「叶わなかった夢の残骸を拾い集め、別の形へ作り直すための作業でもあった」“絶望”から生まれた短編サイコホラー『Restless Dreams』制作秘話を赤裸々に訊いた【開発者インタビュー】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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「叶わなかった夢の残骸を拾い集め、別の形へ作り直すための作業でもあった」“絶望”から生まれた短編サイコホラー『Restless Dreams』制作秘話を赤裸々に訊いた【開発者インタビュー】

「夢はいつしか呪いに変わる」苦悩と葛藤の先に見えた“ひとつの答え”とは。1万字超えロング・インタビュー。

連載・特集 インタビュー
「叶わなかった夢の残骸を拾い集め、別の形へ作り直すための作業でもあった」“絶望”から生まれた短編サイコホラー『Restless Dreams』制作秘話を赤裸々に訊いた【開発者インタビュー】
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本稿は、シナリオやゲーム内容についての記述が多く含まれます。
閲覧の際は、ネタバレに十分ご注意ください。

2026年1月10日に、PC(Steam)向けホラーゲーム『Restless Dreams』が発売されました。

本作は、物語主導の一人称視点サイコホラーアドベンチャーゲームです。プレイヤーは、「何者かになろうと足掻いて、何者にもなれなかった」主人公となり、深い孤独や絶望を反映した精神世界を探索しながら、最後の決断を下すまでの苦悩と葛藤を追体験していきます。

本作は、2000年代初頭のPS2時代のホラーゲームを想起させる独特のローポリゴングラフィックや、断片的で美しい詩的な文体のメモや独白などのテキストメッセージ、主人公の緻密な心理描写、精神崩壊や自己否定といった重大なテーマなど、1~2時間ほどの短編ながら「一つの芸術作品」と言えるほど完成度の高い秀逸なホラーゲームです。

今回筆者は、そんな本作の開発・販売を手がけた個人制作スタジオ「Room410」のmarufuji氏にインタビューを敢行。“絶望”から生まれた『Restless Dreams』はどうやって作られたのか?そして、苦悩の先に見えた「ある答え」とは。その制作過程と、作者の内面に赤裸々に迫ってみました。



◆さまざまな挫折を経て、ゼロから始めたゲーム制作

『Restless Dreams』

――初めまして、本日はよろしくお願いいたします。まずは、marufujiさんの自己紹介をお願いします。また、ゲーム制作など簡単な経歴を教えてください。

marufuji:初めまして。本日はよろしくお願いいたします。個人制作サークルRoom410として活動しているmarufujiと申します。

本格的にゲーム制作を始めたのは2025年初頭で、それ以前にはゲーム開発の経験はありませんでした。Unityやプログラミング、Blenderを使った3Dモデルなどは、本作の制作を通じて基本的にすべて一から学びました。

もともとゲームだけでなく、小説、音楽、イラストなど、さまざまな創作物が好きでした。過去にはピアノや作曲、イラスト、小説の執筆などにも挑戦していました。ですが当時は、どれも満足のいく結果にはつながらず、さまざまな挫折を経て現在に至ります。

――なるほど、『Restless Dreams』がデビュー作であり、それどころかゲーム制作自体初めてだったと。にも関わらず、本作の完成度の高さには驚かされます。小説や作曲などさまざまな創作をされていたとのことで、これらの経験はゲーム制作において生かされたのでしょうか。
また、さまざまな創作体験がある中で、ゲーム開発を選んだ理由を教えて下さい。

marufuji:はい、過去に経験してきた創作は結果としてすべて生かされました。たとえば、キャラクターやテクスチャの制作ではイラストの経験が、BGMの制作ではピアノや作曲の経験が、物語のプロットや文章を考えるうえでは小説を書いていた経験が役に立ちました。

しかし当時は、どの夢も満足のいく結果にはつながらず、挫折したと感じていました。ですが、ゲーム制作を進める中で、それまで別々に存在していた経験が少しずつ一つにつながっていくような感覚があり、自分にとってそれはとても大きな発見でした。

たとえ一度は諦めてしまったことであっても、そこで費やした時間や努力は決して無駄にはならず、いつか何かしらの形で自分を助けてくれるのだと思いました。

ゲーム開発を選んだ理由としては、もともと小さい頃からゲームが大好きだったことが一番大きいです。

また、創作から離れていた時期に、『SIGNALIS』をはじめとするインディーホラーや、PS2版『SILENT HILL 2』をプレイしたことも大きなきっかけになりました。それらの作品に触れたことで、自分の中にある暗い感情も、ゲームという形で表現してよいのだと思わせてもらいました。

