
みなさんは「電車」と聞いてなにを思い浮かべるでしょうか?通勤・通学や、旅行する際に電車に乗車するという人もいるでしょうし、もしかしたら運転士をしている人もいるかもしれません。他には、トラベルミステリーや匿名掲示板発の恋物語など小説やドラマの舞台になることもありました。
筆者が思い返すのは電車のおもちゃ。プラスチック製のレールを繋げてモーターで走るおもちゃを子どもの頃に遊んだ記憶があります。でも、子どもというのは無軌道なもの。やがて電車はレールから外れ、部屋の床、挙句はお風呂やら神社の境内で走らされ、投げ飛ばされ、くるくると回転させられ……その手の上で弄ばれていました。
そしていま、私たちの手もとにそんな電車が戻ってきました。サイコーにクールで、アツくて、楽しいゲームとなって。それが『電車アタック(Denshattack!)』です。
本作は、2026年5月に開催された「BitSummit PUNCH!」での大賞ノミネートに加え、直近8月の「gamescom award 2026」でも4部門にノミネート。記事執筆時点(8月31日)のSteamレビューでは、2,752件中98%が「おすすめ」とする“圧倒的に好評”となるなど、高評価かつ話題を呼んでいる作品です。
今回は、そんな話題作『電車アタック』についてのレビューをお届けします。
※記事執筆にあたり、パブリッシャーよりキー提供を受けています。
電車が跳ねる!電車が回る!!まるでスケボーなトリックアクション

本作はスペイン・バルセロナのインディーゲームスタジオ「Undercoders」が手がける、アーケードスタイルの3D電車トリックアクションレースゲーム。発売はGame Source EntertainmentとFireshine Gamesが担当。対応機種はPC(Steam,Microsoft Store)/ PS5 / XBOX Series X|S / スイッチ2、価格は2,420円でXBOX Game Passにも対応しています。

いま平然と「3D電車トリックアクションレースゲーム」と述べましたが、「ちょっとなに言ってるか分からない」と思われたかもしれません。その内実はおおむね、スケートボードを題材としたゲームを思い浮かべてもらえれば理解が早いでしょう。ジェットコースターのように起伏の富んだ線路の上を電車が走り、飛び跳ね、フリップやグラインドといったトリックをキメながらスコアを稼いでいく……「電車アタック」とは、そんなアクティビティを指す作中での呼び名です。

操作体系は至ってシンプル。コントローラーの場合、電車の操作に使用するのはL/RトリガーとL/Rスティックのみ。トリガーはジャンプとブレーキ、スティックは電車の移動とトリックに用いられます。入力方法はシンプルながら、その組み合わせによって多彩なアクションやトリックを繰り出せるのは爽快。またある程度ガチャプレイをしても許容される懐の深さもあります。なお本作の採用した操作体系やスコアシステムはスケートボードゲームでは親しみのある形式。特に『Tony Hawk's Pro Skater』シリーズからの影響が強いことは、『電車アタック』ディレクターであるDavid Jaumandreu氏へのインタビューからも推察できます。

こうしたトリックをキメる舞台として用意されているのが、数多くの「トラック」と呼ばれるステージ。日本の各地方や都市、施設をモチーフにしており、そのどれもがブッ飛んだ仕掛けを用意しつつ、妙にその地域の特徴をよく捉えたデザインとなっています。トラックの数は全部で50以上用意されていますが、ゲームプレイとしてのタイプは以下の5つに大別できるでしょう。

①ゴール地点を目指して既定のコースを進むトラック。3Dプラットフォーマーに近く、ゴール地点の点数板(上側ほど高得点)を突破してクリアとなります。

②レースサーキット。複数の電車と競争し、追い抜き、時にはトリックで蹴散らしつつコースを3周、3位以内に入賞してクリアとなります。

③スコアアタック。規定時間内にどれだけ多くのスコアを稼げるかに挑戦します。クリアには最低限のスコアが必要ですが、他のトラックと異なり、時間経過で自動的に終了となります。

