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「世界最大の大統領選挙」直前に開催されたeスポーツ大会、その狙いとは? インドネシア「Prabowo Gibran Esports Tournament」で重視された“Z世代人気”

選挙直前のタイミングで開かれた『モバレジェ』eスポーツ大会。

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「世界最大の大統領選挙」直前に開催されたeスポーツ大会、その狙いとは? インドネシア「Prabowo Gibran Esports Tournament」で重視された“Z世代人気”
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  • (C)GettyImages

先日行われたインドネシア大統領選挙は、世界最大の直接選挙。なんと、2億人を超える有権者が同じ日に投票しました。

インドネシアはメルカトル図法の世界地図で見るよりも遥かに大きい国です。最西端サバンから最東端インドネシア~パプアニューギニアまでの距離は、福岡からジャカルタまでの距離とだいたい同じくらい。そこに200を超える民族が住んでいます。

そのような国で大統領候補者が選挙活動をするのは非常に大変。そこで、候補者とその応援団体はeスポーツ大会を開催しました。

「憎めないおじさん」のeスポーツ大会

今年の大統領選挙は、グリンドラ党の党首で元軍人、そしてスハルト元大統領の娘婿という経歴のプラボウォ・スビアント氏とジョコ・ウィドド現大統領の長男ギブラン・ラカブミン・ラカ氏のコンビの当選が確実視されています(執筆時点で選挙結果は出ていません)。

プラボウォ氏は72歳。過去2度の大統領選挙ではジョコ氏の対立候補として鎬を削りましたが、今回はなんとジョコ氏の長男を副大統領候補に添えて出馬(憲法の規定により、ジョコ氏は今季限りで大統領を退任します)。

プラボウォ氏は、一言で言えば「憎めないおじさん」。前回の選挙まではゴリゴリのタカ派、親軍派をアピールしていましたが、ジョコ氏とのテレビ討論会で「ユニコーン企業って何?」と知識不足を露呈してしまったり、アジア大会ではジョコ氏と抱き合ってインドネシア代表の活躍を喜んだり。外国のジャーナリストからはかつての東ティモールでの人権侵害疑惑や汚職疑惑が指摘されていますが、それでも現地では根強いキャラ人気を誇っています。

そんなプラボウォ氏の選挙応援を手掛ける団体が、選挙直前のタイミングで「Prabowo Gibran Esports Tournament」という大会を開催しています。種目は『モバイル・レジェンド: Bang Bang』です。

賞金は2,222万2,222ルピア

選挙を控えた政治団体が、MOBAの大会を主催する……日本では考えられない光景です。しかもこの「Prabowo Gibran Esports Tournament」、ちゃんと賞金が出たりもします。う~ん、日本だと公職選挙法に引っかかりそうな……。もちろん、eスポーツの大会ですからちゃんとYouTubeでのライブ配信も行われました。

インドネシア全土の800チームのうち、勝ち残った16チームが賞金を目指して争いました。賞金総額は2,222万2,222ルピア(約21万円)。eスポーツの全国大会にしてはやけに少ないのですが、上述の通り、これは政治的意図がはっきりと見えている催事。あまり大盤振る舞いするとKPK(汚職撲滅委員会)に指摘されてしまう、ということではないでしょうか。なお、やたらと「2」が揃っているのはプラボウォ・ギブラン組の選挙番号が2のため。

なぜ、大統領候補者はこのような大会を催すのでしょうか。

インドネシアで一番強いのはZ世代

最大の理由は、インドネシアではZ世代(1997年から2012年までに生まれた世代)の割合が他の世代よりも多いという点ではないでしょうか。

中央統計庁の集計したデータによると、2021年の時点でZ世代はインドネシア全人口の27.94%を占めています。これはその前のミレニアル世代、X世代、そしてベビーブーマー世代を抑えて堂々1位の割合です。この国は若者が多い!

となると、大統領選挙や中央議会選挙の候補者も若者の琴線に触れるような政策を主張します。よくあるのは「オンライン環境の充実」です。広大な島嶼国家であるインドネシアは、それ故に「ネットがつながらない有人島」がまだまだあります。しかも日本と同じく環太平洋火山帯に沿っているため、「山間部の農村」も存在します。


筆者は東ヌサ・トゥンガラ州を幾度か訪れていますが、その中にあるフローレス島は土地全体が火山になっているような土地。隣の町まで車で行くのに日光のいろは坂のような道を何時間も走らなければなりません。「大袈裟な表現」だと思ったそこのアナタ、試しにGoogleマップでフローレス島のルーテン(カトリックの司教座がある都市)からバジャワ(日本ではコーヒーの産地で知られています)までの道程をチェックしてみてください。見ただけで車酔いするような、複雑な幹線道路を進まなければならないということが理解できます。

そのような土地にネット回線を敷くのは一苦労。しかし、それをやらなければ地方島嶼部の若者は実家を捨ててジャカルタやスラバヤ、バリ島に移住してしまいます。つまり、政治家がネット回線の整備、言い換えれば「モバレができるくらいのオンライン環境を整える」ことに注意を向けていなければ、Z世代の巨大票田を失い、選挙で落選してしまいます。

若者の怒りを買った政治家の末路

若者の怒りを買った政治家は、奈落の底に突き落とされます。これは既に実証されていることでもあります。

2022年7月、インドネシア情報通信省は突如としてSteamやEpic Gamesストア等のゲーム配信プラットフォームをブロックしました。これは「安定的な徴税」を理由にしているにもかかわらず、財務省と一切連携していない「勇み足」ということが判明しています。

このブロックを指示した当時の情報通信大臣ジョニー・G・プラテは、その後4G回線基地局建設プロジェクトに絡む汚職事件で逮捕され、汚職裁判所で禁錮15年と賠償金155億ルピア(約1億5,000万円)の支払いを命じられています。

この一連の騒動の中で「プラテを擁護する国民の声」は筆者の知っている中ではありません。むしろ「プラテの乗っていたドイツ車の販売価格について」というタイトルの記事を配信するモーターメディアがあったほどです。宗教侮辱罪で失脚・収監されたバスキ・プルナマ元ジャカルタ州知事が今でも多大な人気を保っていることを考慮すると、若者の神経を逆撫でした政治家は何かしらのきっかけで集中砲火を浴びるようになっています。

「若者向けの政策」を実施か

そうしたことをプラボウォ陣営は骨の髄まで理解しているはずで、それ故に若者を集めた「eスポーツ大会」を開催することは至って自然の流れとも言えます。

また、プラボウォ氏自身は70代ですが、副大統領に選出される見込みのギブラン氏はまだ36歳という点にも注目する必要があります。それ以外にもインドネシアの中央政界では50代以下の閣僚経験者が充実してるため、今後訪れるであろうプラボウォ時代は「ゲーム産業支援政策」が大々的に実施されるのではないでしょうか。



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《澤田 真一》

ゲーム×社会情勢研究家です。 澤田 真一

「ゲームから見る現代」をテーマに記事を執筆します。

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