパートというと?
前田さん:いろいろです。アクションやエフェクト、サウンド、CG……皆が違った角度からアドバイスをくれるので、参考になるんです。もちろん意見が対立することもありますが、それをぶつけ合った結果として、「確かにそっちのほうがいいかも」となったりする。そういう意味でも、やっぱりコミュニケーション能力が求められる仕事だと思います。自分の意見を伝えるだけじゃなくて、相手の話を冷静に聞く力が求められますので。
4Gamer:なるほど。プランナーというとゲームの企画書や仕様書をひたすら書くものだと思っていましたが、そうでもないんですね。
前田さん:企画書は、私はまだ書いたことがありません。ただ、部署内で不定期に公募があるので、将来的には挑戦してみたいですね。
4Gamer:具体的に、こういったゲームが作りたいというビジョンがあるのでしょうか。
前田さん:今、明確なアイデアがあるわけではないですが、普段ゲームを作っている中で、「これを膨らませたら、一つのゲームとして成立するんじゃ」と思う瞬間があるんです。だから、今はその材料集めをしている感じで、いつかそれが形になればいいなと思っています。
4Gamer:そういった下からの提案を受け入れる土壌がある?
前田さん:むしろ、歓迎されています。以前からあるものをただ続けるよりも、何か新しいことに挑戦するほうが、次につながりますから。ですので新規タイトルに限らず、新作には常に何かしらの挑戦を盛り込んでいるつもりです。
4Gamer:分かりました。就活時からプランナー志望とのことでしたが、最初からプランナーに配属されたのでしょうか。
前田さん:入社時は、開発全体の総合職としての採用でした。そこはプランナーのほかにシナリオ制作部というがありまして、研修後に希望が出せるんです。シナリオもとても魅力的でしたが、自分としてはやはりゲームそのもの――アクションやステージを作りたい思いが強くて、それが可能なプランナーを志望しました。結果として、それが叶った形です。

4Gamer:配属されてみてどうでしょうか。社内の雰囲気は、想像していたとおりでしたか。
前田さん:そうですね。若手でも意見を言いやすい、風通しのよい職場だと思います。ベテランの先輩の背中はすごく大きいですが、若いからといって蔑ろにされることもありません。むしろ若手が発言すると喜んで聞いてくれるので、もっと食らいついていきたいと思っています(笑)。
4Gamer:取材でうかがうと、開発ルームはシーンとしていることが多いように思いますが、実際はどうなんでしょうか。
前田さん:取材などで外部の人がいるときは、そうかもしれません(笑)。でもチームでの作業なので、相談などで話している時間はけっこう長いですね。あと社内チャットに雑談チャンネルがあって、そこも賑わっています。仕事の話はもちろん、それ以外の話題でも。
4Gamer:社員の皆さんは、やっぱりゲーム好きな人が多いですか。
前田さん:はい。自分自身、かなりゲーム好きだと思っていましたが、全然足らないと思わされるくらいには(笑)。ランチ中にも、「あのシステムの元ネタは××だよね」とか「あのゲームはこうすれば改善できる」といった会話が飛び交ってますし、新人の頃はそれを聞くたびに、家に帰ってから実況などを観て調べたり、面白そうなら買ってプレイしたりしたものです。
4Gamer:ああ、何かを説明するときの共通言語になりますよね。
前田さん:そうですね。それに必ず盛り上がる話題なので、飲み会などの鉄板のコミュニケーション術でもあります。新人の頃、先輩から「何か面白いゲームやってる?」ってよく聞かれましたけど、自分が先輩になった今、その気持ちがよく分かるというか。
4Gamer:前田さんご自身は、とくにアクションアドベンチャーがお好きとのことでしたが、では今は、いろいろなタイトルを遊んでいるのでしょうか。
前田さん:ええ。先輩方との会話をきっかけに、プライベートでもいろいんなジャンルを遊ぶようになりました。最近は『DELTARUNE』の新章を進めていますし、自社タイトルも、とくに同期が関わってたりすると、「頑張ったから!」って言われて買っちゃうことも多いです(笑)。
4Gamer:なるほど(笑)。ゲーム好き以外に、社員に共通する特徴があったりしますか?