④ミッション達成。建造物を壊したり、アイテムを収集したり、配達をしたり……と複数のミッションがトラック内に点在しており、それらをすべて達成した状態で電車を停車させればクリアです。

⑤ボス戦。各地方で待ち構えるボス敵と対決。もちろん電車で。本作のブッ飛んだ演出を最大限味わえる、見せ場ともいえるトラックです。
このようにトラックの種類によってクリア条件は異なるものの、基本的にはトリックをキメてコンボを繋ぎ、ハイスコアを目指すという点は大きく違いません。コンボが繋がるほどに得点倍率は上昇、途中で落下や障害物への衝突といったミスをすると、一回のコンボ中に積み上げてきたスコアがリセットされます。リスクと隣り合わせで、いかにカッコよくトリックをキメてハイスコアを目指せるかが、本作の楽しさの肝といえるでしょう。

なお、クリア条件を満たしてゲームを進行させるだけであればそれほど難しくはありません。本作はミスをしてもその直前から何度でも復帰でき、すぐさまリトライが可能だからです。こうした設計は本作全体に漂うテンポやノリのよさに寄与しており、ノンストップでリニアな進行を楽しみたいプレイヤーの気分を妨げません。ほとんどのトラックはおおむね5~10分ほどと、短時間でクリアできるでしょう。

その一方でプレイヤーが挑戦できるような要素もしっかり用意されています。たとえば、先述のようなハイスコアを目指したプレイではクリア条件達成とは別の難しさが生じてきます。トリックのみならず、トラックごとに設定されたサブ目標の達成(ノーミスクリアなど)もスコア上昇に絡むため、それらを逃さないような集中したプレイを心がけねばなりません。

また、スコアを稼ぐことでトラック上に虹色のルート「八百万道(やおよろずどう)」が現れます。これは上級者にとって最終スコア上昇を狙える要素である一方で、初級者にとってもメリットのある存在。たとえばレースサーキットでは、大幅なショートカットができる八百万道が出現するため、初級者には救済として働きます。
総じて本作は、リトライや1プレイの短さといったプレイヤーに易しいデザインが注意深く施されており、間口はとても広くとられています。それでいて熟達したプレイヤーの挑戦心をかきたてる深さも兼ね備えており、誰もが気持ちよく遊べるバランスに仕上がっているといえるでしょう。
無駄話より電車アタックだ!ノンストップ日本縦断ロードムービー

本作のストーリーの舞台はディストピア的な空気漂う架空の日本。大規模な環境汚染・気候変動により、富裕層は空気清浄ドーム型都市に暮らし、そこからあぶれた人々は外の世界で生活をしています。

ドーム型都市は各都市間を繋ぐ超音速鉄道システム「VACTRAIN」を地下に敷設。その結果、ドーム外の既存路線は廃線となりました。この廃線を利用したドーム外のインフラが、この世界の「電車」なのです。私たちの世界でいえば、自動車のような感覚なのかもしれません。

主人公は大分・別府で電車を用いたラーメン配達を生業とする荒木絵美。ある日彼女は、ラーメンの出前を依頼してきたフリージャーナリストの玉城フェルナンド(通称 フェル)と出会います。天性の電車操縦の才を持つ絵美に驚いたフェルは、彼女に「電車アタック」の世界に挑戦することを持ちかけます。

こうして始まった絵美たちの日本縦断の旅路。それはやがて、ドーム外を縄張りとする各地方のギャング、そしてドーム型都市を運営する大企業「未来道」をも巻き込んだ一大事へと発展していくのです。

と、このように壮大な戦いを想起させる本作ですが、「ディストピア」といっても陰鬱な雰囲気はまったくなく、登場するロケーションも明るいものがほとんど。絵美をはじめとしたキャラのノリは軽快で、デモシーンは全体的に短めで、カラっとした空気に包まれています。

