「Puzzle」とは難問を意味する単語であり、パズルゲームとは難問を解く快楽を追求するジャンルです。反射神経よりも、器用な手先よりも、数値の積み重ねよりも、沈思黙考が求められます。脳と心で戦い、成長するのは自分自身。パズルゲームにおいて、ドラゴンを倒す勇者は他の誰でもなく、あなた自身なのです。さあ、剣を手にし、立ち上がりましょう。2025年には、戦うに値する数多のドラゴンが現れたのですから。
Öoo
論理的思考で解けるパズルの難易度は解けるまでの手順数と、手順単位で考え得る選択肢の数すなわち複雑性のかけ算で概ね成立します。しかし、手順数は極力増やさず、複雑性のみを上げることでゲーム全体を巨大なチュートリアルにするという思想が『Patrick's Parabox』以後、顕著に見受けられます。細かくステージを分け、アイデアひとつで解けるようにし、小さなアハ体験を次々と得られるような設計です。『Öoo』はアクションパズルにおいて真球のごとく磨き抜かれたレベルデザインで、これを実現してみせました。

水平のみならず垂直方向にも広がりを見せるマップはメトロイドヴァニアの文法に従っていますが、ひとつひとつの画面がパズルとなっており、しかも手前から奥へ進むにつれ徐々にテクニックを学べるようになっています。近年パズルゲームの潮流として、メトロイドブレイニアと呼ばれるジャンルがあります。メトロイドヴァニアが能力やアイテムによって扉をアンロックして探索範囲を広げるのに対し、純粋な知識ひとつで探索範囲が広がる点を特徴としており、知識アンロックパズルとも呼ばれます。
『Öoo』はまさしくメトロイドブレイニアの傑作であり、テキストもチュートリアルもなく、レベルデザインひとつでプレイヤーに知識を閃かせ続けます。これほど自分を天才だと思わせてくれるゲームも、そうありません。

また、こうした取っつきやすさとともに、奥深さも合わせ持っている点が希有です。それ故、パズルゲームをあまりやらない方にも、愛好家の方にも、第一に推薦できる傑作と言えるでしょう。パズルゲームの魅力を知りたいとき、伝えたいとき、もう迷う必要はないのです。
Strange Jigsaws
鍵穴を見つけ、穴の形に合う鍵を見つける。ビデオゲームにおける典型的なパズルとは、こうしたものです。『Strange Jigsaws』はその名に違い、あるいはその名の通り、ジグソーパズルではありません。ゲーム中に散らばった多彩な鍵穴に当てはまる鍵を探し続けるゲームです。その鍵開けひとつひとつは小さなパズルとなっていますが、ゲーム全体の進行はアドベンチャーゲーム、特に脱出ゲームの形を取っています。
しかし思えば、ジグソーパズルとは細かに分割された一枚の巨大な絵を復元する遊びです。とするならば、無秩序に散らばった情報に秩序を与える本作の手続きは、なるほどジグソーパズル的ではありませんか。

とはいえ、ひとつひとつのパズルは単なる鍵探しではなく、ユニークなパズルとなっています。また、パズルゲームといえばひとつのメカニクスから、様々な展開が生まれる驚きも醍醐味です。ただ上下左右に一マスずつ箱を動かす倉庫番から、どれほどの感動が生まれ続けていることでしょうか。本作もジグソーパズルというモチーフひとつから、かなり強引な手を使って尋常ではない展開を繰り広げてくれ、SFのセンス・オブ・ワンダーめいた奇妙な驚きが味わえます。

また、アドベンチャーゲームに引けを取らない奇妙なストーリーも見どころです。他の何物でもなく、『Strange Jigsaws』という不思議なゲームを遊んだ、としか言いようのない感触を味わえることでしょう。
The Roottrees are Dead
今、パズルゲームシーンにひとつの名作が歩いています。『Return of the Obra Dinn』という名作が。ロジックパズルではなく、調査→仮説→検証を繰り返して進める推理ゲームの流れが。特に、ひとつの鍵穴に対し考え得る鍵を片っ端から試す総当たりでは解けず、複数の鍵穴と鍵を合わせなければ進めないという制約を設け、プレイヤーに深い推理を促すメカニクスが、本ジャンルの特徴と言えるでしょう。
『The Case of the Golden Idol』と続編『The Rise of the Golden Idol』を代表作として挙げられるでしょうが、調査方法として『Her Story』式のワード検索を採用したものが『The Roottrees are Dead』です。

家族経営で巨大企業を運営するルーツリー家。その三姉妹の航空事故死をきっかけに、財産分与を行うべく一族の家系図作りが本作の目標です。時代は1998年、ダイヤルアップ接続で古き良きインターネットを探し回り、一人一人の顔、名前、消息を明かすことになります。本作の特徴は写真、書籍、ニュース、個人サイトの記事、様々なメディアと数多の文献を読み解く点です。ひとつひとつがそれらしく趣があり、手元のスクラップ帳に気になる箇所を転記して読み返せるため、謎解きへの配慮もされています。
そして、数世代に渡るアメリカ社会の変遷という社会史的な面白さと、一族の歴史と一人一人の物語を紐解く過程には大河めいた興奮があります。

