「ゲームではあまり扱わない人間の側面を描きたい」『Caligula』の山中拓也が挑む新作『UN:Me』―花守ゆみりと開発陣が語る、4つの魂と向き合う物語【インタビュー】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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「ゲームではあまり扱わない人間の側面を描きたい」『Caligula』の山中拓也が挑む新作『UN:Me』―花守ゆみりと開発陣が語る、4つの魂と向き合う物語【インタビュー】

本作の繊細な変化に対するこだわりについて答えていただきました

連載・特集 インタビュー
「ゲームではあまり扱わない人間の側面を描きたい」『Caligula』の山中拓也が挑む新作『UN:Me』―花守ゆみりと開発陣が語る、4つの魂と向き合う物語【インタビュー】
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2027年に発売となるソウル・トリアージADV『UN:Me』。開発は株式会社ヒストリアが担当し、集英社ゲームズがパブリッシングを担います。

「東京ゲームショウ2026」での出展に合わせ、集英社ゲームズで本作の総合プロデューサーを務める河合泰一氏と株式会社ヒストリア代表取締役で企画・ディレクターの佐々木瞬氏、本作の企画とシナリオを担当する山中拓也氏、そして主人公を演じる花守ゆみりさんへのインタビューが実施されました。

左から佐々木瞬氏、河合泰一氏、花守ゆみりさん、山中拓也氏

本作のコンセプトやテーマ、また花守ゆみりさんが4つの魂を演じるうえで大事にしたことや演技への想いなどをお聞きしました。

新しいものに挑戦したい、「不安」をフォーカスした理由や『Caligula』シリーズとの違い

――本日はよろしくお願いします。まずは、改めて本作の特徴をお聞かせください。

河合泰一(以下、河合):本作の主人公は、体の中に4つの魂を宿した少女です。プレイヤーは少女を操作し、美しくも不気味な世界を探索しながら物語を進めていきます。

その過程で4つの魂それぞれと対話を重ね、誰が少女の体の本当の持ち主なのかを見極めていきます。そして、魂をひとつずつ消していき、最後にどの魂を残すのかをプレイヤー自身が選択するゲームとなっています。

――制作の経緯や、コンセプトを教えてください。

佐々木瞬(以下、佐々木):5年ほど前、山中さんとご一緒した『Caligura2』の開発が終わった際、打ち上げで「また一緒に何か作りたいですね」という話になったんです。

次は既存のジャンルに当てはめるのではなく、「どんな体験をしてもらいたいか」というところからゲームを作り上げていきたいと。テンプレートのない、新しいものに挑戦したかったんですね。
1作作り終えた直後の高揚感もあって、「俺らならきっといけるよね」と企画を立ち上げました。

山中さんが設定面、私がシステム面を担当する形で、それぞれ企画書を作り、パブリッシャーを探し始めました。その中で、私が別の案件でご一緒したことのある河合さんに企画を持ち込んだところ、「面白いですね、ぜひやりましょう」と言っていただいて。それが本作の始まりです。

山中拓也(以下、山中):当時、佐々木さんとは複数の企画を考えていたんですが、その中でも『UN:Me』は一番実現が難しいだろうと思っていたんです。

複数の企画書を提出する際に、ひとつくらいは「我々はこんな尖ったことも考えていますよ」とアピールするための、“かまし”の企画を入れておこうと。それが『UN:Me』だったんですが、まさかの一番尖った企画が選ばれたんです(笑)。

――本作はホラーではないとのことで、「恐怖」ではなく「不安」をテーマにされています。なぜ「不安」にフォーカスしたのでしょうか?

佐々木:初期の企画書を見返してみたところ、実は一番最初には「不安」という言葉は入っていなかったんです。心の内面にあるものが具現化するという設定自体は、最初からあったんですけどね。

ただ、当時はまだ私たちにも商業クリエイターとしての考え方が残っていて、「ゲーム性を考えると、アクション要素を入れた方がいいよね」と、当初はアクションを取り入れていたんです。それを河合さんと詰めていく中で、「もっと本当にやりたいことを突き詰めた方がいい企画なんじゃないか」という話になりまして。「もっとやっちゃっていいんですか?」と(笑)。

そうやって自分たちのやりたいことを突き詰めていくうちに、日々抱える不安や心の内面、トラウマといったものを描きたかったんだと気づいたんです。そこから背景やレベルデザインも一気に見直して、「不安」をテーマに作品をまとめていくことになりました。