ゲームをプレイしていて、長すぎるデモや会話の連続にやる気が萎びた覚えははないでしょうか。ラーメンだって、スープが冷め、麺が伸びてしまったら台無しですよね。「無駄話より、電車アタックだ。」––これはまさに本作の姿勢を端的に表す作中の台詞のひとつ。本作のデモや会話は、プレイヤーの気持ちが離れるスキなど与えず、すばやく切り上げられます。そして絵美は、とにかく「電車アタックを楽しみたい!」という衝動のままに行動しており、それが作中世界のみならずプレイヤーをも牽引していくのです。

「早くゲームがしたい」というプレイヤーの衝動は、まさしく絵美の衝動と重なるもの。それでいて彼女の衝動はいつもプレイヤーの1両先を走っています。誰よりもいち早く、新鮮に「電車アタック」を楽しむその姿に、プレイヤーは自己を投影するでしょう。

ではストーリー描写は薄いのか?といえば、それは違います。本作はデモシーンや会話だけですべてを語るわけではありません。「電車アタック」そのものこそが、本作を物語る手段なのです。
ブッ飛んだ演出がアツいボスとの激闘

その最たる例であるボス戦から、本作のストーリー演出をみてみましょう。最初に戦うボスは九州地方を支配するコギャル系グループ「爆イケクイーン」のリーダー・光竹佳恵です。

彼女とのバトルではいきなり電車が合体変形し、ロボット形態に。いったいこんな相手とどうやって戦うのか、そもそも電車がトリックしているだけでもまだ飲み込みきれていないのに、なぜロボットと線路上で戦うことになっているのか……プレイヤーの理解が追い付くヒマなど与えず、電車は走り続けます。

ボスが破天荒な手段で攻めてくるなら、それを超える奇想天外な発想で応えてこそ主人公。ロボットの攻撃をトリックを交えて避けつつ、発射されたロケットパンチの上に乗っかって、逆に佳恵を追い詰めます。なぜ絵美の電車が乗っかると物や動物を支配下に置けるのか……それはこの世界の永遠の謎です。このボス戦に限らず、ストーリー中困難が幾度訪れても終始楽しみ続ける絵美の姿に、筆者はもはや「スゴい」を通り越して若干のコワさすら感じてしまいました。
佳恵とのバトルは「Fashion Overdrive」という楽曲のなかで繰り広げられます。ゲーム音楽コンポーザーのSean Bialo氏と音楽クリエイターの雄之助氏の両名が手がけ、Alice Peralta氏が歌うこの曲は、佳恵の持つ価値観や生き様を絵美に対してぶつけるような一曲。この楽曲が相乗効果を生み、あたかもミュージックビデオやオペラの只中にいるような感覚がプレイヤーにもたらされます。これはデモシーンや会話だけでは体感しがたい物語体験でしょう。後述しますが、音楽は本作において重要な役割を担っている要素です。

こうしたストーリー演出や操作の気持ちよさを阻害しないことを重視してか、本作の着地判定は見た目よりやや広めに設定されているようです。たとえば途切れた線路から別の線路に移る際には、やや強引にでも飛び移れることがあります。また、障害物手前ギリギリで回避やジャンプをおこなうとスローモーションになる演出が入り、避けきった場合には得点となるなど、全体としてはユーザーフレンドリー。

その一方、操作面で留意しておくべき点も。たとえば線路の変更や壁走りなどの電車を左右に移動させるアクションをする際は、Lスティックをセンター側からその都度傾け直す必要があります。事前にLスティックを傾けていた場合、電車の左右の傾きが変わるだけで移動の入力として判定されません。これは自動車を題材としたゲームの一般的なハンドリングとは大きく異なる点なので、慣れるまで戸惑うかもしれません。いくらハチャメチャでも電車は電車、時に道を外れるとはいえ、あくまでレールの上が基本であることはお忘れなきよう。

