
ゲームに慣れ親しんでいて普段からゲームニュースを漁っているであろうゲーマーでさえ、一歩踏み出せば知らないことばかりというのは往々にしてあります。Steamではない場所で売られているPCゲームとか、南米や中東で流行しているゲームとか、低年齢層にウケているスイッチの格安ゲームとか、いろいろありますよね。
そういった近くて遠い世界の一つに、VRゲームがあります。ゲームの情報に目ざといゲーマーの間ですっかりおなじみThe Game AwardsはVR/ARゲーム部門があるのに、ほとんどのアワード視聴者はノミネートされたタイトルすら知りませんし、おそらくアワードに投票している人たちでさえ知らないことでしょう。
日本だとVRそのものやVRChatへの認知は高いものの、VRゲームはあまり定着していません。一方、北米をはじめとした英語圏の特定層にはVRゲームがそれなりに定着しつつあります。それでも、英語圏の硬派なゲーマーもVRゲームのことに詳しいのかというと違うはずで、これはVRゲームとゲームの客層が少しずれているためです。
今回の記事ではそんなゲーム業界の七不思議ともいえるVRゲームの側面について少しご紹介させてください。
●ゲームのボトルネックは”移動”
VRに限らないビデオゲーム全体につきまとう一番の問題は、カメラの制御と空間の扱い方です。これはゲームの表現技法としてドット絵が中心だったファミコンからスーパーファミコンぐらいの世代ではゲームの世界を「上から見せるか横から見せるか」でほとんど対応できて、プレイヤーがカメラの制御を意識することもほぼありませんでした。しかし、1990年代初頭にビデオゲームがリアルタイムの3DCGを扱うようになってから業界標準的なカメラ操作方法(左スティックで移動して右スティックでカメラを動かす)が発明、定着するまでに約10年ほどの時間がかかっています。
こういった問題はVRでも同様です。平面のゲームと違ってVRのゲームは「プレイヤーの目線そのものがカメラであり、これをプレイヤーに無断で動かすとVR酔いが起きる」「プレイヤーの現実の動きとVRの動きが乖離しすぎると脳がエラーを起こして不快感が生じる」といった問題があります。こうした問題はもっぱら「空間を密室にして移動する余地をなくす」「プレイヤーの対処すべきコンテンツが向こうから来る」「平面のゲームにならって左スティックで移動、右スティックでカメラ操作にする(可能ならテレポート移動も実装する)」といった対応がほとんどでした。今でも大抵はこの三つで対応できるのですが、これに第四の選択肢が生まれたのは2021年の『Gorilla Tag』が発売されたときのことです。
●VRゲーム界の革命児、もとい野生児『Gorilla Tag』
『Gorilla Tag』を説明すると「上半身だけのゴリラになって鬼ごっこするゲーム」です。冗談のように聞こえるかもしれませんが、本当です。
本記事の趣旨に沿って説明すると「両腕で床や壁を叩いて跳ねて移動するゲーム」です。『Gorilla Tag』では疲れ知らずのキッズたちがアスレチックを駆け巡ったり、マイクから親の声(おそらく宿題はやったのか、晩飯を食え、といったお叱り)が英語で聞こえたりします。
『Gorilla Tag』の操作が画期的だった理由はいくつかあるのですが、まずなによりも「両腕をぶんまわして跳ねる」というアクションが面白いのが大きいです。どんな人間でも両腕と両足を地面につけて四足歩行みたいな動きをしたことはあるはずで、それ自体がアスレチック的な面白さがあり、それと同様の面白さが『Gorilla Tag』の操作にはあります。最初は操作がおぼつかなくても、少し粘れば壁キック(本作はあくまで腕ですが)ぐらいはできるようになりますし、頑張ればそこそこ動けるようになります。

この操作方法により副次的な効果が生まれました。さきほどのVR酔いの条件を逆算すれば「プレイヤーがダイナミックに体を動かせば、視界に多少のブレが起きても脳の認知エラーが生じにくい」ということでもあり、『Gorilla Tag』の操作はVR酔いが起きにくくなります。また、プレイヤー層に与える影響も大きく「そもそも疲れた社会人は長時間プレイできない」ことが相まって主要なプレイヤー層が「子供」になりました。
子供の時間と体力は有り余っています。ゲームデザイン的に大人が排除されているので、自然と子供の帝国が築き上げられるわけですし、子供はたいてい大人のいない遊び場を好みます(大人が『Gorilla Tag』を長時間プレイしている場合はおそらくVRゲーム開発者かインフルエンサー/ゲーム実況者でしょう)。また、VRは市場の狭さからF2Pがなかなか普及しなかったものの、Gorilla TagがF2Pをさきがけて導入したことで買い切りVRゲームを買うための可処分所得がない子供のたまり場となりました。
リリースから3年が経過した2024年6月時点で累計アクティブユーザーは1000万人、累計収益は1億ドル(150億円)に到達しています(公式リリースより)。直近では米国だとMeta Quest本体を購入するときにGorilla Tagのゲーム内通貨がバンドルされていることもあります。
●『Gorilla Tag』が出たあとの話
本作が2021年にリリースされてから、影響を受けたVRゲームはいろいろ出てきました。とはいえ、本作に匹敵するほどの大ヒットをとばしたVRゲームは2021年から2023年まではあまり見られず、操作性をシングルプレイのジャンプアクションに味変した『NO MORE RAINBOWS』が伸びたのと、あとは『Gorilla Tag』のデッドコピーが増えたり消えたりする程度でした。