そして、あれだけ夢を見ることで苦しんだ自分は、愚かにもまた新たな夢を抱きました。「小さい頃から大好きだったゲームを、自分でも作りたい」という夢を。

そうして最後にもう一度だけ挑戦してみようと思ったのが、本作『Restless Dreams』となります。

◆アセットに頼らず、可能な限り「自分自身の手」で作る理由

――制作時の思い出や、制作において特にこだわった部分などがあれば教えて下さい。

marufuji:特にこだわったのは、ゲーム内に登場するものを可能な限り自分自身の手で制作することです。キャラクター、部屋に置かれた家具や小物、テクスチャ、アニメーション、文章、音楽など、画面に映るほぼすべてのものを自作しました。

『Restless Dreams』は、自分の中に長い間残っていた感情を形にした作品です。そのため、既存のアセットを組み合わせるよりも、自分の手で一つずつ作ることが、この作品には合っているように感じました。

――たしかに、Steamストアページにも、「※本作の制作において、生成AIは使用していません。」と記載されていますよね。
結果として、その手作りの質感が本作品の持つ「孤独感」や「寂寥感」など得も言われぬ複雑な感情を見事に表現していたと感じましたが、すべてを手作りする中でどのような工夫や試行錯誤がありましたか?

marufuji:ゲームを構成する一つひとつの要素について、自分自身が心から納得できるものになるまで、何度も修正を繰り返しました。例えば、家具や小物の表面の質感、いわゆるテクスチャについても、実際の写真をもとに作成しては「何かが違う」と感じて作り直す。そのような試行錯誤を何度も重ねました。

単体で見ると問題がないように思えても、実際にゲームの中へ置いてみると、光の当たり方や画面全体の雰囲気に馴染まないことがあります。そのため、実際のゲーム画面で確認しながら、色味や明暗、汚れの入り方などを細かく調整しました。

また、ゲーム中に何度も訪れることになる自室については、オブジェクトの配置やレイアウトにも特に気を配りました

限られたスペースの中で、物語の鍵となるアイテムやオブジェクトをどこに置くか、プレイヤーが部屋を歩き回る際に、自然と部屋全体へ視線を向けるよう、動線も意識して設計しました。

主人公の自室

狭い空間ではありますが、訪れるたびに少しずつ印象が変わり、新たな発見がある。そして、主人公の別の側面を窺い知ることができる。そのような場所にしたいと考えていました。

ひとつひとつの要素を実際に画面の中へ置き、違和感がなくなるまで手を動かし続けたことが、結果として本作独特の質感につながったのだと思います。

◆ローポリゴンにこそ、「不完全な美しさ」が宿る

――それでは、世界観やビジュアルなどについてお伺いします。本作は、まるで錆びついた記憶の底を覗き込んでいるかのような独特なローポリゴンと、陰鬱かつ冷たく美しい世界観が非常に魅力的ですが、どのようなビジュアルコンセプトで『Restless Dreams』の世界を構築されたのでしょうか。

marufuji:本作の世界観を構築するうえで大きな影響を受けた作品として、『SIGNALIS』とPS2版『SILENT HILL 2』があります。どちらも、絶望に塗れた世界を彷徨う、底抜けに暗く悲しいゲームです。

『SIGNALIS』

ですが私は、その世界に宿る美しさに強く魅せられました。そして、人間の深層心理をここまで深く、暗く、そして美しい形で表現することができるのかと強い衝撃を受けました。同時に、自分の中にある感情も、このような形で作品として表してよいのだと思わせてもらいました。

そのうえで、あえてPS1~PS2時代のゲームを思わせる質感にこだわったのは、単に懐かしさを再現したかったからではありません。
もちろん、現在のゲームに見られるような精細で美しい映像にも強く惹かれます。ですが、個人的には、粗い3Dモデルや低解像度のテクスチャが持つ不完全な美しさに、より本能的な魅力を感じています

『SILENT HILL 2』(2001)

細部まで描き切られていないからこそ、そこには想像の入り込む余地があります。ぼやけた輪郭や潰れた質感を見たとき、プレイヤーは無意識のうちに、自分自身の記憶や感覚で足りない部分を補完します。

その曖昧さは、夢の中で見た風景や、時間が経つにつれて形を失っていく記憶にもよく似ています。私にとってローポリゴンの表現は、技術的な制約を再現するためのものではありません。

