
『Layers of Fear』や『>observer_』でホラーゲームデベロッパーとしてその名をとどろかせ、昨年の10月にはリメイク作品である『SILENT HILL 2』をもって盤石の評価を得たBloober Team。
そんな開発陣が満を持して世に送り出す新規作品『Cronos: The New Dawn』が2025年9月5日にリリースされました。
AAA作品と言っても差し支えのない規模を誇る今作は既に高い評価を受けており、Steamでは2000件以上のレビューと「非常に好評」のステータスを獲得しています。
本記事では、今注目の開発が放つサバイバルホラー『Cronos: The New Dawn』のレビューをお届けします。
球体頭が滅びを迎えたポーランドを征く

プレイヤーは「トラベラー」という謎の存在として、既に終末を迎えた世界で目覚めます。
宇宙飛行士のような頭に、メリケンサックに切り替わる謎の銃、脳内に流れ込む白黒の映像、ラザロスプロトコル…。膨大な情報が押し寄せ、困惑と好奇心を煽る新規作品として満点のオープニングを迎えます。

主人公である「トラベラー」とは何者なのか、世界はなぜ滅びたのか、滅びた世界でこれ以上一体何をするのか…全てが五里霧中のなか徐々にその全貌を表す世界と対峙します。
終末世界でレトロフューチャーと血肉がぶつかる圧巻のビジュアル

始めにこのビジュアルに言及しないわけにはいきません。本作『Cronos: The New Dawn』の「荒廃した世界」の道のりは二つの対照的な要素によって彩られています。一つはトラベラーたちの「レトロフューチャーなテクノロジー」二つ目は「溢れんばかりの血肉」です。
トラベラーたちは滅びた人類よりも明らかに高い技術力を持ち、鉄を思わせる冷たく重厚な装備に身を包んでいます。

一方で人間が何かに感染した末に生まれた「バイオマス」という新生物は血と肉、そして内臓をむき出しにしたような熱くたぎるグロテスクな形態をしています。

鉄と肉という対照的な二つのモチーフが滅びた世界という本来静止したはずの空間でぶつかり合うところに、本作のビジュアルとシチュエーションの魅力が詰まっています。

『Cronos: The New Dawn』における、このような対照的なモチーフとその衝突はこれだけには留まりません。

『Cronos: The New Dawn』はBloober Teamお得意の精神世界の描写にも力が入っています。トラベラーは次元の狭間を介して、滅びゆく過去のポーランドに戻り、任務のカギとなる重要人物の「エッセンス」を回収していくことになります。

回収されたエッセンスは、さながら同開発の『>observer_』の脳みそハックのように人格としてトラベラーの中に流れ込み、冷静沈着であるはずのトラベラーの精神をフラッシュバックのような激しさで乱します。ここにも冷徹さにある非人間性と激情に駆られる人間性という対照的なモチーフの邂逅を見ることができます。

アイデアは過去作品から据え置きなものの、その演出とビジュアルのクオリティは明らかな進化を実感することができます。
また、今作が3人称視点を採用していることも、この世界の美しさを際立たせていると感じました。見飽きることのないデザインのスーツ越しには常にバリエーション豊かな景色があり、どこを切り取っても絵になります。

鉄のように冷たいトラベラーと血肉、化け物、崩れた建物、重力の異変 etc… どこにいても、どんなに退廃的であっても有無を言わさず美しさを感じさせるこの体験は必見です。
管理 管理 管理:サバイバルホラーの醍醐味を存分に

『Cronos: The New Dawn』でプレイヤーの前に立ちはだかるのは「バイオマス」です。ゾンビのように緩慢な動きの個体もいれば、頭部がない代わりに素早く動ける個体、図体が大きく体力の多い個体などバリエーション豊かなバイオマスが存在します。
そんなバイオマスに対抗するため、プレイヤーは主に「銃撃」 「焼却」 「打撃」の3つを使い分けて戦闘を繰り広げます。
「銃撃」は言わずもがなメインの攻撃手段となります。弾薬は非常に限られているため敵の弱点をしっかり狙ったり、時には安全な場所まで逃げてやり過ごすことも必要となります。

特定エリアの全ての敵を倒すことを求められる場面もありますが、とにかく「生き残ること」が求められていると感じるバランスとなっています。
そして『Cronos: The New Dawn』の最も革新的な要素が「バイオマス同士の融合」です。バイオマスを倒すと、その死体はコアのような血肉としてその場に残ります。生きている敵がコアに近づくと、おもむろに融合を始め、体力を回復したり、新たな姿に進化してプレイヤーの前に立ち塞がります。