山中:「いつ自分の体の持ち主が切り替わってしまうかわからない」という、自分ではコントロールできない状況は初期案からあったんです。

それを突き詰めていくと、「自分がいつ変わってしまうかわからないのは不安だよね」というところから、「不安」という言葉が見つかって。その瞬間に、さまざまな要素がつながっていったんです。そこから「これは『不安』を描くゲームなんだ」と、チーム全体で認識を共有できるようになりました。

佐々木: そもそも、最初は本当にホラーゲームを作るつもりはなかったんですよ。それよりも、「明るい場所なのに、なぜか不安を感じる」という感覚に魅力を感じていて、そちらに舵を切っていったところがあります。もちろん怖い場面もありますが、なるべく明るい場所で不気味さや不安を感じさせるということは、今でも大切にしながら作っていますね。

山中:僕たちにはホラーを作ってきた経験や文脈はないんですが、人生のプロではあるので(笑)。日常の中で感じる不安がどういうものなのかはわかるんです。

河合:体験していただいた方にホラーと言っていただく分にはいいですよね。

山中:ホラーと名乗るには、ホラーという積み重ねたジャンルに対してあまり誠実ではないかな、という気持ちもあり……。

――ちなみに、初期段階ではジャンルを考えていたんでしょうか?

佐々木:ジャンルについては、まったく考えていませんでしたね。「このコンセプトは面白いね」というところから企画を一度リセットして、改めて考え直した際に取り組んでいたのは、基礎研究のようなことばかりでした。

例えば、「歩いている後ろ姿を見るだけで、どの魂が入っているのかわかったら面白いよね」とか。物を取るときのモーションに違いをつけてみたり、「これはさすがに伝わらないかな、難しいかな」と、いろいろ試していましたね。

なるべく高い目標を掲げて、セリフで説明するのではなく、「これだけでプレイヤーが気づいたらすごいよね」という体験を目指して実験を繰り返していました。
あとは、目の前に巨大なヒマワリを置いてみて、「これを見たら不安を感じるだろうか」と試したこともありましたね。

河合:昔の絵画などを見ながら、「こういうものが不安を感じさせるんだ」と、いろいろ調査もしましたね。

佐々木:通常、ゲーム制作では、まずジャンルやターゲット、コンセプトを設定してから開発を始めることが多いんです。ただ、今回はジャンルを決めず、自分たちが作りたい体験をとことん突き詰めた先に、どんなゲームが生まれるのかというアプローチでした。私たち自身、そうした作り方は初めてでしたね。
一方で、これまでオーソドックスなゲーム制作を数多く経験してきたからこそ、今回は違う作り方に挑戦してみたいという気持ちもありました。

実は『UN:Me』の前に、VR施設向けの体験型コンテンツなどを制作していたんです。そうしたアーケードゲームや体験型のデジタルコンテンツには、ジャンルを前提としたコンシューマーゲームとは異なる魅力があると感じていました。

例えば、アーケードゲームの開発者は「人間は根源的に高い場所が怖いよね」といった、人間が本能的に抱く感覚から作品を作ることがあるんです。そうした経験もあって、私自身、「人間が根源的に感じるもの」を出発点にして、ゲームを作ってみたいと思っていました。

――アート面なども不安に感じるよう研究されて作られていると思うのですが、建物の構造や間取りが奇妙で、現実と虚構の狭間のような不気味な雰囲気を醸し出していました。空間をデザインするにあたって、どのような意識や苦労がありましたか?

佐々木:明るい場所で不安を感じさせる、という表現をやりたかったんですが、やっぱり暗くすると、怖さが一気に増すんですよね。どこから何が出てくるかわからない、というだけで怖くなるので。

ただ、そういう方向にはしたくなくて、明るさやオシャレさも感じられるタイトルにしたかったんです。なので、明るい場所でいかにプレイヤーの感情を動かすかというところには、まず苦労しました。

一方で、世界観をすべてファンタジーにしたくもなかったんです。現実に生きる少女の精神世界を描く以上、現実をテーマにしたいという思いがありました。
現実をベースにしながらも、絵として不安を煽り、プレイヤーの感情を動かす。そして、それをゲームとしても成立させなければならない。その構造やバランスを取るのが難しくて、もう10回以上は作り直していると思います。

――『UN:Me』は山中さんが企画した『Caligula』シリーズとはビジュアルが違いますが、ストーリーやゲームの中身の部分で『Caligula』と似ている部分や違う部分はありますか?