むしろ、不完全だからこそ生まれる余白や、不安定さ、美しさを表現するために必要なものだったと思います

――「粗いテクスチャにこそ“想像の余白”が生まれ、不完全な美しさが宿る」という美学は、「なぜPS1やPS2時代のホラーゲームはあれほど恐ろしかったのか」という問いに対する一つの答えであり本質だと、本作をプレイして改めて感じました。
ローポリゴンという古典的かつ始原的な表現手法は、時代を超越し今後も残っていくとお考えでしょうか。

marufuji:残っていくと思います。そして、残っていってほしいと願っています。少なくとも、私と同じ年代や、それより上の世代の心の奥底には、あの頃のゲームが持っていた風景が、今も残っていると思います

幼い頃、時間を忘れて夢中になったゲームのその中に存在していた、粗く、歪(いびつ)で、それでいてどこか温かい世界。あの時期に受けた感動に勝るものは、なかなかないのではないかと思います。

私自身、今でもずっと、あの頃の感動を追いかけ続けています。映像がどれだけ美しく、精細になっていったとしても、ローポリゴンには、それとは異なる方向の美しさがあると思います。そして私自身も、その魅力をこれから先も大切にしていきたいです。

◆「自分の奥底にある感情」と徹底的に向き合った制作過程

marufuji:また、年齢を重ねるにつれて自分の中に降り積もっていった絶望感と、それに呼応するように脳内に形成された薄暗い部屋や景色を、できるだけ忠実に画面へ表現しました。
どれだけ根暗なんだという話ですが、世界観に関しては、本当に自分の脳内にあったものをそのまま外へ出したといった感覚です(笑)。

――なるほど(笑)。だからこそ、非現実的だけれど、ある種の生々しさというか、「本当にこの部屋で苦悩している主人公がいる」かのようなリアルな実在感も併せ持った特異な世界観に繋がったのですね。
そこでお聞きすると、本作品を制作するという行為は、ご自身の心の中にあった言葉にならない絶望やパニックを外に吐き出し、救済するためのプロセス(セラピーのようなもの)でもあったのでしょうか?

marufuji:間違いなく、そういった側面はあったと思います。ただ、制作を始めた時点で、自分自身を救済しようと明確に考えていたわけではありません。

むしろ当時は、自分の中に長く残っていた絶望感や焦燥を、とにかく何らかの形で外へ出したいという気持ちのほうが強かったように思います。

制作中は、自分自身を何度も内省し、心の奥底にあるものをひたすら覗き込むような時間が続きました。

なぜ自分はこれほど苦しいのか。何に怯え、何を悔やみ、何を諦め切れずにいるのか。

そうした感情と向き合いながら、一つずつ部屋や文章、音楽として形にしていきました。

その作業は、決して楽なものではありませんでした。ですが、制作が進むにつれて、荒んでいた心が少しずつ救われていくような感覚もありました。

それは、自分の中にあった感情を作品として外へ出せたからでもあり、同時に、ゲームを完成させるという新たな夢に向かって、一歩ずつ歩いていくことができたからだと思います。

振り返ってみると、『Restless Dreams』を作ることは、絶望を描く行為であると同時に、自分自身がそこから少しずつ抜け出していくための過程でもあったのだと思います。

◆自身の内面世界を反映した強烈なアートスタイル

独特な質感のテクスチャ

――また、90年代後半~2000年代初頭のローファイなグラフィックでありながらも、階調化されたようなザラついた質感であったり、極限まで抑えられたグレーやセピア基調の色彩設計であったりと、強烈なオリジナリティと美学を感じさせます。なぜこのようなアートスタイルを採用したのでしょうか。

marufuji:特に本作の制作を始めた頃は、さまざまな挫折を経て、精神的に少し疲弊している状態でした。そのため、自分の目に映る世界も、どこか色褪せて見えていました。それは例えるなら、「情熱を失った人間が見る、冷めた世界」のような感じです。

それを再現するため、すべてのテクスチャに意図的な減色処理を施し、彩度もかなり控えめになるよう調整しています。場面ごとに適切なライティングの色を選び、フィルターを細かく調整する作業には、特に多くの時間を費やしました。

ゲーム画面自体にも、かなり強めの減色処理とノイズフィルターを加えていて、さまざまなフィルターを試していく中で、偶然「これだ」と思える質感に出会いました。初めはやりすぎかもしれないとも思いましたが、自分の内側にある世界の暗さを表すために、あえてかなり振り切りました
なぜなら、それくらい強く表現しなければ「人の心には残らないな」と思ったためです。

