
1990年代の家庭用ゲーム市場には、現在では考えられないような奇抜なタイトルや、独創的なアイデアを盛り込んだ作品が数多く存在していました。特に俳優を起用したサスペンス、アイドルを題材にしたアドベンチャーなど、実写ならではの表現を模索するゲームが登場しています。
そんな時代を象徴する作品のひとつが、1996年6月14日にイマジニアから発売されたセガサターン用ソフト『犯行写真 縛られた少女たちの見たモノは?』です。

まず目を引くのは、何といってもその物騒な作品タイトルでしょう。「犯行写真」という不穏な単語に加え、「縛られた少女たち」という刺激的な副題。さらにパッケージには「18歳以上対象」の表示まであり、いかにも過激な内容を想像させる作品です。

しかし、その実態は、アイドルグループ「乙女組」の写真集撮影を目的に訪れたペンションで連続殺人事件に巻き込まれるという、意外にもオーソドックスなミステリーアドベンチャーゲームです。
実写の人物写真とテキストを組み合わせたサウンドノベル形式で物語が展開し、途中にはアイドルのグラビア撮影を楽しめる独自のシステムまで用意されています。

一見すると、人気サウンドノベル『かまいたちの夜』を連想させる設定ですが、実際にプレイしてみると、さまざまな部分で独特の方向性を持っていることが分かります。
本稿では、そんな異色の本作について、奇妙なゲームシステムや実写サスペンスとしての魅力、そして今だからこそ面白い90年代ゲームらしい特徴を振り返ってみましょう。
◆撮影旅行が一転、血塗られた殺人事件に!

本作の主人公は、若手のプロカメラマンとして活躍する「郷田武史」24歳。ある日、3人組の人気アイドルグループ「乙女組(おとめぐみ)」の写真集を撮影するため、編集者の赤田良一、アシスタントの佐々木拓也とともに、伊豆の温泉地にあるペンションを訪れます。

撮影対象となる乙女組のメンバーは、明るく活発な「レイ」、冷静でクールな「マキ」、そして推理小説が好きな「ショウコ」の3人で、それぞれ異なる個性を持った彼女たちを、湯原麻利絵、織原奈未、河村理沙が演じています。

ちなみに、乙女組を演じた3人は、実際に1995年結成のグラビアアイドルユニット「キューティーセーラーズ」に所属していたという点も興味深いところです。

撮影現場には、横柄な態度のマネージャー・田代や、極度の潔癖症であるスタイリスト・苗村千恵子も同行。さらにペンションの経営者である中川と、寡黙な妻の麗子など、ひと癖もふた癖もある人物たちが登場します。

特に印象的なのが、猟銃を持って現れるペンションの主人・中川です。登場時から威圧的な雰囲気を漂わせており、ほとんど表情を変えない妻の麗子とともに、いかにも何か秘密を抱えていそうな人物として描かれています。

やがてペンション周辺は激しい嵐に見舞われ、倒木によって道路が塞がれ、外部との連絡も断たれてしまいます。そんな状況で最初の殺人事件が発生しますが、犠牲者となったのは乙女組のマネージャー・田代でした。

田代は周囲に対して高圧的な態度を取り、酒に酔ってスタイリストの苗村にセクハラを働くなど、誰からも好かれているとはいえない人物です。そのため、殺害されたことが判明しても、登場人物の誰に動機があっても不思議ではありません。
こうして物語は、閉鎖されたペンションを舞台にした連続殺人ミステリーへと展開していくのです。

こうした設定そのものは決して悪くありません。閉鎖的な空間で、限られた人数の中に犯人が潜んでいるという状況は、推理小説の定番でありながらプレイヤーの興味を引くには十分な題材です。

一方で、登場人物の怪しさがあまりにも露骨なため、人物の言動から犯人を絞り込む楽しさが弱くなっている部分もあります。いかにも事件を起こしそうな人物を次々と登場させる構成は、緻密な本格ミステリーというより、テレビの2時間サスペンスを思わせる大味なものです。

ただし、この分かりやすさこそ、「B級サスペンスドラマ」としての魅力にもつながっていると思います。
◆事件とまるで無関係な「アイドル撮影」システム

本作で特に印象的というか、魅力的なのが物語の途中に挿入される「写真撮影モード」です。
主人公がプロカメラマンという設定を活かしたシステムで、プレイヤーは乙女組のメンバーを被写体に、実際にシャッターを切って写真を撮影できます。Oh、なんと素晴らしいシステムなんだ……!