山中:『Caligula』から引き継いでいるものといえば、やはり人間のどのような側面に注目するかという部分だと思います。人間の内面を細やかに描き、ゲームではあまり扱われてこなかった人間の一面にスポットを当てているところは、共通しているのかなと思いますね。

佐々木:あとあれですよ、花。

山中:そうですね。ただ、僕が『Caligula』で花を使っていたのは、美術における「アレゴリー(寓意)」という表現手法だったんです。ちょっとオタクな話をしますね。

例えば、喧嘩している家族を描いた絵の中に、割れた卵が置かれていたとします。それを見た知識のある人は、「この卵は堕胎を意味していて、それが家族の喧嘩の原因なんだな」と読み取ることができる。このように、ひとつの絵の中に特定のモチーフを置くことで、そこに意味や文脈を持たせるという表現手法があるんです。

『Caligula』でも同じことをしていました。例えば、ある花の花言葉を知っている人なら、「この花が描かれているということは、このキャラクターのドラマにはこういう意味があるんだな」と読み取れる。そうした文脈を、ひとつの絵の中に用意していたんです。

『UN:Me』では、当初こうした手法をあえて封じていたんですが、花をひとつ添えることで意味を持たせるという表現は、プレイヤーとのコミュニケーションのあり方として本作にも合っているんじゃないかと。そうして、花のモチーフを本作にも引き継ぐことになりました。

佐々木:背景に登場するNPCをどうするか考えていたとき、プロトタイプでは病院や病気、患者、ナースなどをテーマにしたステージを作っていたんです。その中で、頭を花にして、その花の様子で元気さを表現するというアイデアが生まれました。また、花が顔のように見えるという表現も、本作のテーマに合っていたんですよね。

なので、『Caligula』から意図的に花のモチーフを引き継ごうとしたわけではなく、本作のテーマを突き詰めていった結果、自然と「花がいいよね」という結論にたどり着いたんです。
むしろ、自分たちでも「本当に花でいいのかな? 『Caligula』みたいになっちゃうよね」と話していたくらいです。

――先ほども仰っていたとおり、山中さんはこれまで人が抱える悩みやアイデンティティ、心や感情を繊細に描き、「人間」を大事にする作品を届けてきました。本作の1つ1つの魂と向き合うコンセプトから、山中さんらしさを感じられる作品になっていると思います。
本作の特徴にも繋がるとは思いますが、山中さんの思う『UN:Me』にしかないもの、またはご自身が表現したいと思っていることはなんですか?

山中:『UN:Me』を書いていて楽しかったのは、無駄話が多いところですかね。

基本的に、物語の中のキャラクターって必要なことしか喋らないんですけど、『UN:Me』ではリアルな会話を意識しているので、あまり関係のないことも喋るし、寄り道もする。物語とは関係なく、気まずい間を持たせるためだけのやりとりもあるんです。

いわゆるRPGなどにある、最短ルートで必要な情報を伝えるための会話ではなく、本当に会話すること自体が目的の会話を描けている。それが僕の表現したい人間の姿にすごくマッチしていて、書いていてとても楽しかったですね。その楽しさが、『UN:Me』という作品の会話やキャラクターの特徴にもなっていると思います。

――『Caligula2』でも歩いている時に左下に会話が出ることがありましたよね。あれも物語に必要な話ではないけど、会話を聞けるシステムだったなと。

山中:ただ、『Caligula2』のときは、限られた会話の中で楽しんでもらいたいという気持ちが、僕の中にも少しあったんですよ。面白いものを作ろう、という意識があったんです(笑)。
一方、『UN:Me』では面白さすら目的にしていないというか、本当にその子が喋りそうなことを、ただ喋らせているんです。だからこそ、とても純粋な会話を書くことができたと思っています。

「静」の中にある「動」をどう表現するか。花守さんが4つの魂へ抱く想いなど

――関係ないことを話すというと、収録で花守さんが覚えているそのような台詞はありますか?