主人公の部屋には多くの絵画が飾ってある

――作中には多くの絵画など美術品が登場するのも特徴的ですが、これらの絵画に込めた意味や、作品全体のビジュアルスタイルに与えた影響についてお聞かせください。

marufuji:本作に登場する絵画として、まずアルノルト・ベックリンの代表作「死の島」や、ゴッホの「ひまわり」があります。どちらも、同じモチーフで複数の作品が描かれています。何度も何度も同じ絵を描き続けるその行為に、繰り返される日々を重ねました

また、「ひまわり」については、ゴッホ自身が生涯に抱えていた苦悩も、この絵を選んだ理由の一つです。次に、ルドンの「悪の華」をはじめとする作品群です。どこか不気味でありながら、見ていると不思議と落ち着く。

人間の気配をほとんど感じさせないところも含めて、「私以外に誰もいない、静かな世界」というコンセプトが、本作の世界にぴったりだと思い選びました。作品全体の淡い色彩や空気感を作るうえでも、これらの絵画から受けた影響は大きかったと思います。

◆『SILENT HILL 2』から受けた多大な影響、オマージュとリスペクト

『SILENT HILL 2』からの影響が伺えるカットシーン

――影響を受けた作品の『SIGNALIS』は、2010年以降のホラーゲームの中でも特に素晴らしい作品ですよね。そして仰るように、とりわけ本作と『SILENT HILL 2』との関係は切り離せないものだとプレイして感じました。
やはり『2』への思い入れは特別なのでしょうか。また、本作は「部屋」を舞台にしていることや、鉄格子で閉じられたドアなど、『4』からの影響も感じますがいかがでしょうか。

marufuji:『SILENT HILL』シリーズは一通りプレイしていますが、やはり『SILENT HILL 2』への思い入れは特別です

大切なものを失い、何度も何度も、さまざまな形で自分自身を責め続ける。あのゲームをプレイしている間に感じた、湖の底へ少しずつ沈んでいくような感覚を、私はきっと生涯忘れることができないと思います

『Restless Dreams』には、アイテムの取得音やカットシーンの演出、精神世界の描写など、さまざまな部分に『SILENT HILL 2』へのオマージュとリスペクトを込めています。

鉄格子で閉じられたドア

そして、『SILENT HILL 4 THE ROOM』から受けた影響についても、ご指摘の通りです。特に、自室を舞台とするパートへの影響は計り知れません。

『4』では、扉が閉ざされ、外へ出ることができなくなった自室が、次第に不穏な場所へと変貌していきます。私は、あの室内を探索するパートが特に好きでした。

そのため、実を言うと、『Restless Dreams』の出発点の一つには、『4』の自室探索パートをさらに深く掘り下げたような作品を作りたいという思いがありました

◆「夢の残骸」が転がる自室と、「逃げ場のない」団地の閉塞感

どこまでも同じ景色続く団地の風景

――本作の舞台は主人公の精神世界を具現化した悪夢のような空間に徐々に変貌していきますが、ベースとなるロケーションに「団地」や「自室」を選ばれた理由を教えてください。marufujiさんご自身の記憶や、何かインスピレーションを受けた実際の風景などはあるのでしょうか。

marufuji:ゲームに登場する自室のピアノや本棚などには、実際に私の部屋にあるものを撮影した写真を使用しています。

私は昔から、家にこもって何かをすることが好きでした。しかし年齢を重ねるにつれて、自室には自分が叶えられなかった夢や投げ出してしまった「夢の残骸」が大量に転がるようになりました

本来は安心できる場所であったはずの部屋が、真綿で首を絞められるような焦燥を感じる場所へと、少しずつ姿を変えていきました。ふとした瞬間に胸の苦しさを感じ、部屋を飛び出したことも一度や二度ではありません。この物語の主人公も同じです。そのため、自室をゲームの中心となる場所に据えました。

ベランダは「内と外の世界」を繋ぐ境界線でもある

団地については、叔母が住んでいたこともあり、昔から訪れる機会がありました。似た形の建物や扉がどこまでも続いていく光景に、私は独特の閉塞感を覚えていました

もちろん、団地そのものを否定的に描きたかったわけではありません。あくまで私自身がその風景に感じていた、行き止まりのような息苦しさです。主人公が置かれている袋小路のような状況を表現するうえで、最適な場所だと考えました。

袋小路

――なるほど、そういう経緯があって「団地」に対するイメージが形成されていったと。私も社宅団地が立ち並ぶ環境で育ったので「独特の閉塞感」という感覚はとても分かります。 また本作では、スタート画面で団地が映っていたりと、世界観の一部として重要なファクターですよね。

