銃撃戦と爆発にシネマティックな演出を絡めた「ハリウッド映画的なゲーム」は多い一方で、「カンフー映画の主人公になれるゲーム」にはめったに出会えません。
中国武術を戦闘システムの基盤に置く『Phantom Blade Zero』は、ジャッキー・チェンやジェット・リー、さらには本作のクリエイティブ・コンサルタントも務めたドニー・イェンなどの香港アクションスターが大好きな筆者にとって、ブッ刺さるを超えて「死ぬんじゃないか」と思うほど、濃厚で最高のアクションゲームでした。あまりに圧倒的なアクションゲームに出会うと、喜びと同時に「これから出会う作品に満足できるだろうか」と一抹の不安すら抱いてしまいます。
とはいえ、最初から楽しさ全開だったわけではありません。
ゲームの序盤は戦闘がチマチマしている印象があり、「思っていたのと違うかも」と感じていたのです。発売前に見たトレイラーの印象から、己の腕だけで立ち向かうピュアアクション的な心構えで遊んでいたのですが、本作が「探索と成長も重要なアクションRPGである」と改めて認識した瞬間、世界観・ゲームバランス・プレイ体験が猛スピードで一致し、心の中で喝采が鳴り止まない作品となりました。本稿では、そんな本作の感想をレビュー形式でお届けします。
また、今回の執筆にあたり、S-GAMEよりPS5版コードの提供を受けています。
基本に忠実だが魅力的なアクション
『Phantom Blade Zero』のアクションは、連続してジャストガードを決めることが重要な「パリィゲー」に近く、システムそのものに目立った革新性はありません。
しかし、本作にしかない独自性と差別化要素は十分に備わっており、それは「カンフー映画の流麗なアクションを戦闘システムに落とし込めている」こと、言い換えれば「プレイヤーがカンフー映画のカッケェ主人公になれる」こと、その一点に魅力がぐんと集約されています。
とにかく敵も主人公もよく動く!全身を躍動させ、宙を舞い、身体を回転させながら、お互いに華麗な武技を全力でぶつけ合います。そのへんのザコですら攻撃の勢いは凄まじく、最初はそのスピード感に圧倒されてしまうことでしょう。
スピーディーに攻撃を仕掛けてくる敵に対しては、ガードもしくは回避で対処します。ガードボタンの長押しでも捌くことは可能ですが、殺気ゲージ(スタミナ)を消費してしまいます。殺気ゲージがゼロになると敵の攻撃を防げなくなるため、ガードの長押しは敵に追い込まれるリスクも。
敵の攻撃にタイミングを合わせジャストガードに成功すると、こちらの殺気ゲージを消費せず、敵の殺気ゲージを効率的に削ることができます。殺気ゲージを削りきるとガードブレイクが発生し、相手がふらつくボコボコチャンスに発展。今度はこちらが華麗なるカンフーを見せつける番です。

攻撃アクションは、四角ボタンの通常連撃と、三角ボタンの殺気連撃の組み合わせで派生し、それぞれに異なるモーションが用意されています。殺気連撃は殺気ゲージを消費して繰り出し、より早く相手をガードブレイクすることが可能。通常・殺気連撃を当てると精純殺気ゲージが溜まり、消費することで大ダメージの「絶技」をお見舞いします。瀕死状態かつガードブレイク状態の敵に近づくと、「処刑」が発生し、美しくも残虐な動きでフィニッシュ。
まとめると、敵の猛攻撃をジャストガードや回避で捌きつつ、ガードブレイク中にコンボや絶技でダメージを与えてトドメをさす、というのがバトルの基本的な流れです。システムはシンプルですが、とにかくカンフーアクションの見栄えが良く、プレイしてすぐに心を掴まれてしまいました。
さらに主人公はメイン武器と、R2ボタンで使用できる副武器をふたつずつ装備可能で、武器を切り替えながら攻撃を繋げたり、強力な一撃で体力を大きく削ったりすることができます。

メイン武器を切り替えると殺気ゲージが満タンになるため、武器Aの殺気連撃から武器Bでの通常連撃…など、自分が思う「強い」「カッコいい」動きを編み出していく楽しさがありました。武器の切り替えには数秒のクールタイムが設定されているため、『デビル メイ クライ 5』や『NINJA GAIDEN 4』のような、リアルタイム切り替えでコンボを繋いでいくシステムとは少々イメージが異なり、使うタイミングが重要になります。