花守ゆみり(以下、花守):大筋の物語とは別に、それぞれの魂がプレイヤーと打ち解けるための、アイスブレイクのような会話シーンも収録していただいたんです。その中には、無駄話と言いつつも、一見関係のないちょっとした会話にこそ、その子たちの性格や個性が表れていると感じるものがたくさんありました。それこそ、恋バナだったり。

女子高生の会話として、恋バナは真っ先に思い浮かぶ話題のひとつだと思うんです。ただ、だからといって、誰もが嬉々として話してくれるわけではないですよね。

まだ関係性ができていない相手から恋バナを振られたら、その子はどう反応するのか。「恋バナはするけど、この関係性でその話をしたら、こういう空気になるよね」という、人間関係の距離感まで含めたリアルな会話になっているところが、個人的にすごく刺さりました。

質問されたはずなのに、いつの間にか「話し手がこっちになってない?」と、自然に聞き役と話し役が入れ替わっていたり、まったく関係のない話にそらす子がいたり。そうやって、与えられたテーマに沿って話すのではなく、「この話題を振られたら、この子はどう反応するのか」という会話になっているのが、本当に自然だなと感じました。

それぞれの魂の性質を紐解くうえでも、こうした何気ない会話が一番重要な時間になっていたんじゃないかなと、演じながら思いましたね。先ほど話をそらしたり、すり替えたりすると言いましたが、私たちも日常会話の中で、無意識にそういうことをしていると思うんです。いかに相手に意識させず、自然に会話の流れを変えていくか。 そうしたやり取りを、お芝居として成立させることを意識していました。

今回の物語は「人の内面」がテーマということもあって、アクション的な動きは少ない作品だと思うんです。だからこそ、「静」の中にある「動」をどう表現するか。目に見える動きが少ない中で、心の動きをどう伝えるかということを意識しました。

実際には大きく動いていなくても、内面では確かに何かが動いている。そうした感情の変化を意識したお芝居が、今回の会話にはたくさん散りばめられています。そういう部分で、これまでのキャリアで培ってきたものをしっかり活かせたらなと。それこそ、自分が人間として生きてきた時間を、この作品に還元できたらという思いで挑ませていただきました。

――花守ゆみりさんは、山中さんの携わった作品ですと『Caligula -カリギュラ-』の「少年ドール」を演じてらっしゃいましたよね。本作に花守ゆみりさんを起用した理由はなんでしょうか?

河合:最初に相談したのは僕なんです。集英社ゲームズには、以前から僕が信頼している音響担当の方がいらっしゃって、そろそろ本作の主役を決めようという話になった際に、山中さんにも相談しました。

山中さんは収録やディレクションも担当されているので、どのような演技をイメージしているのか聞いたところ、「本当に生身の人間が喋っているような演技を突き詰めていきたい」とおっしゃっていたんです。では、それを実現できるのは誰なのか。音響担当の方と相談を重ねる中で、花守さんの名前が挙がりました。

――『Caligula』で一緒だったから、そこから花守さんがよいのではないか、と決まったわけではないんですね。

河合:そうですね。山中さんが求めている演技を突き詰めていくうえで、最適な方として名前が挙がったのが花守さんだったんです。それを山中さんに伝えたところ、「『Caligula』で一緒にやっているから安心だし、めちゃくちゃいいじゃん!」と。過去にご一緒していたことは、後からつながった感じですね。

山中:偶然でしたね。僕が求めているお芝居のテイストって、できる人とできない人がいますし、そもそもそのテイストが好きか嫌いかでも分かれるんですよ。なので、初めてご一緒する方だったら、自分が大切にしているものがちゃんと伝わるだろうか、という不安があると思うんです。

その点、花守さんとは10年前に出会っていて、その後も10年間、活動を積み重ねてこられたことを知っています。だから、きっと僕がやりたいことにも興味を持ってくれるだろうし、「芝居めんどくさ論」にも付き合ってくれるだろうなと(笑)。

花守:(笑)。面白いですよ!

山中:そうした考え方を共有できるというのは、本当に安心でした。いくら脚本をリアルに書いても、最終的なアウトプットであるお芝居がリアルでなければ、そのリアルさは上滑りしてしまうんです。

その大切なお芝居の部分を花守さんに担っていただけることになった時点で、「自分の理想を実現できるだろうか」という不安がなくなって、安心してお任せできました。

――花守さんはオファーが来た時にどう思われましたか?