個人的には、実際プレイ中にベランダから眺めることができる団地の風景─灰色の曇り空、連続した建物の姿、遠景に見える送電線などの描写が凄まじく良くて、あの「息苦しさ/行き止まり感」を見事に表現しているなと。 この「自室の焦燥」と「団地の閉塞感」という2つの対比について、これは主人公の「どこにも逃げ場がない」ことへの暗喩なのでしょうか。

marufuji:ご指摘の通りです。変わろうと必死にもがいているのに、なかなか変わることができない。昨日と比べても、何一つ成長していないように感じる。そして、この先も同じような日々が永遠に繰り返されるのではないか
その円環から、自分はもう抜け出すことができないのではないか。

自室の中にいても苦しく、外へ目を向けても逃げ道は見つからない。そうした恐れや停滞感を表すために、ベランダから見える外の世界を描いています。

◆ゲーム制作は、自分の中の未練や後悔を「目に見える形」へ変えていく作業

――ご自身の部屋にあるピアノや本棚の写真をテクスチャとしてゲーム内に移植する作業は、ご自身を苦しめる「夢の残骸」と強制的に向き合う、非常に痛みを伴う作業だったのではないかと想像します。この「現実の生々しい私物」をデジタル世界の悪夢へ落とし込んでいく時、ご自身の心境にはどのような変化(あるいは葛藤)があったのでしょうか。

marufuji:一つには、自分が過去に抱いていた夢との決別という意味があったと思います。諦めたつもりでいても、心のどこかではまだ諦め切れていない。
しかし、自分もいつまでも子どものままではいられない。大人になり、現実と向き合わなければならない。叶うかどうかも分からない夢を、いつまでも追いかけ続けるわけにはいかない。当時は、そのような思いを抱えていました。

ピアノや本棚といった実際の私物を撮影し、ゲームの中へ取り込んでいく作業は、自分がこれまで抱えてきたものを一つずつ見つめ直す作業でもありました。それは過去を完全に切り捨てるための作業というよりも、自分の中に残り続けていた未練や後悔を、何とか目に見える形へ変えていく作業だったように思います

苦しさはありました。ですが、形のないまま自分の中に滞留していたものを、部屋や小物、文章として少しずつゲームの外側へ出していくことで、次第に気持ちが整理されていく感覚もありました。

そして制作を進める中で、少しずつ気づいたことがあります。それは、かつて追いかけていた夢は、すべてを捨て去らなければ前へ進めないものではないことです。ピアノや作曲に取り組んだ時間も、絵を描いた時間も、小説を書いた経験も、形を変えて本作の中に残っていました。

振り返ってみると、あの部屋をゲームの中へ移すことは、夢と決別するためだけの行為ではなかったのだと思います。叶わなかった夢の残骸を拾い集め、別の形へ作り直すための作業でもあったのです。

――スタンダードなホラーゲームの精神世界は「血や臓物、過度な暴力性」で恐怖を煽ることが多いですが、本作の世界観はむしろ「静寂」「虚無」「寂寥感」が支配しています。「夢が呪いに変わる」というテーマを表現するにあたり、なぜこの「静かな崩壊」という世界観に行き着いたのでしょうか。

marufuji:この作品で描きたかったのは、外から突然襲ってくる恐怖ではなく、自分の内側で少しずつ膨らんでいく絶望でした。

叶えられなかった夢や、結果につながらなかった努力は、すぐに消えてなくなるわけではありません。時間が経つにつれて少しずつ積み重なり、いつしか自分自身を責める材料になってしまうことがあります。そのような感情は、血や暴力のように派手な形で現れるものではありません。

静かな部屋の中で、何も起こらないまま少しずつ心を蝕んでいくものだと思います。そのため、本作ではプレイヤーを驚かせることを中心に置くのではなく、静寂、虚無、寂寥感を重視しました。何か恐ろしいものが目の前に存在するというよりも、空間そのものから逃げ出したくなるような感覚を目指しました。

◆村上春樹や安倍吉俊から受けたインスピレーション

――本作のカメラアングルや、空間の切り取り方(構図)からは、特定の映画や写真、あるいは現代アートからの影響も感じられます。ゲーム作品以外で、本作の世界観やビジュアルに強いインスピレーションを与えた作品やクリエイター、あるいは芸術ジャンルがあれば教えてください。

marufuji:本作の世界観を考えるうえでは、村上春樹さんの小説から受けた影響があると思います。直接的に特定の作品をモチーフにしたわけではありませんが、彼の小説を読む中で、自分自身を内省し、心の奥底へ続く階段を少しずつ降りていくような感覚を得ました。

『Restless Dreams』も、外側に広がる世界を旅するというよりは、主人公の内面へ深く沈んでいくような作品です。その感覚には、村上春樹さんの小説を読んできた経験が、少なからず影響していると思います。