電車アタックを通じたぶつかり合い、それはお互いを理解する最良の方法。バトルは絵美の勝利で決しますが、負けた佳恵も日本縦断の旅に同行することを決めます。昨日の敵は今日の友。こんな調子で電車アタックを楽しみ、各地のライバルと激突するうちに旅の道連れは増えていき、大きなうねりとなっていく……少年漫画の王道を地で行くようなストーリーは、紛れもなく本作の魅力のひとつでしょう。
収集要素でフォローされる『電車アタック』の旅路

メインストーリーが電車アタックによるバトルで語られる一方、細かなキャラクターの掘り下げや設定といったサブテキストは、トラック中のやりこみ要素によってフォローされていく仕組みになっています。


やりこみ要素のひとつが収集アイテム。「スプレー缶」や「ギア」といったアイテムがトラック内に点在しており、これらを集めてショップで用いることで、電車用をデコレーションするステッカーや新たな車両と交換できます。

この収集アイテムの中には「フィルム」があります。これはフェルが制作する電車アタックについてのファンZINEである「(EN)ZINE」の記事を構成するもの。フィルムを集めていくことで少しづつ記事が完成していき、『電車アタック』の世界やキャラクターの背景情報、さらに日本各地の文化や名物に至るまで様々な情報を知ることができます。

マップ画面をよくみると、湯気が立っている地点が見受けられます。もしかするとその近くのトラックには、「温泉出口」が隠されているかもしれません。これはルートの分岐先や八百万道を進んだ先など、通常とは別の場所に隠されたゴールで、サブ目標を見れば温泉出口がトラック内にあるか分かるようになっています。ひとたび温泉出口からゴールすれば、マップから「温泉」へとアクセス可能。ここで見られるのは、温泉に浸かりながら交わされるキャラクター同士のトークです。キャラクター自身が語るパーソナルヒストリーなど、ZINEと比べるとよりキャラクター個人や仲間関係についての描写が多い要素となっています。

「電車アタック」という行為で語られるのが絵美の主観的な物語だとすれば、ZINEとはフェルによって綴られる第三者的な旅の記録。そして温泉で交わされるトークは、仲間たちが共有した時間の記憶といえるでしょう。電車アタックと絵美が特急電車のごとくリニアにストーリーを牽引する一方で、雑誌を読んだり、温泉に入ったりと、各駅で途中下車できるゆとりも本作は持ち合わせているのです。
Y2Kな雰囲気と著名コンポーザー多数参加の音楽

