
ゲームを長らく遊んでいる方なら、「なんでこのゲームデザインのタイトルが出てこないんだろう?」というものがいくつか思いつくんじゃないでしょうか?僕の場合、それは寝技(ブラジリアン柔術やサンボなどのアクション)・組み技(柔道・レスリングなどのアクション)がメインのアクションゲームや対戦格闘ゲームですね。
MMA(総合格闘技)が好きでよく観ていて、ブラジリアン柔術の選手が相手の打撃をもらわずに仕留める試合が好きなんです。ゲームにもそういう戦い方を操作体系に落とし込んだタイトルが出てこないのかな、と長らく思っていました。
ぼんやりと考えている寝技・組み技メインのゲームプレイのイメージは、銃器などで武装した敵たちを相手に打撃を一切使わずに、組んでから関節技とかチョークスリーパーで相手を無力化していく感じです。絵的にはこの記事のGemini AIに生成してもらったヘッダー画像みたいなゲーム画面でしょうか。めちゃくちゃざっくりなんですけど……。
無茶な話に聞こえますか?いや、アクションゲームを作ったりするのに現実の格闘技とか映画からの影響は大きいじゃないですか。思ったよりも。そして格闘技の歴史で、寝技・組み技がものすごく影響を与えた時代があるのに、ゲームで真正面からそのゲームデザインを実現したことはわずかしかないんだよなあ……と。基本は、立ち技での打撃戦がメインじゃないですか。
なんで寝技ってそんなにゲームにならないんだろう?もしちゃんとゲームにするとしたら、どうなるのか?
打撃と寝技・組み技をゲームデザインにする違い
ゲームは寝技・組み技を、昔からどうゲームデザインにしていたのか?まずそれを書く前に、ゲームはどういうかたちで様々な格闘技を描いたかを簡単に振り返りましょう。
やはり70年代~80年代ごろ、ブルース・リーやジャッキー・チェンの映画が、中国のカンフーやジークンドーといった打撃格闘技をエンターテインメントとして広げていきましたよね。その影響力はゲームにも及んでおり、ファミコンの『イーアルカンフー』からPCエンジンの『THE 功夫』などなど、元ネタをそのまま思わせるゲームが数多く登場しました。

こんな形で、カンフーなど「打撃がメインの格闘技」をゲームで表現するケースはたくさん出てきました。打撃格闘技は視覚的にも派手でわかりやすく、そしてゲームとしても作りやすい特徴が揃っています。
・ボタンを押すと、パンチやキックで攻撃するというのをわかりやすく作れる。
・ボタンを押すと即座にキャラクターに反応がある。
・自キャラと敵との攻撃の射程距離を計算した、戦略的な闘いができる。
打撃格闘技だとプレイヤー側のインタラクションが、ゲーム画面にどう反応するかが分かりやすいんですよね。だからこそ、8bitの時代から現代までこの表現は溢れかえっているのだと思います。そもそも「ボタンを押す」という行為そのものが、指でボタンを打つわけですから、ゲームで打撃を表現するのは納得しやすいところがあります。
ではこの頃のゲームでは、まったく寝技や組み技を表現したタイトルは出てこなかったのか?というとそんなことはありません。プロレスや大相撲、柔道がわずかにゲームになっています。
この当時は現実のプロレスもすごく人気がありました。アントニオ猪木が率いる新日本プロレスが注目されていた頃ですね。こちらも漫画や小説などへの影響が強く、ビデオゲームにも波及していました。

組み技を前面に出した例として、プロレスのゲーム化が挙げられます。とりあえずファミコンの『プロレス』などはこんな感じです。
・まずボタンを押して、相手と組み合う動作をするアクションをする。
・組みつきが成功すると、次に十字キー+ボタンに対応した技の入力を行う。
・上記の技の入力に成功すると、投げ技が出るかどうか判定される。
つまり、組んでいる間に入力した技が通るかどうかは、プレイヤーにはわからない瞬間がある。じれったさを感じることになります。
プレイヤーは組み合っている間の攻防はどこを注目すればいいのか?これが、プロレスはもちろん大相撲や柔道など組み技をゲームデザインに落とし込むときの問題のように思います。
一番の問題は、プレイヤーが競技性に納得しにくい問題でしょう。自分の行動が合っているのか間違っているのかグレーな瞬間が出てくる。ここには組み技をゲーム化する難しさと、プロレスの場合はプロレスという題材だからこそ何とか成立した、というふたつを感じますね。
