気になる新作インディーゲームの開発者にインタビューする本企画。今回は、GameChanger Studio開発、PC向けに10月28日にリリースされたインドネシア産ナラティブシミュレーション『1998: The Toll Keeper Story』開発者へのミニインタビューをお届けします。
本作は、架空の東南アジアの国Janapaの料金所で働く妊婦を主人公としたナラティブシミュレーションゲーム。子を孕ったDewiは、車両の検査、書類の確認、通行許可の判断を行いますが、同時に自分の安全を守り、仕事を続け、そしてお腹の子を守ることにも気を配らなければなりません。インドネシアで実際に起こった出来事に着想を得ているのも特徴。記事執筆時点では日本語未対応です。
『1998: The Toll Keeper Story』は、1,400円で配信中。


――まずは自己紹介をお願いします。一番好きなゲームは何ですか?
Ronnieこんにちは!このような機会をいただきありがとうございます。私はRiris Marpaung、GameChanger StudioのCEOであり、『1998: The Toll Keeper Story』 のゲームディレクターを務めています。
好きなゲームですが…少し意外かもしれませんが、『Plants vs. Zombies』 が大好きです。とてもシンプルで焦点の定まったシステムが、どれほど楽しく惹きつける体験を生み出せるかを完璧に示している作品だと思っています。
――本作の特徴を教えてください。また、そのアイデアはどのように思いついたのでしょうか?
Ronnie『1998: The Toll Keeper Story』は、ファンタジーでも壮大な政治ドラマでもありません。とても個人的で、人間的な物語です。そしてこの物語は、私自身にとっても非常に個人的なものでもあります。と言うのも、インドネシアで起きた1998年の大混乱の中、大学生として必死に生き延びた私自身の実体験を基にしているからです。
このゲームのアイデアは、当時私が感じた、どうしようもない無力感を形にしたいと言う思いから生まれました。暴動に巻き込まれ、生き延びることだけで精一杯でした。私たちが描きたかったのは、権力者同士の争い…「象」がぶつかり合う中で、ただの一般市民である「蟻」がどう生き残るのか、と言う視点です。プレイヤーが操作するのは英雄ではありません。妊娠中の女性であるDewiとして、自分自身と自分の家族を守ろうとする、一人の人間なのです。
――本作の開発にあたって影響を受けた作品はありますか?
Ronnieゲームのシステムに関しては、もちろん、あの名作 『Papers, Please』 から大きな影響を受けています。一見すると単調な仕事を、あれほど緊張感に満ちた、複雑な道徳的ジレンマに変えてしまう…まさに「教科書」のようなゲームです。
しかし、ストーリーと雰囲気の部分において、私たちが一番インスピレーションを受けたのは、現実の出来事である1998年の「インドネシア危機(訳注:アジア通貨危機を発端に経済が悪化。首都ジャカルタでは学生のデモがおき死傷者が出た他、32年にわたるスハルト政権が崩壊した出来事)」と私自身のその記憶です。しかし、私たちはとても重要な決断をしました。それは、本作をその出来事の「再現作品にはしない」と言うことです。また、アジア人として、あの恐ろしい出来事を題材に作品を作ること自体が、今でもある種のタブーであることも理解していました。
だからこそ、私たちは架空の国ジャナパ(Janapa)と、架空の登場人物たちを登場させることにしたのです。そうすることで、現実の具体的な政治や人物に縛られず、あの出来事が引き起こした「感情の真実」…つまり、恐怖、不安、混乱、そして普通の人々が味わった生き抜くための苦闘を自由に描くことができたのです。
つまりこのゲームはフィクションですが、非常に個人的で本物の体験を土台にした物語なのです。