本作は敵の連続攻撃をいかにジャストガードするかが重要なゲームであり、だからこそのユニークな設定項目がありました。なんと本作、オーディオ設定から「武器の衝突音の音色」と「武器の衝突音の強さ」を調整できるのです。
衝突音の音色を重厚寄りにするのか、鋭く澄んだ音にするのか、自分好みの音色を見つけられます。筆者は「アクションゲームの効果音はデカいほどいい」主義なので、衝突音はやや強め、重厚寄りにすることでさらに戦闘が気持ち良くなりました。敵の攻撃をジャストガードする時の振動も強弱のメリハリが心地よく、サウンドも調節できるため、自分にとって最高のパリィを探してみるのも面白いでしょう。
モチベーションが尽きない探索と成長

本稿の冒頭で「ゲームの序盤は戦闘がやけにチマチマしている印象がある」と述べたのは、私が探索と成長を重視していなかったからでした。『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』のように、ほぼ己のスキルだけで前へ進んでいくゲームだと勘違いしていたのです。途中から、「主人公のスキルや武器の育成に注力することも重要であり、そのためにフィールドをしっかり探索する必要がある」と「理解した」瞬間に、モチベーションが高まってより本作が楽しくなっていきました。
重要な点として、本作はソウル系ARPGのようなフィールド上の敵がリスポーン(復活)はありません。積極的に主人公を育成するためには、探索やサブクエストをこなす必要があります。ここだけ聞くと、少し面倒な仕様に思えますが、寄り道したくなる大きな理由がふたつあります。ひとつがメインストーリーの進行とは別に用意された魅力的なボスの存在。そして、倒したボスから個性豊かな武器を入手できることです。
まず、リスポーンの仕様に関しては、個人的にかなりの魅力を感じました。単純にプレイヤーとしてのメリットが多く、例えば道中にやや強い3体のザコがいるとして、1体倒してゲームオーバーになった場合、同じ場所には2体のザコが残ります。やっかいな難所も何度か挑めば通過できる初心者救済的な一面もありますし、敵が少しずつ消えていくことで世界を「浄化」しているような気持ちになれる点も好みです。
リスポーンを活用した経験値稼ぎができない代わりに、本作では死亡時に経験値をロストすることもありません。同じ場所で何度も同じ敵と戦うマンネリ問題を、広大なフィールドに魅力的なボスたちを多数配置するという、とてつもない力技で解決しているのが『Phantom Blade Zero』なのです。
フィールドを寄り道しているとボスキャラクターに遭遇することがあるのですが、戦闘に勝利すると敵が所持していた武器を自分で使えるようになります。メインもしくはサブ武器として装備できるのですが、この各武器の作り込みがまた素晴らしいのです。
前述の通り、メイン武器のアクションは通常連撃と殺気連撃の組み合わせで動きが派生していくのですが、全ての武器でモーションがしっかりと作り込まれています。多くのプレイヤーが入手と同時にその場で素振りすることかと思われますが、その流麗な動作と際立つ個性に感動することでしょう。


さらに、武器に経験値とフィールド探索で得た素材を使って強化すると、レベルアップにより新たな技が解禁されます。ボタンの長押し、簡単なコマンド入力、カウンター攻撃など、武器によって動きだけでなく遊びにも違いがあり、ここでまた敵と戦うのが面白くなっていくのです。武器の成長に使った経験値や素材はリセットして再入手できるため、新しく得た武器を一気に強化することも可能。筆者はこれに気づくのが少し遅かったのですが、このシステムを活用することで敵が倒しやすくなり、アクションRPGとしての魅力が開花しました。強化は大事。
また、フィールドの一部には特定の武器を使って通れるようになる場所もあるので、カッコいい武器が手に入る→新たなエリアに行ける→別のボスに出会う→経験値でアクションが増える→もっと戦いたいので探索するといったモチベーションのサイクルが生まれるのです。魅力的なボスと武器という報酬がフィールド中に散りばめられているため、中だるみすることなく最後まで探索を楽しめました。