花守:めちゃくちゃ面白い企画書をいただいたな、と思いました。しかも、スタッフの皆さんのお名前を見ても「絶対面白い作品になるよ!」と、マネージャーさんと盛り上がっていましたね。収録では、ほとんど私がメインで喋ることになるので大変だと思います、ということも最初から率直に伝えてくださっていて。そうしたところも含めて、絶対に力になりたいと感じました。

それに、今のキャリアだからこそこういう題材に向き合い、自分がどこまで作品の表現したいテーマに寄り添えるのか、自分自身でも知りたかったんです。なので、「ぜひ積極的にやらせていただきたいです」とお伝えしました。最初にトレイラー用のボイスを別途収録させていただいたんですが、その時点ですでに、それぞれの魂の一生分の設定と台本をいただいていて。その場で読ませていただいたりもしていましたね。

その段階から、登場人物と一対一で向き合っているような、等身大の会話の雰囲気をリアルに感じていました。

また、「言葉があまりにも鮮明に聞き取れると、かえってリアルさが失われるかもしれないので、本当に目の前にいる人物が喋っているようにしたい」という、演技に対するこだわりもお話しいただいていました。

「人」と向き合うときの空気感を、私もお芝居に落とし込めたらいいなと、トレイラーの収録時から思っていました。そうした会話の距離感については、山中さんと相談しながら作り上げていきましたね。

――収録時のエピソードで印象に残っていることはありますか?

花守:印象に残っていることといえば、最初は「会話をどこで区切るか」というのが、私たちにとってひとつの課題でしたね。

会話って、本来はとめどなく続いていくものじゃないですか。なるべく自然な流れで、実際に対面して話しているように収録を進めていきたいね、という話をしていたんです。そうしたら「なんか、いけちゃうね」と、かなり長い会話を一度に収録することもあって。

ただ、長く収録すればするほど、途中で軌道修正するのが難しくなる可能性も高くなるんです。それでも、「本当にズレてしまったら止めるけど、ズレない限りは続けてもらっていいよ」と、会話の間やテンポをすべてこちらに任せていただいて、10ページ以上の台本を一気に収録したこともありました。

それって、本当に信頼していただいていないと言ってもらえない言葉だと思いますし、逆に、その信頼に応えられる役者でいなければ、とも思いましたね。自分の中で成立させられるところは、しっかり成立させていく責任があったと思います。もちろん、違うと思ったら全部ひっくり返して、もう一度最初からやり直しても全然構いません、ということは、私からも最初にお伝えしていました。

山中:そうですね。ゲームの収録って、ある程度まとまったブロックごとに録るんですが、基本的には「ここのセリフを間違えたね」となったら、その部分だけを録り直すんですよ。ただ、今回はそれだと気持ちがつながらないので、「ここを間違えたけど、この部分は残したい。じゃあ、全部やり直そう」という感じでしたね。

花守:今日はこの会話のパート全部やろう、って感じですね。

山中:もちろん、気にしない人は気にしないでしょうし、音としては成立しているのかもしれません。でも、感情の流れがつながっていないことって、わかる人にはわかるんですよね。 だからこそ、「わかる人にはわかるように作ろう」ということで、「じゃあ、このシーンをまるごと録り直そう」といったこともさせていただきました。

花守:でも、それが逆にすごく気持ちよかったんです。違和感をきちんと解消するために、会話そのものを最初からやり直せる環境って、最近の収録現場ではなかなか難しいと思うんですよ。

そういうところにも、今回の収録ならではのこだわりがあったと思います。しかも、それを面倒くさいと思わずに、お互いが「もう一回やりたい」と言って、きちんと録り直すための時間を用意していただけた。私にとっても、本当に贅沢な現場だったなと感じました。

山中:長くなれば、その分スタジオ代もかさむからね(笑)。

河合:花守さんをキャスティングに相談した音響さんが、今回の企画や設定の複雑さを理解したうえで、最初からそこを想定して長めにスタジオをおさえてくれていましたから。

佐々木:リテイクの際にもっと手前からやり直したいという気持ちは、すごくわかりますね。でも、普通はなかなか叶わないことなんです。私もたまに収録に関わるのでわかるんですが、山中さんと花守さんのような信頼関係がないと、「最初から録り直したいです」とは言いづらいんですよ。

相手も同じように思ってくれていればいいんですが、そうでなければなかなか言い出せない。お二人の間に信頼関係があったからこそ、そうした収録ができたんだろうなと私も思います。