たとえば『ファイヤーブロレスリング』シリーズにおける組み技は、試合の最初は弱い技から相手にダメージを与えていき、だんだんと大技が通じるようにしています。仮に組み技の攻防で自分の技の入力が通じずに、相手の技が実行されたとしても、「なんで?いま入力が成功したのに」と不満にならないのは、「まあプロレスは相手の技を受けるのも大事だよね」と、なんとか納得できる落としどころがあるからです。これは実際のプロレスで「プロレスラーが試合を組み立てるような感覚を体験させる」ためのゲームデザインなんですね。
プロレスゲームのゲームデザインは、観客がプロレスを観ながら、うすうす感じている実感を再現しているわけです。ん?試合を組み立てるってなんだって?プロレスは真剣勝負じゃないのかって?あー、すいません、その話をすると特集記事にまとまらないのでこのあたりにさせてください……。
ともあれ、そもそものプロレス自体がやっぱり競技というより、興行として見栄えの良い試合を見せるジャンルでもありますので、「試合を作るかのような組み技」というゲームデザインにすることによって、組み技のゲームデザインを成立させていると思います。

もうひとつは大相撲ですね。ファミコンの時代にはテクモ(現・コーエーテクモゲームス)から『つっぱり大相撲』がリリースされています。
こちらは組んでからの攻防では、相手を押し出したり持ち上げたりして体力バーが光ったタイミングをポイントに技を入力していく、というゲームデザインを施しています。しかし、やはり「組んでからの入力が成功しているか失敗しているか見えづらい」という問題も先行しています。組みでの展開の成否が、どこまでプレイヤーのゲームプレイの責任なのか見えないところがある。
だからこそ、『つっぱり大相撲』は取組みを重ねていくごとにレベルアップさせていくシステムにより、キャラの基本能力を成長させ、「強くなれば投げが通りやすくなる」ことにプレイヤーの意識を向けさせたことで組み技の問題を回避していると思います。
しかしあらためて思うことなんですが、ゲームは映画のアクションやスポーツの試合展開など、観客としての感動を元にしていることが多いですよね。目で見た感動を、実際に操作して追体験させるようなゲームデザインが多いんじゃないでしょうか。固い言い方をすれば、視覚表現として感動がわかりやすい題材ほどゲームにされやすい。そういう意味で、組み技はテレビで放映されているプロレスや大相撲がなんとかゲームになるくらいなんです。
また、柔道やレスリングをプロスポーツとして目にする機会の少なさもありますね。これらの競技は、オリンピック以外ではなかなか観ないと思います。普段の大会は選手や関係者でなければあまり観ないでしょう。
それゆえか、ビデオゲームで柔道などの組み技格闘技をプレイする機会は、オリンピックをゲーム化したタイトルの競技にときたま収録されるくらいなんです。筆者が確認した限り、柔道のみをテーマとしたゲームはジャレコからファミコンで『燃えろ!! 柔道WARRIORS』が1990年にリリースされているくらいで、それ以降は単体でのゲーム化はほぼされていない模様です(こちらも『つっぱり大相撲』に似ていて、キャラ成長システムを織り込むことで組み技をゲームにする際の問題を回避しているようです)。
というわけで、寝技や組み技は視覚表現としてわかりづらく、エンターテインメントとして注目される機会も多くはない。そのため、寝技・組み技格闘技がゲーム化されることも少ないのではないでしょうか。
あれ?最初の「なぜ寝技・組み技のゲームが出にくいのか」って疑問、自己解決しちゃったぞ?いや、もう少し書かせてください。ここからですから。
そんな状況でしたが、90年代に入るとそんな寝技・組み技に対する見え方を覆してしまう、ある柔術がブラジルからやって来るのです……。
1993年の衝撃的な寝技は、ゲームにどう影響したのか
立ち技と組み技の操作体系がある程度は決まった80年代。そこから90年代にかけて、実際の格闘技シーンでも空手やボクシングなど、他の格闘技との異種格闘技戦が活発になっていきます。その流れが過熱していき「世界にはいろんな格闘技が存在するが、どの格闘技が一番強いのか?」と、競い合わせる流れも加熱。プロレスをはじめ、さまざまな団体が異種格闘技大会を開催するのでした。
そんな格闘技界の影響を、ゲームも間違いなく受けています。『飛竜の拳』や『スーパーチャイニーズ』シリーズのカルチャーブレーン(現・日本ゲーム)も『飛龍の拳スペシャル ファイティングウォーズ』で、さまざまな格闘技が一堂に会する異種格闘技大会をゲームにしていたりするんですね。