フィールドに関しても、広さと密度のバランスがちょうど良い塩梅です。オープンワールドのような広大さではなく、各フィールドにメインやサブクエストへ繋がるいくつかのルートが存在しているような構成になっています。上下に立体的なフィールドと多すぎない分岐点があり、ファストトラベル地点もあるため、進行で必要以上に迷ってしまうストレスを感じることはありませんでした。
道中に置かれているテキストや、複数個の取得で体力上限値が上がる「記憶の花」といったアイテムを取得していくことで、経験値も同時に取得できるようになっています。敵がリスポーンしないことで、「しばらく敵がいないから通過済み」「敵を見つけたら未通過ルート」といったように、上手く目印が散りばめられている印象です。

とあるサブクエストの進行に必要な鍵を手に入れて先へ進み、「ちょっとしたイベントがあるのかなあ」なんて思っていたら、新たに広大なエリアが解禁された時は心底驚きました。このゲーム、とにかくボリュームが凄いのです。
新鮮で飽きないボス戦のバリエーション

探索のモチベーション要素としてボス戦の魅力を挙げましたが、バリエーション豊かなバトルシーンも必見です。
主人公と同サイズの人型エネミーを中心に、3m以上はありそうな巨漢、宙を舞う幻術使いに、まさかの獅子舞まで、多種多様なボスが待ち構えています。どのキャラクターも奇抜ながら、統一された世界観を感じさせるクールなデザイン。どいつもこいつも個性的かつ華麗な動きで猛攻撃を仕掛けてくるため、カンフー好きの私としては若干見惚れて死亡してしまう瞬間もありました(言い訳)。
多くのボスは連続攻撃の締めに、オーラを放つ強力な一撃を仕掛けることがあります。青攻撃はジャストガードが有効、防御不可の赤攻撃はジャスト回避で有利に反撃できるようになります。敵の攻撃をスライディングしながら背後へ回り込んだり、弾く動作の流れで回し蹴りを入れたりと、相手の技を中断しながらこちらのターンへ持ち込む動きが非常に爽快でかっこいいです。
また、背景がモノトーンになる攻撃は、防御するとこちらの殺気ゲージがほぼ全て削られてしまうため、赤攻撃と同じくこちらも回避が有効。もしも防御で受けてしまった場合は、武器切り替えによる殺気ゲージの全回復で体勢を立て直し、敵の追撃をガードできる状況を作る必要があります。

特に赤い攻撃の猶予は割と厳しめで、慣れるまで高確率で被弾していました。激しい連撃から、いずれかのオーラを纏う攻撃が飛んでくるため、ものすごい集中力と判断力が必要とされます。攻守が素早く入れ替わる駆け引きに、「ああ、私はいまカンフーをやっている…!」と強い没入感が得られました。トレーラーやプレイ映像で見る以上に脳と手元が忙しく、その攻防に打ち勝ったときのカタルシスは、多くのプレイヤーを虜にするはずです。
さらにメインストーリーにおける重要なボス戦は、第二形態とのラウンド2が待ち構えています。第一形態とはほぼ別物の攻撃モーションで襲いかかってくるため、ほぼ違うボスと戦っているのと同じ感覚でした。ただでさえ一体に掛けられている労力が凄まじいはずなのに、同一キャラクターにこれだけのモーション量を用意する贅沢さに思わず感動しました。「またこのボスか」と思わされるような使い回し感はほぼゼロで、メインを進めても寄り道を進めても、新鮮なバトルが次々にお出しされます。