山中:信頼関係もそうですし、お芝居において何を良しとするかが、ある程度一致しているというのも大きいですね。音としては問題なくても、「ここからもっと良くできると思うから、もう一回やろう」となったときに、そこに摩擦が生まれないのは非常にありがたかったです。

花守:お芝居の細部に宿るものの中で、どこに気づいてほしいのかという感覚が、きっとすごく一致しているんだと思います。だからこそ、「その細部を作り直すなら、そこに至るまでの流れも含めて、全部もう一度構築したいよね」というわがままを、すべて叶えていただいています。

――4人の魂を演じたとのことですが、収録はどのようにして行われたのでしょうか。

花守:4人の魂を一斉に収録するのではなく、基本的には1人ずつ向き合う形で進めていただきました。「今日はこの魂だけを収録する」という形で、それぞれ2~3回に分けて収録していましたね。なので、4人の演じ分けを意識するというよりも、それぞれの魂が歩んできた人生や、そこから形成された人格を意識して演じていました。

本作は、それぞれの魂が対話を通じて自分自身のことを思い出し、形のなかったものが少しずつ輪郭を帯びていくような作りになっているんです。最初はあやふやだったものが、物語が進むにつれて徐々に定まっていく。それこそ、「じゃあ、どれが私なんだろう」ということが、少しずつわかっていくんですね。

そうした記憶や自己認識が徐々に鮮明になっていくグラデーションは、どの魂を演じる際にも意識していました。同じ魂でも日を分けて収録することがあったので、その際には前回収録した会話を流していただき、そこから自然につながるように、よりその子らしいお芝居を心がけていました。

――4役を演じ分ける難しさなどはありましたか?

花守:演じ分けの難しさは、あまり意識していなかったですね。というのも、4人は同じ体を共有しているので、声で違いをつけるというよりも、それぞれの魂のあり方によって演じ分けていたんです。明確に「ここを変えよう」と考えるのではなく、「この魂だったら、こういう心の動きをするよね」というところから、自然とアプローチが変わっていくんですね。

なので、頭で演じ分けを考えるというよりは、台本の中でその子がどう動いているのか、それがすべてだと思っていました。あとは、それぞれの魂により深く寄り添い、解像度を高めるために、情報収集もしていましたね。

例えば、男性的な考え方をする魂を演じる際には、男性らしさをどう表現するかについて、収録前に皆さんにお話を聞いていただいたりもしました。「こういうことをしたら男性的だと感じてもらえるかな」とか、思考の癖について相談したり。そうした何気ない会話を通じて皆さんに協力していただき、得られた情報を自分の中に落とし込んで、お芝居に反映していきました。

――まだ発売前なので色々と答えづらいところがあるかと思いますが、花守さん自身のそれぞれの魂への想いなどを答えられる範囲で教えてください。

花守:Ⅰの魂は、皆さんにとって一番「あ、こういう子いるな」と親近感を抱いてもらえる子だと思うんです。会話をしていても、最も少女らしさを感じてもらえるような子なんですよね。

ただ、シンプルな子だからこそ、どこに惹かれる部分があるのか、会話の中でどうやってプレイヤーの心を引きつけていくのか、ということを考えながら演じていました。おそらく、皆さんが最後に残す魂として選びがちな子なんじゃないかなと思います。それくらい、残したくなってしまう子なんですよね。

山中:緊張感のある物語なんですけど、Ⅰの魂は緊張感のない喋り方をする子なので、確かに「いてほしい」と感じる部分はあると思います。

花守:明るい場所で不安をかき立てられる世界観だからこそ、プレイヤーが求める安心感を、一番与えてくれるのがこの子だと思うんです。だからこそ、一番話したくなる、ずっと話していたくなる子はⅠの魂なのかなと。でも、それでいうと、私はⅡの魂も……。

河合:わかります。

佐々木:Ⅱはわかりますね。

花守:Ⅱの子は、話がすごく上手いんですよ。 人との会話をつなげることに長けているので、話していて一番楽しい気持ちになるのは、実はⅡの魂かもしれません。

ただ、その会話の上手さも、この子がきちんと考えたうえで身につけたものなんだろうな、ということが、話しているうちに自然とわかってくるんです。

「この子は話が上手いな」と感じた時点で、Ⅰの魂とはまた違った意味で、もっと話していたいという気持ちになると思うんですよね。だからこそ、Ⅱの魂も、Ⅰとは違う理由で捨てにくい子になるんじゃないかなと思います。