『Gorilla Tag』フォロワーのうち決定的な成果を出したのは2024年の『Animal Company』で、名前の通り『Gorilla Tag』と『Lethal Company』を組み合わせたものです。
本作は子供に人気となっていた『Gorilla Tag』を子供に人気のSCP系アノマリー・ホラーゲームを組み合わせたことで、『Gorilla Tag』に迫るユーザー数を獲得してとんでもない収益を叩きだしました。また、本作の開発スタジオはもともと『Spatial』というメタバースを長年運営しており、社運をかけてクローンを作ったら見事に大当たりしたというわけです。
『Gorilla Tag』と『Animal Company』の軍拡競争のごときユーザの奪い合い、それにともなう『Gorilla Tag』ライクブームは依然として続いており、2025年には『Gorilla Tag』×『ARK』の『UG』、『Gorilla Tag』×『ポケモン』の『Ruffnauts』などがリリース、人気を博しています。「Gorilla Tag」x「○○」というマッシュアップで大勝負に挑むVRゲームはまだまだ出てくるでしょう。
一方、シングルプレイでGorilla Tagの影響を受けて成果を出したものとして2024年の『I AM CAT』も欠かせません。本作は簡単にいえばGorilla Tagの操作性を動物なりきり暴力サンドボックスにしたVRゲームです。いじわるばあさんがプレイヤーである猫を見つけ次第襲ってくるので、こちらも相応の手段で返り討ちにします。
いわゆる「エルサゲート」と呼ばれるタイプの低年齢向けのバイオレンス・ナンセンスであり、本作開発元のNew Folder Gamesは「”なにか(だいたい動物か職業人)”になりきってラグドールを無慈悲にボコボコにする」VRゲームを量産してヒット作を何個も出しています。本作開発元が無理してF2Pマルチプレイの軍拡競争に走らず、独自路線の買い切りVRゲームでヒットを量産する姿勢は唯一無二であり、そういう形のプロフェッショナリズムを感じさせます。
●なぜVRの情報がゲーマーと批評家に届かないのか?
こういった話を、読者の方々のほとんどはご存じないはず。これは簡単な話で、VRゲームにおけるプラットフォームのシェアの大半をMeta Questが占めていて、Steam VRやPS VR2はかなりの少数派だからです。少なくないVRゲーム開発者が「Meta Quest以外のプラットフォームで出しても売れないから」という理由でMeta Quest独占にすることもよくあります(あとは何かしらのプラットフォーマーから移植支援金が出る時に移植されます)。Steamのストアページがないゲームは存在しないものと同様に扱われる現代ゲーマー世相において、Steamで販売されないMeta Quest独占のVRゲームの存在なんて知りようがありません。
客観的な数字としては、筆者がCEDEC 2025で発表した自作VRゲームの売上では、Meta Quest版が95%以上を占めました。タルコフライクの人気VRシューター『Ghosts Of Tabor』のプレイヤー人口でも87%がMeta Questユーザーです。とはいえ、Meta Questではできないゲームプレイを実現するためにPS VR2やSteamVRを専門にVRゲームを開発しているところはありますし、「SteamVRでは人気だったのにMeta Questでは人気がなかった」と嘆く声や、その逆も往々にしてあります(低年齢層向けゲームをSteamで出してもユーザーにウケないのは自然の摂理です)。VRに限らない話として、プラットフォームの人口が多い方がゲームが売れやすいのは確かですが、そのプラットフォームにゲームのターゲットユーザーがいるとは限りません。ゲームごとに適切なリリース戦略を持つことが大事です。

また、アメリカでVRがやや伸びている特殊な事情としては、「Meta Questがゲーム機として安いほうだから」というのがあります。ニンテンドースイッチ2は450ドルですが、Meta Quest 3は500ドル、Meta Quest 3Sは350ドルであり、もっぱらセールのときに250ドルに値引きされたMeta Quest 3SがVRゲーム入門機となっています。
アメリカの2025年ホリデーシーズンのAmazonではスイッチ2よりもMeta Quest 3|3Sの方が台数が伸びたという報道もあるほどです。日本だとスイッチやPS5が他国よりも割安で販売されている影響でMeta Quest 3もMeta Quest 3Sも相対的に安くはないこともありますし、日本ユーザーにとってもVRChat以上にヒキのあるコンテンツがないというのは相変わらずではあります。
筆者としては、今のVRゲームは文化成熟度と市場規模がどちらも1970年代のATARI 2600ぐらいのレベルだと考えており(ほぼ市場がアメリカに集中している点がよく似ています)、これにブレイクスルーが起きて米国以外の全世界に普及が進む、ファミコンぐらいの存在感になるのは次の世代なのかなと予想しています。ぜひみなさんとVRゲームについて語り合える世界が来ればいいなあと、筆者としては将来に期待しています。