前田さん:そうですね……入社前はやっぱり変人が多いのかな、なんて思っていたんですが、そんなことはありませんでした。それでいうと、いい意味で妥協しない人が多いですかね。
4Gamer:妥協しない、ですか。
前田さん:例えばα版の1週間前に、システムを丸ごと変更したことがありました。今より良くなる可能性があるなら、とにかく試してみる。もちろん必ずしも良くなるとは限りませんが、ゲームはその繰り返しでブラッシュアップされていくものなので、無駄にはなりません。そうした妥協しない姿勢は、見習いたいと思っています。
4Gamer:そういえば、コーエーテクモには先輩社員が新人をサポートする「ブラザー制度」があるそうですね。
前田さん:はい、私もすごくお世話になりました。ゲーム開発の経験がなくて、最初は“レベルデザイン”の意味すら分かっていないくらいでしたから。議事録を書いても、言葉の意味が分からなくて、あとからブラザーの先輩に一つ一つ聞いたりとか。分からないことを、すぐに確認できる相手が近くにいるのは、新人にとってけっこう大きいんですよ。
4Gamer:今は前田さんがブラザー側になることもあるんですよね。
前田さん:はい。自分のときは「迷惑かけてるんじゃないか」「手間取らせて申し訳ない」と思っていましたが、いざ自分がブラザーになると、逆にこちらが学ぶことも多いと感じました。新人が躓きやすいところが見えてきますし、プレイヤーに近い視点でフィードバックがもらえるので、お互いにメリットのある制度だと思いました。
“好き”を仕事にするゲーム開発の醍醐味

4Gamer:ではちょっと趣向を変えて、これまでで一番辛かったことはなんでしたか。
前田さん:辛いというより、“頑張らなきゃ”となったエピソードなんですが、2024年に担当した『無双アビス』がとにかく大変でした。アクションパートのリーダーを任されたんですが、仕様書を見ると「1年でプレイアブルキャラクター100人作る」って書いてあって。最初は自分にできるのか、かなり不安だったんです。
4Gamer:その不安を、どうやって乗り越えたのでしょうか。
前田さん:自分を信じることですね。無理ですと言ってしまうと、自分の可能性を狭めてしまうことになりかねませんし、上ができると見込んで任せてくれたなら、できるはずだと。最終的にはベテランの皆さんに助けていただいて、なんとか形にできました。挑戦的な要素も多くて、チームに気合いが入っていたのも大きかったですね。
4Gamer:そうした経験を通して、考え方や視点は変わりましたか。
前田さん:パートリーダーを任せてもらったことで、目の前のタスクだけでなく、「チーム全体が動きやすくなるにはどうすればいいか」という視点が得られたように思います。例えば「デバッグにこういう機能があれば」とか、ほかのメンバーの作業にまで気を配るようになり、プロジェクトを跨いだ影響にも意識が向くようになったんです。
4Gamer:反対に嬉しかったこと、あるいは楽しかったことはどうでしょうか。
前田さん:エゴサです(笑)。社内でもする派としない派に分かれるんですが、私は断然する派でして。『WILD HEARTS』や『無双アビス』が発売されたときは、Xのハッシュタグはもちろん、伏せ字やキャラ名でも検索して追いかけてました。
4Gamer:それはそれは。でもネガティブな意見も目にするのでは。平気なんですか?