本作全体から強く感じるのが、俗に「Y2K」と呼ばれる1990年代後半から2000年代はじめに流行したカルチャーの空気感。実際、本作を開発したUndercodersのディレクターのDavid Jaumandreu氏へのインタビューでは本作のノリなど多くの面に影響を与えたという『ジェットセットラジオ』(セガ,2000)をはじめ、同時代のセガのゲーム群から影響を受けたことが語られています。なお、冒頭に述べた『Tony Hawk's Pro Skater』の第一作も1999年にリリースされています。
もちろん本作が影響を受けたのはそれだけではありません。Y2K以降のタイトルである『オリオリワールド』、『ローラードローム』、『Thumper』、『Hi-Fi RUSH』、『Bomb Rush Cyberfunk』、『ペルソナ5』、『Celeste』といった近年のゲームのほか、ストーリー面では「ONE PIECE」といった漫画やアニメも参考にされているとのこと。ゲーム性はまったく異なるとはいえ、電車ゲームの先駆者として『電車でGO!』は参考資料になったといいます。
とはいえ、『ジェットセットラジオ』に多大な影響を受けていることからも、本作に当時の空気感が強くあることは明らかでしょう。筆者が思うに、それを感じさせる大きな要因となっているのが音楽面です。
まず本作の参加アーティストを以下に列挙します(順不同・敬称略。役職などは公式サイトなどのプロフィールに準じ、ゲーム関連の代表作があれば付記)。
Sean Bialo:コンポーザー『ドーナツ・ドド』など
Tee Lopes:コンポーザー『ソニックマニア』など
Andrew One:コンポーザー『SHINOBI 復讐の斬撃』など
Daan Demmers:コンポーザー『GladiEATers』など
雄之助:作曲家/ボカロP
Alice Peralta:シンガーソングライター 『スプラトゥーン』シリーズ テンタクルズ・イイダ役ボイス・ボーカル
永松亮:コンポーザー 『スプラトゥーン3』など
Hiro Harding:コンポーザー 『Gold Gold Adventure Gold』など
Richard Jacques:コンポーザー 『ジェットセットラジオ』など
Toni Leys:コンポーザー 『Go Slimey Go!』など
高橋 コウタ:コンポーザー 『エースコンバット2』など
JUNKY58%:USパンクロックバンド
THE DO DO DO'S:ロックバンド
光吉猛修:コンポーザー 『デイトナUSA』など
目黒将司:コンポーザー 『ペルソナ』シリーズなど
Lotus Juice:ヒップホップアーティスト 『ペルソナ』シリーズなど
2 Mello:コンポーザー 『Demon Tides』など
Ironmouse:VTuber
milkyPRiSM:ボーカリスト・作曲家
The Noble Demon:コンポーザー 『Vampire Survivors: Ode to Castlevania』など
Sumika Inoue(井上純華):シンガーソングライター
MIYACHI:ラップアーティスト
藤田晴美:コンポーザー 『ロックマン3 Dr.ワイリーの最期!?』など
Liqid:ヒップホップアーティスト
Emma Rose Williamson:パフォーマー・シンガー
パッと見ただけで、ゲーム音楽(VGM)分野において著名なコンポーザーやシンガーの参加が目に入りますが、Vtuber、ロックバンド、ラッパーなど幅広い顔ぶれのアーティストが参加しています。このため音楽性としては多様で、必ずしもすべてが「ゲーム的」ではないのですが、それぞれの楽曲が本作のシーンと適切にマッチするように演出・配置されています。なお、本作は「gamescom award」の2026年Best Audio賞にノミネートされるなど、音楽面でも高く評価されています。
あえて個別的に見るなら、Y2Kを感じさせるゲーム音楽としてはイギリスのコンポーザー・Richard Jacques氏とセガの光吉猛修氏の参加によるものが大きいと思います。Richard Jacques氏は本作とも関連深い『ジェットセットラジオ』のコンポーザーとして知られ、セガサターンの『ソニックR』、ドリームキャストの『Metropolis Street Racer』(日本未発売タイトル)といった歌モノのVGMが有名です。これらの楽曲はゲームから離れて単体のポップソングとして聴けるような、いわばカーラジオとしてゲームと現実の両方で楽しむことができるエポックメイキングな存在でした。本作で担当した「Cross the Tracks」は、「急いで!」「さあ行こう」など日本語のフレーズが散りばめられた、街と電車の忙しない喧噪が感じられるような楽曲です。
そして光吉氏も同様に『デイトナUSA』の「Let's Go Away」といった歌モノの楽曲が思い浮かぶコンポーザーです。おなじ「歌」であっても、こちらはRichard氏の楽曲群とは異なり、ゲーム内容に寄り添った非常にゲームらしい歌モノといえるでしょう。本作では「Infinite Sky」という楽曲で参加。あえて明言はしませんが、本作でもゲーム内容と絶妙にマッチする場面で楽曲が流れるのでぜひ体験してみてほしいです。
VGM以外の面では、日本のロックバンドであるTHE DO DO DO'Sがトラック内楽曲として「わかりたい」を提供。さらに『電車アタック』の“オープニング曲”として、ゲームの世界にTHE DO DO DO'Sメンバーが登場する「TRAIN-A-GO-GO!」のミュージックビデオが公開されるなど、異色のコラボレーションが実現。
おなじく日本のUSパンクロックバンド・JUNKY58%は、「HEARTBREAKER」と「HAPPY LUCKY」で本作に参加。「HEARTBREAKER」は、参加コンポーザーであると同時に、アルバム全体のミキシングとマスタリングを手がけたAndrew One氏の手でDenshattack! Ver.としてアレンジされています。この楽曲は中国地方のスケバングループ「死球」のボス「佐藤 円花」戦で用いられ、野球をモチーフとしたデザインのトラックにパンクロックサウンドが組み合わさり、ゲームプレイをエキサイトさせます。
このように、少し紹介しただけでも本作が音楽面で非常に力を入れていることが分かると思います。そしてなぜ本作や本作の音楽にY2K的なものを感じるのかといえば、1990年代~2000年代はじめこそがビデオゲームと音楽が強く接近し、ゲーム音楽にとらわれない音楽がゲーム内で流れはじめた時期だったからだ、と筆者は考えます。