そんな魅力的なボス戦ですが、達成感に関して気になる部分が2点あります。リトライ時に第二形態から始まるシステムは、バトルテンポを快適にする一方で、ユーザーによっては達成感に水を差されるように感じるかもしれません。多くのいわゆる「死にゲー」は、限られた回復薬を上手く活用しながら第一形態~第二形態以上を通しで倒す必要があります。各形態の動きに順応しながら、少しずつ被弾よりも攻撃を当てる回数が増え、最後に強敵を倒すカタルシスがあります。本作ではボスの第二形態でやられた場合、第二形態からリトライするため、他の高難易度ゲームと比べると、撃破時の達成感はやや弱めに感じてしまいました。
また、敵の猛攻が凄まじすぎて「ちゃんと見切れた実感が得にくい」ことです。中国武術のトリッキーな動きは予測がつきにくく、リズムを掴んだ上で一連の動きを全てジャストガードできた瞬間はなかったように思います。「何かいっぱい連打してたら何とかなった」といった印象。スピーディな攻防自体は凄まじく楽しいですし、敵のリズムをある程度つかんで勝つことはできますが、ジャストガードの完璧主義は本作を少しだけつまらなくしてしまうかもしれません。「ノーダメージで攻略することは可能なのだろうか」と疑問に思うほど、全てを完全に捌き切ることは、筆者には難しかったです。
また、本作の難易度については、初心者向けの「初陣者」、バランスの取れた「窮地を切り抜けし者」、高難易度の「逆天者」、2周目限定の66回死亡するとゲームオーバーとなる「六十六日」の全4種類が用意されています。「六十六日」モード以外は、冒頭やゲームプレイの途中で変更可能。筆者は「窮地を切り抜けし者」でプレイしましたが、全編を通して「死にゲー」に近い高難易度な調整であるように感じられました。
読めない漢字と不安定な動作
本作は、余命66日を宣告された主人公「魂(ソウル)」が、自身を取り巻く陰謀と世界に迫る危機の真相を追うアクションRPGです。
ストーリーは、メインストーリーのムービーやフィールドに点在するテキストなどで補完しながら理解していくのですが、中国の武侠文化を色濃く反映した世界観ということもあり、見慣れない漢字を使った人名や固有名詞が山ほど登場します。例えば、主人公の名前は公式情報では「ソウル」と表記されていますが、ゲーム内では漢字の「魂」が使用されるため、初見ではその読み方を判断できません。ほかにも読み方が分かりにくい人名や固有名詞が多数登場し、重要なキャラクターである、魂の義兄弟の名前は最後まで分かりませんでした。
せめて漢字の上に英語表記を載せるか、名前はカナ表記で統一するなど、日本語でプレイするユーザーにとってもう少し分かりやすいものだったら嬉しかったところ。作中の固有名詞を何と読むべきか分からないため、ストーリーやテキストを理解する認知負荷がやや高く、没入しづらいのです。
途中からは「単語」や「言葉」ではなく、読めない漢字は意匠として、意味ではなく形として捉えて理解するようにしました。日本語圏でない方が漢字のタトゥーを入れる感覚に近いかもしれません。「この文字はあのキャラクターや概念を指している」といった感覚です。「ちゃんと中国語の講義を真剣に受けていればよかった」と、大学時代の自分を情けなく思いました。
また、動作が一部不安定で、序盤で対峙した一部のボスが「見えない壁」の奥に行ってしまい、こちらの攻撃が届かなくなったり、引っかかったボスに距離をとりながらヒットアンドアウェイで倒せてしまったりと、勝利に納得いかないシーンがありました。一部のムービーで口の動きとセリフが合っていないシーンもあり、安定性という点ではやや不安が残っています。こうした点は、ひとりのユーザーとして、今後のバージョンアップで改善されることを期待しています。
二十数年来のアクションゲームおよびカンフー映画好きとして、『Phantom Blade Zero』は大げさではなく、筆者の人生をまるごと肯定されたかのような気持ちでプレイしていました。スクリーンやテレビの前で観ていたムービースターのような戦いが、まさかゲームという形で再現される日が来るなんて。
翻訳でストーリーに入り込みづらい部分はマイナス要素として挙げましたが、言ってしまえばカンフー映画は「凄いアクションと魅力的なボスがいればそれで良い」みたいなジャンルだったりします。
小さかったころの筆者がカンフーに魅了されたように、本作はきっと世界中のアクションゲーマーを感動させるはずです。そして恐らく、これから数年は『Phantom Blade Zero』を超えるカンフーアクションゲームに出会えることはないでしょう。そういう意味でも、本作とは長い付き合いになりそうです。
Game*Spark レビュー 『Phantom Blade Zero』 PS5/PC(Steam/Epic Gamesストア) 2026年10月29日
カンフー映画を愛するすべての者に勧めたい傑作
-
GOOD
- 美麗かつ圧倒的なカンフーアクション
- 最後まで続く探索のモチベーション
- 多種多様で飽きさせないボス戦
BAD
- 難読漢字による没入感の低下
- やや不安定な動作