ビジュアル面では、「serial experiments lain」や「灰羽連盟」などで知られる安倍吉俊さんの絵から、大きな影響を受けています
どこか現実味がなく、それでいて生活の気配は残っている。静かで幻想的ですが、同時に少し寂しさを感じさせる世界観に強く惹かれました。
そもそも私が絵を描き始めたきっかけの一つも、安倍吉俊さんの作品でした。そのため、直接的に模倣したわけではありませんが、本作の空気感や色彩には、無意識のうちに影響が表れていると思います。

――私も安倍吉俊先生の絵は昔から大好きで、何より「lain」や「灰羽連盟」が共通して持っている「現実と幻想の境界線」が混ざりあったような独特の雰囲気は、本作のビジュアルの根底に息づいているのを感じます。
本作においては、その境界線をどのように表現しているのでしょうか。

marufuji:本作では、現実と幻想を別々の世界として描くのではなく、少しずつ侵食し合うものとして表現しました。何が実際に起きていて、何が主人公の心が見せているものなのか。その境界線を、作品の中では明確に分けていません。

ただ一つ言えるのは、作中に登場する夢の残骸も、心象風景も、私の中ではどちらも主人公にとっての「現実」だということです。人は精神的に追い詰められていくと、目の前にある現実と自分の内側にある不安や後悔、願望との境界が少しずつ曖昧になっていくと思っています。

本作における幻想は、現実から逃げるためのものではなく、むしろ主人公が現実に耐えきれなくなった結果として現れたものです。その曖昧な境界線の上を、プレイヤー自身にも主人公と一緒に彷徨ってもらいたいと思っていました。

ムービーの構図や演出については、「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に」や『SILENT HILL 2』から影響を受けた部分があります。

映画では、「ブレードランナー 2049」の静謐で孤独な映像表現にも、少なからず惹かれていました。一部、構図や演出を意識した箇所はありますが、基本的には特定の作品を明確に参照しながら、一つずつ構図を作ったわけではありません。

私は映像演出について体系的に学んだ経験がないため、まずキャラクターの動きを作り、その後にカメラを何度も動かしながら、主人公の顔や姿が最も印象的に見える構図を探していきました。

結果として、これまで自分が触れてきた作品から受けた影響と、自分自身の感覚が混ざり合い、現在の形になったのだと思います。

◆数々の矛盾を抱え、愛ゆえに苦悩する主人公

主人公

――ここからは、ゲームプレイを中心にお伺いします。まずは、本作の主人公がどのような人物か教えて下さい。

marufuji:「彼女」は親しい人を失い、数々の夢に破れた女性です。一人でいることを好みながらも、その一方で人恋しさを抱えている。前へ進みたいと思いながらも、過去に囚われ続けている。そのような、いくつもの矛盾を抱えています。

また、「彼女」はさまざまな創作物や芸術を愛する夢見がちな人物でもあります。そして同時に、何かを愛してしまうがゆえに苦しんでいる人物でもあります。

私は本作を制作する中で、自分自身の感情や経験を数多く作品へ投影しました。そのため、「彼女」は私自身の一部を反映した存在でもあります。とりわけネガティブな部分が強く表れていると思います。

ただし、「彼女」が完全に自分そのものというわけではなく、内なる喪失感や後悔、孤独感を形にしていく中で生まれた、一人の登場人物です。

私は、人間というものは多かれ少なかれ矛盾を抱えて生きているものだと思っています。そして、どんな人にでも愛するものがあり、それゆえに苦悩を抱えることもあると思っています。「彼女」もまた、その矛盾や弱さを背負った人物として描きました。

◆主人公の内面に触れる詩的なモノローグ

――本作は物語主導の一人称視点サイコロジカルホラーですが、こうしたゲームデザインにしたのは当初から構想していたのでしょうか。

marufuji:はい。ゲーム制作を始めた時点で、一人称視点の物語主導型ホラーにすることは決めていました。まず一人称視点を選んだのは、目の前で起きる悪夢を主人公と同じ目線でプレイヤーに体験してもらいたかったからです。

ムービーシーン以外では主人公の姿をほとんど映さないことで、彼女の存在そのものの不確かさも表現したいと思っていました。これは三人称視点では難しかった部分だと思います。