同ジャンルでは『Type Help』というテキストベースの名作も2025年に生まれましたが、本作の開発チームにより『The Incident at Galley House』としてリマスターが予定されています。こちらも要注目でしょう。
Gentoo Rescue
倉庫番。1982年に日本で生まれたパズルゲームですが、今や一大ジャンルとして世界中で日夜、変形倉庫番が生み出されています。『Gentoo Rescue』は氷床倉庫番、氷の床で滑って進行方向へ障害物へ当たるまで直進する倉庫番です。各面のクリア条件は、ペンギンを対応する色のゴールまで導くとともに、セイウチを海へ逃がすこと。なるほど、これだけだとシンプルに思えますが、本作最大の特徴は巨大なメタパズルです。
メタパズルとは、パズルの面同士がただ分断されているのみならず、入れ子や横並びの構造を持ち、しばしば互いに影響しあうものです。最初からメタパズルであることを明かしている場合は少なく、ゲーム中盤ないし終盤の大仕掛けとして使われる場合が多いため、ここで類例は挙げません。しかし、間違いなく近年のパズルゲームにおけるひとつの流行と言えます。『Gentoo Rescue』の驚異は最序盤からメタパズルを始めてしまう点で、もはやメタパズルは大仕掛けではなく、当然のメカニクスとして扱われる時代の到来を感じさせます。

無論、各パズルは影響しあい、画面左上のパンくずリストが階層を増すごとに、深淵の暗さに恐怖と驚異が募ります。そして、本作は知識アンロックの要素をも持ち合わせ、思考が水平方向にも拡張を見せはじめると、もう手が付けられません。しかし、ひとつひとつの面はコンパクトで、多少の論理、そして閃きひとつで解けるよう設計されており、新鮮な喜びを次々味わえるようになっています。
さらに、知識を見つけるたびにメニューに記録してくれるため、いつでも見返すことができます。また、答えそのものを提示せず、適切にプレイヤーを導くヒント機能も最近のパズルで練られている機能と言えますが、その点でも洗練されており、すべての面で少しずつヒントを見られるようになっています。そしてメタパズルと言えば移動するために煩雑な手順を繰り返す場合が常ですが、メニューからどの面にも自在に飛べるため安心です。

論理、知識、閃きと三拍子揃った傑作で、プレイヤーに優しいヒントや設定も充実、そして大ボリューム。パズル好きなら、やらない手はないでしょう。
Blue Prince
『Blue Prince』については、もはやネタバレを避けては真の姿を伝えられないのが心苦しいほどには、英語のみ対応にもかかわらず日本国内でも様々な言及がされています。本作をパズルゲームと見た場合、様々な掟破りがあります。なによりも、ローグライトという運要素で、運要素がなく自分の頭ひとつで戦うというパズルゲームの特性を真っ向から否定します。また、ローグライトらしい恒久的アンロック、成長要素まで兼ね備えています。いずれも、筋金入りのパズルゲーマーならば興ざめでしょう。

それでもなお、あるいはそれ故、数多のプレイヤーを魅了するのは、やはりローグライトパズルという発明の成せる業でしょう。日ごとに姿を変え、ランダムに抽選された三択から部屋を選び、行き詰まるまで屋敷を探索するという体験は、他にないものです。また、大小様々多種多様なパズルが詰め込まれ、相互に関連し、やがて屋敷の歴史と謎に迫っていくアドベンチャーとしての快楽も卓越しています。
日をまたぐたび、ドアを開けるたび、新たな謎が顔を出し、ひとつ謎を解けばみっつ謎が増えるような進行。膨大なパズルの質および量で運要素から生まれる無為をなるべく減らしており、プレイ感は、さながら22分間で消滅する宇宙を救うべく毎回ベストを尽くすような心地があります。指針を決めつつ、当てが外れたとしても他に得るものを探す、あの感覚が。コンセプトだけでも強烈なのに、もう同コンセプトでこれを越える作品は生まれないと思わせるほどの圧倒的な作り込みが待ち受けています。

伝統的に、一人称視点パズルアドベンチャーは数々の傑作を生み出してきました。『Myst』、『Portal』、『The Witness』、『Outer Wilds』…これからは、そこに連なる名前がひとつ増えることでしょう。『Blue Prince』と。
最後に、ネタバレになるため個別タイトルでは言及を避けましたが、レイヤー構造もまた昨今のパズルゲームの特徴です。クリア後の追加要素というのは近代のゲームではよく見受けられますが、それが幾重にも連なり、多くの場合は一度目のクリア時点でクレジットロールが流れ、クリア後ボリュームが初回クリア前の数倍になる場合がほとんどです。こうすることで、一旦のクリアという満足感を提供しつつ、求める者にはさらなる深淵を提供できます。パズルゲームは仕組み上、難易度設定が困難なため、高難易度モードを次々連ねた形と見なせるかもしれません。
2026年も、次々と新たなパズルゲームが革新を起こしていくはずです。パズルは今、初心者にとっても熟練者にとっても、かくも入りやすく奥深いジャンルとなっています。手短ながら、本稿がみなさんの道を照らす松明となれば幸いです。