前田さん:いえ、メチャクチャへこみます(苦笑)。一生懸命調整したのに、そこを叩かれると「ごめんなさい」ってなります。でも、くよくよしても仕方がないですし、何より誉めていただけたときが本当に嬉しくて。それをモチベーションにして仕事をしているようなものですね。意図したことがそのとおりに伝わったときや、ちょっとした小ネタやコダワリに気付いてもらえたときは、とくに感謝したい気持ちになります。
4Gamer:では前田さんにとって、この仕事の面白さはどこにあるとお考えですか。
前田さん:一番は“終わりがない”ところですね。ゲームに正解はありませんし、“神ゲー”とされているタイトルですら、改善点がないわけではない。そこがゲーム開発の面白さであり、大変なところでもあります。
先ほど“妥協しない”と言いましたが、それでもスケジュールは決まっていて、どこかで線引きはしなくてはならない。一方で、社内の品質チェックを通らなければ、イチから作り直しになることだってある。そのジレンマが、良くも悪くも一番面白いです。
4Gamer:前田さんご自身は、今後どんな方向に進んで行きたいですか。
前田さん:まずは「私がこれを作りました!」と、自信持って言えるタイトルを持てるようになりたいですね。今はまだ“関わった”でしかないので。

4Gamer:プランナーのキャリアパスとしては、ゆくゆくはディレクターか、もしくはプロデューサーというのが一般的ですが、ご自身としてはどちらが向いていると思いますか。
前田さん:そこは今、すごく悩んでいるところなんですが……ただディレクションの経験は、プロデュースをするにも生きるものですし、ディレクターになれたとしても、務まるかはまた別の話です。先輩方を観ていても本当に大変な仕事だと思いますし、今の自分がそこに辿り着くには、越えるべきハードがあまりにも多い。なので、まずはそこを目指して切磋琢磨していくつもりです。
4Gamer:よく分かるお話です。まずはディレクターを目指すと。
前田さん:そうですね。ただ弊社には、ディレクターとしてゲームを作りながら管理職をやっている方もいますので、それ以外のキャリアパスもあるんじゃないかと思っているんです。例えば新人が長く働ける制度作りや、年齢に関わらずゲーム作りができる環境を整える仕事にも興味があるので、そういう道も考えたいですね。
4Gamer:では、もし新卒の頃の自分にアドバイスするとしたら、どんなことを伝えたいですか。
前田さん:もっと遠慮をせずに、先輩方の話をたくさん聞いておけ、と言いたいです。開発の昔話とか、ここ頑張ったらよくなるみたいな心構えであるとか。歓迎会などででご飯に連れていってもらったときも、遠慮してあまり聞けなかったもので。
4Gamer:今と昔では環境が大きく違いそうですが、参考になるものですか?
前田さん:もちろん、ただの昔話で終わるなら参考にならないかもしれませんが、どうやって壁を乗り越えたのかといった経験談は、今にも通じる話だと思います。自分がこれから進む先にあるものなら、先に知っていて損はないですよね。
4Gamer:今まさにゲーム業界を目指すしている人に向けてはどうでしょうか。何かアドバイスがありますか。
前田さん:やりたい気持ちが少しでもあるなら、飛び込む価値のある業界だと思います。新しい技術がどんどん入ってきて、それに合わせて常に自分をアップデートしていけるので、それらに興味があるなら期待を裏切られることもありません。経験がなくとも、“好き”な気持ちさえあれば何とかなります。導いてくれる人もたくさんいるので、構えずに飛び込んでみてほしいですね。
4Gamer:ちょっと意地悪な質問かもしれませんが、「好きなことを仕事にする」ことの是非について、前田さんはどう思いますか。
前田さん:私は賛成です。純粋に好きでいたいなら仕事にしないほうがいいという意見も分かりますが、自分の経験としては“好き”という気持ちがマイナスに働いたことはありません。むしろ好きと仕事を両立できるなら、すごく幸せなことだと思います。
4Gamer:ゲームが好きなことは、むしろプラスに働くということですね。
前田さん:はい、すごく武器になると思います。ただ、遊ぶのが好きなだけだと、のちのちしんどくなる瞬間が来るので、自分の“好き”に対する違ったアプローチは、何か考えたほうがいいと思います。作るのが好きなのか、新しいものが好きなのか、作る人を助けるのが好きなのか、見つめ直してみるといいのではないでしょうか。
4Gamer:分かりました。次はディレクターとして、お話を聞く機会がくるのを楽しみにしています。
前田さん:頑張ります!
4Gamer:本日はありがとうございました。