そんな異なる格闘技同士が対戦する大会が行われる中、90年代に決定的な格闘技大会と格闘技ゲームが登場します。
1991年。ゲームでは『ストリートファイターⅡ』(以下、ストII)がアーケードで登場。今でこそ格ゲーの定番になりすぎて忘れそうになりますが、本作は世界のさまざまな格闘技の達人が競い合う内容ではあったわけですよ。いや、ダルシムとブランカ、お前らはなんの格闘技なんだというのはありますが。ともあれ2Dの対戦格闘ゲームのスタンダードを確立しました。
1993年には3Dの対戦格闘として『バーチャファイター』(以下、バーチャ)が稼働を開始。『ストII』がバラエティ豊かな格闘技が揃っているならば、『バーチャ』は中国拳法を中心とした様々な格闘技の対戦を売りにしていました。
両作品で注目するのは、組み技格闘技のキャラクターが参加していることですね。

『ストII』では組み技のスペシャリストとして、プロレスのザンギエフや大相撲のエドモンド本田が登場。『バーチャ』でも同じくプロレスのウルフの他、シリーズを重ねるごとに大相撲の鷹嵐や柔道の日守剛などが登場しました。
では『ストII』や『バーチャ』では組み技格闘技の選手を使うと、実際の組み技を操るような操作体系になっていたか?そうではありませんよね。対戦格闘ゲームで組み技格闘技の技は、打撃格闘技をゲームデザインに落とし込んだ基準で表現されるわけです。少なくとも格ゲーにおいて組み技格闘技のキャラは、いわゆる投げキャラという形で穏当に収まっていったと思います。
では寝技格闘技はどうなのか?現実世界で、歴史的な大会が行われ、衝撃を与えることになります。
1993年。「世界のいろんな格闘技が競い合う、大規模な異種格闘技大会」が開催されます。ひとつはK-1グランプリ。もうひとつの大会では、まさしくある寝技が世界的に注目されます。それがアルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ――通称 “UFC”です。
この大会では打撃も寝技も組み技もすべて有りというルール。それどころか、初期は頭突きや金的までありという危険極まるイベントだったのです。この戦いは、今日のMMAというジャンルを広げるのに大きな影響がありました。
そんな大会の優勝者は、荒々しい喧嘩屋なのか?それとも粗暴な大男だったのか?違いました。ホイス・グレイシーという、まるで細身の一般男性のような男でした。その男は、グレイシー柔術という寝技を使い、ほとんど打撃を放つこともなく、凶暴な相手を組み伏せ、チョークスリーパーで締め上げて撃破していったのでした。
数多くの格闘技が集い、暴力的な試合が溢れた何でもありの大会で、優勝したのはなんとグレイシー柔術という寝技格闘技でした。粗暴な大会にて、逆に一発の打撃も打つこともない勝ち方は世界に衝撃を与え、グレイシー柔術、そしてMMAへの注目が高まることに。かつてなく寝技への注目が集まる時期となりました。
日本でもプロレスやその他の格闘技が、MMAとグレイシー柔術に注目。1997年にはホイスの兄、ヒクソン・グレイシーと高田延彦の一戦がメインとなった格闘技イベントPRIDEの開催もあり、その流れを受けて、ゲームも影響を受けています。
影響が顕著だと思ったのは、僕が思うにスクウェア(現スクウェア・エニックス)が1997年に生み出した対戦格闘ゲーム『トバル2』です。
本作では組み技の展開を丁寧に行うシステムを導入した他、一部、寝技の展開も導入。打撃格闘技的な対戦格闘ゲームが多い中で、なんだか忘れ去られがちな一作と思うんですが、アーケードで展開せずに家庭用ゲーム機買い切りの格ゲーだからこそ、組み技や寝技をゲームデザインに落とし込む挑戦が出来たんだと思いますね。
もうひとつが、旧SNK最大の実験作と言っていい1999年の『武力 ~BURIKI ONE~』でしょう。本作は徹底して「純粋な対戦格闘ゲームがどこまで現実の格闘技に肉薄できるのか」に挑戦した、最初で最後のタイトルかもしれません。ボタンでキャラを移動させ、レバーで攻撃するという実験的な操作体系を導入した本作。しかしこれは実は奇策ではなく、プレイヤーに寝技を体験させるためのデザインだったのではないか、と思います。