――本作の開発中に一番印象深かったエピソードを一つ教えてください。
Ronnie私はこれまでゲームディレクターとして仕事をしたことはありませんでした。これまでは主に ビジネス面やスタジオのマネジメントを担当してきたのです。しかし今回は、これらすべてのアイデアが私自身の実体験から生まれたものだったので、あえてその役割に挑戦することとしました。ゲームデザインやナラティブデザインの基礎知識を活かし、チームを率いて本作の基礎となるデザイン、テーマ、雰囲気作りを担当したのです。
最も印象に残っている瞬間は、アートスタイル、ゲームシステム、そしてテーマがカチッとハマったと実感した瞬間です。このゲームは個人的な体験に基づいていますが、それをどう「本物らしく」感じさせるか…その答えを探すため、私たちは様々なビジュアルスタイルを試しました。そして、本作のアートチームが、セピア色のフィルター、ドットテクスチャ、古い紙のような質感と言うスタイルを見つけた出した瞬間、すべてが変わったのです。画面が「現代のゲーム」ではなく、まるで1998年の古い新聞やアーカイブ映像のように見えるようになったのです。それはまるで、記憶そのもののようでした。
次に必要だったのは、「料金所で車をチェックする」と言うゲームプレイを「母として生き延びる」と言うテーマと結びつけることでした。そして、私たちはある重要な決断をしました。料金所で管理するリソースを、そのまま家で生き抜くためのリソースにする、と言うことです。この瞬間、本作は一気に命を持ち始めました。Dewiの仕事が、彼女のお腹の子を守る力に直結するようになった時、私たちはついにこのゲームの中心を見つけたのだと確信したのです。
――リリース後のユーザーのフィードバックはどのようなものがありましたか?特に印象深いものを教えてください。
Ronnie私たちは、皆さんからの非常に大きく温かい反響に圧倒され続けています。少し前にSteamレビューが150件を突破し、現在も 「非常に好評」 を維持できていることを、本当に誇りに思っています。
特に私の心に残ったフィードバックは、次の2つのグループからの声です。一つは、1998年を実際に経験したインドネシアの方々からのものです。このグループからは、「ゲームの空気が本物だ」「当時の記憶が強く蘇った」と伝えてくれました。二つ目のグループは、この出来事を知らなかった、または少ししか知らなかったインドネシア国内、または世界中のプレイヤーの皆さんたちです。この人たちは、「Dewiの苦しみや恐怖をまるで自分のことのように感じた」と言うメッセージを送ってくれました。その「人間としての共感」こそ、まさに私たちがこのゲームを作った理由なのです。
――ユーザーからのフィードバックも踏まえて、今後のアップデートの方針について教えてください。
Ronnie現在私たちが焦点を当てている主なものは、プレイヤーの皆さんからいただいた素晴らしいフィードバックをもとにした、細かな利便性の向上です。ただ、特に多く寄せられているご意見のひとつに、「エンドレスモードが欲しい!」と言うものがあります。これは本当に素晴らしいアイデアで、チーム内でもすでにしっかりと話し合い、今後のアップデート候補として前向きに検討しています!
――本作の日本語対応予定はありますか?有志翻訳は可能ですか?
Ronnie日本語ローカライズは、ぜひ実現したいと強く思っています。Dewiが見せる母としての強さと、生き抜こうとする物語はとても普遍的であり、日本のプレイヤーの皆さんにも深く響くと私たちは信じています。
まだ正式な翻訳のスケジュールは決まっていませんが、日本語対応を実現し、本作を日本で広く届けるためのパートナー探しを現在積極的に行っています。
――本作の配信や収益化はしても大丈夫ですか?
Ronnieはい、もちろんです!誰でも『1998: The Toll Keeper Story』を配信したり、収益化したりしていただけます。そうしていただけたら本当に光栄ですし、皆さんのプレイ動画を見るのがとても楽しみです!
――最後に日本の読者にメッセージをお願いします。
Ronnie日本の皆さま、私たちのゲームに興味を持ってくださり、本当にありがとうございます。『1998: The Toll Keeper Story』は、私自身にとってとても個人的な作品ではありますが、母の強さ、平凡な人々が生き残ろうとする力、そしてより良い未来を願う気持ちと言った、誰にでも通じるテーマが込められています。
いつか必ず、皆さまの母語でDewiの物語をお届けできるようにしたいと思っています。ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!
――ありがとうございました。


◆「注目インディーミニ問答」について
本連載は、リリース直後のインディーデベロッパーにメールで作品についてインタビューする連載企画です。定期的な連載にするため質問はフォーマット化し、なるべく多くのデベロッパーの声を届けることを目標としています。既に700を超える他のインタビュー記事もあわせてお楽しみください。








