
2026年5月22日から24日にかけて京都・みやこめっせにて国内最大級のインディーゲームの祭典「BitSummit PUNCH」が開催されました。
フランス発の4作品が出展されていた「Indie Game Lab Japon」ブース。こちらは、フランス文化センター日本支部(アンスティチュ・フランセ日本)とフランス国立映画映像センターによる支援のもと、Game Créalabと講談社クリエイターズラボが連携したインキュベーションプログラムです。
そのなかで特に“フランスらしさ”を感じるビジュアルとゲームシステムで、筆者の興味を引いたのがビジュアルノベル『L'Agence - The Hearts of Paris』。今回はそんな本作のプレイレポートと開発者インタビューをお届けします。
舞台は1888年…パリの結婚相談所!?


本作の舞台は1888年のパリ。主人公「マリー・ド・サン=マルク」は、パリで最も有名な結婚相談所オーナーの孫娘で、周囲の反対を押し切って事業を引き継ぎます。
万博開催を目前にエッフェル塔の建設が進む“愛の都”で、「誰もが自由にパートナーを選べる世の中にしたい」という夢を持つマリー。結婚相談所は経営不振に陥っており、存続させるためには有力者のシャルル=アンリ・ボナパルト・ド・フォウ氏から借金をする必要がありました。
ちなみに登場人物は実在した歴史的人物にインスパイアされており、実際に当時のパリには結婚相談所がいくつもあったそうです。

「綺麗事(恋愛結婚)にこだわってないで、ビジネス婚を成立させて経営をなんとかせい」と説くド・フォウ氏に、借金返済期間を伸ばしてもらうところから物語はスタートします。
そして、期間の延長とともに課されたのは「甥の良い縁談を5日以内に見つけろ」とのミッション。風体や執務室の装飾から成金趣味が伺えるド・フォウ氏ですが、言動の節々から察するにそんなに悪い人ではなさそうです。


翌日、ド・フォウ氏の甥・ピエール・サンドーがマリーのもとへ訪れます。彼はマリーの姿を見るや、直接的な言い方こそしませんが「オーナーが女性とは思わなかった」というリアクションをし、当時のジェンダー・ギャップが伺えます。
しきりに袖を触るピエールは、上流階級らしい正装がなじんでいない様子。また、叔父からの紹介であるマリーを信用しきれてもいません。そんな依頼主が心から結婚したいと思えるような相手を見つけるには、まず対話を通じて心の壁を壊していく必要があります。


この段階でプレイヤーに求められる操作はふたつ。相手をよく観察して不審な点を見つけること、そして質問をして新たな情報を引き出すことです。後者は信頼度が高ければ、より踏み込んだことを訊くことができます。
対話を通じてキーワードを集めたら、それらを組み合わせてプロファイリングすることで物語は進行していきます。どうやらピエールは人に言えない“執筆業”をしていて、形式を重んじるド・フォウ氏の存在がプレッシャーになっていそう。

続けて結婚相手の条件については「30代」「裕福」「名士家系の出身」「結婚歴ナシ」と答えますが、とても本心から言っているようには見えません。その証拠にマリーが「あなた“自身”の理想像は?」と訊くと、ピエールは明らかにギクッ!という反応を示します。


こちらの反応、読者の方ならお分かりかと思いますが、法廷バトルADV『逆転裁判』シリーズのオマージュです。本作のシステムを日本のゲーマーへ説明するなら、“結婚相談所バージョンの『逆転裁判』 in 19世紀パリ”と表現するのが最も明瞭かもしれません。
マリーがさらに詰問をすることで、ピエールから「芸術家の魂を持つ人」との回答を引き出します。しかし、まだ心の壁を破るまでには至らず、それ以上の回答は得られません。
ここで結婚相手と面談する“約束の日”を設定することができるのですが、より早い日程になるとより報酬金を得られ、より遅い日程にすると相応しい相手を探す時間が増えます。今回の試遊デモ版で設定できる日時は1月4日(火)で固定でしたが、実装されればリスク&リターンの駆け引きが楽しめるポイントとなりそうです。

その後、部屋から立ち去る際にピエールが“とあるアイテム”を落としてしまったことで、彼の本性はマリーに看破されることとなります。
凶悪事件の犯人として本性を暴く『逆転裁判』シリーズでは、その対象者は醜悪な姿を見せるもの。しかし本作は、1888年当時のパリの価値観に“抑圧されていた素顔”を暴くので、少なくともピエールは晴れやかな姿へと変貌します。
オマージュ元に倣い、このあたりの演出は非常にデフォルメされていてクスッとさせられます。他にどんな一癖も二癖もある依頼人が登場するのか気になるところです。


なお、試遊デモ版はピエールが本当の自分を曝け出したところで終了します。ここまでストーリーを中心に言及してきましたが、きらびやかな美術周りについても忘れてはいけません。
ひとつひとつのスチルやUIはもちろんのこと、バッグログなど細かな画面にもアール・ヌーヴォー調のデザインがあしらわれています。仮になんの前情報もテキストもなくとも、ひと目でフランスを舞台にしているゲームだと分かることでしょう。この要素だけでも、十分にオリジナリティが感じられました。
テーマは“他人への施しが自分に返る”…開発者インタビュー
試遊プレイ後に1888 Studioのジェレミー・ギダ(Jérémy Guidat)氏へインタビューを実施。開発スタジオの名前にもある1888年を舞台に選んだ理由などを話してもらいました。

――試遊デモの方、楽しんでプレイしました。まず“パリ万博前の結婚相談所”をゲームの舞台に選んだ理由を教えてください。
ジェレミー・ギダ氏:私は大学時代に国際政治を専攻していたのですが、そこで「19世紀末の結婚事情」というテーマで論文を書いたのがきっかけになっています。
――ところどころで『逆転裁判』シリーズのエッセンスを強く感じられました。
ジェレミー・ギダ氏:そうですね。それは意図的にオマージュをしています。それ以外にも『ザ・ケース・オブ ザ・ゴールデン・アイドル』や『ダンガンロンパ』『The Darkside Detective』といった推理・パズルゲームからもインスピレーションを受けています。
――きらびやかなアートワークも特徴的ですが、そのこだわりについて教えてください。
ジェレミー・ギダ氏:本作は僕ともうひとりのグラフィックデザイナーと開発しているのですが、ふたりともアール・ヌーヴォー調が大好きなんです。コンセプトとしてもアルフォンス・ミュシャに代表されるアール・ヌーヴォーをそのまま活かしたいと考えています。
そしてフランスと言えば絵葉書です。まるで絵葉書のように、フランス人でなくともノスタルジーを覚えるデザインというのも意識しています。
――当時の時代背景が見える場面も多かったのですが、本作がテーマにしているものを教えてください。
ジェレミー・ギダ氏:主人公のマリーはゲーム中で色んな依頼人の相談に乗りますが、彼女自身も「もっと自由になりたい」という願いを持っています。そのうえでテーマとしては、“他人の力になることが自分のためにもなる”というものを盛り込んでいます。
――ありがとうございます!最後に読者へ向けてメッセージをお願いします。
ジェレミー・ギダ氏:ぜひこのゲームをプレイして、フランスの歴史を感じてください!

“フランスらしさ”が詰め込まれた結婚相談所系ビジュアルノベル。1888 Studioが手掛ける『L'Agence - The Hearts of Paris』は、PC向けにリリース予定です。