撮影シーンには、室内でのグラビア撮影や、温泉を舞台にした水着撮影などが用意されています。実写のアイドルたちをゲーム内で撮影できるという仕組みは、当時のセガサターン作品の中でもなかなか珍しいものでした。

ただし、その操作は現在のフォトモードのように自由度の高いものでなかったのは残念。撮影中のカメラは一定の動きを繰り返し、プレイヤーはシャッターを切るタイミングを選ぶ形式です。
アングルやポーズを自由に指定できるわけではなく、撮影できる枚数にも制限があります。

また、ゲームをクリアするとアルバムモードが追加され、撮影した写真を鑑賞できるようになります。好きなアイドルの写真を収集できるという、紳士たちにとっては非常に嬉しいコレクション要素も備えていました。

ところが、そもそもこの撮影した写真がゲーム内で殺人事件の謎解きなどに活用されるわけではありません。
例えば、何気なく撮影した写真に犯人の姿が写り込んでいたり、撮影時刻から容疑者のアリバイを崩せたりすれば、主人公がカメラマンであることにも大きな意味が生まれます。

ところが、本作の写真撮影は基本的に物語の進行や推理とは切り離されており、事件解決のために写真を分析するような仕組みは存在しないのです。
そのため、プレイヤーはサスペンスを読み進めながら、時折グラビア写真を撮影するという、かなり珍妙なゲーム体験を味わうことになります。

実写アイドルの写真撮影と殺人ミステリーをひとつのゲームに詰め込もうとした発想には、1990年代ならではの実験精神が感じられます。
本格的な推理ゲームを目指したのか、それともアイドルの魅力を前面に押し出したかったのか。その方向性が定まり切っていないところも、奇妙でありながらもバカゲーらしい本作の愛嬌を感じさせる部分です。
◆完成度の粗さが目立つゲームシステム

本作の問題点としてまず挙げられるのが、プレイヤーが介入できる範囲の狭さです。
基本的な進行は実写の静止画に重ねられた文章を読み、時折現れる選択肢を選ぶだけ。ペンションで連続殺人が起きるという設定ながら、部屋を自由に調べたり、証拠を集めて容疑者の証言を突き合わせたりする捜査システムなどはありません。
推理の大部分は登場人物の会話によって進み、プレイヤー自身が事件を解き明かす手応えに乏しいのです。

しかも、選択肢によってストーリーが大きく変化するわけではなく、基本的な事件の展開はほぼ一本道であり、選択による変化の多くは、登場人物の反応や主人公の生死に限られています。
そのため、プレイヤーが積極的に事件に介入する場面は乏しく、むしろ、推理小説好きのショウコが事件の解明を主導することも多いため、本末転倒に感じることもありました。

特に物語の終盤では、ひとつの選択ミスがゲームオーバーに直結する場面もあります。しかし、こうした選択には十分な推理材料が用意されているとは限らず、試行錯誤で正解を探すような展開になりがちです。

幸い、オートセーブによって章の途中からやり直せるため、失敗の負担はそれほど大きくないのが救いです。ちなみに同系統の実写ADV『ALIVE』は、オートセーブ不可でリトライした場合、死ぬほど長いムービーを再び見せられる地獄のようなゲームでした。

さらに、物語自体が比較的短いため、登場人物の背景や犯行動機を掘り下げる余地は十分とはいえません。終盤では複雑な人間関係が一気に明かされますが、それまでの伏線とのつながりが分かりにくく、唐突な印象を受ける部分もあります。
というわけで、本格的な推理ゲームを期待すると肩透かしを食らってしまい、人によっては「駄作」だと感じてしまうかもしれません。
◆それでも評価したい、90年代実写ゲームの怪しい魅力

ここまで振り返ってきたように、本作はゲームシステムやシナリオの完成度に多くの課題を抱えた作品です。
推理に介入できる場面は少なく、アイドルの写真撮影という独自要素も十分に活かされていません。刺激的なタイトルから期待される内容との隔たりも大きく、厳しい評価を受けるには納得できる部分があります。

それでも、本作には90年代の実写ゲームならではの魅力が残されています。特に印象的なのは、実在の俳優やアイドルを起用した独特の映像表現です。

無愛想なペンションの経営者、感情の読み取れない妻、いかにも秘密を抱えていそうな宿泊客たち。静止画を中心とした演出やぎこちない芝居は、必ずしも洗練されていませんが、古いテレビドラマを思わせる不気味さを生み出しています。
登場人物の濃いキャラクター性や強引なストーリー展開も含め、B級サスペンスとして鑑賞すれば、また違った面白さが見えてくるでしょう。

さらに、当時のグラビアアイドルを起用した写真撮影や、登場人物の髪形、衣装なども見逃せません。そこには1990年代半ばの芸能文化や流行が反映されており、現在ではなかなか味わえない時代特有の雰囲気が漂っています。

CD-ROMの普及によって実写表現の可能性が広がった時代、ゲームメーカーは映像とゲーム性をどのように結び付けるべきか、さまざまな試みを重ねていました。『犯行写真』はその成功例とは言い難いものの、当時の実験的な姿勢を伝える一本であることは確かです。

完成度の高い名作とは異なる、粗削りだからこその個性。発売から30年が経過した今、本作を改めて振り返ってみると、そんな90年代実写ゲームの怪しい魅力を再発見できるのではないでしょうか。