『武力 ~BURIKI ONE~』では、MMAの他にレスリングや柔道のキャラが登場。彼らは寝技や関節技を武器にしますが、他の対戦格闘と違うのは関節技をかけると、レバーを特定の方向に引くインタラクションを行うことです。これにより、たとえば腕ひしぎ十字固めのように、身体を引いて相手の関節技を極めていくという納得が生まれやすくなります。
しかし、『武力 ~BURIKI ONE~』の試みはあまりに特殊な事例なのは確か。格ゲーにおける寝技の操作で「レバー(方向キー)を引いて関節技を極める」という操作体系が根付くことはありませんでした。
結局のところ、格ゲーにおいては基本的な「ボタンを押して攻撃を行う」、「方向キーのコマンドとボタンの組み合わせで技」というフォーマットゆえに、寝技や関節技のインタラクションとそり合わないところがあります。基本的にはコマンド投げで実行される技の一種として収まっていくのでした。

格闘技の歴史でグレイシー柔術が一世を風靡したわりには、格ゲーの世界で柔術家のキャラが登場することは異常なほど少ないです。せいぜい『ストリートファイターV』にマチダ流柔術の使い手・ララが登場したくらいのように思います。
では寝技・組み技の操作の追及はどうなったかというと、純粋な格闘ゲームやアクションゲームで実装されることはほとんど限定的になりました。むしろ、スポーツゲームとして、人気イベントをゲーム化する形でMMAのゲームが掘り下げていくことになります。
UFCやPRIDEといったMMAイベントが活況となり、2000年代に入るとだんだんとグレイシー柔術の寝技も攻略の糸口が見えはじめ、MMAの技術体系が構築されてきたあたりになるとスポーツゲームとしてのMMAが登場するようになります。
2000年には、UFCをゲーム化したものが登場。ドリームキャストで『Ultimate Fighting Championship』がリリース。本格的にMMAを扱ったタイトルとして、寝技の展開も詳細にゲームデザインされていました。ではスポーツゲームとして、寝技や関節技の表現は追求されつづけているか?というと、いまだにものすごく苦労していると思いますね。
少なくともUFCのゲーム版は『UFC 2009 Undisputed』~『UFC Undisputed 3』あたりで、スポーツゲームとしての寝技のゲームプレイをなんとか実現しています。本作ではコントローラーの右スティックを活用することで、「相手を抑えこむ」「優位なポジションに移動する」などの動きを再現しています。
しかし寝技のフィニッシュとして、関節技のゲームプレイは最後まで難航しているように思います。たとえば腕ひしぎ十字固めを仕掛けるとしたら、技を極める攻防はボタン連打の力技で決めるというようなかたちでした。
あまりにも悩んでいるせいか、『EA SPORTS UFC3』では関節技をかける時の攻防が妙なものになりました。関節技を仕掛けると、なんと円状のUIが画面に現れ、4つに分かれたフィールドのひとつを染めたら勝ちというミニゲームになるというゲームデザインで唖然とした覚えがあります。
これで関節技を極める感覚を疑似的に得られるのか?僕は相手に関節技を仕掛けたと思ったら謎の陣地取りゲームをやらされた。何を言ってるかわからねーと思うが僕もなにをやっているのかわからなかった。確かなのは、依然として寝技をゲームデザインすることは難しいということだけです。
寝技・組み技の “見えにくい攻防”を体験させるゲームは出てくるだろうか
というわけで駆け足で寝技・組み技がどういう風にゲームデザインされてきたか?を振り返ってみたんですが、書きながら「そりゃあゲームデザインでメインになるわけないな」と気づいてしまって辛くなっています。
そうだ、せめて少しでも寝技・組み技メインの、柔術家が主人公で、寝技で闘う『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』みたいなアクションみたいなゲームが出たとしたらどうだ?
いまなら生成AIが幻想を形にしてくれる!動画生成が得意なSora2!さあ、寝技メインのアクションゲームの形を導き出してくれ!
……。
だめだこりゃ。解散。終わりだよ終わり。
寝技で闘うアクションの道は遠い。他の手練れのゲームクリエイターなら組み技や関節技の攻防をどう作るんでしょうか?柔道やブラジリアン柔術のゲームを作ってみようというインディーゲームクリエイターがもっと出てきてほしいと、ひっそり願っています。