そして物語の途中で挟まる独白やムービーについても、制作初期から断片的な構想がありました。

主人公の心の内側にあるものを伝えるには、言葉が最も直接的で効果的だと思いました。そのため、プレイヤーが必ず主人公の内面に触れる時間として、独白を入れています。

一方で、言葉だけでは表しきれないものもあります。主人公が何を選び、何をしてしまうのか。そうした部分は、ムービーとして映像で見せる必要があると考えました。

なので本作では、一人称視点で悪夢を体験し、独白で内面に触れ、ムービーで主人公の行動と選択を目撃するという形を意識して設計しています。

本編冒頭のモノローグ

――なるほど、主人公の「内面に触れる時間」としてあの印象的なモノローグを入れていると。独白や日記などのテキストメッセージは、詩的で美しく非常に魅力的です。言葉選びや情報の削ぎ落とし方など、どのようにテキストライティングされたのか制作過程を教えて下さい。

marufuji:作中に登場する日記や独白の大部分は、私自身が数年にわたって手帳に書き溜めていた言葉をもとにしています

私は自分の思考を整理したいときや、何かに悩んだとき、よくペンを持って手帳に向かいます。そのときに感じていることや、頭の中に浮かんでいることを、手の動くままに書いていくのです。

内省的な独白が本当に美しい

本作では、そうして書き溜めていた言葉の中から、主人公の感情や物語に合うものを選び、必要に応じて少し調整しながら使用しました。そのため、作中の文章は、最初からゲーム用のテキストとして理屈で組み立てたものというよりも、当時の自分の感情がそのまま残っているものに近いです。

情報を削ぎ落としている理由としては、言葉で説明しすぎると、主人公の心の揺らぎや、感情の曖昧さ、余白が失われてしまうと感じたためです。そのため、日記や独白は物語を説明するための文章というよりも、主人公の内側に一瞬だけ触れるための断片として置いています

また、ごく一部ではありますが、いくつかの文章には、自分が影響を受けてきたゲームや音楽、創作物からの感覚も反映されています。たとえば冒頭の独白には、『Cry of Fear』というゲームから受けた影響があります。

◆巧みな精神世界の描写と、「音」へのこだわり

――無数のドアがある奇妙な空間や、自分と家族の墓があるエリア、異形とチェイスする迷路など、少しづつ主人公の精神が蝕まれていく様子を描いた演出がホラーゲームとしてとても巧みだと感じましたが、どのようにこうした演出が生まれたのかを教えてください。

marufuji:本作の精神世界は、基本的にそれぞれ一つのテーマを決めたうえで制作しています。
まず表現したい感情や心理状態があり、それを空間やゲームプレイとしてどう見せるかを考えていきました

たとえば、無数のドアが並ぶ空間では、「年齢を重ねるにつれて狭まっていく人生の選択肢」を表現しています。若い頃は、まだ多くの可能性が開かれているように感じます。
しかし年齢を重ねるにつれて、選べる道は少しずつ狭まっていく。そうした感覚を、あの空間に重ねました。

自分と家族の墓があるエリアでは、「取り残された者の悲しみと、その行く末」を描いています。自分だけが残されてしまったような感覚や、最終的に自分も同じ場所へ向かっていくのではないかという恐れを表現したかったんです。

異形とチェイスする迷路については、「自分自身を傷つけてしまいたくなるような、どうしようもない衝動」をテーマにしています。
なぜ自分はこんなに駄目なのか。こんな自分なら、いなくなってしまっても構わないのではないか。そうした行き場のない自己否定や、自分自身へ向かう攻撃性が、異形の姿を取って追いかけてくる。

そのように、各シーンでは単に怖い場所を作るのではなく、主人公の中にある感情を、空間や構造、プレイヤーの行動として体験できるように意識しました。

◆短編ゲームにした理由

――本作は、エンディングまで1~2時間ほどの短編ゲームとして設計されており、濃密なゲームプレイを体験をできますが、このように設計した理由について教えて下さい。

marufuji:本作を短編として設計した理由としては、まず「このゲームを通じてプレイヤーに本当に伝えたいことは何なのか」を何度も考えたことが大きいです。

どうすれば、自分の言いたいことをより少ない言葉や要素で、簡潔に伝えられるのか。そうした自問自答を繰り返しながら、本質的な部分だけに集中しようと考えました。

そのため、曖昧で分かりにくくなってしまう要素や、作品の核から外れる要素は、できる限り削るようにしました。制作中には、本作に登場しないまま削ったシーンもいくつかあります。

また、これほど暗い世界観の中に、プレイヤーを3時間も4時間も留めておくのは少し違うのではないかという思いもありました。だらだらと続けるのではなく、1~2時間ほどで濃密に体験し、スパッと終わる構成のほうが、この作品には合っていると感じました。