この時代にはCD-ROMが家庭用ゲームソフトの供給媒体の主流となり、ゲーム内でもCD音源が流せるようになりました。また、これらのゲーム機にはもれなくCD再生機能が付属しており、ゲーム機で音楽CDを再生した思い出を持つ人も少なくないはずです。当時、ユーザーにとって最も身近にゲームのマルチメディア化を感じられる対象が音楽だったといえるでしょう。
なにより、そうしたゲーム機のひとつであるPlayStationをリリースしたのが、音楽産業を牽引してきたソニーだったことはゲーム文化にとって大きなインパクトでした。音楽カルチャーの流入が起こり、音楽アーティストがプロデュースしたタイトルがリリースされたり、「音ゲー」の隆盛が起こったりしたのもこの時期です。
そして、PlayStationはもとより他のゲーム会社や世間の流行を敏感に察知し、既存のアーケードゲームの路線と融合させていったのが、本作に強い影響を与えたというこの時期のセガだったといえます。

本作はゲーム音楽の著名コンポーザーが参加している一方で、THE DO DO DO'SやJUNKY58%といった、一見するとゲームから距離のあるように思えるアーティストが参加しています。これはまさしくY2Kのゲーム文化の状況、のみならずゲームを巻き込んだY2K文化全体が表現されているといえないでしょうか。かつて『ジェットセットラジオ』で日本のインディーズロックバンド・Guitar Vaderの「Super Brothers」が流れてきた時の空気やノリ、そうしたものが本作にはあります。

ディレクターのDavid Jaumandreu氏が挙げたタイトルではなく、あくまで私見ですが、筆者は本作をプレイしながら『ランナバウト』(1997,クライマックス/やのまん)や、Y2Kと言うには少し後の時代になりますが『塊魂』(2004,ナムコ 現:バンダイナムコエンターテインメント)といったゲームを思い起こしていました。これらは音楽アーティストの参加とゲームプレイの関係という意味でも、本作と近しい部分があり、脳裏に浮かんだのはそれがひとつの要因です。しかしそれだけではありません。

日本にはバカなゲーム、通称「バカゲー」という言葉があります。この言葉に厳密な定義を求めるのは難しいですが、おおむね「甚だしい・過剰・奇抜なゲーム」といったところでしょう。筆者が思うに、人がゲームに対して「バカゲー」と言うとき、ほとんどの場合親しみや愛、丁寧な作り込みに対する驚きや称賛が含まれるのが常です。その意味で、筆者は上記2作を「バカゲー」と呼びます。そして『電車アタック』も紛れもなく「バカゲー」だと、筆者は呼びたいです。

本作は奇想天外な「近未来の架空の日本」を題材としたゲームでありながら、日本らしさの表現に対する細かい心遣い、造詣の深さが垣間見えます。たとえば先ほど挙げたZINEには、実際に存在する各地の名物や地域の情報が記載されています。筆者は日本で生まれ育ちましたが、だからといってそれらを知っていたわけではありません。こうした意味で本作は、日本のプレイヤーにとって日本各地を再発見できるゲームともいえるでしょう。