一方で、Ⅲの魂は、4人の中で一番話していて苦しくなる子なのかなと思っています。というのも、この子は4つの魂の中で、一番対話が苦手なんじゃないかと思うんです。対話って、相手の心を考え、理解しようとすることが大切だと思うんですよ。もちろん、人の心を理解するのは難しいことなんですけど、Ⅲの魂は、そうしたことが一番苦手な子なのかなと感じています。

でも、それでも「伝えなきゃ」という気持ちはちゃんと持っている子なんです。だからこそ、どうすればこの子の心をうまく受け止めてあげられるんだろうと、一番考えさせられますし、対話していて「自分が強くならなきゃ」と一番感じる子かもしれませんね。

ネタバレになるかはわからないんですが、Ⅲの魂には「怒り」という感情が根幹にあると思うので、その怒りとどう向き合い、対話していくのかが肝になるのかなと感じています。

そして、Ⅳの魂が一番怖い子だと思うんですよ。その怖さがどこから生まれるのかというと、この子は恐怖という感情がどこから生まれるのかを理解しているんだと思います。自分自身も恐怖という感情を知っているし、どうすれば相手に恐怖を与えられるのかもわかっている。 そういう子なんですよね。

恐怖って、ある意味では人に自分の話を聞かせるための手段でもあると思うんです。この子はそれを理解していて、会話を通しても、そのことがすごく伝わってくると思います。だからこそ、その恐怖の奥にある、本当の思惑や心が何なのかを「見る」という行為が、この子には必要なのかなと感じています。

今、ⅢとⅣの魂については、明確に感情の名前を挙げてしまいましたが、それぞれの子には、それぞれの形で鍵となる感情があるんです。その感情の奥にあるものを、対話を通じて知っていくことが、この作品の根幹なのかなと思っています。

そうした感情の壁の向こうにあるものを見たうえで、「では、私たちが選ぶべき魂は誰なのか」と向き合っていく。その過程で、きっとプレイヤーの皆さんも、たくさん苦しむことになるんだろうなと思っています。

――クリアした後にこの回答を読み返したら、また面白くなりそうですね。では音についての質問ですが、『Caligula -カリギュラ-』シリーズや音楽プロジェクトの「MILGRAM」、「うたごえはミルフィーユ」など、山中さんは「歌」を軸にしたプロジェクトをいくつも生み出しています。今のところ本作にその要素はみられませんが、「音」へのこだわりはあるかと思います。本作の音への意識や、開発の方向性などをお聞かせください。

山中:これまでの僕の作品では、歌をプレイヤーの感情に強く訴えかけるための手段として、積極的に活用してきました。ただ、今回はそうした音による演出が、ある種の恣意的なものになってしまう部分も多いと思うんです。そのため、開発を担当する佐々木さんをはじめ、チーム全体で本当に気を配っています。

佐々木:そうですね。音については、大きく2つの観点があると思っています。まずひとつは、本作では、あらゆる部分で本当に微細な変化を味わってほしいということです。

だからこそ、自然なお芝居でも感情の変化が伝わりやすいんです。今回、私は開発にあたって、本作のイメージカラーを白に統一したいと考えていました。それも、微細な変化を感じ取りやすいバランスにしたかったからなんです。つまり、基本的には非常に凪いだ状態を作り、そこに変化を与えていく。これが本作のあらゆる部分に共通する、ものづくりの根幹になっています。

その中で音が際立ちすぎてしまうと、せっかくの微細な変化を上書きしてしまうんですよね。なので、音があまり主張しすぎないようにすることを、大きな方針のひとつにしています。

もうひとつは、とはいえ、それだけでは多くのプレイヤーの感情を動かすことが難しいという点です。本作には、探索を進める中で不安が増していくようなパートも必要でした。そこで、例えば視界には何も映っていないけれど、音によって何かの存在を感じさせるといった演出も取り入れています。

このように、微細な変化を邪魔しないことと、音によって不安を高めていくこと。その両方を意識しながら制作しています。

山中:音楽の力って本当に強大なので、いろんな感情を押し流してしまうデメリットもあるんですよね。なので今回みたいな繊細な音作りというのは、開発サイドでシーンに合わせて細かく調整しました。

佐々木:足音ひとつでも、プレイヤーの感情を動かしたいんですよ。そのためには、まず凪いだ状態を作らなければいけないんです。

河合:開発の途中までは、BGMもありませんでしたもんね

佐々木:BGMとして聴かせるだけでなく、環境音のように感じさせたい部分もあります。もちろん、作品によっては「ノリが大事だ」というものもあるので、そういう場合は、私も先に仮の楽曲を入れて開発を進めることがあります。

ただ、本作では微細な変化をできる限り感じ取ってもらえるように、まずは余計な要素を極力排除して、そこからひとつずつ積み上げていくという作り方をしていきました。

――最後に、本作に興味を持っている方や楽しみにしている方へそれぞれひとことお願いします!

