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シナリオライターが遊ぶ『カエル探偵』シリーズ:センス爆発!あまりにユルすぎるテキストを読む脱力系コージーミステリー

よ~し、ナゾ解きするぞ~…!

連載・特集 特集

ビデオゲームに秀逸なシナリオが盛り込まれ、それを読み解くことも遊びの一部として受け止められるようになった現代……本連載記事では、古今東西のビデオゲームを紐解き、優れたゲームシナリオとは何かを考えていきます。第27回は『カエル探偵』シリーズを取り上げます。

2018年に一作目が発売された『カエル探偵』(Frog Detective)シリーズ。これまで断続的に作品が出てきましたが、このたびシリーズ作がすべて日本語に翻訳され、各作品をまとめた『カエル探偵の事件簿』として5月1日にリリースされました

インディーゲーム界隈で静かに話題を呼び続けていた本作を初めて遊んでみましたが、度肝を抜かれました。あまりに簡単なコージーミステリーのストーリーに、センスしかない激ユルテキスト、ところどころに感じるノワールへの憧れ、誰も傷つかない優しい世界観、全体的におまぬけだけど本気で作っていることが感じられる作り込み……という何とも言えない塩梅で、これはちょっと今すぐ取り上げないと!という謎の使命感にすら駆られました。

本シリーズは『カエル探偵1:のろわれた島』『カエル探偵2:見えないまほうつかい』『カエル探偵3:カウボーイタウンの陰謀』の三作品です。どれも独立しており、それぞれ一時間ほどで終わりますが、ぜひとも一作目から順番に遊んでください。

『カエル探偵1:のろわれた島』では「カエル探偵 犯罪解決事務所」のカエル探偵くんが、管理官から仕事を依頼されて、のろわれた島に向かいます。

その島ではマーティンというナマケモノが王様をしており、彼は洞窟から聞こえるオバケの声に悩まされているようです。カエル探偵くんは先んじて島に着いているオバケ科学者たちとともに謎を解決していきます。

数秒で端まで辿り着けるような小さい島で、ペーパークラフトで作ったような分厚いポリゴンのキャラクターたちに話を聞いて回り、それぞれの欲しがっているものを渡すわらしべ長者的な遊びをこなしていくうちに、あっさり真相へ辿り着けるという非常に簡単なゲームです。

特筆すべきは、そのテキストセンスとキャラクター造形。どのキャラもバリバリにクセが強く、そして同時にニクめなくて悪人でもないというギリギリのラインで成り立っています。

たとえば、相手の話を遮り続ける自称聞き上手のエビ(ラリー)、スパイに憧れるあまり主人公のこともスパイだと信じ込んでいるクマ(ベルニー)、歯磨きに異様な執着があるワニ(フレッシュX)など、余計な属性が付いているキャラしかいません。そして、会話の9割は事件に関係がありません。名前が異様にかっこいいのもウケるし、ゲーム中ずっとスモーキーなジャズが流れっぱなしなのも笑えます。まさかこのビジュアルでノワールをやろうというのか……!?

彼らに細かい言葉の使い方について揚げ足を取られたり、初対面のコミュニケーションについて文句を言われたりしながらも、オバケ問題は粛々と解決に向かっていきます。アクが強くて言いたいことしか言わないキャラたちに、カエル探偵くんが時折目が覚めるような名言をぶつけるのもシビれるんですよね……。

事件が解決したらどんなことがあっても登場人物全員でダンスをするという、宮本茂氏が聞いたら泣いて喜ぶようなお約束が必ず入るのも最高です。

そして、次の事件は『カエル探偵2:見えないまほうつかい』。今度はウォーロックウッズという森の中の街が舞台です。街に越してきた見えないまほうつかいを歓迎するために、みんなでパレードをしようと飾りつけをしていたところ、何者かに飾りを破壊されてしまいました。犯人捜しのためにカエル探偵くんが駆り出されます。

今回もローファイでピーキーなキャラクターたちが容疑者として彼の前に立ちはだかります。筆者が特に好きだったのは、歌うことが大好きなサイのメアリー。この街の家がすべて防音仕様になったのは自分が原因だと誇る彼女が、コミュニティ内で受け入れられていることが不思議でなりません(強請ってくるし……)まあ、それだけ優しい人たちの集まりなんでしょう!