また、各トラックのデザインは一見するとそれぞれの地方のステレオタイプを反映したもののように見えます。しかしその実、日本の都市や街、地方自治体、どこであっても見られるような「なんでもない景色」が多くのトラックでふとした瞬間目に入ってきます。本作のグラフィックはデフォルメされてはいるものの、非常によく日本らしさが捉えられており、都市の雰囲気や建造物の配置などで、ここが紛れもなく日本であることが感じられます。

ドームの外側の人々が暮らす住宅は、パッと見では本当によくある日本の住宅で、現代日本の文化そのままと言っていいものです。しかし、家屋をよく見るとかなり傷んでいることがわかります。これはドーム型都市にリソースが一極集中し、外の世界が半ば見捨てられていることの表現です。しかしその結果、私たちのよく知る現代の日本的な風景がドームの外側に残された、ともいえます。


そして既存の路線が廃線となり、ただ線路だけが残されたことで初めて「電車アタック」という遊びは可能になりました。本作はスケートボードをはじめとしたストリートカルチャーを参照していますが、それらも『電車アタック』における線路と同様に、都市や街の舗装された道路といった既存の人工物が存在しなければ成立しえない営みです。『電車アタック』が特殊なのは、それが舗装・整備された都市以外の場所、各地に分散し、張り巡らされた「線路」を震源とした文化だということです。

都市や街という権威をハックするストリートカルチャーは、自ずから反権力性を帯びています。だから当然、そこからインスパイアされた本作のストーリーや設定に反権力的な空気があったとしても不思議なことではありません。たしかに大企業・未来道とその支配を厭う電車アタッカーたちの対立は本作のストーリーの主軸といえるでしょう。

しかし、絵美やプレイヤーがなぜ「電車アタック」をするのかといえば、それは究極的には「遊ぶのが楽しいから」にほかなりません。おそらく本作がゲームとして最もこだわったのは触ってすぐ分かる遊ぶ楽しさであり、思想やメッセージ性とは、そんな楽しさから生じるあくまで副次的なものなのだと思います。本作は源流となるカルチャーを大事にはしていますが、とらわれているわけではありません。これは言い過ぎかもしれませんが、そもそも「遊び」や「楽しさ」こそがストリートカルチャーの出発点であり、目的とする終点なのではないでしょうか。
『電車アタック』をプレイすること、それは「遊び」や「楽しさ」を軸に生じる文化の芽生えを体験することであり、本作もまたそんな文化のなかから立ち現れてきたゲームなのではないか、と筆者は感じました。

やや脱線しつつも、ここまで本作について述べてきました。本記事は『電車アタック』のレビューなので、言葉を尽くして本作のことを伝えるのがその存在意義です。しかし『電車アタック』はフィールだとかフロウだとかノリだとか、そういったものでゲーム全体が形作られているタイトルだと筆者は感じます。

だからこそ、もしこのレビューを読んでみて少しでも『電車アタック』に興味を持たれたら、まずは一度プレイしてみてほしいと思います。ニンテンドースイッチ2版は体験版が配信中なので試しにダウンロードしてみるのもいいでしょう。触れたその時に「楽しい」という衝動を感じたなら、もはや語る言葉は必要ありません。
無駄話より、電車アタックだ。
Game*Spark レビュー 『電車アタック』 PC(Steam)/PS5/Xbox Series X|S/ニンテンドースイッチ2 2026年7月16日リリース
Y2K日本ゲームの風を現代に吹かせる快作電車アクション。
-
GOOD
- 触ってすぐ分かる爽快感、疾走感。レールライド主軸の電車を活かした移動の分かりやすさ
- ゲームプレイを遮らない、ダレずに進行するアツい少年漫画的ストーリーと演出
- 日本各地をモチーフとした50以上のトラックは、個性豊かで最後まで飽きさせない
- 著名・多様なアーティストによるサウンドトラックのノリの良さ
BAD
- ごく稀にUIが重なることで危険信号を見逃し、ミスしてしまう場面がある
- ゲーム後半に追加されるギミックは爽快感よりも若干ストレスが勝る











