文明崩壊の近未来、1冊の本と謎の男「ザ・ウォーカー」【コントローラーを置く時間】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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文明崩壊の近未来、1冊の本と謎の男「ザ・ウォーカー」【コントローラーを置く時間】

GameSparkスタッフが、ゲーマーにぜひオススメしたい映画/ドラマ/アニメ作品を1本紹介していきます。今回は「ザ・ウォーカー」です。

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ハードコアゲーマーのためのゲームメディアGame*Sparkでは、日々、様々なゲーム情報をご紹介しています。しかし、少し目線をずらしてみると、世の中にはゲーム以外にもご紹介したい作品が多数存在します。そこで本連載では、GameSparkスタッフが、ゲーマーにぜひオススメしたい映画/ドラマ/アニメ作品を1本紹介していきます。

今回ご紹介するのは、アルバート・ヒューズ、アレン・ヒューズ監督による2010年の映画「ザ・ウォーカー(原題:The Book of Eli)」です。

文明の息吹が残る、荒廃した近未来。ポストアポカリプスの佳作


あまり遠くない未来。核戦争によって国々は崩壊し、世界は無秩序に包まれる――。俗に言う“ポストアポカリプス”には、こうしたプロットが背景にあります。世界規模の核戦争、ないしは疫病の蔓延によって、世界中の文明が瞬く間に滅び去った人類史の“終わり”が描写されるのです。

他方で“終末モノ”とも呼ばれるそれは、サブジャンルのひとつとして、長らくエンタメ界に根づいてきました。この終末モノと名づいたジャンルは、ビデオゲームの界隈にもごく当たり前のように普及しており、文明崩壊後の終末世界を描く『Fallout』と『Wasteland』は、世紀末RPGの双璧を成す2作として、コアゲーマーから絶大な人気を誇っています。

さて、本作『ザ・ウォーカー』では、最終戦争によって文明が消失した近未来のアメリカ大陸を描いています。主人公の男“ウォーカー(デンゼル・ワシントン)”は、道で拾ったという1冊の古びた本をたずさえ、灼熱の大地を西へ西へと脇目も振らずに歩み続ける……。そんな映画が面白いのかと言うと、これが本当に面白く、前述の『Fallout』『Wasteland』によく見る荒れ果てた世界を如実に実写化したらしい絵面は、コアゲーマーの趣向にバチッと当てはまること請け合いです。

同じような色味の続く(良い意味で)精彩を欠いた画面は、ビデオゲームのそれと同じで妙にそそられてしまいます。地味で淡泊な映像美は、どこを切り取ってもビデオゲームのワンシーンになるのです。また、劇中冒頭、盗賊たちによる急襲シーンでは、いきなり肢体に切り込む過激ソード・アクションを展開し、早くもゲーマーの心を鷲掴みに。軍や警察で指導している武術師範ダン・イノサント流のリアルアクション・スタントは、ロードムービー特有のダルさにキレを与えてくれています。

崩れかけの高速道路、レイダーのような盗賊集団、道路に広がる無数の廃車……。かように、画面全体に漂うビデオゲームの精神は、ゲーマーの胸にガツンを響くこと間違いなしの快作です。

男は一体何者なのか?想像を超えたラストへ


大地は枯れ果て、気候は荒れ狂う――。過酷な世界に生きる、飾り気のない朴とつとした男は、全面核戦争を生き抜いた数少ない生存者でした。“ウォーカー”と呼ばれる彼は、世界に1冊だけ残されたという、ある古びた本を大切に抱え、およそ数十年間、ひたすら西へと向かって旅を続けています。行く手を阻む盗賊集団には、機敏な殺陣さばきで一網打尽にし、常人離れした戦闘能力を振るえば、道に立ちはだかる悪党どもを次々に殺していく。地平線の彼方まで続く、途方もない道のりを、ただまっしぐらに歩み続ける彼は、ある日、小さな街にたどり着きます。

薄汚れた皮手袋や、ファストフード店のおしぼりでさえ、この世界では貴重な存在。中でも、汚染されていない水は何よりも貴重な代物で、かつては当たり前のように捨てていた物たちが、いまでは水の売買に利用されています。カーネギー(ゲイリー・オールドマン)は、ある場所の汚染されていない水脈を独占し、この地域の独裁者として君臨していました。やがて、街に現れたウォーカーの持つ本の価値に気づいた彼は、その本を強奪しようと模索。酒浸りの荒くれものを放ち、ウォーカーの追跡を命じるのです。果たして、その本には何が記されているのか。西には何が存在するのでしょうか――。

本の内容は映画中盤あたりから次第に明かされていくものの、勘のいい人ならその本が何かはすぐに想定できるでしょう。しかし、本作の真に隠されている部分はそこでなく、ウォーカーの身に起きている衝撃の事実でした。序盤の何気ないシーンですら、実は巧みな伏線だったということが、徐々に分かってくるのです。

また、白人の盗賊たちを蹴散らし、ひたすら歩み続ける黒人ウォーカーという構図は、現代アメリカの人種差別問題の縮図で、この問題に対する監督なりの“答え”が映画の中で提示されています。本作はアクション映画であり、かつ社会派映画の側面もあわせ持つ、ハイヴリッドな1作です。

最後に特筆すべき点は、やはり、デンゼル・ワシントン&ゲイリー・オールドマンの名優コンビによる競演。ハリウッド屈指の演技派2人が放つ、終末サスペンス・アクションの佳作。ぜひご覧あれ。


映画「ザ・ウォーカー」は、NetflixHuluU-Nextにて視聴可能。名優たちの演技が輝く、ロードムービー調の終末サスペンスは、ビデオゲームの精神が随所に満ち溢れています。
《Hayato Otsuki》
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