河合:昨年の冬ごろに『UN:Me』を発表し、トレイラーや公式サイト、X(旧Twitter)などで少しずつ情報を公開してきました。モーションキャプチャーを取り入れたことで、ゲーム全体のクオリティや対話体験も大きく向上しています。皆さんに期待していただいているものに、かなり近づけているのではないかと思います。

今回、発売を2027年に延期することになり、もう少しお時間をいただくことになってしまいましたが、皆さんから寄せられている期待に応えられる作品にできると思っています。

また、遠くないうちに、イベントに来られない方にも本作を体験していただける機会を設けたいと考えていますので、もう少し期待してお待ちいただければと思います。

佐々木:今日のお話にもたくさん出てきましたが、本作は、1人の少女と正面から向き合い、少しずつ彼女の心を知っていく中で、彼女の心にも少しずつ変化が生まれていく。そうした過程を極限まで丁寧に描いた、ほかにはあまりないタイトルだと思っています。

細かな変化に気づきながら、少女のことを少しずつ知っていく体験を楽しんでいただけると、すごく嬉しいです。

その微細な変化をしっかり感じ取っていただけるように、モーションキャプチャーなども取り入れてブラッシュアップを重ねていますので、もう少々お待ちいただければと思います。

山中:本作はジャンルも決めずに走り出し、とにかく記号やフォーマット、テンプレートに頼ることをやめた作品だと思っています。

世の中にはたくさんのゲームがありますが、こうしたゲームが認められるということは、ゲームというメディアが、それだけ豊かな表現の可能性を持っていることの証明になると思うんです。なので、ぜひ本作を応援していただいて、これからもいろいろな変なゲームが生まれ続ける世の中になったらいいなと思っています。

花守:今回、少女の4つの魂を演じる中で、これまでのお仕事の中でも、一番静かな環境でのお芝居をさせていただいたと思っています。静かだからこそ、耳を澄ませることで、今向き合っているこの子の感情がどこに動いているのか、視線がどこに向いているのか、どこにあるのかということまで、思わず耳で追ってしまうような。

対話の部屋で交わされる静かな会話には、本当に唯一無二のものがあると、収録当時から感じていました。だからこそ、耳を澄ませて1人の少女と向き合う時間が終わったとき、皆さんが何を感じ、次に何をしようと思うのか、私自身とても気になっています。

ぜひ多くの方に本作を手に取っていただき、それぞれの魂と対話してほしいです。そして、その対話を経て何を受け取ったのか、遊び終わった後に胸に残ったものを、よかったら聞かせていただきたいなと思っています。

ただ、お話を聞かせていただくためには、まずゲームを手に取っていただくことが大事なので(笑)。本作では「トリアージ」という言葉が前面に出ていますが、「私を選ぶ」という「選択」そのものが、ゲームの大きなテーマであり、アクションになっていると思います。

そうした部分に惹かれた方には、ぜひ触れていただきたい作品になっていますので、どうか応援のほどよろしくお願いします。

――ありがとうございました!


『UN:Me』は、PC(Steam)/PS5/ニンテンドースイッチ2向けに2027年発売予定です。

(C)SHUEISHA,SHUEISHA GAMES developed by historia
※画面は開発中のものです。


《ライター:もぐ水,編集:みお》

ライター/カントウ25区 もぐ水

主にアクション・シューター・ADVなどジャンル気にせずいろいろ遊びます。 サウンドがカッコいいゲームやロボットが出てくるゲーム、血みどろなゲームが特に好きです。

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編集/Game*Spark共同編集長 みお

ゲーム文化と70年代の日本語の音楽大好き。人生ベストは『街 ~運命の交差点~』。2025年ベストは『Earthion』。 2021年3月からフリーライターを始め、2025年4月にGame*Spark編集部入り。2026年1月に共同編集長になりました。

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