そして、今作が初めてのゲーム制作だったことも大きいです。自分にとって何より大切だったのは、まず作品を完成させることで、また挫折してしまっては、元も子もありません

だからこそ、本質から外れる要素にこだわりすぎるのではなく、プレイヤーにとって、そして自分にとって本当に必要なものを最低限の形で実現するにはどうすればよいのか。そこに集中して制作を進めました。

◆作品を通して、プレイヤーに一番伝えたかったこと

――本作を通して、プレイヤーに一番伝えたかったことを教えて下さい。

marufuji:本作を通して一番伝えたかったのは、夢を必死に追いかけた経験は、決して無駄にはならないということです

たとえそれが思うような結果につながらず、数々の挫折に塗れてしまったとしても、そのために費やした時間や努力は、いつか別の形で自分を助けてくれるのだと思います

私自身、これまで音楽や絵、小説など、さまざまな創作に挑戦しては挫折してきました。ですが、それらの経験は形を変えて、本作の制作を支えてくれました。だからこそ、かつて夢を追っていた人や、今も夢に苦しみながら生きている人に、私はそのことを伝えたいです。

たとえ何度挫折を繰り返し、自分は駄目なのだと絶望に沈んでしまったとしても、それでも生きてさえいれば、いつかきっとどこかへ辿り着けるはずです。『Restless Dreams』は私にとって、そのことを信じるための作品でもありました。

◆次回作と今後の展望、読者へのメッセージ

――Xにて、次回作についての情報を投稿されていましたが、どんな作品となる予定でしょうか。また、今後の展望などについて教えて下さい。

marufuji:現在制作中の次回作『No;Heaven』は、ジャンルとしてはファーストパーソン・シューティング、いわゆるFPSになります。
『Restless Dreams』とは大きく異なるジャンルですが、単に敵を撃ち倒して進んでいくだけの作品ではなく、物語主導のFPSとして構想しています

大まかな内容としては、家族や友人、そして最愛の弟を失い、すべてを奪われた孤独な主人公の復讐譚です。
プレイヤーはさまざまな銃器を駆使しながら敵を倒し、いくつものステージを生き抜き、復讐を遂げた先で主人公が何を見つけ、どこへ辿り着くのか。そこを描いていく作品にしたいと考えています。

今後については、まずこの『No;Heaven』をしっかり完成させることを目標にしています。『Restless Dreams』で得た経験を活かしつつ、今度はよりゲームプレイの手触りやアクション性にも力を入れていきたいです

一方で、ジャンルは変わっても、自分が描きたいものの根底はあまり変わらないと思っています。喪失や後悔、怒り、そしてそれでも前へ進もうとする人間の姿。そうしたものを、次回作でも自分なりに描いていきたいです。

――では、最後に読者へのメッセージをお願いいたします。

marufuji:本作は、夢を追い続けた人の物語です。そして、夢を叶えられなかった人の物語でもあります。私自身、この作品を作るまでにたくさんの遠回りをしてきました。

だからこそ、かつて夢を追っていた人や、今も夢に苦しみながら生きている人に、この作品を届けられたら嬉しいです

そしてゲームを遊び終えたあと、自分自身の夢について少しだけ振り返ってもらえたなら、制作者としてこれ以上幸せなことはありません。

――本日は長い間ありがとうございました。


『Restless Dreams』は、現在PC(Steam)にて350円で発売中です。ぜひとも、プレイヤーの心に深く突き刺さるような物語が展開する、この傑作ホラーゲームを一度体験して見て欲しいと思います。

ライター:DOOMKID,編集:みお


ライター/心霊系雑食ゲーマー DOOMKID

1986年1月、広島県生まれ。「怖いもの」の原体験は小学生の時に見ていた「あなたの知らない世界」や当時盛んに放映されていた心霊系番組。小学生時に「バイオハザード」「Dの食卓」、中学生時に「サイレントヒル」でホラーゲームの洗礼を受け、以後このジャンルの虜となる。京都の某大学に入学後、坂口安吾や中島らもにどっぷり影響を受け、無頼派作家を志し退廃的生活(ゲーム三昧)を送る。その後紆余曲折を経て地元にて就職し、積みゲーを崩したり映像制作、ビートメイクなど様々な活動を展開中。HIPHOPとローポリをこよなく愛する。

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編集/Game*Spark共同編集長 みお

ゲーム文化と70年代の日本語の音楽大好き。人生ベストは『街 ~運命の交差点~』。2025年ベストは『Earthion』。 2021年3月からフリーライターを始め、2025年4月にGame*Spark編集部入り。2026年1月に共同編集長になりました。

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