融合した敵は非常に手強く、物資の限られた状況では何としてでも阻止したい行動です。そんな時に有用なのが「焼却」による攻撃です。
炎を周囲に撒く「トーチ」やステージに設置された燃料缶を破壊することで、バイオマスのコアを燃やして消したり、敵の融合を中断させることが可能。また生きているバイオマスにも焼却は効果的で、ダメージを与えると共にスタンさせることも可能で単純な攻撃手段としても有用です。

一方で炎を発生させるための物資は銃弾よりも限られており、全ての死体を燃やすことは不可能です。外殻が硬い敵や、酸を飛ばしてくる敵と融合されると、その能力を引き継いだ敵が生まれさらに厄介な状況になることもあります。どの死体を燃やすのか という判断も重要となります。

銃弾も炎も尽きた先に残されるのは「拳による打撃」です。打撃には二発連続で放てるパンチと、どこか馴染みのある踏み付けの二つが存在します。どちらも敵を倒すには頼りない威力で、モーションも大振りなためタイミングを見極めないと逆にダメージをもらってしまう性能です。

また中途半端に敵を倒すことでかえって強い敵を生み出してしまう、という状況もままあり「いつ どこで敵を倒すのか」が戦闘において重要となります。
以上のように今作の戦闘は「限られた物資やシチュエーションを利用していかに切り抜けるのか」に焦点が当てられており、常に合理的な判断が求められる緊張感のあるものとなっています。
「詰んだ…」と思わされるようなシチュエーションもあれば、少ない物資で敵を処理できた、という全能感を得ることもあります。

しかし、何より全てのリソースを吐いて命からがら死線を切り抜けるというシチュエーションも多く、サバイバルホラーの醍醐味をいかんなく感じることができました。
探索と武器の強化

『Cronos: The New Dawn』において戦闘が短期的なゲームプレイであるとすれば、探索要素は中期的、武器やステータスの強化は長期的なゲームプレイということができるでしょう。
探索では弾薬や回復アイテムといった必須のアイテムの他にも、トラベラーの武器を新たな性能へと変化させる「武器パーツ」、スーツや装備品をアップグレードする「コア」などを手に入れることが可能です。

探索中には滅びゆく世界で人々が残したテキストやオーディオログを発見することも多くあります。人類がいかに滅びたのか、そのとき国や個人はどのように動いたのか、荒廃した景色の中で思いをはせるウォーキングシミュレーター的な趣も感じられました。

探索で見つけられる武器にはショットガンやアサルトライフルなど、比較的ベーシックな性能のものが用意されており、それぞれチャージショットで性能が変わる性質を持っています。

各武器はエネルギーを使用して強化することが可能で、激しさを増すバイオマスとの戦闘を有利に進めるためには必須の行動となってきます。武器のアップグレードについては少量のエネルギーを支払うことでリセット可能であるため、新たな武器へと気軽に乗り換えることが可能。一方でスーツなど強化に「コア」を使用するアップグレードはリセットができないため慎重に検討する必要があります。

総評:新たなサバイバルホラーシリーズの夜明けを予感させる良作

以上『Cronos: The New Dawn』のビジュアルと戦闘、探索の要素に焦点を当ててレビューをお届けしました。今作には他にも、滅びた世界で繰り広げられるストーリーや、二週目にも目配せしたNew Game+モードの存在、さらにはプレイヤーの選択が与える世界に与える影響など語りたい要素がたくさん残っています。
しかし、新規作品として殴りこんできた本作をできるだけ新鮮に楽しんでもらうためにも、言及する要素を絞り込んでお届けしました。一つ言えることは開発のBloober Teamは新規作品に掛けられる期待を軽々と超え、「The New Dawn」(新たな夜明け)の名の通り新たなサバイバルホラーの夜明けを予感させる名作を世に放ったという事です。
発売当初は音声の再生やムービー中にクラッシュするという致命的なバグも存在しましたが、現在はアップデートによって修正されています。新時代のサバイバルホラーの陽光を共に浴びましょう。
Game*Spark レビュー『Cronos: The New Dawn』 リリース日:2025年9月5日
期待を超えるサバイバルホラーの新たな夜明け
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GOOD
- 圧巻のビジュアル
- 緊張感に満ちた戦闘
- 予測のつかないストーリー
BAD
- 全体的に惜しい翻訳
- 一部取り返しのつかないアップグレード要素