今回は事件の内容をまとめることができる「ノート」の機能が追加されましたが、特に使う必要がないくらいシンプルな筋書きです(デコるのは楽しかったです)。それでも彼らの放つセリフが好きすぎて、思わず熟読し、スクショを撮りまくってしまいました。

最後には、探偵としてのアイデンティティを揺るがす重大な二択も迫られます。ぜひともどちらのエンディングも見てほしいですね。

最後の事件は『カエル探偵3:カウボーイタウンの陰謀』。カウボーイタウンという荒野にできたブームタウンで、カエル探偵くんが帽子が消えた事件を追いかけます。

今回はマップも広くなったことで「キックボード」がアイテムとして追加されました。ピチピチのセーターに限界まで上げパンをしているカエル探偵くんが、ツゥーとキックボードで駆けていく姿は、異常にkawaiiです。

三部作のラストということで、壮大なスケールで語られる本作では、ついに“犯罪”が真正面から描かれます。

すべてが優しく健全なゲームの世界に、突如として陰謀や悪意が割り込んで来たらどうなってしまうのか……というメッセージにも取れるのではないかと考えてしまいましたが、多分筆者の勘違いでしょう。

(わざわざキャラクターにカスの嘘を吐かせて、直後にゲーム内に登場して訂正するのが好きな作者さん)

翻訳は福市恵子(@keiko_fukuichi)さん。『UNDERTALE』や『Hades』など、多くのインディーゲームのローカライズを行ってきたベテランです。独特すぎる会話劇のニュアンスを汲み取りつつも、かなり自由な筆致で訳しており、その鮮やかな仕事ぶりに脱帽します。

全部どうでもよくなるくらいのユルユル加減でありながら、ギリギリでミステリードラマの体裁を保っているこのバランス感覚……本当にクセになりますよ。

ゲーム史上もっとも自由なスタッフロールまで含めて、たっぷりとこの世界をお楽しみください。




カエル探偵の事件簿』はPS5/PS4/Xbox Seires X|S/Xbox One/ニンテンドースイッチ向けに販売中。Steam版はそれぞれのエピソードを単品で購入できるほか、3作がセットになったバンドルが用意されています。


Nintendo Switch Joy-Con(L)/(R) グレー
¥32,970
(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)
ライター:各務都心,編集:宮崎 紘輔

ライター/ 各務都心

マーダーミステリー『探偵シド・アップダイク』シリーズを制作しているシナリオライター。思い出の一本は『風のクロノア door to phantomile』。

編集/タンクトップおじさん 宮崎 紘輔

Game*Spark、インサイドを運営するイードのゲームメディア及びアニメメディアの事業責任者でもあるただのニンゲン。 日本の新卒一括採用システムに反旗を翻すべく、一日18時間くらいゲームをしてアニメを見るというささやかな抵抗を6年続けていたが、親には勘当されそうになるし、バイト先の社長は逮捕されるしでインサイド編集部に無気力バイトとして転がり込む。 偶然も重なって2017年にゲームメディアの統括となり、ポジションが空位になっていたGame*Sparkの編集長的ポジションに就くも、ちょっとしたハプニングもあって2022年7月をもって編集長の席を譲る。 夢はイードのゲームメディア群を日本のゲーム業界で一目置かれる存在にすること、ゲームやアニメを自分達で出すこと(ウィザードリィでちょっと実現)、日本武道館でライブすること、グラストンベリーのヘッドライナーになること……など。

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  • スパくんのお友達 2025-05-11 12:16:41
    まさか日本語化されるとは……
    1と2はhumbleの月1のでもらった
    3もたのんます
    0 Good
    返信
  • スパくんのお友達 2025-05-11 6:08:46
    よーし、謎解きするぞー
    1 Good
    返信
  • スパくんのお友達 2025-05-11 5:57:57
    カエル探偵、ふふっと笑えるくらいのゆるい感じがよかった
    ハードなゲームの合間のつまみにちょうどいい感じ
    1 Good
    返信
  • スパくんのお友達 2025-05-11 3:31:39
    翻訳素晴らしいと思ったらUNDERTALEの方だったんですね
    なるほど言われてみれば
    2 Good
    返信
    他の返信を表示 返信を非表示
  • スパくんのお友達 2025-05-11 2:20:11
    ・・・
    ・・・・
    ・・・・・買ったわ。
    9 Good
    返信

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